今更ですが、解釈違いなどが発生する可能性があります。私の主観で見たもの・見たいものが書かれてるから。
原神だと、『蛍』はこんなに話さない。キャラの性格や行動もシナリオに引っ張られてブレるだろうし、出てくる魔物もオリジナルが多い。
崩壊3rdでも、『ケビン』は農夫じゃないし敬語で話さないし。『フェリス』が抱える闇も……。二人が同居してたりしないし、そもそも絡み自体そんなにないという。
でもやる。『自分が見たもの・見たいもの』を表現してこそ二次創作だと思うから──
……やっぱりちょっと怖いから予防線を……いや、でも、うーん……うん、これで物語始めちゃったんだから、これで行くしかないか!
──目の前の苦痛からは逃げだして、どこまでも気楽に生きていければいいな。
そんな言葉で表される、パルドフェリスという少女の心。しかし実際に彼女を支配しているのは、拭いきれない不信感。
この世に彼女を脅かせるほどの苦痛はそう多くないが、当の本人からは、いつしか周囲の全てが敵に見えるようになっていた。
かつては、モンドのなんの変哲もない村で暮らしていた。
変な耳と尻尾が生えている余所者を、村の人達は……簡単にとはいかなかったけど、なんだかんだ受け入れてくれた。
彼ら彼女らに、何かお返しがしたいと、幼心に感じた。
だから……完全なる善意で、家探しをはじめた。箪笥と壁の裏の隙間、屋根にある鳥の巣の中、その他、誰も見ないような場所を探し尽くし……たくさんの失くし物や落とし物を収集した。
その時、このまま返そうとも思ったが……もっといい方法を思いついた。
もし、これらの宝物が既に必要なくなっていたら、返されても邪魔になるだけ。
必要とする人に、必要なだけ物が行き届くように……これらの『宝物』を商品にお店を開こう!
布を敷き、看板を立て声をあげ、たくさんの『宝物』の並んだ露店は開かれた。
『宝物』との思いがけない再会を喜ぶ人はいたし、物珍しさに浮つく人もいた。とにかく、露店は笑顔に囲まれる場所になってくれた。
風向きを変えたのは、当時、数少ない友人だった子の一人。
彼女は商品のうち一つのペンダントを手に取ると、信じられないものを見る目になった。
「これ……お母さんの形見だ」
そんな彼女の表情にも気付かず、すっかり機嫌をよくしていたから、こんな言葉をかけた。
「おや、そうなの? じゃあこれは友達価格で無料……」
「どうしてあんたが持ってるんだ!」
その叫び声が、全ての笑顔を凍りつかせた。
「これ……大事なもので、肌身離さず持ってたのに、なんで……」
「あ、えっと、それは廃材の底に埋まってたんだよ。まさに掘り出し物ってやつ……みたいな」
「……本当に?」
恐ろしく歪んだ表情が向けられた。
「違うんでしょ。だって私が失くすわけない……あんたが盗んだんだ!」
憤怒に染まった人間がそこにはいた。
静まりかえった露店で、口をぱくぱくさせて、なんとか正しいことを伝えようとする。
忘れ去られたものを見つけることで、みんなの役に立ちたかったんだと……
「ち、違うよ……私はみんなが目を輝かせる宝物を、いっぱい贈りたかっただけ……」
「じゃあどうしてお金とってるの!」
「それは……だって……」
頑張ったね。素晴らしい仕事だね……そんな言葉を、お金という形で残して欲しかっただけ、と。心の中では叫んでいた。
