────もしも、世界からの認識で、その人の能力が変わるのなら……
────世界からの認識が、『多くの人々』からの認識と同義ならば……
────誰かに、その者は『そうだ』、と思われている限り、その者は『そう』あり続けられるのかも知れない。
「…………楓?」
「どうかしました?」
「いや、何か嫌な感じが……。ま、気のせいだろ」
ジャリライス炒めをかき込んで、今しがた感じた不穏な空気を振り払う。
不思議そうに首を傾げたシエルに、お代わりと飲み物の追加を頼むと、クエストリストに目を落とした。
ここはハンターズギルド。狩人が出立し、帰還し、憩う場所だ。
何かいい依頼はないかなー、といつものようにページをめくる。
手頃なやつ。
厳しいやつ。
手の届かないやつ。
様々ある依頼の中で、一つの依頼に目が止まった。
「お」
「いいお仕事、ありましたか?」
お先に飲み物失礼しまーす、とシエルがカウンターにフルーツジュースを置いた。
その彼女に、クエストリストを眺めていた少年────アルは笑顔を向ける。
「これ! 懐かしいなぁって思ってよ」
「えっと……、『森丘の卵運び』ですか?」
「そ、『目撃モンスター・リオレウス』って。前にさ、楓と二人で行ったクエストみたいだな、って思ってさ」
懐かしい、と笑うアルに、成る程、とシエルは返した。
確かあの時は、楓と組めるようシエルが手回ししてくれたので、経緯は覚えているのかもしれない。
「カエデさん、今どうしてるでしょうか?」
「さぁなぁ……、俺なんかじゃ及びもつかない仕事してそうだよな!」
軽快に笑って言うアルに、シエルがきょとんとする。
「最近は一緒じゃないんですか?」
「ん? 最近も何も、楓とはあれから一回も会ってねえけど?」
「意外、ですね」
「そうか? つか、シエルも受付やってんのに知らねえの?」
当然と言えば当然の疑問に、シエルは苦笑を返した。
「私だって、休暇は頂きますよ? それに、ここ数日は風邪で……」
「あ、そっか道理で……。悪い、知らなかった。快復祝いでもすっか?」
「いいんですよ。気持ちだけ、有り難く受け取っておきます」
苦笑から微笑へ。ほんのりと頬を染めて会釈する。
まだ熱あるんじゃねーのかな? と思ったが、口には出さなかった。
彼女もプロだ。具合が悪いなら、自己申告するだろう。
「なんかさ」
「はい?」
「楓の話したら、ちょっと会いたくなったな」
「そうですね。でも……」
「?」
「ハンターは危険なお仕事ですから、無事でいらっしゃるでしょうか? 最近見てないから、余計に心配です」
そう俯き気味に言ったシエルに、アルはニカッと笑って見せた。
「大丈夫だよ、楓はとんでもなく強えから」
「でも……」
「でももヘチマも、タンポポポでも、ドスヘラクレスでもないっ! 楓は強い。なんたってさ、俺が見てきたハンターの中で一番だからな!」
まるで根拠になっていない理由を、高らかに宣言する。
思わず吹き出したシエルを横目に、アルはさらに続けた。
「どんな状況だって、どんな相手だって、楓は負けないって、俺はそう信じてる」