ティンカーベルの子   作:宵月颯

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ザイレム襲撃と緊急配備。


猛威・2

ザイレムに向けてアルカナの魔の手が迫る中…

 

洋上都市ザイレムでは引き続き避難民の受け入れを行っていた。

 

かつて移民船であった事もありある程度の規模がある。

 

解放戦線並びに一部の避難民の受け入れを決定した。

 

残りは中央氷原で拠点となっている四か所の人員として受け入れる形を取っている。

 

ザイレムに集められた避難民は主に負傷者や老人、子供を中心としていた。

 

例のオアス産業海港に出現した謎の機影の事もあり安全を考慮した結果である。

 

そして、本日も何事も無く輸送船から避難民が下船する筈だった…

 

 

******

 

 

輸送船を見渡せる監視所より…

 

監視任務をしつつイグアス、ヴォルタ、五花海の三人が話していた。

 

ちなみに不貞腐れた態度のイグアスの愚痴から始まった。

 

 

「ったく、監視位…他の連中にやらせろってんだ。」

「しっかし、すっげぇ人数だな?」

「解放戦線を含めてルビコンに残っていた民間人が予想よりも多かったのでしょう。」

 

 

アイビスの火発生時にグリットに避難する事が出来た民間人の他に…

 

運悪く地表に居た為に逃げ遅れた民間人も存在した。

 

更に封鎖機構は『臭い物に蓋をする』と言う形でルビコン3を封鎖。

 

碌な救助も調査も行われる事もなく彼らは見捨てられたのだ。

 

その子孫達がミールワームやわずかに残されたプラントを利用し生き延びていた。

 

半世紀の間、壮絶な生存生活を強いられる事となった。

 

更に封鎖機構の強制退去に抗いゲリラ戦を続け今日まで生きて来た…

 

だが、コーラルが再度発見されたと言う情報に飛びついた企業によって新たな戦乱が持ち込まれ…

 

結果的に泥沼状態の戦乱が起こった。

 

戦わずひっそりと生きていたルビコニアン達にとっていい迷惑である。

 

その彼らの受け入れを贖罪とまでいかないが人道的支援として行っていた。

 

アルカナと封鎖機構の襲撃がある以上はここも安全とは言い切れないが…

 

 

「俺らも腹を括るしかない状況なのは変わらねぇけどよ。」

「にしても五花海さんよ…この状況でよく逃げなかったな?」

「ヴォルタ、君は少し勘違いしているみたいだね?」

 

 

話し合う中で最も状況が悪くなったら即時逃げると思っていた五花海がレッドガンに残っていた事を尋ねたヴォルタ。

 

それに対して五花海は答えた。

 

 

「私はベイラムを見限っただけでレッドガンを見限った訳ではないのです。」

 

 

切り捨てを行った企業はどうでもいい。

 

自分が未来を賭けたのはレッドガンであると言う意味である。

 

本来の自分なら最も生存出来る勢力に鞍替えしていただろう。

 

だが、ラークや周囲の考えがレッドガンに残る選択に導いていた。

 

それだけの事である。

 

 

「問題は副長ですよ、あの人は根っからのベイラム寄りですし…」

「…確かにな。」

 

 

副長ことG2ナイルはベイラム本社とのバイパス役を担っていた。

 

特に先代社長とは親友の間柄であり、現社長である息子の事を頼まれていた位だ。

 

だが、現社長を囲っている腐った上層部のせいで現在の状況を生み出してしまった。

 

逝去した先代との約束通り、現社長がろくでなしとなったらさっさと切り捨てろと約束していた。

 

それを実行するかを決めかねている状態だ。

 

 

「先代との約束通り…切り捨てるのか?若しくは救い出すのか?それは副長次第です。」

「ミシガンなら一発ぶん殴って即答させてると思うけどな?」

「違いねぇ。」

 

 

見事に職務怠慢の状態だが、やる事はやっている三人である。

 

だが、こんな悠長な状況も終わりつつあった。

 

 

「おや?下が騒がしいですね?」

「おい、あの輸送船…沈没しかけてねぇか!?」

「どうやら何かに襲われたらしいぜ…見ろよ。」

 

 

イグアスが監視所のコンソールを動かして損傷した輸送船へカメラを向けた。

 

船の格納庫付近を中心に甲板を何かで裂かれた跡が目視出来る。

 

船を破損させる程の損傷を与えている事から五花海は流れを察した。

 

 

「損傷の規模から…只のMTやACではなさそうですね。」

「アルカナの連中か?」

「だろうな、あのカタフラクトみてぇな戦車のバケモン出してくる連中だぞ。」

「総長に連絡しましょう、あの様子では仕掛けて来ると思います。」

 

 

三人は下へ降りて状況を確認した。

 

損傷した輸送船の生存者からの話によれば…

 

