優しい龍   作:ハトスラ

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心 ~伝えたかったこと~

 絶叫と轟音が響き渡った密林に、平時の静けさが戻った。

 木漏れ日が優しく肌を照らし、小鳥のさえずる声が耳を癒す。気持ちのいい、穏やかな時間だ。

 

 結局、ババコンガはエイナの一撃に絶命した。

 鈍器による撲殺はアルの想像よりもグロテスクで、遺骸の解体には少しばかり勇気を奮わなければならなかった。

 

 そんな訳で、いつもより時間のかかった解体を終えたアルは、先ほどと同じように泉の近くに腰を下ろしていた。

 

 剥ぎ取りは現在ジェイの番で、周囲の警戒はレオルドが行っている。

 アルもレオルドに倣うべきなのだろうが、狩りに集中し過ぎて緊張の糸が切れてしまっていた。警戒しようにも索敵出来そうにない。

 仕方がないと割りきって、今回はレオルドに甘えることにした。

 

「しかし、大型モンスターは化け物揃いだとわかっちゃいたが……、まさかエラ呼吸まで出来るとは」

「なわけないでしょ」

 

 一人言に間髪入れない鋭いツッコミ。いつの間にか近くに来ていたエイナが、呆れたような視線を送りながら、アルの隣に腰を下ろす。

 

「や、だって水中からザブーン! って、出てきたじゃん。お前も見たろ?」

「見たけど、ただ水浴びしてただけじゃない?」

 

 わかんないじゃんか、と口を尖らせるアルに、エイナは「はいはい」とだけ。何だかちょっぴり傷付いたアルであった。

 

「つうか、ペイント弾の効果って水浴び程度で切れちまうもんなんだな」

「いや、そういうこともあるかもだけど、違うと思うわよ?」

「だって実際切れたろ? 時間切れにしちゃ早かったし」

「まあね。でも雨の日でも匂いは追えるし、ガノトトス────水竜ね。アイツが水中に逃げた時も匂い消えなかったし」

「じゃ、なんで消えたの?」

 

 はて? と割りと真剣に首を傾げる。まさか奴自身の臭いが酷くて、ペイントの匂いを上書きしたなんてアホな理由ではあるまい。

 

「ババコンガみたいな牙獣種はね、『毛繕い』でペイント落としちゃうのよ」

「マジでか」

「マジでよ。ま、これから先、闘うことがあるなら頭に入れときなさいよ」

 

 そう言って、エイナはヒラヒラと片手を振った。

 

「そだな。結構イライラしたし。しかし狩りの最中に水遊びとか、舐めきってやがったなぁ」

「案外、木から足を滑らせただけかもよ?」

「そんで池に落ちたって? マヌケ過ぎんぞ」

「でも、あり得そうじゃない?」

「あー……、確かに」

 

 何となく、ババコンガはマヌケに見えるという話。

 勿論、勝手なイメージなのだが、足を滑らせ泉に落ちる瞬間が容易に想像出来て、アルとエイナは声を重ねて笑い合った。

 

 そうやってひとしきり笑い合った後、不意にエイナが口をつぐんだ。

 

「あん?」

 

 軽快に笑っていたのに、急にどうしたというのか。気になったアルは、彼女の顔を覗き込もうとして────、

 

「腕、貸しなさい」

「は?」

「いいから、腕を貸しなさい!」

 

 キッ、と顔を上げたエイナに左腕を捕られた。

 突然の事態に着いていけないアルに構いもせずに、エイナはアルの腕装備を外してしまう。

 

「え、ちょっ!?」

「アンタさっきババコンガの攻撃受けたでしょ」

「あ、ああ。受けたけど」

「念のために見せなさい、って言ってんの」

「いや、盾で受けたし。ちょっと痺れるくらいで」

「うっさい!」

 

 あっという間に素手にされた左腕。そこにエイナが触れる。

 触診をするためだろうか。エイナの方もいつの間にか素手である。女性特有の柔らかさに、アルの心臓が一瞬跳ね上がった。

 

「……痛い?」

「いや、別に。だからちょっと痺れが残ってるくらいで……って、痛ぁ!?」

「……」

 

 少し力を入れられたのか、左腕に奔った鋭い痛みに絶叫する。

 なんだろう。こちらをジト目で見つめるエイナの視線がとてつもなく痛い。

 

 ふぅ、と溜め息を吐いたエイナは、ポーチから薬草と取り出すと、適当な場所で潰し始めた。

 

「あの、さ」

「な、なんだよ?」

 

 ぽけー、とエイナの様子を見ていたアルはうろたえた。

 変に痛みを我満してたことに何か言われるのだろうか? それとも、エイナに手をとられてドキリとしたことがバレていて、それをからかわれるのだろうか?