そうだ、お金が光り輝いて見えるのは、そういう『感謝』が含まれていると思ったから。だから、利益なんて二の次でしかない。誓って欲望に目が眩んだわけではないと、今でも確信できている。
けれど喉は、熱く重いもので詰まったまま動かせなかった。何も胸を張って言うことはできなかった。
多くの人々は、金と宝には目を眩ませずにいられないから。相手も同じだと思い込む。
その思い込みの前に……向けられる残酷な視線の数々に、たった一人の余所者の主張は力を失った。
ボトリ、と彼女の露店に、『宝物』が投げ返された。
にわか雨のように、ボロボロと降ってくる。
身体が冷たくなって、目の前が暗くなっていく……
逃げ出した。
後ろめたいことなど何一つないまま、罪人として村を追われた。
以降、物乞いと盗みで食いつなぐ日々が続いた。当然、そんな余所者はどこの誰も受け入れず、いくつもの村々を追い出されてきた。
あの日、身を貫いた冷たさは癒えることなく。懐はずっと寒いままだ。
パルドフェリスという少女の心を支配するのは、拭いきれない不信感。
……べつに、人間に絶望したわけじゃない。
ただ、こう考えながら生きるほうが『しあわせ』ってだけ。
他人という苦痛からは逃げ出して、どこまでも孤独のまま気楽に生きていければいいな──
──霧の中から、抜け出した。
フェリスはふと、さっきまで夢うつつに気を失っていたような感覚がした。思考にもやがかかり、昔のことを思い出していたような……
ブンブンと頭を振って、逃げることに集中しなおす。
彼女の後ろでは、まだ金髪の旅人が食らいついてきていた。白い浮遊体は、とっくに枝に引っかかって置いていかれた。
旅人のほうも、長くはもたないだろう。いまも根に足をとられて倒れ、腹をしたたかに打って、地面に肘をつきながら痛みに重く息を吐く。それでも歯を食いしばって立ち上がり、また走り出す。
蛍がこれほど苦戦する道を、フェリスは軽々と疾走していた。猫と共に暮らし、彼らから学んだ身のこなしがあれば、壁だって走れるし、少し集中すれば、周囲の地形の事細かな部分まで全て頭に入れて、立体的に思い浮かべることまでできる。この才能を応用して、容易に見つからない抜け道を見つけ次第、そこを通って方向転換して撒くことも狙った。
しかし、いまだに突き放せない。
……流石におかしい。目印みたいなものをつけられたのかな……?
二階から耳を澄ましていたけど、あの旅人は『栄誉騎士』というやつであるらしい。そんな人に捕まったら牢屋行きになるに決まってる。そう思い至った時点で、家を飛び出したのに、なぜかすぐに隠れ場所まで近づかれてしまったあたり、やっぱり印をつけられているんだ。
……でも、なんでだろう。あの人は、傷つけてきたりしないって思えるのは。
それはきっと……これまでは、弓矢や元素力で容赦なく攻撃してくる人もいた。憎悪に満ちた声で『出てこい』と叫ぶ人もいた。
でも彼女はどれもやらずに、ただ諦めずに追いかけてくるだけ。そこに、自分に対する害意とは違う、なにか切実さを感じるから……
なんだか、よく分からないな。
「もー、なんでそんな必死に追いかけてくるの?」
「あなたに手を貸してほしいから!」
……わざわざ、私に?
