幻想世界の火を追う十三人   作:白木蓮人

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ジンの依頼と三人の新人冒険者

 騎士団本部入口の大きな扉が背後で閉まると、風車が回る音は少しくぐもり、かわりにツヤツヤした床が靴音を響かせる。甲高いヒールの音は女性らしい。ただ、悠然としたリズムはどこか勇ましくもあった。

 

 しかし足音は一人分だが、来訪者は一人ではなかった。

 

「なあ旅人、さっき入口のやつが言ってたこと、知ってたのか?」

 

 空中にフワフワと浮かぶ、白く小さいぬいぐるみのような女の子、パイモンは、そう耳うちする。

 

「ううん、知らなかったよ」

 

 こそ、と返事したのは、どこの地域でも見られない珍しい装束を揺らす、金髪の旅人こと、蛍。

 どこに出ても目立つ不思議な二人組は、モンドの騎士が行き交う建物を、気負うことなく喋りながら歩く。

 

「じゃあなんで嘘つくようなことしたんだよ」

「もしかしたら、知らせなかったんじゃなくて、隠したかった……ってことかもしれないでしょ?」

「ん? つまり、今回の依頼は極秘のものかもしれないってことか?」

「そういうこと」

 

 彼女らは団長の執務室の前に辿り着くと、特にノックもせずに扉を開けた。

 

「おーい、ジン団長ー。依頼について話しに……って、あれ?」

 

 パイモンのはつらつとした声が、途中で止まる。

 執務室では、西風騎士団の代理団長であるジンが、ひたすら机に向かっている──そんな普段の光景から、まったく様変わりした状況が広がっていた。

 羽ペンが文字をカリカリと綴る音は消え、振り子時計が午前の喧騒の時間を刻む音だけが鳴っている。窓からの光でキラキラする埃の妙に香ばしい匂いに混ざり、薬品や果実の匂いもしてきた。

 肝心のジンは、どこからか運び込まれたベッドの上に寝かされている。いつもは硬く着こなしている服も緩んだものに変わっていて、クリーム色の髪がほどけて枕に広がっていた。

 そして、ジンと同じクリーム色の髪を持つ小柄なシスターが、ベットの隣に座っていて、入ってきた旅人を疲弊の浮かんだ瞳で見た。

 

「あ……来てくれたんだね、旅人」

「うん、来たけど……これはもしかして?」

「お姉ちゃん、病気になっちゃったの」

 

 と、目を伏せる。その先には、青い顔をしたジンが浅い呼吸を繰り返していた。

 そんな容体でも騎士としての勘は生きているのか、ジンはおもむろに目を開く。部屋を一瞥しただけで状況を理解し、身を起こした。

 

「すまない、栄誉騎士である君をこんな形で迎えたくはなかったのだが」

「……今はそういうのいいから。無理しないで」

 

 蛍は顔をしかめながら、ベッドのそばに寄る。

 病床の彼女は、見た目に大きな変化があるわけじゃない。受け答えだってしっかりしてる。ただ、軽くなってしまった気がする。

 そっと蛍は手を握った。

 

「……旅人?」

 

 問いかける声もどこか希薄。

 こうして繋ぎとめておかないと、吹けば散ってしまいそう。

 生きる力が、体の内側からごっそり失われて、空っぽになろうとしている。そのように感じられて、胸が痛んだ。

 パイモンも飛んできて二人の間に入る。

 

「あの激務だしな。いつかこうなるとは思ってたぜ。しかしジンが倒れたとなると、騎士団の仕事が滞りそうだよな」

「もしかして、冒険者協会に出してきた私への指名依頼は、単に私への連絡手段として?」

「いや……君には本当に、あの花を入手してきてもらいたいんだ」

「それってどういう……」

 

 旅人の背後から、ふわ、と眠気を誘うバラの香りが訪れた。

 

「その先の説明は私が受け持つわ」

 

 振り返ると、紫色の衣装を纏う魔女……のような図書司書、リサがいた。蛍たちと目が合うと、淡い笑みを浮かべた。

 

