優しい龍   作:ハトスラ

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外伝1-3

 手近にいたコンガに二、三回斬りつけて飛び退く。

 直後、四つん這いになって突っ込んできた別のコンガを踏み台にして、アルは宙を舞った。

 

 眼下にいる数頭のコンガは無視だ。

 目標は、今尚馬車に群がっているコンガ共。

 

「どけぇ!!」

 

 吼えつつ、進路上にいる牙獣達を蹴散らしていく。

 馬車までの距離は、そうない。残りはおよそ5メートル、といったところか。

 あの中に人が残っているかはわからないが、とにかく急いだ方がいい。

 もしも残っているのなら、モンスターに囲まれたこの状況は、恐ろしいほかないだろうから。

 

 だが、馬車までの距離を残り3メートルまで縮めた時、逃げ遅れの有無を確認する必要はなくなった。横倒しになった馬車から、小さな影が飛び出すのが見えたのだ。

 

(冗談じゃねえぞ!?)

 

 剣を振るいながら、眼を見開く。

 

 影は少年だった。年の頃は5、6歳といったところだろう。

 その小さな体で、群がるコンガ共に立ち向かおうというのか。少年の手には、肉厚の包丁が握られている。

 

 だが、そんな物でモンスターが傷付くハズがない。仮に傷付いたとしても、致命傷にはなるまい。

 加えて体格差だ。少年は10歳にも満たないであろう子供。対するコンガは、分類的には小型モンスターだが、立ち上がればアルよりも背が高い。

 

 恐怖は当然あるのだろう。少年の手は震えていた。

 それでも、視線は真っ直ぐに。

 自分の倍以上の大きさを持つ牙獣へ、その刃を突き立てる。

 

「ブモォォ!?」

 

 刺されたのは、アルに視線を向けていた一頭。

 予期せぬ方向からの攻撃に、コンガが悲鳴を上げる。

 

 それでも、致命の一撃にはなり得ない。

 少年は追撃をかける訳でもなく、その場でただ立ち尽くしていた。

 見ると、包丁は半ばから刀身が欠けてしまっている。

 いや、仮に刀身が無事だったとしても、恐怖の中で彼が動けるかはわからなかった。

 

 刺されたコンガが、少年へと振り返る。

 それに呼応するように、他の牙獣の意識までもが少年に殺到する。

 少年の目には涙が浮かんでいた。

 

 牙獣の、その太い腕が振り上げられる。振り下ろされた長くとがった爪が、少年のやわらかい皮膚を────、

 

「っせるかぁ!!」

 

 間一髪。牙獣の爪と、少年との間に片手剣を滑りこませる。

 そのまま刃を引き寄せるようにして、アルはとがった爪を牙獣の腕ごと両断した。

 

「クソガキ! 冗談じゃ………、ねえぞっ!!」

 

 盾を構える手で少年を抱き寄せ、コンガを瞬殺。

 だが、馬車の周りは未だコンガの群れに囲まれている。状況は予断を許さない。

 

「っ、放せよ! 邪魔すんな!」

「ああ!? ふざけんなクソガキ! 大人しく馬車の中で縮こまってろ!」

 

 腕の中の少年に怒鳴り付ける。

 今は戦闘中。故に『優しく諭す』なんて余裕はない。

 

「嫌だ、母ちゃん守るんだ! だから放せよ!!」

「母ちゃん守るだあ? そのてめえが死んだら意味ねえだろが、いいから大人しく……、」

 

 目の前のコンガを斬り伏せる。

 死体の影から飛び出た別のコンガをかわして、上空に目を向けた。

 視線の先には、跳躍したコンガ。

 

 まずい。落下点だ。

 

 かわすことは容易い。腕の中の少年を度外視すればの話だが。

 

「ちっ」

 

 舌打ちして、盾を構える。

 片手剣の貧弱な盾と、自分の細腕でどこまで衝撃を殺せるか。

 

 ある程度の負傷を覚悟して、アルは歯を食い縛った。

 

 瞬間。割って入る紅い影。

 直後、爆炎とともにコンガが絶命する。

 

「楓!」

「気持ちはわかるが先行しすぎだ」

「……悪い」

 

 静かにたしなめられて、高ぶっていた気持ちが少し落ち着く。

 

「そいつの他に人は?」

「馬車の中に母ちゃんがいる!」

 

 楓の質問には、少年が答えた。

 言われて二人で馬車の中を伺うと、確かに誰かいるのが見える。

 

「あまり怖がらせてもいけない」

「そうだな」

「一気に蹴散らすぞ」

「ああ!」

 

 右手に剣を。

 左手には守るべき命を。

 

 負けない。

 負けられない。

 

 その意志を以て、刃を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 牙獣達はその数を半分まで減らしたあたりで、散々になって逃げていった。

