猛進する女王をカエデの盾が阻んだ。
アーシアのオデッセイが対岸から疾駆する王者を斬りつける。
状況は悪くない。流れはこちらへ傾きかけている。
そう確信しながらも、アーシアは楽観的には成れなかった。
「気付いたか?」
その問い掛けに首肯する。
視線は王者に向けたまま、カエデとは背中合わせになるように移動して、アーシアは呟くように言った。
「再生、してるね」
「活力剤でも服用したのか? 奴等の回復速度が速すぎる。これでは、決定打は与えられん」
そう言うカエデの目の前で、女王は傷を再生させた。
堅いだけ、速いだけ、強いだけの相手ならば、幾度となく相手をしてきた。
しかし、降竜儀に匹敵するかという超再生。そんな相手は初めてである。
この
個体としての能力では、かつて戦ったシルバーソルや、リオカオスに一歩及ばない。
体色が黒に染まりきっていないのが原因だろうか。だがまあ、そんなことはどうでもいい。
問題はどう打倒するかなのだから。
「アーシア」
「何?」
警戒は解かないままに、カエデを流し見る。
肩で息をしている。動きも何処かぎこちない。
精神力だけで立っているのかも知れない。先刻受けた攻撃は、命を失ってもおかしくないレベルのものだったのだから。
「リオレイアの尾。再生が追い付いていない」
「……ホントだ」
「大きすぎる欠損は修復に時間がかかるのかも知れん。大技で頭部を消し飛ばせば、或いは……」
「いけるか?」 と、気遣うような声。
一声、「もちろん」。そう返す。
限界が近いのはカエデだけではない。アーシアもまた、満身創痍には違いないのだ。
隠しているつもりでも、見透かされている。アーシアがカエデの不調に気付いているように。
それでも互いがやらねばならないことをわかっていた。背中合わせに立った相手に死んで欲しくないから。
「いくぞ」
「うん」
火竜達の威嚇行動を見ながら、アーシアは呼吸を整える。
大丈夫。まだ、もつ。
火竜が火を吐いた。
二人が回避する。直後に襲いかかる雌火竜。
食らい付く攻撃を咄嗟に蹴りで反らした。
反す刃が空を斬る。雌火竜が急に退いたのだ。出来たスペースに火竜の毒爪。
インドラとオデッセイが強襲するそれを受け流した。伝う衝撃にたたらを踏む。
「ふっ!!」
アーシアに追いすがる火竜を、カエデの銃槍が牽制。距離を放した雌火竜からのブレスを盾が阻んだ。
瞠目する雌火竜に、アーシアは肉薄。両の愛剣が複雑な軌道を描いて襲いかかる。
強力な属性を秘めた業物は甲殻を弾き、その下の肉を引き裂いた。
「っ!?」
黒化してから初めてのマトモな手応え。
だが、余韻に浸る間なぞなくリオレウスに割り込まれる。
反射的に飛び退いて舌打ちした。
見る間にリオレイアの傷が再生していく。
「相変わらずの夫婦愛。妬けるね、まったく」
「……」
「カエデさん?」
軽口に乗ってこないカエデにいぶかしむ。
確かに軽口を叩いていられる状況ではないのだが。
「ゴアァァァァァアアア!!」
疑問符を浮かべたアーシアに、リオレウスが迫る。
ちょうど、カエデとアーシアを分断するかのようにだ。
「カエデさん!!」
そのリオレウスをかわして、アーシアは叫んだ。
分断された向こうに、カエデに飛び掛かるリオレイアが見えたからだ。
「アーシアっ!」
思わず飛び出しそうになったアーシアを、カエデの鋭い声が制した。アーシアの足が止まる。
反転したリオレウスが、アーシアのスレスレを通り過ぎた。
邪魔だ。これでは、カエデのフォローに行けない。
苛立つアーシアに、火竜の向こうから、カエデの声が響いた。
「私のフォローは考えるな!」
「でもっ……!?」
「今だけ……、この戦いだけでいい! 私に信頼を預けてくれ!! 庇いあうだけでは、勝てないんだ!!」
迷った。
敵が再生能力を有している以上、小さな攻撃はダメージのうちに入らない。攻勢に出ることは必要だ。
だが、傷を負ったカエデに負担はかけたくはなかった。知らず、アーシアは彼女を庇うように動いていた。それは、結果的に攻撃の手を減らすことになっていただろう。
「……っ」
攻撃の姿勢は必要だ。だが、それは死亡率をあげることと同義なのだ。簡単には結論を出せようハズもない。
答えを出せないアーシアを嘲笑うように、火竜達の攻撃が激しくなる。
リオレウスは上昇し、リオレイアは大地を駆ける。
上空から雨のように降る火球を見て、アーシアは直感的に悟った。
────このままでは戦況を支えきれなくなる。
苦虫を噛み潰したかのような顔をして、アーシアは意を決した。
それを口にするのに、躊躇ったのは一瞬。
「カエデさん!」
「何だ!?」
互いに火竜の猛攻を捌きながらの会話は、自然に怒鳴るようになる。
「私を信じて! そしたら、私もカエデさんを信じられるから!!」
「! ……ああ!!」
返事をしたカエデの顔を見る余裕はない。
それでもなんとなく、彼女が笑みを浮かべた気がした。