前回、独立傭兵の協力もありヴェスパー部隊は解放戦線の防衛拠点である「壁」を制圧した。
これにより制圧依頼に協力したレイヴンは壁越えの称号を得た。
現在の「壁」にはヴェスパー部隊が在留し監視を行っていた。
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防衛拠点を利用する為にヴェスパー部隊が拠点の修理を進める中…
レイヴンの強襲で破損した壁内部だったが、破損せずに残った区画も存在していた。
今回はその区画内で起こった出来事である。
「おや、フェアリー君ではないですか?」
「ホーキンスぱ…ヴェスパー5。」
「訓練の方は捗ってますか?」
「しょ…精進してい、ます。」
これは放って置けませんね。
「ふむ……フェアリー君、これから近くの休憩室へ一緒に来なさい。」
「は、はい。」
ヴェスパー5のホーキンスに呼び止められたフェアリー。
ボナ・テア砂丘から帰還後にナンバーズ入りした為、スネイルより敬語の使用を指示されていた。
片言混じりの敬語で話すフェアリーの様子を察して、ホーキンスは人目に付かない場所へ彼女を移動させた。
~壁内部・休憩所~
ホーキンスは休憩所に供えられた座席にフェアリーを案内すると落ち着かせるように話した。
「ここならスネイル君の眼も無いでしょう。」
「…」
「フェアリー君、いつも通りでいいですよ?」
「ホーキンス、パパ、ありがとう。」
慣れない敬語で話す回数が減ったフェアリー。
覚える事が多いとは言え、彼女には苦痛だっただろう。
フェアリー自身も穏やかな口調のホーキンスにほっとしていた。
「ラスティ君同様に壁越えの任務、ご苦労様だったね。」
「うん、レイヴンも、いたから、出来た。」
壁攻略任務の日、ラスティと共にフェアリーはレイヴンと共闘しジャガーノートを破壊。
無事、壁越えを成功させた。
アーキバス社はベイラム社よりも一歩前に出られた証でもある。
労いも兼ねてホーキンスはフェアリーにカフェオレを与えた。
珈琲のブラックはまだ苦手らしく、甘いものが好きな彼女に丁度いい濃度に仕上げてある。
「どうぞ。」
「ありがとう、パパ。」
アイビスの火の災害から半世紀が経っても寒冷化現象の影響が続く防衛拠点。
ある程度の寒さは対Gスーツを纏っていれば防げるが、対人訓練で外に出ていたフェアリーは冷え切っていた。
少し熱めであるが、冷え切っている彼女を暖めるには丁度いいだろう。
「パパ、聞きたい事、あるの。」
「聞きたい事とは?」
カフェオレを口にし落ち着いたフェアリー。
彼女はある事を聞く為にホーキンスに質問した。
「強化人間って、種類、あるの?」
「…そうですね。」
ホーキンスは説明する。
強化人間はACに乗る為に最適化された強化兵士の事。
コーラルを利用した第一世代から第七世代と代替技術によって生まれた第八世代に分けられます。
第一世代から第七世代は強化の影響で幻視や幻聴が聞こえるが、ある程度の調整で緩和される事が報告されている。
但し、第一世代から第七世代の強化兵士は世代ごとに扱いが異なる。
最初の第一世代は強化成功率10%と言う危険な処置で生み出されています。
未熟な技術でしたので、措置を受けて無事だった数は少数と言われています。
更に強化過程でより好戦的で残虐な性格へ変貌していますね。
ヴェスパー3のオキーフ君はその次の第ニ世代でありますが、第九世代型となる再強化手術を受けてから特に目立った症状はないです。
貴方が知り合ったレイヴン…第四世代は強化の過程で感情の起伏が薄いと聞きます。
要は喜んだり、怒ったり、笑ったり、泣いたりの感情が少ない事を示している。
第七世代のスウィンバーン君とローズネイル君は肉体強化に成功したものの精神変異が引き起こされました。
スウィンバーン君は猜疑心が強く矮小な人格、ローズネイル君はトランスジェンダー…体は男性ですが心は女性と言う表現に近いですね。
ニューエイジと呼ばれる第八世代のスネイル、ラスティ君、メーテルリンク君。
三人が受けた強化手術…その成功率が漸く安定し始めた時期です。
第十世代のペイター君は更に安定化が進められた技術なので一番反動が少ないでしょうね。
「私も、強化人間、なの?」
「…(これはまた難しい質問を。」
「違うの?」
「そうですね、フェアリー君の場合は試験管ベイビーと呼ばれている人間です。」
「試験、管?」
「我々強化人間と違い、生まれる前の過程から強化処置を受けた子を指します。」