 ちなみに、馬車から飛び出してモンスターに挑む、なんて無茶を敢行した少年には、彼の母親とアルが二人がかりで説教を行った。

 現在は、横倒しになった馬車からの荷物の搬入中である。

 

「さあ、お前の積み荷を数えろ」

「言われなくても数えとるわ」

 

 前者がアルで、後者が少年のものだ。

 

 馬車が横倒しになる。ということは、馬車に積まれていた荷物も横倒しになるということで。加えて言えば荷物は面白いくらいに散乱してしまっていた。

 それを四人がかりで片付けて、楓達が乗ってきた竜車に積み替えたのだ。一応、搬入洩れがないか確認してもらわなければならない。

 

「しかし災難だったな」

「ええ、本当に。お馬さんも逃げていってしまったし、困ってしまうわぁ」

 

 等と、全然困っている風にみえない調子で答えたのが、少年の母親だ。

 

 なんでも、近くの村からエルモアまで荷物を運ぶ途中だったらしい。

 恐らくは積み荷が食料品だったせいで、コンガに襲われてしまったのだろう。馬車を牽いていた馬は、その時に逃げていってしまったらしい。

 馬が逃げては馬車が引けないので、荷台はここに棄てて、荷物だけを竜車で運ぼうという結論が出た訳だ。

 

「本当、ありがとうねぇ。貴女達のおかげで、おばさんもうちの子も無事だったわぁ」

「あれを見過ごせる程、人間を捨てていなかっただけだ。それに、こういうことは持ちつ持たれつだからな。あまり気にしないでくれ」

 

 楓がそう返すと、母親はふんわりとした笑顔で「ありがとう」と感謝を重ねた。

 のんびり過ぎる印象はあるが、悪い人物ではなさそうだ。と、脳内で適当に評価を下す。

 

 視線を移した先では、少年とアルが戯れていた。

 外見から察するに、アルと少年の間には相当な年齢差があるハズなのだが、何だかんだで打ち解けているあたり、アルの精神年齢も低いのかもしれない。

 

 と、そう言えば、竜車の中であったあの居心地の悪さは既にない。

 コンガとの一件でうやむやになったか。楓にとってはそちらの方が都合が良かったが。

 

「アル」

 

 呼ばれた彼が振り返る。

 そこからは竜車の中で見せたような反応は見受けられない。

 

 楓は安心して微笑むと、続けた。

 

「さっきの闘い、良く動けていた。私の援護は必要なかったな」

「いや、そんなことねえよ。やっぱ楓がいてくれる、って思うと心強いし」

「そうか? そう言ってもらえるならば、私もそれなりのものだな」

 

 少しおどけたように言うと、アルもつられたように笑顔を向けてくる。

 もう完全に昨日のことは忘れてくれたようだ。

 

「それなりっていうか、楓はすげえんだよ。……なんて言うか────、」

「美人だしな!」

 

 言いかけたアルにかぶせるようにして、少年が口を出す。

 

「そうそう美人だし、スタイルだって────、」

 

 その流れで続けたアルの言葉が不意に止まった。

 何かに気付いたように、しばし思考して────、

 

「あ」

 

 鼻血が出た。

 

 そのまま前のめりに倒れてくるアルを受け止めると、楓は天を仰ぐように溜息を吐いた。

 

「ちょっ、お前どうしたんだよ!?」

 

 少年が叫ぶが、既にアルには聞こえていないだろう。

 アルは何か顔を赤くして、鼻血を流しながら気を失ってしまっている。

 

「………いい加減忘れてくれ」

 

 結論。

 年頃の少年にあの映像は少々刺激が強すぎたらしい。

 ぎこちなさが抜けるまで、もう少しかかりそうです。




[キャラ紹介]
名前:アルバート=L=メモリ

性別:男性
年齢:17歳
身長:155cm

武器:アサシンカリンガ
防具:ギアノスシリーズ

※データは一章開始時点。

主役。愛称は『アル』。
黒い髪を襟足だけ長く伸ばした、駆け出しの片手剣使い。
狩りの基本を学んでからエルモアの街にきた。

駆け出し故か、片手剣士故か、他の武器の造形に明るくない。
とはいえ、ランスとガンランスを間違えてしまうのは、もはや困ったちゃんでは済ませられない。

採集クエストを中心に、実力に見合った討伐クエストを受けていた慎重派。
それ故、大型モンスター狩猟の経験は少ない。
因みにギアノスシリーズ一式を揃える為には『ドスギアノス』を狩る必要があるのだが、彼の師匠が瞬殺したせいで、アルはこの獲物と戦えていない。

身長が低いことと、細身なことがハンターになってからの悩み。
好物は『米』。
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