現実味のない話に、フェリスはけらけらと笑う。
「またまた~。私みたいな凡人なんかより、よっぽど頼れそうな人たちに囲まれてたでしょ~?」
「ううん、あなたじゃないと駄目なの」
サク、と。その言葉は胸に刺さった感じがした。
一瞬だけ止まった足を、フェリスはすぐに動かす。何事もなかったように。遅れを取り戻すように。
……でも、手伝ったらお金が貰えるかもしれない。夜空の星みたいな小さな輝きを、この手に。
それに、あんなに泥だらけになってまで、私に求めるものがあるのだとしたら……
期待のこもった好奇心で頭が埋まっていく度に、フェリスの足の動きは遅くなっていく。
ぽつりと呟いた。
「……お金に釣られちゃったなら、足が止まっても仕方ないよね……うん」
やがて、完全に止まった。
「もういいよ、私の根負けで」
フェリスがため息混じりに笑って振り返ると、蛍も足を止めた。
息も荒く、頬を上気させ、髪も乱れて……けれど黄金の瞳は強い光を宿したまま。
今まで向けられたことのない表情が、そこにある。
逃げ出したいような、逆に駆け寄りたいような、矛盾した思いを……フェリスは表に出さないよう、不敵な笑みを浮かべて話しかける。
「ここまできたなら聞いてあげるよ……私に何をしてほしいのかな、旅人の姉ちゃん」
蛍は呼吸を整えると、まっすぐに顔を上げる。
髪と衣だけを風にはためかせ、揺るぎなく佇む姿は、フェリスがこれまで見たどんな騎士よりも、心奪われる風格があった。
澄んだ声が告げる。
「あなたから、買いたいものがある」
二人は逃走劇を繰り広げる内に、高い針葉樹と、それよりも高い崖に囲まれた場所に来ていたようだった。
一帯を囲う雲の壁を越えてきた弱々しい日光が、さらに崖によって遮られて、周囲は不気味なほどに薄暗い。
「旅人の姉ちゃん。悪いけど、今は売れるようなものは持ってないんだ」
フェリスは大げさな態度で首を振り、驚いた仕草をしてみせる。
「あっ、まさか珍獣として飼いたいとか? それなら三食おやつ付きお小遣い付きでなら……」
「茶化さないで。私は真剣に話したいの」
きっ、と凄まれて、フェリスは口を噤む。
蛍はそれ以上は言わず、彼女の次の言葉を待った。沈黙の中でじっと見つめられて、フェリスは耐えきれずにぽつぽつと話し出す。
「でも、本当に何も持ってないんだ。宝物を溜めこんでもないし、芸術的なものを作れたりもしない。だから……私は価値なんて持ってないんだよ……」
話している途中で、フェリスはしゃがみこむ。地面を指でなぞって、意味のない線を描きこんだ。
蛍は近づいていった。
フェリスの頭上に影が差し……さっと晴れた。
「私の知らないことを、あなたは知っている。私に出来ないことが、あなたには出来る──そういった、あなた自身が持つ価値を、私は買いたい」
正面に、膝をついて目線を合わせた蛍の顔があった。
眩しいものを見たように、フェリスは急いで顔を逸らした。
「それだって、もっと得意な人がたくさんいるよ。例えば……」
「今、その人たちが世界のどこにいようとも、私の目の前にいるのは、あなただけ」
苦しげな口ぶりを遮り、蛍は断言する。
「今この時、この場所にいる。お互いに出会い、縁を結べたという幸運にこそ、唯一無二の価値がある」
握りしめていた手を前に出し、それを開いてみせる。
「だから、駄目かな?」
差し伸べられた手のひらには、モラが光っていた。
都合のいい夢みたいだなと、フェリスはぼんやりと眺めていた。
目の前の光景が、徐々に現実味を増していく。鼓動が少し早く胸を叩くのを、確かに感じている。
(私、今度こそ『ありがとう』って言って貰えるのかな)
そんなこと……本当にあり得るのだろうか?
