優しい龍   作:ハトスラ

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開戦

 

 戦端は既に開かれていた。

 

 ベースキャンプから駆け出たエイナとレオルドは、目の前の光景に気を引き締める。

 

 最前線にいるアルに群がるのは数体のコンガ。それからやや離れて、ジェイが狙撃を繰り返す。

 キャンプから近い位置にいたことと、コンガ達から着かず離れずな距離を保っていた余裕から、アルよりも先にジェイがこちらに気付いた。

 

「旦那、アルのフォローを頼まあ!」

「ああ」

 

 短く応じたレオルドが、アルの近くにいたコンガを蹴散らす。エイナもまた切り込もうとして、しかしその場に踏み止まった。

 

「アイツ……」

 

 レオルドとジェイの戦いに不安はない。だが、アルは別だ。エイナは彼の実力を知らない。

 最悪の場合、レオルドだけではフォローしきれないかも知れない。それ故に、エイナはアルの戦闘技術を見極めるように見詰めた。

 

 

 アルの正面にいたコンガが、彼に飛び掛かる。

 アルは軽くステップを踏んで回避。爪を空振りしたコンガ目掛けて片手剣を振り下ろす。

 額の真ん中に命中した刃は、桃色の剛毛を引き裂きながら肉を抉った。

 

「次っ!」

 

 短く吐き捨てた言葉の通り、彼に斬られたコンガは力なく崩れ落ちる。

 エイナは思わず目を見開いた。それに構わず(気付かず)アルは剣を振るい続ける。

 

 側面から押し迫るコンガを盾で牽制。同時に、逆サイドのコンガに一撃。たたらを踏んだ二頭を尻目にバックステップ。次の瞬間、アルのいた地点に、上空からのしかかろうとしたコンガが落ちてくる。

 

「せぇぇぇぇぇぇい!!」

 

 尾を引く雄叫びと共に四連撃。アルを囲んだ三頭の内、二頭が絶命する。

 

 だが、牙獣の出現には際限がない。

 残った一頭を手早く片付けたアルは、周辺を一瞥して舌を打った。

 前後左右に一頭ずつ。コンガ達はアルの攻撃後の硬直中に、包囲網をしく。

 

 が、動き始めたのはアルの方が早かった。ほとんど身を投げ出す勢いで地を転がると、そのままの勢いで正面のコンガに肉薄する。

 間合いを詰めようとした矢先。急に自分の目の前に迫ってきたアルに、コンガは思わずブレーキをかけた。

 

「ふっ!」

 

 速く鋭い一撃は、コンガの首を跳ね飛ばす。断末魔すら上げられず絶命したコンガを、アルは左腕で引き寄せ右足で蹴った。

 フラフラとよろめく遺骸が、背後と側面から迫るコンガへの障害へと変わる。

 振り返ったアルは、向かって右側のコンガを瞬殺。そのまま勢いよく左側のコンガに回り込み、背後から襲いかかる。

 そのタイミングで、残りの一頭が障害物を乗り越えた。側面から剣を振りかぶったアルへと、鋭い爪が迫る。

 風を切って振り下ろされたそれを、アルは一瞥すらくれずに盾で受けた。

 

 密林に響く金属音。

 

 耳障りな音が消える前に、アルは盾を支点に旋回。滑るようにコンガの背後に回り込む。

 

 

 エイナは息を呑んだ。

 

 ────速い。それも身のこなしではなく、『認識』の速度が。

 

 一瞥しただけで周辺の状況を把握。そこから、最も安全であろう地点を予測。変化していく状況の中で、安全地点を入れ換えながら立ち回る。

 片手剣という武器は、その性質上、一撃の威力には期待出来ない。反面、武器の攻撃速度と扱い易さという点ではトップクラスだ。

 その二点を活かして、鋭く正確な一撃を叩き込む。通常、一撃で倒しきれない相手でも、急所を抉れば仕止められる確率は上がるのだ。

 

 状況を認識し、隙を探る慧眼。獲物を手早く片付ける為に、常に急所を狙い続ける精密さ。

 

 アルの戦い方は、ある意味ではハンターの基本だ。

 それでも、エイナには真似出来ないと思った。彼女の戦い方は、師匠であるレオルドに酷似しているからだ。

 