 

 一連の出来事に戸惑ってばかりいたアルは、エイナの声に暗いものが混じっていたのに気付けなかったのだ。

 

「その、ベースキャンプでは、ごめん」

「あ?」

「謝ったって許されないこと言ったって自覚はあるわよ。けど、謝らないままじゃ、私の気が済まないから……。

 だから、ごめん。アンタはアタシを許さなくてもいいよ」

 

 そこまで言われて、ベースキャンプでのやり取りが鮮明に蘇ってくる。

 狩りの最中には、意図的に忘れようとしていたが、実際アレは許容してはいけない発言だった。

 

 だが、

 

「いや、いいよ」

「……え?」

「言っちゃいけないこと言ったのは、俺も同じだ」

 

 『ハンター辞めろ』

 

 いくら腹が立ったとしても、これは安易に口にしていい言葉ではなかった。

 それに、アルは知っている。エイナが、本当はそんなことを言うつもりはなかったことを。

 

「でも……」

「あんなこと言うつもりじゃなかったんだろ?」

「それは……そうだけど。だからって、言った事実は消えないでしょ!?」

「ああ。けど、そりゃ俺もだ。だからさ、謝ってくれたなら許すさ」

 

 互いに言ってはならない言葉を浴びせた。

 

 ババコンガを探している間、思考の片隅にはそれだけが引っ掛かっていたのだ。だから謝罪を受ければそれで許そう、と決めた。

 実際にそれが出来るかはわからなかったけれど、今のアルにはエイナを許そうという気持ちになれた。

 

「お互い様、って奴だろ? もう止めとこうぜ、この話題は」

 

 アルの言葉にしばらく黙っていたエイナだったが、やがて小さな声で「そうね」と漏らした。

 

 次いで、磨り潰した薬草をガーゼに染み込ませて、アルの左腕に押し付ける。

 

「ひぃっ」

「……何よ?」

「いや、思ったより冷たくて。つーか、何これ?」

「簡単な湿布よ。ないよりマシでしょ。帰ったら、ちゃんと診てもらいなさい」

 

 そう言って彼女は、ガーゼを包帯で固定していく。

 慣れたもんだなー、とアルは感心した。もしかしたら、エイナには医療の心得があるのかも知れない。

 

 そうやって左腕をぐるぐる巻きにしながら、エイナがまたポツリ、と口を開いた。

 

「それと、さ」

「う、うん?」

 

 先程と同じく歯切れが悪い。今度は何言われんだー? とアルは身構えた。

 正直、彼女が言い澱むことはベースキャンプでのやり取り以外に思いつかない。

 

 手にとったアルの左腕を俯き加減で見詰めながら、エイナは口を開きかけて閉ざす。

 どうやら相当言いにくいことのようだ。心無しか、顔も赤い気がするし、よほど緊張しているのだろう。

 

 しばらくそのまま、口を開いては閉じてを繰り返したエイナだったが、ややあって大きく息を吸い込むと「よし」と気合いを入れて、今度こそ言葉を発した。

 

「その、えっとね……」

 

 気合いを入れた割りに小さな声。

 所在なさげに視線をさ迷わせながら、それでもエイナは俯きながら、か細い声で告げる。

 

「さ、さっきは、その。ば、ババコンガから、助けてくれて……、あ、ありがと」

「…………」

 

 その様に、アルは言葉を失った。感謝を伝えられたことも意外だったのだが、それ以上の衝撃が心を揺らしたのだ。

 

 

 ────なんか手を握られながら、真っ赤になって、上目遣いで……。

 

 

 そして、不意討ちに近い何かに呆然とするアルよりも、それを言う覚悟が出来ていたエイナの方が、立ち直りが早かった。

 彼女は真っ赤になった顔をそのままに、空いた手でアルを指差しながら叫ぶ。

 

「ちょ、ちょっと! 無反応ってどういうことよ!? せ、せっかくこの私が、恥を偲んで、お礼を言ったっていうのにぃ!!」

 

 その音量で、アルが我に返る。

 アル自身、気付いていない内に赤くなりながら、どうにかこうにか口を開いた。

 

「い、いや! 仲間なんだから庇うのは当然っていうかさ!」

 

