優しい龍   作:ハトスラ

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紅 ~軍神~

 悲鳴を上げて、大きく吹き飛ばされるランポス達。

 アルが楓の技量に目を剥く間に、さらに数頭、ランポスが発火する槍の餌食となった。

 

 楓に群がるランポス達は、彼女へと気を取られ、背後から接近するアルの存在に気付かない。

 楓の強さに驚きつつも、ランポスとの距離を一気に詰めたアルは、手近な一頭に背後から斬りつけた。

 

「楓!」

 

「アルか」

 

 獲物が増えたことに気付いたドスランポスが、さらにけたたましく鳴き始める。

 

 アルと楓は一度だけ視線を交わらせると、追いすがるランポス達をかわして左右に別れた。ちょうどドスランポスを挟み撃つようにだ。

 

 どちらの獲物を狙おうかと、ドスランポスが一瞬硬直する。

 アルは、その一瞬で迷うことなくドスランポスとの距離をゼロに詰めた。

 

「ふっ!」

 

 息を吐き出しながら、すれ違いざまに一撃加えて飛び退く。

 致命的な一撃ではない。だがドスランポスの注意は、確実にアルに向いた。

 ギョロリとした瞳がアルを捉え──る直前に、その背後から容赦ない突きが襲いかかる。

 

 

 何が起こったなぞ、わざわざ語る必要もない。

 

 

 背後からの、予期しなかった攻撃に、ドスランポスの身体が泳いだ。

 僅かな、しかしアルにとっては充分な隙。

 

「うおおぉぉ!!」

 

 雄叫びと共に頭部に、腹部に斬りつける。

 通常の個体とは異なる感触に腕が痺れる。

 

(やっぱり、堅ぇ!!)

 

 ともすれば、武器がスッポ抜けてしまいそうになる衝撃を抑え、さらに頭部に一撃。

 そこから左足を軸に、身体を半回転させ遠心力を加えた一撃を──、

 

「アル!」

 

「っ!?」

 

 楓の警告に攻撃体勢を無理矢理、回避に持っていく。

 バランスなんぞ考えなかった回避は、当然華麗に見えるハズもなく、端からはよろけて尻餅をついたようにしか見えなかっただろう。

 

 あんまりにも格好悪いが、倒れ込む寸前に聞こえた風切り音に、羞恥の感情なぞぶっ飛んだ。

 

「……ランポス!!」

 

 アルを襲ったのは通常体。

 

 少し大型モンスターに集中するとこれだ。

 今は『個体』と戦っている訳ではなく『群れ』と戦っているという認識が薄れる。

 

 すぐさま起き上がって、状況を確認するが、その時には既に、ドスランポスは再びフリーになってしまっていた。

 恐らく、楓が倒れたアルのフォローに回った結果だろう。この場合は攻めに徹しようとして、状況を見失ったアルが悪い。

 

「悪りぃ!!」

 

「いや、気にするな」

 

 アルの背中を守るようにポジションを取った楓は、こちらの謝罪に簡単に返した。

 その眼は既にアルからドスランポスに向けられている。

 

「しかし、キリがねえな……、群れ相手がキツいってのは知ってるけど……」

 

 言いながら、迂闊に飛び込んできたランポスを仕止める。

 その直後、攻撃後のアルの隙を狙ったランポスが、けたたましい鳴き声と共に絶命した。

 

「……っ」

 

 楓だ。

 自身もランポスの群れとやり合いながら、未熟なアルの隙を守る。

 本来、片手剣より圧倒的に隙が多いハズのランスで、だ。

 

 協力者としては、頼もしいことこの上ないが、同時にアルは心中複雑な思いだった。

 同じハンターとして、アルと楓との間には大きな差が横たわっている。

 そんなことはわかっているつもりでいたが、やはりこうまでフォローされっぱなしだと情けないやら、悔しいやらで泣きたくなるものなのだ。

 

「確かに、な……。ランポス狩りがメインなら、この程度モノの数ではないが」

 

 そう嘆息した彼女には、しかし疲労も焦りも認められなかった。

 飛び掛かってきたランポスを盾でいなし、軽くステップを踏みながら返り討ちにする。

 と、同時に、次の目標を突くのに最適な位置へ。

 

 数多のランポスは同時に、あるいは分散して楓に襲いかかるものの、かすり傷一つ負わせることは出来ていない。

 むしろ彼女に近づくことは、必殺の間合いに飛び込んで行くことに等しい。

 

 斬撃による血飛沫と、発火するランス。

 その中で秀麗に動きまわる楓は、軍神を連想させた。

 

