優しい龍   作:ハトスラ

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──次章予告


 それは一つの出会いでした。


 手に入れたのは魔砲のチカラ。
 やって来たのは優しい眼をした男の子。


「どうしてあなたは上手に卵を運べるの?」
「話しても意味はない。君はきっと、卵を割ってしまうから」


 伝えたい言葉と、すれ違う想い。


「お話を聞かせて」


 それでも、出会いは偶然ではなく運命だと思うから。


「狩友になりたいんだ」



 魔砲少女リリカルかえでHunter's 始まりません。



外伝2 《紅と卵と腕っぷしと》

「なあシエル」

「はい。何ですか?」

 

 カウンターの向こうからかけられた声に、私は資料を整理する手を止めました。

 声をかけてきたのは黒い髪を襟足だけ伸ばした、少年と青年の中間のような人物。名前をアルバート。私は『アルさん』と呼ばせてもらっています。

 

 アルさんは、いつものようにカウンター席で『ジャリライス炒め』をかきこみながら、クエストリストに目を通していました。

 こちらに声をかけてきた、ということは、次に受けるお仕事を決めたのでしょうか?

 

 けれど、次に彼の口から飛び出してきた言葉は、仕事とは全然関係のないものでした。

 

「これ、ジャリライスじゃねえだろ?」

「はい?」

「いや、ジャリライスって言うには軟らかすぎる。水分も多めだし、粘着力もそれなりだ。……雪山米か?」

「…………」

 

 私は思わず息を呑んだ。まさか気付かれるとは思わなかったのだ。

 

 ここ、ハンターズギルドでは厳正な審査の下、利用するハンターさん達に評価を下しています。

 ハンターランクと呼ばれるもので、そのランクによって受けられる仕事の種類が変わるのだけど、それはその他も同様なのです。例えばそれは、ハンターズギルドから貸与される宿舎であったり、この酒場で提供される料理であったり。ハンターランクの低い者は、高ランクの物に手が出せない仕組みになっています。

 

 これはハンターの向上心を煽る措置らしいのだけれど、今回のこれ。『ジャリライス』と『雪山米』の問題はそれにあたるのです。

 だって『ジャリライス』は、ハンターさん達がこの酒場で注文できる最下位の食材だから。それがワンランク上の食材である『雪山米』に。

 普通なら『ランクが上がった』って喜ぶところなんでしょうけど、アルさんはそうでもないみたいです。

 

「俺のハンターランクって、前と変わってないよな?」

「……はい」

 

 つまりはそういうこと。

 日頃頑張っている彼へ、私からの内緒のサービスだった訳です。

 お米の味なんて、あまり変わらないだろうから気付かれないと思っていたんだけどな。

 

 それを言うと、アルさんは笑って「ああ、そっか。あんがと」と再びご飯を口に含んだ。

 

「けどシエル」

「何ですか?」

「やっぱ炒め物ならジャリライスだぜ。雪山米は炒飯にするには水気が多すぎる。ジャリライスは普通に食う分には固くってひどいけど、半面炒めるとパラパラに為りやすいし」

「えー……と」

 

 何ですか、これは。米に対する執念? 米ソムリエ?

 私なんかだと、お米の味なんて全部大差ないように思えるんですけど。

 

「ああ、それと。この仕事受けるわ」

「……はい。失礼しますね」

 

 話しながらも、やっぱりクエストリストには目を通していたようです。

 差し出された書状を確認して、アルさんから契約金を受け取────、

 

「あ、ごめんなさい。この仕事はついさっき別の人が」

「あ、そうなん? 結構いい条件だから、やりたかったんだけどなー」

 

 そうは言うものの、その声色に残念そうなものはない。きっと、受けられればラッキー、くらいに思っていたのでしょう。

 

「ごめんなさい。こちらの不手際で」

「いいって、気にすんな。忙しそうなのもわかってる」

 

 優しいな。

 そう思いながら、私はクエストリストに『契約中』と注意書きを走らせる。

 

「どうしてもこの仕事がいいなら、一週間もすれば同じような依頼がくると思いますよ?」

「んあ? 何でそんなことわかんだよ?」

 

 そこはほら、受付嬢の勘とか。周期的な問題とか。

 けれど、この場合はもっと単純な理由があったり。

 

 私は意識して笑顔を向けると、口を開きました。

 

「だって、多分このお仕事は失敗するでしょうから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的の物を前にして立ち尽くす。

 

 ここは森丘。その中でも、飛竜の巣と呼ばれる場所である。

 その名の通り、ここは飛竜たちの休息場所で、弱った飛竜はここで体力の回復を図るのだ。そのため討伐クエストでは、多くの場合この場所で飛竜との決着を着けることになる。

 だが、今回に限ってはそんなことは関係なかった。

 

「たった3つか……」

 

 呟いた声に、若干の緊張が走っていることに気付いて苦笑する。

 私も随分弱気になったものだ。3つもあれば十分だろうに。

 

「さて、では運ぶとしよう」

 

 今回受けた依頼は『討伐』ではなく『納品』だった。

 目的の物は、目の前に転がっている飛竜の卵。これをベースキャンプにある納品箱に納品することが、今回の依頼を達成する条件となる。

 