「来てくれてありがとう、旅人。それでジンの罹った病気なのだけれど……有り体に言えば、かなりの難病なの」

「え!? 単なる風邪とかじゃないのかよ!?」

「そうなの。今みたいに氷嚢と解熱剤、おいしい果物を用意するだけでは治らないでしょう。それで私とアルベド、あとスメールの知り合いとも連携して治療法を探った結果、とある特別な薬が必要になるという結論に至ったの」

「その薬の材料が、冒険者協会に出された採取依頼の標的……『蛇紋蔦(じゃもんつた)の花』なんだね」

 

 頷きながらも、何か引っかかる蛍。そこにパイモンが飛んできて、鋭く言った。

 

「いや待てよ。そんな大事なことなら、身近な人に頼めばよかったじゃないか。アンバーとかガイアとか。わざわざオイラたちを待つなんて、時間の無駄だぞ!」

「……確かに。ディルックにも頼れたはず。何か、そうはいかない事情があるの?」

 

 するとジンの方に、バーバラとリサの目が揃って向いた。

 ジンはコホンと咳をついた。

 

「今のモンドには大団長をはじめとして、人員があまりいない。ファデュイの侵攻も一段落ついたとはいえ、予断を許さない。この状況で代理団長が難病に侵されたと公開すれば、民の不安を招く」

 

 ジンは粛々と言う。

 

「秘密裏に終わらせようとも、騎士団を動かせば、どこかしらから情報が漏れるだろう。そうでなくても、よからぬ噂を産むかもしれない。だから『栄誉騎士』でありつつ、冒険者でもある君にしか頼れなかったんだ」

「つまり、周りを心配させたくなかった、と」

 

 額をおさえる蛍と、物も言えなくなって漂うパイモン。

 バーバラとリサが、おずおずと弁明する。

 

「ごめんね旅人。そんなこと言ってる場合じゃないって、私も説得したんだけど……」

「病人と口喧嘩するわけにもいかないでしょう? 一理はあったし、なにより早くにあなたから返事がきたから、しぶしぶ退き下がったの」

「……呆れられてしまっただろうか」

 

 ぼそり、とジンが吐き出す。

 蛍とパイモンは、お互いに顔を見合わせた。

 モンドのジン団長といえば、人民の苦痛に誠実で、騎士の義務に厳格で、まさに剣を模したような人物であり、実力で敵う者はそうはいない。それが、こうも弱った所を見せられては、二人が強く反対できなかったのも分かる。

 二人とも、息をついて笑いあった。

 

「まったく、責任感が強すぎるのは、ジンの数少ない欠点だよな!」

「でも完璧な心に願いは産まれない。欠けている部分にこそ、その人らしさが産まれる余地があるのかもね」

 

 普段、誰の甘えも優しさも欲しないジン。そんな彼女が望みを口にしている。

 それを叶える機会だと考えれば、むしろ僥倖に思える。

 蛍は、しっかりとジンに目線を合わせて言った。

 

「私たちは、ジンの力になるよ」

「旅人……」

 

 パイモンが勢いよく舞い上がる。

 

「その植物を持って帰ってくれば全部解決するんだろ? すぐ終わらせてやろうぜ、旅人!」

「パイモン……」

「安静にしててね。くれぐれも、仕事に手をつけたりしないように」

「……ありがとう、恩に着る……!」

 

 意気揚々とする二人を、騎士団の人々が見送る。

 

 

「仕事については大丈夫よ。私とガイアで、あらゆる面倒事を先んじて片付けてあるから」

「お願い、絶対に花を持って帰ってきて、旅人……!」

 

 こちらの手を、両手で包んで懇願するバーバラに蛍は力強く頷き、自分からも一瞬強く握り返した後で、手の間から、風のように旅立った。

 

 

 

 旅人たちは、騎士団本部の出口で入ってきた時と同じように騎士に話しかけられた。

 

