ヴィランの俺がヒーローになって何が悪い! 作:yes,ヴィラン
「はっはっはー!! 世の中の悪い奴は俺がぶちのめしてやるぜ!!」
「お前もその中の一人なことを忘れるんじゃない、"テール"!」
真昼間、駅前から聞こえてくる笑い声と怒号。
片方は全身をローブで身を隠した機械音声の人間、もう片方は白を基調としたフルフェイスヘルメットとフルアーマーを身に着けた男。
名を順に、ヴィジランテ──"テール"、そしてターボヒーロ──―"インゲニウム"。
彼らは世間一般でいうところの、"ヴィラン"と"ヒーロー"と呼ばれる人種である。
「今日こそはお前の悪事を、俺がここで止めてみせる!」
「インゲニウム、お前にゃ俺を捕まえることは絶対に不可能だよ!」
怒鳴り声をあげながら裏路地をとんでもない速さで走る二人。
「今日も俺の勝ちだな、インゲニウム! 今回の事件もなんもしてないインゲニウムの活躍が新聞やテレビに載ると考えると最高に笑えるぜ!!」
「お前というやつは……。なぜお前は悪を懲らしめるという行為をしているのにもかかわらずこんなことをするんだ!」
「なぜって、そいつはぁ……」
インゲニウムによって投げかけられた疑問に、テールは走るスピードを少しずつ緩め、遂には足を止める。
それに倣い、インゲニウムも足を止める。
「ん~……、なんで、だろうな。世間に見せつける、でもねぇしなぁ。悪を滅ぼしたいわけでもない。……強いて言うならば……」
「……」
テールは、少しの間考えるそぶりを見せた後、インゲニウムに対してゆっくり振り向きながら言い放った。
「お前を揶揄うためだよ、インゲニウム!」
ローブで顔は一切見えないにもかかわらず、雰囲気だけでインゲニウムを煽っていることがよくわかった。
「テールっっ!!!」
「ははははは!! んじゃ、あばよインゲニウム! またどこかで会おう!!」
インゲニウムのエンジンが完全に止まったことを見極め、テールは狭い裏路地ならではの移動方法──壁キックをし、インゲニウムの前から消え去った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「いやぁ、今日もやったやった~」
夜。
テールはインゲニウムを散々揶揄った後、隠れ家に帰ってきていた。
「やっぱりインゲニウムは真面目くんだな、揶揄いがいがある。いろんなヒーローをたくさん煽ってきたけど、インゲニウムに勝るやつはいねぇぜ」
やつはドカッとソファーに座り込み、今日の余韻に浸りながらテレビをつける。
『今朝、8時半ごろ、巨大化ヴィランが○○駅付近で暴れていたところを、Mt.レディが確保しました』
「……ヒーローねぇ」
テールは今日のインゲニウムの言葉を考えていた。
『なぜお前は悪を懲らしめるという行為をしているのにもかかわらずこんなことをするんだ!』
あの時のテールは、適当に思いついた言葉をそのまま投げつけていたが、改めて考えると何故だろうかと思考に耽ってみる。
「……………………」
耽る。
「………………………………」
耽る……。
「……………………Zzz」
夜は更ける。
──かに思えた。
ピーンポーン……ピーンポーン……
こんな夜中にチャイムの音が聞こえる。
「…………んが?」
夢の世界まであと半歩というところで起こされてしまったテールは、少々不機嫌になりながらソファーから降りる。
「んだよ……こんな夜中に……。これでくだらないことだったらそいつにタンスの角に毎回足の小指をぶつける呪いをかけてやる…………あーぃ!」
ぶつぶつと物騒なことを呟きながらドアを開ける。
そこには……
「テール、話g」
ドアを閉めた。
「…………い、いや、ワンチャン見間違いかもしれないだろ? もう一度開ければ別人だオ落ち着け俺」
テールは自分に間違いだと思わせ、もう一度ドアを開ける。
「急に扉を閉めるのはどうかと思うのだが……、まぁいい、君に話があるのだが、部屋に入れてもらえないだろうか?」
目の前に、ヒーローコスチュームを身に着けていないインゲニウムがいた。
今日煽りまくって撒いたはずの、あのインゲニウムが……。
テール、は急いでドアを閉めようとする、しかし……。
「ちょっと待て、テール。俺は話があると言っているんだ」
「俺は話すことなんかない」
「まぁまぁ、少しだけさ」
「ちょ、勝手に入ってくんじゃねぇ! って、抵抗できねぇ!?」
インゲニウムは無理やりテールの隠れ家に入ろうとしてくる。
テールもテールで、インゲニウムを入れないように抵抗するが、ヒーローというのは伊達ではない、テールの抵抗をモノともせずに部屋に入ってくる。
「こんな夜更けにすまない」
「そんなこと言うなら明日の朝来てくれないか?」
そのうちに身支度整えてここはもぬけの殻だけどな、と心の中で呟くテール。