「どう、違うの?」
フェアリーはあの航行艦にあった調整槽の中で発見された。
表向きはアーキバス社の新型強化人間として周知されている。
話を合わせる過程でアーキバス社で作られて生まれたと彼女には説明していた。
彼女には実の親は存在せず、ヴェスパー部隊のナンバーズが彼女の親代わりであるとスネイルが告げていた。
「私達の様に生まれた後から強化処置を受けたのではなく、生まれる前から強化処置を受けた人間と言う事です。」
「そう、なんだ。」
「であれば、フェアリー君は…第十世代か第十一世代と言った方が良いかもしれませんね。」
発見されて以来、フェアリー君の事は研究者達が定期検査を兼ねて調査を続けている。
普通の強化兵士より体内のコーラル反応が強く、本来であれば被曝していても可笑しくない状態だった。
これはフェアリー君が高濃度コーラルに対応出来る体質の持ち主である事を示している。
例のデリーターACの出現を感じられるもそれが関わっているかもしれない。
つくづく、企業が喉から手が出る程の人材である事は確かだ。
「ホーキンス、パパは、何世代?」
「それは秘密です、私が何世代か探して当てて見てくださいね。」
「?」
あのティンカーベルもフェアリー君が乗る事で本来の能力を発揮する。
調査の為に別の隊員が搭乗したものの、結局は起動しなかった。
起動にはフェアリー君の生体コードか何かが関わっているのは事実。
兎に角、戦力としては優秀ですが…得体の知れないACである事は間違いないですね。
「パパ、パパは、強化を受けた時、どうだったの?」
「ACに乗る以上、肉体の改造に一部の体組織を入れ替えたりもしましたね。」
強化人間の始祖とも言える第一世代は狂気じみた研究者達によって人道を無視した改造措置を受けた者が多い。
或いは傭兵稼業で借金のカタに、負傷や瀕死状態で戦場に出る事も叶わない状況に陥った…理由は様々です。
中には措置の過程で人間である事すら止めた兵士も存在したと聞きます。
強化人間の技術は多くの犠牲者の屍の果てに成功を勝ち取った。
成功しても第一世代型は過去の戦乱でその多くが消失し、生き残りの数える程度のごく僅か。
生き残っていても第一世代は…最早、人ではないでしょう。
私の様に技術進歩や他の世代が開発されてから強化措置を行った兵士はより人間の部分を残せた。
「人である事を止めた兵士は…一体、何になってしまうのでしょうね。」
ホーキンスは強化人間の種類…その生まれた経緯や歴史も含めて説明し終えると少し冷めたコーヒーを口にした。
「ん。」
「フェアリー君?」
「ローズネイルママが、言ってた、ぎゅーって、すると、安心する。」
フェアリーは席から立ちあがるとホーキンスに近寄って抱き付いた。
それはローズネイルに教わった安心する方法だった。
「怖い時、心配な時、悲しい時、寂しい時、ぎゅーは、落ち着く。」
フェアリーは悲しい表情をしたホーキンスに対して、抱き付いて安心させようとしていた。
「…君は本当に優しいですね。」
フェアリー君は優しすぎる。
この優しさは兵士に不釣り合いですね。
彼女の優しさは時に相手に恰好の手段を与えてしまう。
それでも、この優しさは誰かの助けになると思います。
「フェアリー君、貴方はこの優しさを忘れてはいけませんよ。」
ホーキンスは抱き付いたフェアリーに告げる。
「優しさを失った人間は只の戦う道具に成り下がるのだから。」
そう答えると、ホーキンスは彼女の頭を優しく撫でていた。
=続=
※ホーキンス
ヴェスパー部隊のナンバーズの一人、コールサインはヴェスパー5。
普段は穏やかであるが…戦場では、それが一変した様に冷静な行動を取る。
第七世代強化人間だが、精神不調らしき特徴が見受けられない。
自身の副官であるヴェスパー8のペイターと行動する。
公式では、とあるミッションで遭遇する程度。
この話では穏やかな口調で昼行燈の様に振舞い、少々きつめのスネイルと違いマイルドに助言をする。
だが、ローズネイルの様に過保護な面もあり…フェアリーの教育に宜しくない行為には悪代官スマイルでお仕置きしている。
初対面のフェアリーからパパと呼ばれた事は本人も戸惑ったが、今は慣れてしまっている。
余談だが、ヴェスパー1のフロイトの自由奔放かつスネイルへの職務押し付けに対してフェアリーの「お仕事の、おサボりは、めっ。」と共にブリザードスマイルで冷たく苦言を申している。