 声のボリュームはエイナに負けず劣らず。やはり自分も相当テンパっているらしい。互いに真っ赤になりながら、大声での応酬である。

 

 当然、それに気付かない人間など、この場にはいないわけで。

 

「おっし解体終わったぞー。そろそろ帰るけど、お前ら何イチャイチャしてんの?」

 

 二人の側面からかけられたのは、からかうようなジェイの声。

 思わず二人同時に反応して、ジェイに向かって叫んでしまう。

 

「い、イチャついてなんかねえよ!」

「い、イチャついてなんかないわよ!」

 

 その様子を見て、ジェイはさらに笑いを強くした。その後ろ。遠くに見えるレオルドまでもが笑っているように見える。

 

「息もピッタリ。オマケに手まで握っちゃって、夫婦かよ」

「なっ!?」

「ふっ!?」

 

 告げられたとんでもない言葉。二人してしばし言葉をなくし、そして────、

 

『なわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 静かな森に、二人分の絶叫が響いた。




[キャラ紹介]
名前:アルバート=L=メモリ

性別:男性
年齢:17歳
身長:160㎝

武器
三章開始時:ドスバイトダガー
三章途中から:コロナ

以後、使い分け

防具:ギアノスシリーズ


※データは三章開始時点

主役再び。
黒い髪を襟足だけ長く伸ばした、片手剣使い。

二章以降、レオルドとジェイの二人とチームを組み、何回か大型モンスターを狩猟する。

初めの頃の危なっかしさは抜けはじめ、最近では大型モンスター相手にも安定した立ち回りを見せる。
……が、やはり経験不足は否めないらしく、フォローされることもしばしば。

彼の立ち回りの基礎は完全に我流という訳ではなく、どうやら一章で組んだ彼女の影響が大きいようだ。


ちなみに身長は多少伸びたものの、それでも細身なことは変化がない。
相変わらず米が好物。



※※※


名前:ジェイ

性別:男性
年齢:26歳
身長:183cm

武器
二章:ジェイドテンペスト
三章:炎戈銃ブレイズヘル

防具:レウスUシリーズ(頭部のみ何らかのピアス)


金髪碧眼長身のイケメンガンナー。

基本的に軽いノリで、面倒くさいことが嫌い。
その一方でレオルドの怪我を負い目に感じ、彼のリハビリに付き合うといった一面ももつ。
アルと組む以前から、レオルドとはチームであり、エイナとも顔見知り。

軽く、移動制限が少ないライトボウガンがメインウェポンだが、チームにいる時は火力優先でヘビィボウガンを使うことも多い。
前衛の数、質によって使い分けしているらしいが、その基準は曖昧。


※※※


名前:レオルド=リオネス

性別:男性
年齢:不明
身長:216cm

武器
二章:鬼哭斬破刀・真打
三章:サラマンダー

防具:ディアブロXシリーズ


圧倒的な筋力を誇る剣士。エイナの師匠。
壮年のハンターではあるものの、肉体面での衰えは見受けられず、筋肉隆々、2m超の体躯から放たれる斬撃はあらゆる物を両断する。

とある狩りで負った怪我が原因で一線を退くも、僅か半年で復帰。全快ではないものの、狩りに支障はきたさない程度ではある様子。
二章時点で四割程と漏らしていた回復率は、三章終了時で六割程。

ちなみに双剣よりも重い太刀をリハビリの武器に選んだのは、『最悪無事な方の腕だけで振れる』から。
両の腕を交互、同時、時間差で動かすことが必要な双剣は、リハビリには向いていないらしい。

さらに彼は、後一つ使える武器カテゴリーを残している。


※※※


名前:エイナ=ドラグ

性別:女性
年齢:17歳
身長:160cm

武器:ガンハンマー改
防具:レイアSシリーズ(一部レイアシリーズ)


金髪碧眼の少女。レオルドの弟子。

師匠大好きっ子だが、レオルドの怪我がきっかけで一人立ち。
以後半年間ソロハンターとして活動するも、レオルドの快復を期に最加入。彼の弟子だけに戦い方がレオルドに似ている。

元々の気の強さと嫉妬心からアルとジェイに対しては、けっこうキツい物言いになる。
──が、反面世話焼きでもある。所謂ツンデレであろうか?

エイナの口撃を流せるジェイとは違い、アルとはすぐに口論になるが、お互いに本気で嫌い合っている訳ではないので決定的な喧嘩には発展しない(三章冒頭のアレは除く)

ちなみに三章終了時点でアルとは同じ身長。
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