 ランポス達にも、この場にいる2人の内、どちらがより危険かがわかったらしい。

 アルにかかってくる実に数倍の数が、楓に群がっていく。

 

「楓!」

 

「問題無い」

 

 切迫したアルの叫びとは対照的に、楓の声はどこまでも落ち着いたものだ。

 

 槍で牽制をかけ、盾で攻撃を逸らし、巧みな足捌きでかわす。

 そして繰り出す一突きは、どれも一撃必殺。

 

 これだけの数のランポスを相手にして、余裕を浮かべるに足る実力が、彼女にはある。端から見ているアルにも、それが見て取れた。

 

「それよりも、リーダーを仕止めろ」

 

 言われて気付く。

 そうだ。楓に大半の通常体が群がっているなら、アルは限りなくフリーなのだ。

 

「……わかった!!」

 

 そう叫んで駆け出す。

 その瞬間の楓が、アルには僅かに微笑んだように見えた。

 

「うおおおお!」

 

 群れの頂点である個体に、数多いる通常体を振り切って肉薄する。

 

 モンスターの中では小型で、小回りがきくランポスだが、総じて視力は良くない。

 反面、嗅覚が発達しているらしいが、それでも『高速で動きまわるもの』には簡単には対応出来ない。

 故に、アルが全速で駆ければ、振り切ることは容易かった。

 

 もっともそれは、群れの大半を楓が受け持っているからであり、平時──つまり独りきりの狩りでは、まず成功しない。

 

「グアアァァ!!」

 

 アルが攻撃の間合いに入る直前、ドスランポスが雄叫びを上げた。どうやら奴の『視界』に入ったらしい。

 威嚇のつもりだろうその声を無視して、アルは飛びかかると同時に剣を振り抜いた。

 

 ドスランポスの肩口から侵入したアルの片手剣が、赤黒い血飛沫をまき散らしながら走る。

 ドスランポスの声が、威嚇から悲鳴に変わった。

 

「ギャァァアア!?」

 

「うる……っさいんだよ!!」

 

 悲鳴にそう返しつつ、アルは軽くステップを踏む。僅かに開いた距離から再び飛びかかり、剣を振る。そうしてまたステップを踏み、飛びかかる。その繰り返しだ。

 けれど、この程度ではまだ足りない。ならば。

 

 

 斬る。

 

 

 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る止めどなく。

 

 

 攻撃力に乏しい片手剣がモンスターに致命傷を与えるには、それしかない。

 

 されど忘れるなかれ。

 ここは狩り場。そして自分の敵は『群れ』だと言うことを!

 

「せえぇぇぇい!!」

 

 ガツリ、と鈍い音を起てて、刀身がドスランポスの側頭部に食い込む。

 返ってきた衝撃を、攻撃の速度で無理やりやり過ごして、自分よりも大きなドスランポスを吹き飛ばした。

 

 振り切った腕がじわりと痛む。

 今ので、楓との連携で与えた傷に加えて相当の斬撃を浴びせたハズだ。

だが、その余韻に浸る暇なぞ狩り場にはない。

 

「ふっ」

 

「グアアァァ!?」

 

 アルの視界の端から、こちらに追い付いたランポスが飛び込んでくる。

 それをかわして、普段の間合いより一歩多目に距離を取った。

 

 攻撃を外されたランポスが足踏みしている隙に一気に踏み込み、二撃ほど加え離脱。直後、離脱した空間にさらに別の個体が割り込む。

 

 やり口は最初と同じだ。

 焦らず、距離を取り、そこから生まれる余裕で状況確認し、行けると思ったら、容赦なく斬りかかる。

 

 ドスランポスに固執し過ぎて、自らを危険に追い込むような愚は、二度と繰り返さない。

 そして、通常体に固執し過ぎてリーダーを見逃すことなど、もっとしない!

 

「逃がすかよ、テメェ!!」

 

 アルが通常体を相手取った僅かな時間で、ドスランポスは立ち上がり逃走を始めていた。

 そのことに驚きはしない。元々、あの程度のダメージで倒せるとは思っていない。

 

 目の前のランポス二頭。内、傷つけた一頭に斬撃を叩き込み、よろけた隙にランポスをスルーする。

 無傷の方が追いすがろうとするが、よろけたランポスを障害物代わりに使って、アルはランポス達を置き去りにした。

 

 背中を見せて逃走中のドスランポス。

 アルとの脚力、歩幅は比べるべくもないが、傷ついたせいか距離はみるみる縮んだ。

 

「うおぉぉ!!」

 