「おや栄誉騎士さん。『騎士選定大会』の会議は、もう終わったんですか?」

「私は騎士団の実務には詳しくないから早めにね。でも冒険者と繋がりがあるから、そっちから検討してみてってことになったの」

「そ、そうなんだよな! これから冒険者協会にいって、あわよくば出場者候補を見つけられたらなー、なんて。あははは……」

「それは楽しみですね! 教会や他国ともやり取りがあったらしいので、どうなるのか今からワクワクしますよ」

 

 そしてまた同じように、少し歩いた先でこそこそと喋る。

 

「ジン団長は『騎士選定大会』とやらの準備のため、手が離せない……そういうことになってるんだね」

「依頼のことを隠しといてよかったな。冴えてたぜ旅人」

「既にバーバラやリサの動きが噂になってるあたり、不用意な行動はできそうにないね……」

 

 そのままの足で、旅人たちは食事処に寄った。

 

「かなり強行軍にしようと思うから、ここで食い溜めておこうね」

「おう、バリバリ食うぜ!」

 

 テーブルの上では、正午の日光が鶏肉のハニーソテーのつややかな表面を照らしている。厨房で弾ける火花の音が風に乗り、肉が焼け、油が滴る匂いが運ばれてくる。

 蛍が玉子たっぷりのサラダを食べていると、鶏の丸焼き向こうからひょっこりとパイモンが顔を出す。蛍は一旦、水を飲んで手を止めた。

 いつも思うことだが、こうした巨大な料理の山は、パイモンの背丈と大差ない。なのに全て彼女の腹の中に消えていく。一体どこに収まっているのだろう。

 

「久しぶりのモンド料理……やっぱり美味しいぞ!」

 

 手でぎゅうっとナイフとフォークを掴み、どんどん料理を口に運んでは頬張っていく。その顔には喜びが溢れ出ていて、見てて気持ちいい食べっぷり……だったのに、突然パイモンの顔が曇った。

 

「なあ旅人、今しがた悪い事を思い出しちゃったんだけど……」

「なあに、パイモン?」

 

パイモンが食事を止めるほどの悪い事とは一体なんなのか、と蛍が見守る前で、彼女は深刻な声で言った。

 

「今回の依頼って確か……新人教育を兼ねてなかったか!?」

「……あっ、そうだった。表向きは遠出して植物を採るだけの簡単な依頼だったから、ついでに任されちゃったんだよね」

 

 冒険者協会は、かねてより加入者を増やすことに腐心していた。なにかと名の売れている蛍もまた、新人用のテスト作りだったり、広報活動としての秘境攻略だったりに、携わってきた。

 今回も、成り行きで手を貸すことになったのだが、その内容は『新人冒険者の実践指導』と銘打たれた、初心者教育である。

 知恵の国であるスメール帰りだったからだろう。『教育』というものをやってみてもいいかもしれないと、安請け合いしたのだが。

 

「新人を引き連れてそいつらの面倒を見るなんて、やってる場合じゃないぞ!」

「そうだね。キャサリンには悪いけど、断らせてもらおっか」

 

 と、決めて料理を完食し、席を立ち──

 

「正当な理由もなしに、キャンセルにはできません」

 

 その後向かった冒険者協会で、きっぱりと受付係のキャサリンに言われてしまった。

 

「取り付く島もない!? そこをなんとかしてくれよ~」

「はあ、正当な理由があるのであれば、もちろん考慮いたしますが……」

 

 と、ゴネるパイモンを横目に、キャサリンは蛍へと視線を向ける。

 蛍はなんでもないように首をふった。

 

「ううん、やっぱり大丈夫。急に変なこと言ってごめん。直前になって、ちょっと不安になっちゃったんだ」

「それはまた。旅人ほどの方でも緊張することはあるんですね」

「まあね。待ち合わせの時間は……」

「明後日の六時です」

「了解。じゃあもう行くね。さ、パイモン」

 

 ──このような出来事があった後、そそくさと雑貨屋まで移動して、蛍は必要そうなものを物色していた。

 パイモンが肩に掴まりにきて喋りはじめる。

 