 エイナは、見付けた隙の大小関わりなく、その隙を自身の持つ高火力の武器で無理矢理抉じ開ける。

 対するアルは、最も大きい隙を見付け、滑り込む。

 

 エイナの戦い方がやや力任せなのに比べ、アルの戦い方にはパワーは必要ない。必要なのは認識の早さと、動きの速さ。

 そして、ハンターにとって認識の早さは非常に重要な意味を持っている。

 片手剣を使うからこの戦い方を身につけたのか、この戦い方が出来るから片手剣を選択したのかは分からない。

 それでも、彼の戦法は片手剣という武器と非常に相性が良かった。

 

 加えて、アルが使う武器だ。

 コンガを斬りつける度に火を噴くそれは、『属性武器』。

 

 属性武器は斬撃時にかかる抵抗と反動が、無属性のそれよりも遥かに高い。まあ、一撃した時に、刀身から各属性を『噴き出して』いるのだからそれも当然なのだが。

 実際、エイナも初めて属性武器を使用した時は、武器に振り回され半ベソをかいた記憶がある。

 

 にも関わらず、アルが自らの武器に翻弄されている様子はない。

 ジェイの話を聴く限りでは、彼は先日、ようやくイャンクックの単独狩猟が出来るようになったばかりのハズだ。製作難易度の高い属性武器を扱う機会はそうそうないハズなのに。

 

(コイツ、もしかしてアタシより……?)

 

 押しては引き、引いては押して、アルはコンガに的を絞らせることなく動き続けていた。

 基本的で、理想的な立ち回りのまま、アルが沈めたコンガはゆうに二桁を越える。

 

 ジェイの話すアルの狩猟経験が確かなら、経験値自体はエイナの方が遥かに上だ。

 だが強い。

 コンガ相手への立ち回りは、エイナの認識を改めさせるのに十分で────、

 

(影……?)

 

 そうやってアルの戦いを注視していたからだろう。エイナは、アルに覆い被さるように落ちた影に気付いた。

 

 今日の狩り場に雲はない。気持ちいいほどの晴天だったハズだ。

 では何か?

 影を認めてから、エイナの思考がその結論に達するまでに一秒も必要なかった。

 

「アル、避けて!!」

「っ!?」

 

 突如として声を張り上げたエイナに、アルが反射的に反応する。

 

 その直後、アルを踏み潰す位置取りで桃色の巨体が降ってきた。

 巨体が起こす振動に、アルがその場でたたらを踏む。だが、奇襲めいた一撃は見事に避けきっている。

 

 思わず安堵の溜め息を吐く。次の拍子に吸い込んだ息で、エイナは気持ちを引き締めた。

 

 アルのすぐ近くに降ってきたのは、コンガをそのまま巨大化させたかのような大猿。それは、つまりこの場に『狩猟対象』が現れたことを意味している。

 

「ようやくボス猿の登場ってね。一気に粉砕してやるから、覚悟しなさい!」

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 認識の内に入ったコンガを掃討し続ける。

 新調した剣は、火の属性を持つ業物。有効属性だったことが幸いし、普段より早いペースで狩りが進行していた。

 

 いい調子だ。アルがそう思ったのと、その声は同時だった。

 

「アル、避けて!!」

「っ!?」

 

 聞こえた声に、頭より先に体が反応した。

 意識はせずとも視界の端に捉えてはいたのだろう。自分の立ち位置と重なるように落ちた影。その有効射程外まで一気に跳ぶ。

 

「うおっ!?」

 

 直後に感じる震動に、思わずたたらを踏んだ。

 何か巨大なものが落ちてきたのだ、と理解する前に、左腕は本能的に盾を構えていた。

 

「ガァ!」

「くぅ!?」

 

 短い声とともに振るわれた何か。

 それがぶち当たった衝撃で、盾を持つ手が震えた。のみならず、殺しきれない衝撃で身体ごと、数メートル以上後退する。

 

 だが、そうして距離を取ったお陰で、アルは自分の目の前に落ちてきたものの正体を知る。

 

「ババコンガ!」

 

 色も形もコンガと大差がないそれは、体の大きさだけが全く違う。

 簡単に言ってしまえばデカイ。コンガの軽く2、3倍はある。

 細部の差は、頭部だろうか。ボスの証しとでもいうように、一部の毛が鮮やかに色付き、逆立っていた。

 