 ザクリと、片手剣がドスランポスの背中に突き刺さる。

 血を撒き散らしながら、振り返ったドスランポスの瞳は、血走った金色だった。

 

「グアアァァ!!」

 

「ちぃ!?」

 

 苦し紛れに放たれたであろう爪を、備え付けの盾で凌ぐ。

 金属が削れるような音が響いたが、問題はそれよりも衝撃でアルの体勢が崩れたことだ。

 

 その間に、ドスランポスが完全に振り返る。

 更に今度は、明確な狙いを付けて爪が襲い掛かった。

 

「……っ」

 

 受けるよりもかわすべきだと判断して、飛びずさる。

 崩れた体勢のままの危うい回避だったが、爪は手甲にかすった程度で済んだ。

 

「グアアァァグアアァァ!!」

 

 安堵も束の間。今度はアルに追いついた通常体の攻撃が迫りくる。

 それすらも避けて見せるが、これは不味い。

 

(一気に防戦かよ!)

 

 ここにきて、連携のタイミングを外され続けたドスランポス達に、連携が復活した。

 加えて、回避に手一杯のアルは体勢を立て直すことが出来ない。

 

 いくら何でも、無理な体勢でこれ以上の攻撃をかわし続けることなど──、

 

「退け、アル!!」

 

「……!」

 

 背後から聞こえたその声に、反射的に身を投げ出して離脱した。

 

 アルのいたスペースを紅い残像が駆ける。

 

 瞬く間にランポスに肉薄した紅は、神速の踏み込みからランスを引き抜き、容赦なくランポスを貫いた。

 

「楓!!」

 

 アルが立ち上がると同時、ドスランポスが楓に飛び掛かる。

 

 だが、楓は盾を構えることも回避の素振りも見せない。

 どころか、ランスを構えたまま僅かに身を屈めて──

 

「おおぉぉぉぉぉおお!!」

 

 凡そ彼女に似つかわしくない雄叫びと共に、伸び上がる力を利用して、“空中のドスランポスを貫いた”。

 

「グアアァァアアアア!?」

 

 一際大きな悲鳴をあげて、空中でドスランポスが更に跳ね上がる。

 

 それを見て、アルはしばし茫然とした。

 空中の相手にタイミングを合わせる。

 言葉にするのは簡単だが、一歩間違えれば自分の首を絞めるだけになりかねない。

 

 

 だが、楓の攻撃はこの程度では終わらない。

 

 

 跳ね上がったドスランポスの落下地点を予測すると、浅い踏み込みから更に槍を突き上げる。

 

 血飛沫と爆発。

 

 だが、今度はドスランポスの身体がランスに深く突き刺さったのか、その切っ先に食い込んだまま離れない。

 

 それでも楓は落ち着いた顔のままトリガー(・・・・)を引いた。

 

「なっ!?」

 

 直後に起きる爆発。

 ランスの先端部から発生したそれは、属性攻撃の炎とは受ける印象が違う。

 アルの驚愕を余所に、楓が更に立て続けにトリガーを引くと、三度目の爆発でとうとうドスランポスは槍の先端から解放された。

 

 ボロ雑巾のように地面に撃ち落とされたドスランポスは、しかし未だに存命だった。

 

 ランスの爆発に頭部の一部と、左腕を失ってもまだ、だ。

 生への執着からか、ドスランポスは懸命に起き上がろうとする。

 

 ドスランポスが吹き飛んだせいで開いた距離をゆっくりと詰めながら、ガチャリ、と楓はランスの根元を振るわせる。

 熱を帯びた空の薬莢が、ジュウ、と音を発てて地面に転がった。

 

 未だ息のあるドスランポスに追い討ちをかけるには、あまりにもゆっくりとし過ぎた動作。

 しかし受けたダメージの大きさからか、楓がドスランポスの元に立ったとき、それは未だに立ち上がれずにいた。

 

 そうして彼女は、ランスの先端をドスランポスに向ける。

 

 突かないのか、とアルが疑問に思った瞬間、楓のランスの切っ先が僅かに発光し始めた。

 

 ランスの先端部から起こった、属性攻撃とは違う爆発。空の薬莢。光始めた切っ先。

 そこでようやく思い至る。

 ランスの内部構造に手を加えることによって、突く以外の攻撃方法を獲得した武器があったことに。

 

 そして、その武器の最大の攻撃は、斬撃でも砲撃でもなく、火竜の身体構造を真似た──

 

「消し飛べ」

 

 無慈悲な声と、ドスランポスがようやく立ち上がったのは同時。

 

 直後、熱と轟音が辺りに降り注いだ。

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