フェリスは顔を伏せて、前髪の影の中に表情を隠す。
「どうだろうね……私はただの凡人だから、期待には沿えないと思うけど……」
そして、暗闇にキラリと猫の目は光る。
「──そんなに高く買われちゃ仕方ない。『ぼったくられた』って後悔しても知らないからね!」
……騙されていたところで、傷が一つ増えるだけだもんね。
半ば勢いまかせに、フェリスは手を伸ばす。
その時だ。
ぶぅん、という異音が耳を
「……何?」
蛍は周囲を見渡す。
虫の羽音だろうか……しかし、木々の間に鳴り響くほど、その音は大きい。
──普段の彼女であれば、これほど不穏な気配を感じたら、即座に剣を抜き、臨戦態勢になっているはずだった。
しかし今は、フェリスのために膝をつき、手を差しのべている。
……そう、私のために、あの旅人は逃げるのが遅れてしまう。
立ち上がりかけていたフェリスの脳裏によぎったのは、自分自身の逃走経路ではなく、そんなどうしようもない事実だった。
彼女は足をあげずに、代わりに手を伸ばした。
「この羽音は駄目……危ない!」
フェリスは蛍にとびかかり、覆い被さった。
突然のことに蛍は目をつぶる。次の瞬間には、体が横殴りの衝撃を受けて、転がった。止まったあたりで、口に入った落ち葉を吐き出しながら細目を開ける。
……なにか違和感がある。覆いかぶさられたはずなのに、彼女の重みも温もりも感じられない。
完全に目を開ける。
視界には何の変哲もない枝葉の屋根があり、遠くに去っていく羽音が聞こえた。
「……どこにいったの?」
おろおろと、立ち上がりながらフェリスの姿を探す。けれど跡形もなくなっていた。
……いや、聞こえた。あの甲高い悲鳴が、空の彼方から。
結局、その場に残されていたのは、地面の上に落ちたモラだけ。彼女に渡すはずだった、黄金だけだ。
蛍はそれを拾いあげる。土を払って、静かに見つめる。
──悔恨を込めて、強く握りしめた。
「離せ! この……!」
フェリスは
魔物は一見、大男のようだった。ずんぐりと太い胴体に手長足長、黒光りする肌を持つ。
しかし体表には毛の一本もなく、ぬめった粘液で覆われている。輪郭はぶよぶよしているのに、感触はごつごつとしていて、まるで適当にこねた後で焼き固めた粘土のようだ。
無論、羽音の源となっている羽が背中にあり、ブーン、と残像しか見えないほど高速で振動している。
この虻人間の顔には、鼻や耳はおろか、眼すらなかった。ただひたすら、赤々とし、鋭い牙がびっしり伸びた、猟奇的な裂け目だけが大きく開いていた。
熱く湿った吐息が、フェリスのうなじに悪寒をもたらす。
フェリスは身をよじり、逃げようと足掻く。魔物の硬い腕を爪で引っ掻き、歯から血が滲むほど強く噛みつく。
けれど暴れるほど、虻人間は強く抱きしめてくる。太い指が肋骨の隙間をこじ開け、脇腹を潰していく。
(……痛い、苦しい……!)
死の恐怖にフェリスは体に力が入らなくなる。頭もぼんやりしてきた。
どれだけ叩いても緩む気配のない拘束に、とうとう抵抗を止める。
力が尽きたのではない。
希望が尽きたのだ。
(……誰かを簡単に信用して、出来もしないことに挑戦して……やっぱり、らしくないことなんて、するべきじゃなかったんだよ)
下を見れば高空。落ちれば下手すれば即死、運が良くても骨を折る。つまるところ、何かの間違いで虻人間の手が緩んでも、逃げられはしない。
フェリスは自分の、空っぽの手を眺め、弱々しく笑った。
あの取りこぼしたコインの感触が、指先に残っている気がして笑った。
(他でもない『私』に、支払われた『お金』……)
その指を、胸の上において抱きしめる。
(人生の最後だけは悪夢じゃないみたいで、よかった)
目を閉じた。人生という夢から覚めるために。
色褪せていく世界の中──
