優しい龍   作:ハトスラ

37 / 61
外伝3-12 信じたいの、信じて

 

 猛進する女王をカエデの盾が阻んだ。

 アーシアのオデッセイが対岸から疾駆する王者を斬りつける。

 状況は悪くない。流れはこちらへ傾きかけている。

 

 そう確信しながらも、アーシアは楽観的には成れなかった。

 

「気付いたか?」

 

 その問い掛けに首肯する。

 視線は王者に向けたまま、カエデとは背中合わせになるように移動して、アーシアは呟くように言った。

 

「再生、してるね」

「活力剤でも服用したのか? 奴等の回復速度が速すぎる。これでは、決定打は与えられん」

 

 そう言うカエデの目の前で、女王は傷を再生させた。

 

 堅いだけ、速いだけ、強いだけの相手ならば、幾度となく相手をしてきた。

 しかし、降竜儀に匹敵するかという超再生。そんな相手は初めてである。

 

 この(つがい)を強者足らしめているのはそこだ。

 個体としての能力では、かつて戦ったシルバーソルや、リオカオスに一歩及ばない。

 体色が黒に染まりきっていないのが原因だろうか。だがまあ、そんなことはどうでもいい。

 問題はどう打倒するかなのだから。

 

「アーシア」

「何?」

 

 警戒は解かないままに、カエデを流し見る。

 

 肩で息をしている。動きも何処かぎこちない。

 精神力だけで立っているのかも知れない。先刻受けた攻撃は、命を失ってもおかしくないレベルのものだったのだから。

 

「リオレイアの尾。再生が追い付いていない」

「……ホントだ」

「大きすぎる欠損は修復に時間がかかるのかも知れん。大技で頭部を消し飛ばせば、或いは……」

 

 「いけるか?」 と、気遣うような声。

 一声、「もちろん」。そう返す。

 

 限界が近いのはカエデだけではない。アーシアもまた、満身創痍には違いないのだ。

 

 隠しているつもりでも、見透かされている。アーシアがカエデの不調に気付いているように。

 それでも互いがやらねばならないことをわかっていた。背中合わせに立った相手に死んで欲しくないから。

 

「いくぞ」

「うん」

 

 火竜達の威嚇行動を見ながら、アーシアは呼吸を整える。

 大丈夫。まだ、もつ。

 

 火竜が火を吐いた。

 二人が回避する。直後に襲いかかる雌火竜。

 食らい付く攻撃を咄嗟に蹴りで反らした。

 反す刃が空を斬る。雌火竜が急に退いたのだ。出来たスペースに火竜の毒爪。

 インドラとオデッセイが強襲するそれを受け流した。伝う衝撃にたたらを踏む。

 

「ふっ!!」

 

 アーシアに追いすがる火竜を、カエデの銃槍が牽制。距離を放した雌火竜からのブレスを盾が阻んだ。

 

 瞠目する雌火竜に、アーシアは肉薄。両の愛剣が複雑な軌道を描いて襲いかかる。

 強力な属性を秘めた業物は甲殻を弾き、その下の肉を引き裂いた。

 

「っ!?」

 

 黒化してから初めてのマトモな手応え。

 だが、余韻に浸る間なぞなくリオレウスに割り込まれる。

 

 反射的に飛び退いて舌打ちした。

 見る間にリオレイアの傷が再生していく。

 

「相変わらずの夫婦愛。妬けるね、まったく」

「……」

「カエデさん?」

 

 軽口に乗ってこないカエデにいぶかしむ。

 確かに軽口を叩いていられる状況ではないのだが。

 

「ゴアァァァァァアアア!!」

 

 疑問符を浮かべたアーシアに、リオレウスが迫る。

 ちょうど、カエデとアーシアを分断するかのようにだ。

 

「カエデさん!!」

 

 そのリオレウスをかわして、アーシアは叫んだ。

 分断された向こうに、カエデに飛び掛かるリオレイアが見えたからだ。

 

「アーシアっ!」

 

 思わず飛び出しそうになったアーシアを、カエデの鋭い声が制した。アーシアの足が止まる。

 反転したリオレウスが、アーシアのスレスレを通り過ぎた。

 

 邪魔だ。これでは、カエデのフォローに行けない。

 

 苛立つアーシアに、火竜の向こうから、カエデの声が響いた。

 

「私のフォローは考えるな!」

「でもっ……!?」

「今だけ……、この戦いだけでいい! 私に信頼を預けてくれ!! 庇いあうだけでは、勝てないんだ!!」

 

 迷った。

 敵が再生能力を有している以上、小さな攻撃はダメージのうちに入らない。攻勢に出ることは必要だ。

 だが、傷を負ったカエデに負担はかけたくはなかった。知らず、アーシアは彼女を庇うように動いていた。それは、結果的に攻撃の手を減らすことになっていただろう。

 

「……っ」

 

 攻撃の姿勢は必要だ。だが、それは死亡率をあげることと同義なのだ。簡単には結論を出せようハズもない。

 

 答えを出せないアーシアを嘲笑うように、火竜達の攻撃が激しくなる。

 リオレウスは上昇し、リオレイアは大地を駆ける。

 上空から雨のように降る火球を見て、アーシアは直感的に悟った。

 

 

 ────このままでは戦況を支えきれなくなる。

 

 

 苦虫を噛み潰したかのような顔をして、アーシアは意を決した。

 それを口にするのに、躊躇ったのは一瞬。

 

「カエデさん!」

「何だ!?」

 

 互いに火竜の猛攻を捌きながらの会話は、自然に怒鳴るようになる。

 

「私を信じて! そしたら、私もカエデさんを信じられるから!!」

「! ……ああ!!」

 

 返事をしたカエデの顔を見る余裕はない。

 それでもなんとなく、彼女が笑みを浮かべた気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。