《優しい龍》
むかしむかし
ニンゲンがうまれるより、ずっとずっとむかし
あるところに、一頭の白い龍がいました
龍は、神さまがつくった世界で、ひとりぼっちでした
だから、ずっとさみしい思いをしながら、まっていました
空は、いつもくもり空
ゴロゴロゴロゴロ、かみなりばかり
ふってくるのは、雨は雨でも、いしの雨なんてありさまです
海だっていつも大荒れで
すこしでも近づいたら、波にさらわれてしまいそう
海からはなれた、お山では、ぐらぐらぐらぐら、地ひびきばかり
まるで地面が怒っているようです
そこらじゅうから噴き出す溶岩は、ぐつぐつぐつぐつ煮えています
空も海も山も地面も、そんなふうにいつも怖いかお
まるで白い龍に、こっちにくるな、と文句を言っているかのようです
ひとりぼっちの世界で、世界のどの場所からも追い出されて、それでも龍はまちつづけました
この世界に、自分いがいの誰かがうまれるのを、まちつづけました
さみしくて、だけどひとりきりで、涙もながさずに
ずっとずっとずっと、まっていました
ニンゲンとケモノたちがうまれるのを、まっていました
自分いがいの生き物をまちつづけて、たくさんの時間がたったころ
気がつけば、空はくもってはいませんでした
とおいところに光が見える青い色
海もずいぶんおだやかで、お空の色をうつしだしています
ずっとゆれていた地面もいまは静かになって、
そこらじゅうを覆っていた溶岩は、もうどこにもありませんでした
ながいながい時間をかけて、世界はやっと龍を受け入れてくれたのです
それだけではありませんでした
世界にはニンゲンとケモノがたくさんたくさんうまれたのです
白い龍はもう、世界にひとりだけではありませんでした
だけど龍のさびしさは消えません
ニンゲンも、ケモノも
だれもかれもが、龍と同じカタチをしていなかったのです
かれらはみんな、自分と同じカタチのものと一緒にくらしていました
ニンゲンはニンゲンと
海を泳ぐケモノは海を泳ぐケモノと
空を飛ぶケモノは空を飛ぶケモノと
森を走るケモノは森を走るケモノと
同じカタチをしたもの同士であつまって、違うものを怖がっています
『わたしはみんなと違うから、きっとみんなをおどろかせてしまう』
そうおもった白い龍は、みんなを怖がらせないように、みんなをおどろかせないように、誰にも見つからない場所へ隠れました
あんなにさびしい思いをして、あんなにたくさんの時間まちつづけたのに、
白い龍は、みんなのために、みんなが生まれてからずっと、ひとりで隠れてくらしました