優しい龍   作:ハトスラ

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飛躍 ~そして終幕~

 襲い掛かる熱波。

 鎧をかすめるクチバシ。

 唸りをあげる鞭尾。

 

 それらが迫る度に、アルの心と身体は緊張し、硬直してしまいそうになる。

 それでも、アルは止まらない。

 

 どんなに恐ろしくても、どれほど自分との力の差があろうとも。

 “選択することを止めはしない!”

 

 

『逃げる選択が出来たなら、きっと────』

 

 

 恐怖の中、思い出すのは彼女の言葉。

 

「せぇぇぇぇい!!」

 

 恐るべき怪鳥の攻撃を前に、『避ける』のか『受ける』のかを()()する。

 『受ける』ならどう受け流すか。

 『避ける』なら、右か左か。避けた後、どう動くのか。

 

 緊張の連続だ。

 

 一瞬の判断の遅れが致命となりうる戦場で、しかも選択ミスは赦されない。

 

(……だけどよ)

 

 そう。だけど無様を晒す気はなかった。

 選択ミスを恐れて何も選ばなければ、それは結局『死』だ。

 そして恐怖に思考を止めてしまうこともまた、何も選ばないことと同義である。

 

 だから『選ぶ』。

 どんな選択肢でもいい。自分がこれだと思ったものを選び続ける。

 

 あんな風に、敵の前で呆然とするなんて、二度と御免だった。

 それに何より────、

 

 

『────きっと、挑む選択も出来るようになる』

 

 

 無様を晒し続けたアルを、優しく諭してくれた彼女に応えたかった。

 アンタが信じたバカは、バカのまま。それでも信じてくれた通り、挑む選択を出来るようになったよ、と。

 

「クアァァァァアア!!」

 

 吠える怪鳥をやり過ごし、アルは砂浜を蹴った。

 見た目に違わず身軽なアルの身体が、宙に舞う。

 攻撃をかわされた怪鳥が振り返るのと同時、アルの身体が翻り、怪鳥の顔を蹴った。

 

「うおおぉぉぉ!!」

 

 剣を空中で逆手に持ち変え、落下の勢いのまま、怪鳥の脳天に刃を突き立てる。

 

「ギャオオォォォッ!?」

 

 痛みにのたうつ怪鳥の顔を蹴り、深々と刺した剣を無理矢理引き抜く。

 怪鳥の頭部からは、まるで噴水のように赤黒い血が噴き出した。

 

 返り血を拭うこともせずに、アルは再び怪鳥に挑みにかかる。

 

 恐怖はある。

 でも、闘える。

 

 その実感が、アルの気持ちを高揚させていた。

 

「越える……」

 

 それを誓ったから。

 大怪鳥を越えて、次の狩りに進んでみせる。

 

「お前を……、越えてやる!!」

 

 その意志が、普段よりも僅かに踏み込みを強くする。

 強く強く踏み出した足から、背筋を通じて肩に。

 肩から肘、肘から腕に伝達された攻撃力を、容赦なく怪鳥の脚に叩き込んだ。

 

「クワアアァァァァァッ!?」

 

 波打ち際に怪鳥の巨体が横たわる。

 重点的に攻撃を与えた成果が出たのだろう。

 怪鳥の脚は既に傷だらけで、もはや身体を支えることすら不可能に見えた。

 

「もう……、一息っ」

 

 体力と精神力を磨り減らしながら、アルはそれでも攻勢を崩そうとはしない。

 だが動き続けて乳酸の溜まった足は、アルの思いとは裏腹に前に進んではくれなかった。

 

「ガキ! トドメはこっちで着ける!」

「退がって見ていろ」

 

 ふらつきながら走り出そうとするアルを、二人の声が制した。

 直後、怪鳥の背を無数の爆発が覆う。

 

「か、拡散弾!?」

 

 思わず驚きの声が漏れた。

 着弾とともに拡散し、爆散する弾丸は、ボロボロになった甲殻を容赦なく吹き飛ばし、怪鳥の皮膚を晒した。

 

