意外なことに、レオルドはベースキャンプから程近い場所に突っ立っていた。
アルとジェイは、辺りを見渡しながらレオルドに近付いていく。
「ホイホイ、追い付きましたよっと! 旦那、遅くなったな。暇だったっしょ?」
「いや、狩り場での感覚を思い出していた。さほど暇ではない」
「おうおう、さっすが! そんじゃ体は温まってるな?」
「無論だ」
「うし! なら早速、クックを探すとしますか」
ジェイのセリフに、レオルドは頷きを一つ返すと、ゆっくりとこちらへ振り返った。
「……」
「?」
睨まれてる、という訳ではないのだが、何かやらかしただろうか?
いや、確かに船酔いでしばらく動けなかったりもしたのだが。
「そんな気にしなくても、アルも準備は出来てる」
「そうか」
「いや、口で確認しろよ」
眼で訴えられてもわかりません。
ジェイと違って、こっちはレオルドと組むのは初めてなのだから。
こちらのツッコミを華麗にスルーしてくれたレオルドは、そのまま無言で先に行ってしまう。
その後に置いていかれないようについて、最後尾には肩をすくめたジェイが続いた。
程無くして、レオルドが立ち止まる。目前には、変わらぬ木々。
当然だ。それが密林と呼ばれる所以なのだから。
しかし、その
「おーおー。またガンクビ揃えちゃってまあ」
「ランポスか。ホンッと、どこにでもいるよな」
顔馴染みといっても差し支えない程に、狩り場ではよく顔を遭わせるモンスターである。
自然、ハンターたちの反応は薄くなる。
「どうする? かわしてクックを探すか?」
「いや」
余計な消耗は避けるべきか、と提案したアルに、レオルドは短く返して、一歩前に出た。
「まあ、クックと殺りあってる最中に邪魔されんのもアレだしな」
「片付けるのか」
軽銃を構えながらジェイが応え、それに続いてアルも片手剣を引き抜いた。
ランポスたちが吠える。ようやくこちらに気付いたらしい。
数は五頭。三人がかりなら問題なく圧倒できるだろうが、奴らは仲間を呼ぶ。
その前に片付けられるか。
そう思い、踏み込みかけた時、アルの行く手を阻むようにレオルドの手が伸びた。
「下がれ」
「……っ!?」
前につんのめりそうになりながらも、何とかその場に踏みとどまる。
「おい、何を────、」
「俺がやる」
問いかけには短い答えで返された。
だが、それだけで彼の意図は理解出来る。
「無駄弾撃たなくていいなら、それに越したこたぁないけどな」
言って、ジェイはボウガンを肩に担ぎ直した。
彼はレオルドの意思を尊重するつもりのようだ。
それも当然か。今回はレオルドのリハビリがメインなのだから。
「わかった、任せる。けど、数が増えたら────」
「……わかった」
アルの言葉に、やはり短く返して、レオルドがランポスに向かって疾走を開始する。
こうして、怪物による蹂躙が始まった。
一つ所に固まっていたランポス達が散開する。
狙うのは彼らに向かって一直線に疾走するレオルドだろう。
その様を、離れた場所で見つめながら、アルは呟いた。
「鉄刀、か」
レオルドの背にある太刀。
反りが浅く、長大な刃を鉄で鍛えたそれは、おそらくは鉄刀と呼ばれるものだ。
太刀はその長大さによる威力と射程がうりだが、木々が密集しているこのような場所で振るえるのだろうか。
アルがそこまで思い至った時、不意に隣にいたジェイが口を開いた。
「違うな。アレは鉄刀なんてもんじゃねえ」
「え?」
「アレはな、……もっと良いもんよ」
思わずジェイに視線を向けた瞬間、
バチッ! と、何かが弾けるような音が辺りに響いた。
「!?」
あわてて視線をレオルドに戻す。
太刀を振り切った彼と、その眼前に両断されたランポスが映った。
次の瞬間、レオルドは太刀の切っ先を僅かにもたげ、何の冗談か
風切り音とともに振るわれた刃は、レオルドを囲むようにして接近していたランポスに、容赦なく襲いかかった。
断末魔とともに聞こえる、風切り音とは違う音。
さらに血飛沫とともに咲く、蒼白い華。
────属性武器
「斬破刀……」
蒼白い光りと炸裂音が『雷属性』ならば、アルの知りうる限り、そんな太刀は一種類だけ。
剣士にとっては有名なその武器は、その有名さとは裏腹に、入手が困難だという話を聞く。
「終わるぞ」
一瞬、武器の造形に気をとられかけたアルの意識を、その一言が呼び戻す。
気付けば、たったの二振り。
それだけで五頭のランポスの内、四頭は物言わぬ肉塊へと姿を変えていた。
残る一頭が雄叫びをあげながらレオルドへと向かう。
それは仲間を殺られた復讐心からか、はたまたただ恐慌しただけだったのか。
その判断はアルにはつかなかったが、少なくともこの攻撃が通らないだろうことはわかった。
ランポスの前足────その先端の鋭く尖った爪が、レオルドを強襲する。
それはつまり、ランポスにとって攻撃に適した間合いに入ったということ。
しかし、レオルドにとっては『必殺の間合い』に入ったということと同義であった。
「────っ!!」
交錯するその瞬間、レオルドがとった行動は至極単純だった。
直上から、直下へ。
風を巻き込みながら、刃を振り下ろす。
ただしその威力は、ランポスを破壊するだけに留まらない。
大地を砕く程の踏み込みの強さ。
太刀を片腕で扱える豪腕。
鋭利な切れ味と、白熱する雷を纏う刃。
それら総ての力が、レオルドという一つの『武器』を通して振るわれる。
片腕ですら圧倒的な速度を誇った一刀は、両の腕と充分な踏み込みの力を得て、もはや視認など出来はしなかった。
不可視の一撃。
その領域にまで達した太刀筋は“風を切る”等と言う生易しいものではない。
『振り抜いた』と認識した瞬間、遅れてやってきたのは“轟音”と“暴風”。
そう、神速と豪腕が繰り出した剛剣が生み出したのは、まさに嵐と言っても間違いではない剣圧。
離れた場所にいたアルですら分かる程のそれを受けて、ランポスの周りを舞っていたランゴスタが“巻き込まれて四散”した。
両断は当然。
纏う紫電は大気を焼く。
斬殺などでは言い尽くせない。
しかし、斬殺と言うしかない、圧倒的で一方的に斬殺された死骸。
終わってみれば一瞬の出来事。
ランポス達は、その最後の一頭も、先の四頭と同じく物言わぬ肉塊と化した。
勝利したのは強者。
数がいようが、なんだろうが関係がない。
弱ければ死ぬ、弱肉強食の世界。
これはただ、それだけの話だった。