優しい龍   作:ハトスラ

38 / 61
外伝3-13 宵闇を駆ける ~The shooting star~

 上空にいるリオレウスに舌打ちする。

 アーシアの脚力をもってしてもギリギリ届かない距離。

 その位置をキープして、火竜はブレスを吐き続ける。

 

(これだけ距離を離して、この威力……!)

 

 すぐ近くに落ちた火球が大地を穿ったのを見て、アーシアの総身に寒気がはしった。

 

「……っていうか、降りてこい! この卑怯モン!!」

 

 うがー! と両腕を挙げてわめく。

 ヘタレウス、なんて言われても仕方ないじゃんか、と思った。

 

 こんなことをしている間にも、後方では爆音と絶叫が響いている。

 アーシアがリオレウスの相手をしているなら、あちらはカエデとリオレイアの死闘だ。

 射程外から攻撃を続けるヘタレと違って、嫁は勇猛らしい。

 

「絶体尻に轢かれてるよね、君」

「ぐ、ガァァァァアアア!!」

 

 図星だったのかよ。つかよく聞き取れたな、この距離で。 なんて思いながら火球をかわし続ける。

 

 リオレウスがこちらの射程外に逃れてから、もう随分経つ。

 そのうちしびれを切らして、毒爪で襲いかかってくるかと思っていたが、その気配はない。

 

「だあもう! どうしろって言うのさ!!」

 

 言いながら、打開策を練る。

 跳躍は脚下。あの高度には届かないし、空中戦では圧倒的に不利だ。

 しかしアーシアに飛び道具はない。これがルトガーなら撃ち落とすだろうけど、と嘆息する。

 

(そういう時……、ロイドならっ……、どうする!?)

 

 よく組んで狩りに行く相手とは、その戦い方を間近で見ている相手ということでもある。

 

 ルトガーは飛び道具持ちな上、あの距離にいる飛竜でも、あっさり撃ち落としてしまいそうなので除外。

 故にアーシアが思考するのは、自身と同じ、飛び道具のないロイドだ。

 

 まず、跳躍。

 あのバカ野郎は自身のとんでも身体能力に任せて跳びそうだが、降竜儀を発動させてる今、アーシアもロイドと同等の脚力がある。それで届かないことが分かっている為、脚下。

 次に真空刃。飛ぶ斬撃なんて出鱈目だが、これも届きそうにない。出来る気もしないので脚下。

 

 ────ならば、出来ることとはなんだ?

 

 ふと、手元を見る。

 アーシアの瞳に、切れ味鋭い愛剣の姿が映った。

 

(投擲────!)

 

 間違いなくロイドでもそうする、と確信する。

 武器を投げれば火竜に届く。しかし────、

 

(これだけじゃ、倒せない!)

 

 手に携えた武器は片手剣。軽い武器だ。

 重量と威力がほぼイコールならば、確実に威力が足りない。

 求めるのは『一撃で火竜を撃ち落とす』火力だ。

 

(もっと、何か────!)

 

 手元から周囲に目を移す。

 前方に見える密林の中では、今もカエデと女王が戦っているハズだ。

 時折鳴り響く轟音は、カエデと女王の存命を示している。

 

 今現在、アーシアとカエデは別れて戦っている。

 それはアーシアがカエデを信頼し、カエデがアーシアを信頼してくれた結果だ。

 

「なのに、この状況って……!」

 

 言いながら、迫る火球を避け続ける。

 カエデに『信じて』なんて言ったのに、黒火竜相手に有効な手を打てずにいる。

 カエデはあれほどの怪我を圧して戦っているのに、だ。

 

「…………って、あれ?」

 

 突然、音が消えた。正確には、『密林から響く』音が。

 

 まさか、あちらはもう終わったのだろうか?

 こっちは未だ、ヘタレにブレス吐かれているだけなのに。

 

 そこまで考えて、怖気が奔った。

 カエデは重傷だった。まさか、まさか────!

 

 しかし、焦燥感を募らせるアーシアを嘲笑うかのように、密林から紅い姿が飛び出してきた。

 

「カエデさん!」

 

 無事だった。その安堵に、アーシアは思わず声をあげる。

 カエデは密林から更地(上空のヘタレのせいで、アーシアのいる辺りは焼け野原だ)に足を踏み入れると、そのまままっすぐこちらへ駆け出した。

 

 加勢か。正直助かった、とアーシアは思う。

 直後────、

 

「───って、うそぉっ!?」

「む? アーシアか」

「ゴァァァァァァァァァァァ!!」

 

 叫ぶアーシアと、今アーシアに気付いたかのように声をあげるカエデ。そして、その後ろから爆走してくるリオレイア。

 

 さっきの沈黙はなんだったのー!? とばかりに、轟音と、周囲の樹木を撒き散らしながら女王が駆ける。

 歩幅の違いか。カエデとリオレイアとの距離はみるみる縮まってゆく。

 

「────って、これマズイよ!!」

 

 忘れがちだが、アーシアは現在、黒火竜のブレスを避け続けている最中だ。回避には当然、移動という手段を執る。

 アーシアは『真っ直ぐダッシュ』しながら火球を避けていた。

 そしてカエデは、アーシアに対して『真正面』から、『真っ直ぐダッシュ』してくる。

 