 間髪入れずにレオルドが爆炎に突っ込んだ。

 一見、無謀な突撃にしか見えないそれは、しかし計算された行動だったのだろう。

 舞い上がる炎の中、煌めく刃がレオルドの存命を示している。

 

「………………っ!!」

 

 短く息を吐きながら振るわれる刃。

 

 上段から下段。

 下段から中段。

 中段から突き。

 突きから上段に跳ね上げる。

 

 流れるような連続攻撃に、怪鳥の血潮が溢れる。

 それは太刀を赤く染め、その軌道をも血の色に変えた。

 

 否。軌跡を描く赤色は、血の色ではなかった。

 闘気。噴き出すそれを刃に乗せて放つ絶技。

 『気刃斬り』と呼ばれる、太刀使いの奥義である。

 

「おおおおおおおおおおっ!!」

 

 低く、唸るような声は、太刀が風を巻き込む轟音と重なって、浜辺へと響きわたる。

 

 返り血と、轟音と、爆炎と、紫電と、地を震わせるような雄叫び。

 

 まるで魔神だ。と、半ば呆然とした思考でアルは思う。

 

 右から左。左から右。

 赤い軌跡は、頭上で一度円を描いて、怪鳥に襲いかかる。

 

「沈めっ………!!」

 

 円運動によってさらなる加速を得た刃は、二度、怪鳥を斬りつけてから、再び頭上に戻る。

 直上から直下。

 瞬きすら赦されない刹那の後、赤い軌跡は一閃を描いた。

 

 響くのは轟音。

 そして言葉通りに大地へと叩きつけられる怪鳥。

 

 嵐の如き乱撃。

 その終焉は、単純にも見える一閃だった。

 

 一閃の終着点────すなわち怪鳥の頭部を中心に、白い砂浜に葉脈状の亀裂がはしる。

 波打ち際での攻防────否、攻撃の跡を波が、海が埋めてゆく。

 

 浜辺に倒れ伏したまま、怪鳥は鳴き声一つ上げず動かない。

 頭部からおびただしい量の血を流しても、砂浜に頭部を半ば埋めてしまっても。その上から海水が侵そうとも。

 

 怪鳥は動かない。

 怪鳥はもう、動けない。

 

「終わったな」

「……………」

 

 ジェイに後ろから声をかけられても、アルはすぐには実感が湧かなかった。

 

 いや、実感はあったが、喜びという感覚が薄い。

 むしろ、怪鳥に対する哀れみがあった。

 

(……ごめんな)

 

 そうだ、この狩りでは別に怪鳥を狩る必要はなかった。

 アルの中の哀れみは、恐らくはそれに起因する。

 そして、もう一つ。

 

(けど、お前との闘いは活かすから……、お前を越えて先に進むよ)

 

 それだけの為に、踏み台にする為だけに闘った自覚がそうさせるのだ。

 

「さ、とっとと剥ぎ取るぞ」

「……ああ」

 

 その憐憫を隠して、アルは立ち上がる。

 

 お前との闘いを活かすと、お前の素材を活かすと誓って。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 船は進む。風に任せてゆらゆらと。

 ギルドからハンターに貸し出されている小さな船に揺られながら、アルは『密林』を見詰めていた。

 

「よぉ、初めて飛竜を狩った気分はどうだ?」

「……」

 

 背中にかかる声に無言で振り向くと、甲板で調合をしていたジェイと目が合った。

 手元にあるのは火薬類ではなさそうなので、弾丸の調合ではないのだろう。先ほどの狩りで、彼が弾丸以外の道具を使った様子はなかったのだが。

 

「これか? おめーが卵運んでる時に採集したんだ。せっかくだから時間ある時に調合しちまおうと思ってよ」

 

 解毒草と、細かく刻んだ何かを混ぜ合わせて、瓶詰めしていく。恐らくは解毒薬であろう。

 毒を武器として扱うモンスターと出会ったことのないアルには、馴染みの薄い道具である。

 

