優しい龍   作:ハトスラ

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外伝4-3

「で、シエル。メールが言ってたみたいなことは無いにしても、貴方から何かアプローチをかけたりはした?」

「え、いや……、そういうの恥ずかしくて」

 

 私がそう返すと、プレーヌ先輩は疲れたような溜め息を吐き出しました。

 

「もし私がメールだったらビンタよ?」

「ええ!?」

 

 理不尽な物言いに震えあがる私。

 

 ちなみに件のメール先輩は、カウンターを離れてテーブル席の方へ。

 ハンターさん同士の喧嘩が始まったので、仲裁(盛り上げるともいう)しにいってしまいました。

 

 凄い音してますけど、大丈夫でしょうか?

 

 そんな風にテーブル席に意識を傾けようとすると、コツリ、と軽い拳骨。

 

「話はしっかり聞きなさい」

「あ、ごめんなさい」

「素直でよろしい。

 で、さっきの話。向こうは常に命のやり取りしてるハンターだからね。そういうのに興味がない、時間を割けないって人間も多いの。

 もしアル君がそうだったら、このまま進展なしよ? それでなくとも彼、最近エイナちゃんとも組み始めたみたいだし」

「エイナさんはあまり関係ない気が……?」

「甘い。生クリームキムチチャーハンに蜂蜜入りヨーグルトをかけたくらい甘い認識よ、それ」

「えと、意味がわかんないです」

 

 辛うじてそれだけを返せた私に、やや苛立った表情を向けて、先輩は説明を始めました。

 

 曰く、苦楽をともにした男女はくっつきやすい。

 曰く、命の危険がある状況なら、吊り橋効果で倍率ドン。

 曰く、それでなくても狩り場という性質上、夜になればともに寝るし、食料の分け合いで間接キスなんてざら。

 

「それにエイナちゃんの方だって、今まで周りが歳上ばかりだったからね。同年代の気兼ねする必要がない男の子って、結構グッとくるんじゃないかしら?」

「…………」

「……って、シエル?」

 

 黙ってしまった私を心配するように顔を近付けてくる先輩。

 ですが、私はそれどころではなくて……、

 

「ど、ど、ど、どうしましょう!?」

「うん。落ち着きなさい」

「む、無理です!」

「落ち着け」

「痛い!?」

 

 鋭い角度で入ったチョップに悶絶する私。

 それを無情に見下ろす先輩。

 痛みのお陰で少しは落ち着きましたけど……、やっぱり痛いし、理不尽です。

 

 ですが先輩は涙目の私を無視。何もなかったかのように、話題を次に繋いでしまいます。

 

「そこで最初の話よ。誰かに取られたくないなら、打てる内に手を打ちなさいってこと」

「た、確かに……」

「今度アル君が来たら、遊びにでも誘ってみたら?

 もしダメでも落ち込まないこと。最初なんてダメ元だからね」

「ど、努力します」

「よろしい。さ、じゃあ仕事に戻りましょう?」

 

 そう言って先輩は私の頭を撫でると、給仕の仕事をするために行ってしまいました。

 

 カッコいいなぁ、頼りになるし……。

 

 ………………バツイチですけど。

 

 

※※※

 

 

 さて、「努力します」なんて宣言をした私は、文字通り努力をしなければならない訳で。

 これが数日経っていた場合なら誤魔化しも効くんでしょうが、生憎とほんの数分前に宣言したばかりでして。

 

 何が言いたいのかと言いますと、

 

「よぅシエル。相変わらず繁盛してんな」

「あ、アルさん……!?」

 

 ……そういうことでした。

 

 仕事を探しにきた訳ではなく、食事だけしにきたというアルさんは、私に挨拶した後、『ウマイ米とチリチーズのドリア』を注文。現在は私の前で、チーズたっぷりのご飯を口に放りこんでいます。

 

「今回はジェイさんとご一緒じゃないんですね?」

「まな。エイナ入れて四人での狩りもそこそここなしたし、しばらくは一人で、ってな」

「一人じゃ大変じゃありません?」

「大変だけど、やっぱある程度は一人で動く練習もしなきゃな。

 それに、今回はのんびり採集でもしようと思って。最近ご無沙汰だったし」

 

 ま、今日は飯だけだけど。とアルさんは笑って『ジャリライス炒め』を追加オーダー。

 私はキッチンから料理を受け取ると、アルさんの前に置きました。

 

 談笑もいいですけど、そろそろ覚悟きめないと……。

 まずは深呼吸を、一回。……二回。続いて、意識して笑顔を作って……よし!

 

「あの、アルさん」

「んー?」

「のんびりってことは、予定、特に詰まってはないんですよね?」

「まあいつもに比べるとスッカスカだわな」

「じゃ、じゃあ、あのっ」

「んあ?」

 

 どした? と瞳を向けてくるアルさんに、ドキリ、と胸が高鳴ります。

 

 ああ、もう! こうなったら勢いです!!

 

「急な話なんですけど、明日大丈夫ですか?

 その、私明日お休みなんですけど、よければ付き合って欲しいな、って」

 

 い、言えたぁぁぁぁぁぁ!!

 やった。やりました。言えましたよ! あ、後はアルさんの返事を待つだけです。

 

 さて、そのアルさん。ジャリライスをペロリと平らげ(早い!)て明日? と首を捻っています。

 

「シエル」

「は、はい!?」

「それ、俺じゃないとダメか? いや、ハンターが入り用ってくらいだから力仕事とかあるんだろうけど」

「……は?」

「お前には世話になってるし、付き合ってやりたいんだけどさ。あ、それか別の日じゃダメか?

 生憎と明日は予定があってよ。明後日からならフリーなんだけど」

 

 と、ここまで告げられて、ようやく私は悟りました。

 

(こ、この人、遊びに誘われてるって気付いてないぃぃ!?)

 

 どうやら私の休日に、プライベートで『何か力仕事が必要』だと思われてしまったようです。その手伝いにアルさんを呼ぼうとしている、と。

 うう、何でこんな勘違いをされてしまったんでしょう?

 

「で、やっぱ明日じゃなきゃダメ?」

 

 私の葛藤とか苦悩を知りもしないで、アルさんは無邪気に問いかけてきます。

 

 そうだ。今ならまだ、彼の誤解を解けます。そうして改めて誘えば!

 

 ……なんて、とっくに全ての気力を使い果たした私に出来るハズもなく。

 

「いえ、急な話でしたし。予定があるなら仕方ありませんね」

 

 結局そんな風に返して作り笑い。

 アルさんは「そうか?」ともう一度こちらをうかがって、それから食事代を置いて酒場を出ていってしまいました。

 

「…………はぁ。自分が情けないです」

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