「──刻足、閃く雷のように!」
しかしフェリスは、鼓膜を圧するほどの轟音に叩き起こされた。
彼女の骨の髄を震わせたのは、紫電を束ねた遠雷の鳴り。
怒りに満ちた響きが、天を揺るがすのを感じる……
これには虻人間も振り返る。フェリスも目を見開いて、背後に身を乗り出す。
凄まじい勢いで樹々の間を跳ねまわりながら、迫り来る紫の光があった。
その光は突進で葉を破り捨て、手刀で枝を焼きとばし、地にある土石には触れることなく、踏み込みの跡を幹の洞に変えた。
圧倒的な速度で、空いた距離を潰していく。
「……もしかして、あれが旅人の姉ちゃんの本気……? うぐっ!」
虻人間が急加速したことで、フェリスはうめき声をもらした。迫りくる雷光は、魔物であっても危機感を覚えるに十分だったらしい。
計略か本能か、さらに針葉樹林の密度が増す方向へと逃れる。
「旅人……!」
フェリスはただ、蛍を一心に見つめた──
空は深緑一色に染まっている。雷元素の力を使ってもなお、硬い枝と葉が擦り傷をつけてくる。地上を疾駆する蛍には、ここにきて森のことが、自分に覆いかぶさってくる投網に思えた。
あるいは、幾重にも絡まった有刺鉄線か。
その向こう側を、悠々と魔物は飛んでいく。おそらく巣にフェリスを持ち帰って、喰らうのだろう。
……浅く吐息をもらし、奥歯を噛みしめた。
もういい。私に躊躇を捨てさせたこと、後悔させてやる。
蛍は身に殺意を漲らせる。
すみやかに覚悟を決め、木を岩石で浸食して足場を作り、地上を離れ、枝葉を突破する。
あっという間に、空へと踊り出た。
この、滞空していられる僅かな時間で、蛍は抜刀し、思い切り投擲の構えをとる。
大岩が震えるような重い音と共に、剣が岩元素の力を纏い、落ちる星ほどの光を放った。
「連れていかせるわけないでしょ」
狙いを定め、腕を引き絞る……だが蛍は、苦虫を潰したような顔になった。
魔物が、フェリスを盾にするように体勢を変えて飛び始めたのだ。
跳躍した体はもう落ち始めている。悩むだけの猶予はなかった。
「……そう、ならそれと交換だね……」
蛍は止めることなく、会心の力がこもった剣を投げつけた。
……柄が手から離れた時、自分に突き刺さるのか、と怯えるフェリスと目が合った。蛍は目を鋭くして、その結果を見逃すまいとした。
そして──流星は虫へと墜落する。
「ギイィ、ギャアアァァ──!!」
フェリスの左半身が血に濡れた。それは……悲鳴をあげる魔物の血で。
命中した剣は虻人間の左肩を
「切り飛ばせなかった、けれど……!」
片腕が使い物にならなくなった上に、凄まじい痛みに襲われ恐慌状態に陥った虻人間は、抱えていたフェリスを取り落とした。
蛍は風の翼を展開し、さらに風元素で背中を押し、落下するフェリスのもとへと急降下する。
──フェリスは知らなかった。たとえ壁や天井を走れても、手足をつけられる場所が無ければ、真の意味で身動きがとれなくなることを。
大気の底へ沈んでいく。地面から強風に吹かれているかのようで、視界の端では亜麻色の三つ編みが震えていた。
背中側にある死の壁は、いつ自分を潰すのか分からない。
フェリスは必死に手を伸ばした。
「旅人の姉ちゃん……!」
蛍もなりふり構わず飛びつく。
「手を……!」
二人の指先が触れる。お互いの瞳に、お互いの姿が映る。
ぱし、と。確かに二人の手が繋がれた。
(……いや、このままだと無事には済まない)
しかし既に、着地のために減速できるほど高さの余裕は残っていなかった。
それを察した蛍は、フェリスの身体を抱きとめ、自分を地面側に回した──
凄まじい経験をしている時、体感時間は引き伸ばされる。
その時間の中、蛍は自分の体が樹冠を突き破る音を聞いていた。その次には、しばしの静寂があり、最後は地面に追突する音で終わった。