 結論を言ってしまえば、二人とも火竜達の攻撃に飛び込みに行ってるようなものなのだ。

 アーシアはリオレイアへ。カエデはリオレウスへ。

 そもそもそれ以前に、このままではアーシアとカエデがぶつかる。

 

 しかし、焦るアーシアとは対照的に、カエデは眉一つ動かさなかった。この人の胆はどうなってんだ、とすら軽く思う。

 

 そのカエデは、走る速度を緩めることなく、アーシアと、その上空にいるリオレウスをチラリとだけ見て叫んだ。

 

「墜とすぞ!」

「!」

 

 聞こえた言葉に、思考よりも身体が反応した。

 あるいはアーシアも、無意識のうちにカエデと同じ結論を出していたのかもしれない。

 

 何の打ち合わせも、何の言葉も無く、アーシアはカエデへと切迫した。

 

 互いに走り続ける二人の距離は、一瞬とかからずゼロになる。

 交錯する瞬間、アーシアは地を蹴り、カエデは槍を引き抜いた。

 

 カエデの槍がアーシアに迫る。角度的には、アーシアの胸を抉る位置だ。

 だが、アーシアはそれを跳躍で避けた。槍はちょうどアーシアの『足下』を通るように空振りする。

 

 

 否────……

 

 

「う、おおおおおぉぉぉぉ………!!」

 

 雄叫びを上げながら、カエデが軸足を強く踏み込んだ。足から伝わる力を、筋力と重心移動を使って、槍に伝えてゆく。

 アーシアの足下を捉えた────否、アーシアの足に捉えられた槍が、アーシアを乗せたまま唸りを上げる。

 

 そう、単独で火竜を墜とせないなら、協力すればいい。一人で足りない跳躍力と、火力とを補うように。

 

 その答えが、これだ。

 

「飛ぉ……べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 充分な助走距離から得た加速。それを総て集約した、『大地を踏み砕く』程の踏み込み。

 大地から跳ね返る力を、足から腰へ、腰から背筋へ、背筋から肩へ、肩から腕へと、巧みな体重移動で移してゆく。

 引き絞った(からだ)から、しかしカエデは、直ぐに槍を突き出すことはしなかった。

 

 代わりに、その場で旋回を始める。

 大地に突き刺さった軸足が、地を穿つ────否、掘削してゆく。

 

「今……!!」

 

 桁違いの膂力に遠心力。

 二つの力が重なった槍の、その穂先でアーシアは叫んだ。

 

 直後に足下────飛び乗った槍に力が集約するのを感じる。

 

 カエデの旋回速度は、想像を絶する。その中で、アーシアは、聞こえるハズのないカエデの呼吸を聞いた。

 

 

「────っ!!」

 

 

 自身の感性に逆らわずに、穂先を蹴る。

 炎の属性を宿した銃槍は、突き出された勢いと、蹴り足の反動とで、爆炎を上げた。

 

 音速に匹敵する回転速度と、それによって生み出された運動エネルギー。

 集約されたそれに、火属性の爆発力を合わせ、相乗。

 降竜儀によって限界以上に強化された脚力が、本来なら受け止め切れないエネルギー量を受け止め、アーシアの身体を飛び上がらせる。

 

「───────」

 

 

 ────弾けた。

 

 

 そう感じた瞬間に、アーシアの視界が流れた。

 彼女の桁外れの動体視力ですら、流れる景色を映像として知覚出来ないのだ。

 逆説的に、それは音速すら遥かに置き去りにしたことを意味する。

 爆発した穂先から、超速で飛び出したアーシアは、さながら赤い魔弾であった。

 

 

 魔弾は、黒き太陽を沈めるべく天を駆ける。

 

 

 対する火竜は、すでに回避行動に移っていた。

 見てから動いていたにしては速すぎる対応。恐らくは、カエデがアーシアを打ち出す直前から、何かを『感じとって』いたのであろう。

 この火竜もまた、やはり並の飛竜とは一線を画す存在だということを、まざまざと見せ付けられた。

 

 

 ────だが、その程度の予見では()()()()|!

 

 

 中天高くに位置取った黒き太陽。

 赤い軌跡を残す魔弾は、隔絶していた距離を無に還す。

 

「…………っ!?」

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 一秒未満の交錯。

 一瞬にも満たない刹那に、アーシアは瞠目した火竜を見た。

 

 その火竜へ、アーシアの牙────オデッセイが食らい付く。

 

 打ち出された勢いそのままに、振るわれた刃は火竜の翼爪へ。僅かな抵抗すら感じずに、刃は翼爪を砕いた。

 だが、勢い付いた刃は止まることを知らない。

 そのまま、甲殻を穿ち、肉を引き裂き、骨を断ち、翼膜を引きちぎる。

 

 

 ────魔弾が太陽を撃ち墜とした。

 

 

 片側の翼を、文字通り『斬り落とされた』火竜は、自身を支えきれない。

 結果、壮絶な悲鳴と血の雨を撒き散らしながら、黒き太陽は墜落する。

 

 黒き太陽を撃ち抜いた魔弾は、墜落するそれを背に、僅かに笑った。

 

「せっかく、月が綺麗な夜なんだ。いつまでも昇ってないで、太陽らしく君は沈め」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。