「なあ、あの話は断らなくてよかったのかよー?」

「あんまり強情になると怪しまれるし……ジン団長のことはバレないようにしないと」

「う……それはそうだけど」

「どうにでもなるよ、きっと。それとも、パイモンは私の実力が信じられない?」

「おお、言ったな? じゃあオイラはもう何も心配しないからな! あの『スライム捕獲キット』とか面白そうだ、くれ!」

「懐事情は心配してくれると助かるかな……」

 

 苦笑しつつも、どこかの錬金術師が酔狂で作ったであろう『スライム捕獲キット』とやらを、店員の前に差し出した。

 購入したものを店員が包んでる間、二人は雑談する。

 

「でも、待ち合わせまで足止めになるね。食い溜めした分が無駄になっちゃった」

「無駄なんかじゃないぞ、美味しかったからな! ところで旅人、新人冒険者って、どんなやつが来るんだろうな?」

「うーん……あんまりよく分からないかな」

「じゃあさ、どんなやつが来てほしい?」

 

 蛍は考える。

 

(どう答えようか)

 

 >「強い人に来てほしいかな」

「確かに! 今回の依頼はさっさと済ませないといけないから、いっそ神の目持ちとかに手伝ってもらいたいな!」

 

 >「可愛い人がいい」

「……おまえ、なかなか面食いだよな。鼻の下が伸びてるのを隠すのが上手いあたり、たちが良いのか悪いのか……」

 

 >「楽しい人といたい」

「だよな! やっぱり冒険は楽しくないとだめだし、お喋りの上手いやつがいてくれると退屈しないし!」

 

(……と答えた)

 

 雑談もそろそろに、店員が戻ってくるとパイモンは話を締めくくった。

 

「まあなんにせよ、当日ガッカリしないことを祈っておこうぜ!」

「そうだね、期待していようか」

 

 旅人たちは梱包された品物を手に、店を後にした。

 

 

 

 やがて、その日がきた。

 夜空は黒く、それが白んでいけば朝になるのだとすれば、この時間の世界は無彩色に脱色されたものと言えるだろう。

 風立ちの地の草原も、周囲を囲う山脈も、中心にそびえる大樹も、水面に映った景色かのように色味が足りない。まだ、夜の冷たさが残っていて肌寒く、朝露が靴を濡らす。

 それも、少しの辛抱だ。陽が昇るにつれて……

 時間が動き出す。鳥が静寂の中から現れて、夜明けを告げて飛び回る。

 世界が取り戻していく色は、川のせせらぎは勿忘草色、地を踏む音は山吹色。

 朝日がひと際強く光を差した時、草葉混じりの銀風が吹き抜けて、蛍の瞳を奪った。

 

「お、どうやら来たみたいだな」

 

 パイモンが遠くを眺めて言った。

 向こうから、二人の男が歩いてくるのが見えた。彼らは協会の緑色の制服を着て、大きなリュックを背負う、模範的な冒険者の装いをしている。

 

「おお、見なさい! 本当に栄誉騎士さまがいますよぉ!」

 

 そのうちの一人が、大声をあげて駆け寄ってきた。

 彼は腰を低くして笑いかけてくるが、その表情から俗な欲望を消し切ることはできていなかった。

 

「いやはや、こうして目にしてみると本当に麗しいですねぇ。あ、自分はポーカスと言います、どうぞよしなにぃ~」

「あ、うん……」

 

 蛍は一歩引きながら握手に応じる。

 これは苦手だ。自分のことを、富や権威の埋蔵地と見てくる人は。

 

「その、今はあくまで先輩冒険者として接してね」

「ほほう、今は……ね。ええ了解しましたよぉ」

「くれぐれもよろしくね……」

 

 この手の例に漏れず、遠回しに窘めても効果は薄く、皮算用する視線は続けられる。ひとまず棚上げして、後から歩いてきたもう一人の方に目を向けた。

 

「君が二人目の新人でいいよね?」

「なるほど、そういうことか」

「……はい?」

 

 急に顎に手をあて、訳知り顔になった二人目の冒険者に、蛍は会話が思いつかなくなる。

 そんな様子も気にかけず、彼は続ける。

 

「かの栄誉騎士は神の目を持たないにもかかわらず、複数種類の元素力を扱うと聞いていたが……一目見てその理由が判明した」

 