……今回は違和感も無い。彼女の重みも温もりも、腕の中にある。
蛍は薄目をあけて語りかけた。
「怪我はない?」
腕をほどくと、覆いかぶさりながらフェリスが、どこか泣きそうな顔で見おろしてきた。
「……旅人の姉ちゃんのほうが痛そうなのに、なに言ってるの」
「色々やって身を守ったから、見た目ほど痛くはないよ」
安心させるように笑いながら、蛍は身を起こす。
「ち、ちょっと、立ち上がって大丈夫なの?」
「さて、どうかな……うーん、たぶん問題ない」
服をはたくついでに、体の調子を診る……痛みはあるが、どれも浅い打撲のようで、骨に傷は入ってなさそうだ。少し時間を置いて鈍痛が治まれば、元のように動けるだろう。
それが分かると、次は剣を探そうとする。魔物の肩を壊した後で落ちたため、近場にあるはずだ。
……かなり乱暴な扱いをしてしまった。曲がったり欠けたり、してないといいな……
キョロキョロしていると、フェリスが横から覗きこんできた。
「剣を探してるの? なら取ってきてあげるけど」
「えっ……うん」
当惑しつつ頷くと、フェリスはある一点を見てから、木を登り始めた。
それは「登る」と言うには鮮やかすぎた。幹にしがみついたり、枝を慎重に渡るといった緩慢な動作は一切なしに、するすると樹々の包囲網を駆け上がっていく。あたかも、彼女だけに見える透明の道があるかのようだった。
ひと走りして戻ってきた……と思えるほど軽々と登り降りしてきたフェリスは、どこの枝に引っかかっていたのか、蛍の剣を持っていた。
蛍は剣を渡されながら、嘆声をもらす。
「よく探し当てられるね。身のこなしも凄い」
「へへ……こういうのは得意なんだ。というか、探し物が上手ってのを聞いて、私を追いかけてきたんじゃないの?」
「うん、そうケビンから教えてもらって。実は探してほしいものがあるんだ」
「やっぱりそうだよね。いいよ、手を貸してあげる」
フェリスは深呼吸して、意を決した様子で口を開いた。
「それで、報酬を払ってもらいたいんだけど……」
蛍がモラを取り出そうとすると、それを制止した。彼女は笑顔でいたが、蛍には少しこわばって見えた。
「その、私と……友達になってくれない? そしたら教えてあげるからさ」
動かない蛍の口元を、フェリスは固唾を呑んで見つめる。
蛍は首を振り、お金を差し出した。
「あ、あはは……やっぱ駄目だよね……うん、お金でも大丈夫、さっきのは言ってみただけだからね!」
フェリスは、まるで先程の発言が軽いものだったかのように振舞う。
その様子を見守って、蛍は目を細めた。
「そうやってわざと飄々とするの、なんだかいじらしいね」
「へ? 旅人の姉ちゃん……?」
ずい、と距離を詰める。思わず一歩下がったフェリスの手を、両手で包み込んだ。
「友達になることは対価にならない」
間近で瞳を覗き込む。蛍の琥珀色の目、フェリスの浅葱色と露草色のオッドアイ、両者の瞳が鏡合わせになる。
その状態で、まっすぐに言い切る。
「取引なんてしなくても、私たちは仲良くなれるよ」
最後に、にこっと微笑んだ。
フェリスは声もなく、蛍の瞳に目を奪われていた。が、ふと我にかえって、もじもじと目を逸らした。
「……旅人の姉ちゃん、誰かれ構わずそんな風に口説いちゃ駄目だからね、本当に」
包み込まれていた手を開くと、そこには取りこぼしたはずのものが確かにあった。フェリスはそれを愛おしそう眺めた後、顔を上げた。
「じゃあ……これからよろしく、旅人の姉ちゃん! とっくに知ってるとは思うけど、私の名前はパルドフェリス。パルドでもフェリスでも、好きな方で呼んでね!」
「うん。よろしくね、フェリス」
フェリスは蛍に屈託のない笑顔を向けていた。
その隣に、黄金のコインを輝かせながら。