「ま、卵運びに関しちゃ、流石の手際だったよな」

 

 と、手元の道具類を片付けながら、ジェイが笑う。

 

 彼の言う通り、卵運びはあっけなく終わった。

 運搬に関しては、アルが卵を落とすハズがないし、周囲の警戒という側面でも、レオルドとジェイが危険を見逃すハズがないのだ。

 一番警戒しなければならないイャンクックを狩ってしまっていたのも大きい。

 

 そういう訳で、この依頼は無事終了。

 現在はエルモアの街に帰る船の上だ。

 

「よっ、と。……んじゃ、ん」

「……?」

 

 立ち上がってアルの側まで近付くと、ジェイが右手を差し出してきた。

 彼の行動の意図がいまいち理解できずに、アルは疑問符を浮かべる。そんなアルを見て、ジェイは薄く笑った。

 

「旦那がお前を気に入ったらしくってな。俺はこれっきりのつもりだったが……、まあこれからも組まねえか、って話だ」

「……」

 

 その気があるなら手を握れ、ということか。

 アルは少しばかり迷った。

 

 今まで、アルには明確な目標は無かった。

 その日の糧を得て、生活し、その働きで誰かが喜んでくれればいい。その程度の意識だった。

 

 今でもその根本は変わらない。

 必用以上の狩りはあまりしたくないし、誰かが喜んでくれれば嬉しいと思っている。

 

 ただ、そこに一つばかり個人的な目標という物が加わったのだ。

 

 

『あの紅い背中に追い付く』

 

 

 字面にして数文字の言葉だが、実現は遥か遠い。

 彼女に追い付く為に、アルは強くなりたかったし、難解な狩りを成功させたかった。

 

 だが、それを一人でやれるか。

 理想は、勿論一人でやってしまうことだ。

 なにせ追い付く目標が、自分は一人での狩りが圧倒的に多い、と言っていたのだから。やはり追い付くためには一人の方がいいと思う。

 

 それでも、とアルの中の冷静な部分が声を上げるのだ。

 

 一人ではきっと、いつか限界がくる。

 強くなる方法は一つではない。

 多くを学ぶことは、強くなるために必要なことだ。

 

 ジェイとレオルド。

 この二人からは、学ぶことも多いだろう。

 助けてもらうこともまた、数えきれない程あるのだろう。

 

 強くなる。

 その方法が一つではないのなら。

 まずは生き残ることを考えるなら。

 

 そう考えて、アルは宙吊りになったままの右手を差し出した。

 

「よろしく。多分、迷惑もかけると思う」

「ハッ! まあ、そんぐらい分かってるさ。正直、危なっかしくて見てらんねえからな。精々、死なねえ程度に頑張れや」

 

 握手をしながら、ジェイが言う。

 その内容こそ厳しい物だったが、彼の表情は笑顔で。

 アルは、これならうまくやっていけそうだなぁ、と思いながら、握手した右手に込めた力を強め────、

 

「あ、ヤバ。……限界」

「は?」

 

 直後、アルの中で()()()がピークに達した。

 それはつまり────、

 

「う、おえぇぇ……」

「て、てめっ! うおぉぉぉ!?」

 

 胃袋リバース。

 スーパーブレスをかますアルの餌食になったのは当然、目の前で握手を交わしていたジェイなのであった。

 

「こ、このクソガキ! い、今、この場でぶっ殺してやる!!」






※長らく更新していなくてすみません。ようやく二章終了です。


ところでモンスターハンタークロス。発売しましたね。
自分は基本的にギルドスタイルで昔ながらの狩りをしつつ、たまにエリアルとかブシドー使っています。

今作はどうにも片手剣が優遇されているらしいとききました。
それでも最終的には大剣やハンマーの方が火力が出て(当たり前ですが)戦いやすいんじゃないかな? と思っています。
とはいえ、片手剣強化は純粋にうれしいです。

皆様はどんな形で狩りをしているでしょうか。
それではよきハンターライフを!
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