「いや、そういうわけにはいかないんだ」
「……なぜ? ってあ、はい、椅子とお茶」
「あ、これはどうも。……いやね、実は公安から君を捕縛してほしいと依頼されてね」
「は?」
テールは訳が分からないといった感じでインゲニウムを睨みつける。
インゲニウムはそれを異に返さないといった感じで見つめ返し、話を進める。
「これはあくまで風のうわさ程度の話なんだが、君をヒーローにしたいと」
「はぁ!?」
あまりの驚きに機械音声が乱れ、若干音割れを起こすテール。
「俺はどこまでいってもヴィランなんだぞ? ヴィランがヒーローになんて……か、可能なのか?」
「理論上は可能だ。ただその前例がないだけで」
はぁ……、とソファーの上で脱力して上を向くテール。
「この答えはいつまでに出せばいいんだ?」
「特に指定されてはいないが、なるべく早めに出したほうがいいだろうね。公安もそんなに気が長いほうではないと思うし」
「そうかよ……」
テールは疲れたといった感じでソファーに横になる。
その様子をインゲニウムはじっと見ていたかと思えば、首をかしげている。
「……んだよ」
「いや、そういえば聞いてなかった気がしたんだが、君の性別はどっちなんだ?」
「お前に答える義理はない」
「い、いやまぁそうなんだが……」
なぜか話は終わったはずなのに部屋から出ていかないインゲニウムに疑問を浮かべたが、テールは予想以上の話の内容に驚き疲れたのか、出ていけと怒鳴る元気すらなかった。
「とりあえず、話がないなら部屋から出ていけ。答えが決まったら俺がヴィジランテしてるときに伝えに行く」
「わ、わかった……って、いい加減ヴィジランテ活動するのはやめろと言っているだろう」
「しょうがねぇだろ、俺はヒーローになる資格がなかったんだから、こうするしかなかったんだ」
「な、なにを」
「なんでもいいだろ、いいから出てけ!」
インゲニウムはテールに押し出される形で部屋を追い出される。
「はぁ、もう寝よ」
疲れたテールは、とりあえず荷造りは明日にすることにした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日。
朝日が昇る前に荷造りを済ませ、早々とアパートを出るテール。
外はまだ暗く、若干空が明るくなってきたかなっていう程度だ。
「にしても昨日のあいつ、まじで話をしに来ただけだったな」
そこらへんが律儀というかなんというか、とボソボソ呟いていると、路地裏から出た瞬間に誰かにぶつかってしまったようだ。
「っとと、わりぃ……ん?」
「いや、こちらこそすまない……ん?」
互いに互い謝ると、なにか聞いたことのある声。
なんなら昨日の夜聞いたばっかりの、だ。
「あ、アブs」
「あばよインゲニウム!」
敵・前・逃・亡☆
テールは逃げ出した。
「な、え……え?」
インゲニウムは混乱した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「で、結論は出たのか!?」
「はははは!! もちろん出たさ!!」
ところ変わって昼が少し過ぎたあたり。
今日も今日とて、インゲニウムとテールは追いかけっこをしていた。
「いやぁ、お前と遊ぶのは楽しいな! なぁインゲニウム!」
「それは俺
いつものように怒鳴りあいながら走る二人。
だが、今日はいつもと違う。
「なるよ、ヒーロー」
「……っ!」
静かにつぶやいた。
この喧噪のなか、普通は絶対聞こえないであろう言葉がインゲニウムの耳に届く。
それと同時に、お互い走るスピードを緩める。
「案外早く決まったな」
「早くしないと俺はタルタロスに収監されちまうからな」
テールはやや笑いながら答えると、パッとインゲニウムの方へと振り向く。
「俺がヒーローになるとしたら、インゲニウムは先輩になるわけか」
「……まぁ、そうだが」
「くはは、なら今のうちに。──俺がヒーローになったときは、改めてよろしくな、インゲニウム
テールが機械音声ながら少々揶揄うようなそぶりを見せながらそう言うと、インゲニウムはヘルメットの上からこめかみを抑えながら頭を振るう。
「君にそう言われると調子が狂うよ……」
「ははは、それは慣れてくれとしか言えないな!」
ヘルメット下で苦虫を嚙み潰したような顔をするインゲニウムと、顔は見えないが声に出して笑うテール。
お互い顔は見えないが、対極に位置する二人の表情。
しかしテールとインゲニウム、二人の心の奥底にある思いはいつも変わらない。
"助けを求める人を一人でも救いたい"
その思いがテールの中にもあったから。
そしてインゲニウムがテールの奥底を感じることができたからこそ、今という結果があるのだ。
主人公のスペックはいつか書きます