優しい龍   作:ハトスラ

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外伝3-3 交錯する ~もう一人の~

 その異常に気付いたのは、今夜の野営地を決めた時だった。

 

 尋常ならざる異様な気配。

 人とも竜ともつかない何者か。

 

(竜人か? だが、これは……)

 

 野営地に印を着けて、ランスを掴んで立ち上がる。

 

 気配は近い。

 普段なら息を潜めてやり過ごすか、警戒したまま気配を探るに留める。間違っても自分からちょっかいをかけたりはしない。

 

 だが、今回は()()()()()だ。

 少なくとも『相手』を確認しなければ、安心して眠れそうにない。

 

 自身の気配を殺しながら密林を進む。その度、異様な気配は近くなる。

 

「ここか」

 

 眼前には変わらない密林が続く。

 それでも、先ほどから感じ続けている異様な気配が徐々に大きくなっているのがわかった。

 警戒は解かないまま、木々の合間の暗がりを見詰め続ける。

 

 ザリ、と地面を踏み締める足音。揺れる草木。

 未知の相手に緊張感が跳ね上がる。

 

 暗がりの向こう側に、何かがいる───!!

 

 

「──────あ?」

 

 

 次に耳に届いたのは、何者かのか細い声。

 

 次いで、月光を吸収する黒髪が見えた。

 こちらへ向かって歩みを進めるソレの姿が、徐々に露になってくる。

 小柄な体躯に赤い鎧姿。盾と剣を持った、恐らくは声の主。

 

 物陰から、気配を殺してそこまで観察した時だった。

 

 突如として、その何者かが崩れ落ちる。

 

 

()()()!!」

 

 

 警戒も疑問も、何もかもを放り投げて、思わず叫んで駆け寄った。

 地に横たわる細い身体を抱き起こし、呼びかける。

 

「おい、しっかりしろ。ア────」

 

 ────違う。

 

 間近で見ることによって、曖昧だった何者かの表情がはっきりと映る。

 

 抱き起こしたのは少年ではなく、少女だった。

 端正な顔立ちに、艶やかな黒髪。怪我でも負っているのだろうか。片目は眼帯に覆われてはいたものの、可憐な少女。

 

 似たような体躯。髪色。武器。加えて視界の悪い闇夜。

 だが、だからといって少女と少年を間違えるのはいかがなものか。少女にも少年にも失礼な話である。

 

「ロ………イド」

 

 気を失った少女が、か細い声を漏らす。それは一体、誰に向けたものだったのか。

 

「……ふむ」

 

 少女を抱き起こした姿勢のまま、しばし思案する。

 

 近くに自分たち以外の気配は感じない。

 あの妙な気配もいつの間にか消えてしまっていた。

 

「さすがに、このまま放置する訳にもいかんか……」

 

 ひとまず野営地まで連れ帰ろう。

 人間。それも少女を、夜の密林に置き去りにするのは危険すぎる。

 

 そう決めて少女を担ぎ上げる。と、少女の口元が再び僅かに動いた。

 

「……………」

 

 闇夜の静寂にあっても聞き取れない程の声。

 

 それを確かに()()()()()、今度こそ野営地に向けて歩き始めた。

 

 

 

※※※

 

 

 

 夢を……、見ていた気がする。

 

 遠い日の夢。

 もう帰らない懐かしい日々の────、

 

 

「目が覚めたか」

「………え?」

 

 声は視界の外から。

 何故か靄がかかったような視界を向けて、アーシアは声の主を探した。

 

 すぐ近くに感じるのは、炎の熱。

 恐らくは焚き火だろう、とはっきりしない意識で推察する。

 

 その炎の向こう側。

 炎と月光に照らされて、美しく輝く銀の髪。紅い装束。

 

「……ロイド?」

「うん?」

 

 返ってきた声は、アーシアの予想より随分と高めだった。ロイドの声にしては何処か、女性的な────、

 

「あ、れ……?」

 

 目をしばたく。

 アーシアの視界に映ったのは女性的、というよりも女性そのものだった。

 ポカン、と口を開いて炎の向こうの女性を見る。

 何か、予想の斜め上過ぎて完全に目が覚めてしまった。

 

 女性だ。間違いなく女性。

 長い銀髪に紅い鎧装束。

 端整な顔立ちは美人と言って間違いないが、整いすぎていて全体に何処か冷たい印象を与えていた。

 

 というか、髪色と鎧の色しかロイドと合致していない。

 寝起きで意識がはっきりしていなかったとはいえ、ロイドと彼女を間違えるのは失礼だと思った。主に彼女に。

 

「意識ははっきりしているか? 身体に異常は?」

「あ、えと」

「食欲は? あるなら、何か用意するが」

「いただきます」

 

 即答である。

 現状の把握よりも何よりも、アーシア的にはお腹を満たすことが最優先なのだった。

 

「ふがふが」

 

 繋ぎとして出されたチーズと果物をいっぺんに頬張る。

 その間に香ばしい匂いを漂わせた肉が焼き上がった。したたる肉汁に思わず喉をならしつつ、アーシアは一息にこんがり肉を口に含んだ。

 

「ふがふっふ、ふがふが」

「……?」

「ふがふが」

 

 うわ、この肉ちょーうめー。もっと沢山食べたいなあ。おかわりおかわりおかわりぃ。

 

 ……的なセリフを話しているのだが、食事を提供してくれた彼女には上手く伝わっていないようだ。

 

「その……、美味いか?」

「ふがふが」

 

 コクコクと頷くと、彼女は満足そうに笑った。

 むう、美人さん。笑うと印象変わるな、優しい感じ。

 

 そんなことを思いながら、出された食事をぺろりと平らげる。こんがり肉の2、3本ならアーシアには軽いものだ。

 

「あー、美味しかった」

「そうか、それだけ入るなら体調は問題なさそうだな」

 

 腹が満たされてアーシアはご満悦だった。

 ついでに言わせてもらうなら、確かに体調に問題はなさそうだ。

 というか、アーシアは多少の怪我なら、食べれば治るナイスなバディの持ち主である。満腹には遠いが、これだけ食べれば大きめの怪我も治る。

 

「ところで……」

「うん?」

 

 さて、最優先事項を済ませた所で、次にやることをやろう。まずは────、

 

「貴女は誰?」

 

 今更とも言えるアーシアの質問に、女性はケトルを火にかけながら答えた。

 

「私か? 私の名は楓という」

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