 その卵を、慎重に慎重を重ねて持ち上げる。

 そうして卵を抱えられる位置まで持ち上げた時、私の口からは思わず溜め息が漏れた。

 なんというか、私は壊滅的にこの手の依頼と相性が悪い。こうやって卵を持ち上げるだけですら、あり得ないくらいに神経を使うのだ。

 

 だったら何故受けたし。とかツッコミが入りそうではあるが、そこはほら。私もいつまでもこのままではいけない、と思ってはいたんだ。

 

 

『楓ぐらい凄いハンターなら、ちょっとコツ掴めば簡単だと思うぜ?』

 

 

 そこにきて、先日共に狩りに赴いたハンターからの言である。

 狩りの帰り道で、その言葉とともに『運搬のコツ』も聞いていた。

 

 つまりは、『今こそ呪われた過去を……、振り切るぜ!!』という話なのだ。

 

 

 よし。と気合いを入れ直して、卵を抱えたまま一歩を踏み出す。

 

 

 ────ザッ!

 ────メキャ……

 

 

 割れた。

 落としてもいないのに、何故か。

 

「ばっ、馬鹿な!?」

 

 柄にもなく、大声をあげて狼狽える。

 もう最初からひびが入っていたんじゃあるまいか。いくら卵運びと相性が悪いといっても、これはない。有り得ない。

 落としてもなければ、ぶつけてもない以上、私にはなんの非もないハズだ。

 

 ……。

 …………、。

 ………………ハズだ。

 

「………………」

 

 ……ダメだ。

 割れた卵を見ていたら、何故だか段々自信がなくなってきた。

 

 残る卵は後2つ。

 自信がなくてもなんでも、依頼を達成するにはこの内の一つを納品する必要がある。

 とにかく気を取り直して、再び運ぶしかない。

 

「……待て」

 

 その2つ目に手をかけた時、ハタ、と思い出す。

 

 

『あれは意外と脆いかんな。重量武器を使う連中は、力の入れすぎで抱き割っちまうかも』

 

 

 いくらなんでもそれはないだろう、なんて笑い飛ばした彼の言葉。

 それを思い出して、急に真実味が増した。

 

 これは。

 もしかしなくても。

 やっぱり。

 

「く、クソッ! いったいどうすれば!?」

 

 この二本の腕が卵を抱き割ってしまうなら、そもそも卵の運搬は不可能だ。人の腕力なぞ、そう簡単には変わらない。

 

 いや、だが待て。

 そう言えば、彼はその後にも何か言っていなかっただろうか?

 

 

『対策としちゃあ、“持ち上げよう”って思うんじゃなく、“重さを支える”ってイメージを持つことかな? それで無駄な力を抜けると思うけど』

 

 

 嗚呼! お前という奴は本当に出来た男だ!

 笑い話程度にしか認識されていない例にまで、対策を講じてくれるとは!

 

「……では」

 

 恐る恐る卵を持ち上げて、“支える”。

 

「………………」

 

 割れ、ない。

 というかこの卵、この程度の力で持ち上げることができたのか。

 今までどれだけ無駄な力を使っていたのかが良くわかる。

 

 これならば……、いける!

 

 

 ────ダンッ

 ────ドスン

 ────メキャ

 

 

「…………」

 

 割れた。

 原因は段差を飛び降りた際に、衝撃を殺しきれず、卵を手放してしまったことだと思われる。

 

 

『卵抱えて段差を降りるときは、膝をやわらかくして、屈伸で衝撃を殺すんだ。後、飛び降りる時に勢いをつけると、衝撃が大きくなるから注意だな』

 

 

 ────なんて、そんなアドバイスを今さら思い出す自分に腹が立つ。

 

 ちなみに、この段差は卵が安置されていた場所な訳で。つまりは歩いて三歩で2つ目を割りました。

 

「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ……!!」

 

 悔しさと情けなさのあまり絶叫する。

 飛竜の巣の中で地べたを叩きながら叫ぶ様子は、誰にも見せられないくらいに情けない。

 こんな所で大絶叫してると飛竜がやってきそうだ、と思われるかも知れないが、大丈夫。キャンプ出る時に襲われたから、その場でぬっころした。

 

 さて、残る卵はたったの1つ。何度見返してみても、1つしか残っていない。

 

「くっ、私にどうしろと……!」

 

 私に卵運びなど、やはり無理があったのだろうか?

 少しでもやれることを増やしたい、そう願うのは許されないことなのだろうか?

 

 

『卵運ぶ時は、焦らず、心に余裕を持って。大丈夫、楓なら楽勝だって!』

 

 

 諦めようかと思った時、不思議と思い出したのは、そんな言葉。

 私なら卵の運搬くらい簡単にやってのけると、そう信じて疑わない彼を思い出す。

 

「……そうだな」

 

 たった1つ? バカな、何を絶望していた。1つでも卵が残っているのなら、充分に依頼の達成は可能だろうに。

 そうだ。アイツは『たったの1つ』たりとも割りはしなかった。

 ならば私もそうすればいい。彼から聞いた総てと、私の持ちうる総ての力をかけて。

 

 なにより────、

 

「信頼には、応えなければな」

 

 こんな私を信じて助言をくれた彼に、心から応えたかった。

 





苦手な一人称の練習。
外伝は緩く、そして実験的な部分が多いかもしれません。
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