「ガァァァァ!!」

 

 そのババコンガが吠える。威嚇抜きで、いきなり攻撃体勢に入ったのだ。

 巨体が、アルに重なるコースで猛進してくる。

 

「ちっ」

 

 舌を打ったアルは、後退しようとして、足を止めた。

 退避先にコンガが踏み込んできたのだ。このまま後退すれば、コンガに討たれる。

 だが退かなければ、より強靭なババコンガの一撃を貰うことになる。

 

 どちらを受けるべきかは明白であった。

 

 故にアルは、踏み留まった足に再び力を込め、ババコンガの軌道から逃れるように跳ぶ。

 結果、彼はボスと同じように猛進してきたコンガの前に、無防備で晒されることになった。

 

 一秒の後に来るであろう衝撃に備え、アルは歯を食い縛る。

 が、そのアルの目の前で、コンガは首を切り落とされて絶命した。

 

「レオルド!!」

「……」

 

 すぐ側を駆けるババコンガをかわして、アルは自分を救った者の名を叫ぶ。

 当のレオルドは、アルの声に視線だけで応じて、ババコンガへと斬りかかった。

 

「ブフゥ!?」

 

 駆けてゆくババコンガの後を追うように、背後から近付いたレオルドの、両手に握った得物が、桃毛獣の剛毛ごと身を引き裂く。

 普段よりも速いテンポで振るわれる刃は、火属性のもの。やはりレオルドもまた、桃毛獣に対し有効な属性の武器を選んだということだろう。

 

 さらに、怯むババコンガを激しく攻め立てる武器の『カテゴリー』も、普段のそれとは違っていた。

 

「……っ!」

 

 息を吐き出すのと同時、レオルドの握る刃が、振り向いたババコンガの左腕を強襲する。

 次いで、振り切った右腕を戻す勢いで、腰をひねり旋回。()()に握った刃が、直前に斬りつけた場所へ、寸分違わず叩き込まれた。

 

「ガアァァァッ!?」

 

 まるで人間のように、斬り裂かれた部分を押さえながら、ババコンガは頭突きでレオルドを潰そうとする。

 だが、もう遅い。ババコンガが身体を動かすころには、レオルドは既に動き出していた。

 人と大型モンスターの体格差を活かし、潜り込むようにしてババコンガの背後へ。振り返りざまに、()()()刃をありったけ叩き込む。

 

 縦横無尽に叩き込まれる連撃は、太刀のそれとは比べ物にならない速度だ。

 それもそのハズ。レオルドが使った斬撃は、ハンターの使用する攻撃方法で、恐らくは最速のもの。

 名を『乱舞』。左右の刃を、目にも止まらぬ速さで振るい続ける奥義である。

 

 ────そう。『左右の刃』だ。

 レオルドがババコンガ討伐に選んだ武器は、太刀ではなく『双剣』。片手剣と同じ長さの刃を両手に備えた、より攻撃的な武器だ。

 盾を捨て、防御を捨てたその武器は、その圧倒的な手数を攻撃力へと転換し、軽量武器とは思えない火力を有する。

 

 連撃は速度と威力を増し、斬りつける度に、派手な炎と血飛沫が噴き上がった。

 

 ほんの数秒の攻撃で、ババコンガの顔が苦痛に歪む。

 それほどの威力だ。当然のようにレオルドの位置取りは、ババコンガに知れてしまっただろう。

 

 だが、ババコンガがレオルドに振り向くよりも速く、何者かがババコンガの視界へと飛び込んだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 金属を緑の甲殻で補強させた鎧。黒光りする鎚を思い切り振り上げた、小柄な少女。

 

「エイナ!」

「っ!?」

 

 突如として視界に現れたエイナに、ババコンガは一瞬硬直する。

 危険なレオルドか、目の前のエイナか。なまじ判断するだけの脳があったための硬直だったのだろう。

 

 そしてその一瞬は、エイナにとって絶好のチャンスでもある。

 

「……ぶっ飛べっ!!」

 

 雄叫びとともに振るわれたガンハンマーが、ババコンガの脳天を強襲した。

 

 

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