ここに辿り着くまでに護衛を含めて数隻の避難船がやられたらしい。

 

更に相手は海の中から攻めて来たとの事。

 

それを聞いた彼らは急ぎ、ミシガンへ連絡を入れるも…

 

同時に管理AIマナより緊急避難警報と戦闘配備のアナウンスが行われた。

 

 

『非戦闘員は指定のシェルターへ至急避難してください。』

 

 

どうやら此方の予想通りアルカナと封鎖機構の侵攻が起こったらしい。

 

 

「どうやら悪い予感は当たってしまったみたいですね。」

「また例のHC型とLC型も来るか?」

「いえ、もっと危険な相手が来ると思いますよ?」

「船を襲撃した奴…海中の奴か?」

「ええ、それも想定の範囲内です。」

 

 

敵は恐らく海の中からも仕掛けて来る。

 

先程の避難船の襲撃も一種のパフォーマンスなのだろう。

 

つくづく質の悪い奴らであると改めて認識した。

 

 

『聞こえるか!役立たず共っ!!』

「聞こえてますよ、総長殿。」

『貴様らの予測通り、連中は海の中からも接近している!出撃準備の取り掛かれ!!』

「おい、ちょっと待てよ!相手は海の中だぞ!?」

『G5、その件は手がある…貴様らがすべき事はさっさと出撃準備をする事だ!!』

 

 

相手は海から攻めて来る以上、陸戦対応のACには分が悪い。

 

海中戦専用の装備があれば別だが…

 

ミシガンの連絡では手があると話していた。

 

それだけを伝えると通信を切ってしまった。

 

 

「兎に角、今は格納庫へ急ぎましょう。」

「俺のタンク…やっと修理が終わったってのにまさかの海で戦闘かよ。」

「ミシガンの野郎、碌な案じゃなかったらぶん殴ってやる……!」

 

 

碌な説明を受けられなかった三人は急ぎ格納庫のある工廠エリアへと向かった。

 

 

~ザイレム内・軍事演習場~

 

 

時は少し遡り、イグアス達が海港の監視所へ向かった頃。

 

一部のナンバーズ達はローテーションを組んで訓練を行っていた。

 

その訓練中での一幕である。

 

 

「貴方が直接話に来るなんて、正直驚いたわ?」

「ダンテ…」

「今のアタシはローズネイルよ、ナイル副長。」

 

 

合同訓練を行っていたローズネイルとナイル。

 

元は同じ部隊の副官と司令官である。

 

ベイラム治安維持部隊よる五花海の組織摘発時の混乱。

 

そこで別れてしまってからの久しい再会だ。

 

何度か話す機会もあっただろうがタイミングが悪く、漸く話す事が出来た形である。

 

 

「…済まなかった。」

「別に貴方のせいじゃない。」

 

 

ダンテことローズネイルによって明かされた真実。

 

アルカナの正体を含めて五花海やミシガンから話が伝わったのだろう。

 

真実を知ったナイルはローズネイルに謝罪の言葉を告げた。

 

 

「単にベイラム上層部の連中が腐っていただけよ。」

 

 

元からの因縁と一部の嫌がらせを含めて自分はアーキバス社へ売られた。

 

強化人間の検体となっても今の今まで生きて来た。

 

下手をすれば、施術によって失敗し生きていなかった。

 

だが、こうして再会する事が出来た。

 

 

「そっちの本社も荒れている様ね、恐らくはあの専務一派の仕業でしょうけど。」

「…」

「あのドラ息子の件を逝去した先代社長から頼まれているのは知っているわ。」

「なら…」

 

 

自身がすべき事に彷徨っているナイルに対してローズネイルは元々の図太い声で答えた。

 

 

「隊長がそこまで義理立てする必要はない。」

 

 

ローズネイルは先代社長時代よりベイラム社の嫌な噂を耳にしていた。

 

その息子も専務の言いなりのドラ息子である事も…

 

先代社長の息子とは思えないほどの性根が腐った奴である以上、切り捨てすべきと考えていた。

 

 

「…アルカナや封鎖機構をどうにかしなければ状況は変えられないぞ?」

「ローズネイル。」

「俺から言える事は、過去に縛られず自身の在り方で決めろ…それだけだ。」

 

 

ローズネイルは次の訓練の指示を部下達に伝えた後…

 

 

「アンタには感謝している。自由を失って…ただくたばるだけだった俺を拾ってくれた事。」

「…」

 

 

元から持つ因縁によってベイラム経済領域のダウンタウンで燻って死に掛けた小僧だった自分を拾い上げたナイル。

 

その時の感謝を静かに告げた。

 

同時に管理AIマナからの緊急避難警報と戦闘配備通達のアナウンスが入ったのである。

 

 

=続=




次回、ブリーフィングと海中戦対策について。

10/30、一部修正と加筆しました。
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