 鋭い視線で蛍を射抜く冒険者に、パイモンは跳ね上がる。

 

「え!? オイラやアルベドにすら分からない、こいつの力の正体が分かるのか!?」

 

 彼は深く頷き、ゆっくりと口を開いた。

 

「ああ、その理由は……なんか不思議な雰囲気を纏っているからだ!」

「……はぁ?」

 

 パイモンはまず、自分の頭を疑った。高らかに結論が出されたのに、そこからなんの情報も入ってこなかったから。

 

「相対するだけで感じられる、『なんか不思議な雰囲気』……これこそ力の正体なのだろう。うむ、この発見は明論派にレポートとして提出しておこう」

 

 冒険者は取り出したノートに顔を埋める。

 パイモンは困惑しながら、横から話しかけた。

 

「一応聞いておくけど……お前、教令院の学者じゃないよな……」

「いや違うな。スメールに行ったことすらない。しかしこの俺、ファートンの論文は教令院にて、注目に値する資料として纏められていることだろう」

 

 と、ファートンは筆を動かしながら淡々と言う。

 パイモンは茫然としながら蛍の耳元に飛んでいった。

 

「……纏められてると思うか?」

「駄獣のお腹の中でなら」

 

 蛍は肩をすくめた。そして、冒険者たちを見渡す。

 

「えっと……話では三人いるってことだったけど、もう一人は?」

「いやぁ分かりませんねぇ。ファートンはどうだぁ?」

「俺たちは今日が初対面ですから、知る由もありませんね。しかし俺の計算によると、怖くなって逃げた可能性が割と高めです」

 

 二人の冒険者も分からない様子だった。

 ならばもう少し待ってみようと蛍が決めたその時、風に乗って、甘い匂いが漂ってきた。

 

「どうしたんだ、旅人?」

「……向こうの方にいるかも」

 

 草原の中心部、大樹の方へと歩きだす蛍の後ろに、パイモンが続く。

 

 彼女たちが大樹の下に着くと、突然頭上から、女性の声がした。蜜を蓄えた花のように澄明で、人を惹きつける声だ。

 

「ハーイ、あたしはここよ、可愛い美少女さん」

 

 そんな歯の浮くような言葉に、蛍は肘でパイモンをつっつく。

 

「パイモン、呼ばれてるよ」

「うえぇ!? か、からかうなよ。おまえの方に決まってるだろ!?」

 

 パイモンは慌てて、蛍のお腹を両手でぐいぐいと押し返す。

 そのやり取りを見てか、女は心底楽しそうな笑い声を溢した。

 

「あら、あたしの言い方が悪かったばっかりに誤解させちゃったみたい。じゃあ改めて……ハーイ、可愛い美少女のお二人さん」

 

 旅人たちは振り返って、声がした方を見上げた。

 

 その女は大樹の枝に腰掛けていた。優雅かつ悠々とした姿は、おとぎ話の妖精を思わせる。彼女の周りだけ、風の吹き方が違うかのような雰囲気だ。

 冒険者協会の制服を白く染め、メイド服のように着こなしている。白地によく映える桃色の髪は、後ろで一つに纏めている。

 どこか妖しげな菫の瞳で、けれど美しい微笑みを浮かべ、旅人たちを見おろしていた……

 

 ……その気取った振る舞いには、こうして注目せざるを得ない。

 蛍は腰に手をあてて問いかける。

 

「あなたが三人目の新人?」

「ええ、そうよ。この登場の仕方はお気に召したかしら。いい第一印象を与えられていると嬉しいのだけど」

 

 彼女は柔らかく目を細めて告げる。

 

「初めまして。あたしの名前はエリシア」

 

 エリシアは枝から跳び、草を踏むわずかな音だけ鳴らして着地する。その時、胸元につけたブローチが輝いた──それは、岩元素の神の目。

 

「見ての通り、とっても瑞々しい冒険者の蕾よ。今日は……きっとこんな風に言うべきよね。『ご指導ご鞭撻、どうぞよろしくおねがいします。先輩』って!」

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