「で、シエル。メールが言ってたみたいなことは無いにしても、貴方から何かアプローチをかけたりはした?」
「え、いや……、そういうの恥ずかしくて」
私がそう返すと、プレーヌ先輩は疲れたような溜め息を吐き出しました。
「もし私がメールだったらビンタよ?」
「ええ!?」
理不尽な物言いに震えあがる私。
ちなみに件のメール先輩は、カウンターを離れてテーブル席の方へ。
ハンターさん同士の喧嘩が始まったので、仲裁(盛り上げるともいう)しにいってしまいました。
凄い音してますけど、大丈夫でしょうか?
そんな風にテーブル席に意識を傾けようとすると、コツリ、と軽い拳骨。
「話はしっかり聞きなさい」
「あ、ごめんなさい」
「素直でよろしい。
で、さっきの話。向こうは常に命のやり取りしてるハンターだからね。そういうのに興味がない、時間を割けないって人間も多いの。
もしアル君がそうだったら、このまま進展なしよ? それでなくとも彼、最近エイナちゃんとも組み始めたみたいだし」
「エイナさんはあまり関係ない気が……?」
「甘い。生クリームキムチチャーハンに蜂蜜入りヨーグルトをかけたくらい甘い認識よ、それ」
「えと、意味がわかんないです」
辛うじてそれだけを返せた私に、やや苛立った表情を向けて、先輩は説明を始めました。
曰く、苦楽をともにした男女はくっつきやすい。
曰く、命の危険がある状況なら、吊り橋効果で倍率ドン。
曰く、それでなくても狩り場という性質上、夜になればともに寝るし、食料の分け合いで間接キスなんてざら。
「それにエイナちゃんの方だって、今まで周りが歳上ばかりだったからね。同年代の気兼ねする必要がない男の子って、結構グッとくるんじゃないかしら?」
「…………」
「……って、シエル?」
黙ってしまった私を心配するように顔を近付けてくる先輩。
ですが、私はそれどころではなくて……、
「ど、ど、ど、どうしましょう!?」
「うん。落ち着きなさい」
「む、無理です!」
「落ち着け」
「痛い!?」
鋭い角度で入ったチョップに悶絶する私。
それを無情に見下ろす先輩。
痛みのお陰で少しは落ち着きましたけど……、やっぱり痛いし、理不尽です。
ですが先輩は涙目の私を無視。何もなかったかのように、話題を次に繋いでしまいます。
「そこで最初の話よ。誰かに取られたくないなら、打てる内に手を打ちなさいってこと」
「た、確かに……」
「今度アル君が来たら、遊びにでも誘ってみたら?
もしダメでも落ち込まないこと。最初なんてダメ元だからね」
「ど、努力します」
「よろしい。さ、じゃあ仕事に戻りましょう?」
そう言って先輩は私の頭を撫でると、給仕の仕事をするために行ってしまいました。
カッコいいなぁ、頼りになるし……。
………………バツイチですけど。
※※※
さて、「努力します」なんて宣言をした私は、文字通り努力をしなければならない訳で。
これが数日経っていた場合なら誤魔化しも効くんでしょうが、生憎とほんの数分前に宣言したばかりでして。
何が言いたいのかと言いますと、
「よぅシエル。相変わらず繁盛してんな」
「あ、アルさん……!?」
……そういうことでした。
仕事を探しにきた訳ではなく、食事だけしにきたというアルさんは、私に挨拶した後、『ウマイ米とチリチーズのドリア』を注文。現在は私の前で、チーズたっぷりのご飯を口に放りこんでいます。
「今回はジェイさんとご一緒じゃないんですね?」
「まな。エイナ入れて四人での狩りもそこそここなしたし、しばらくは一人で、ってな」
「一人じゃ大変じゃありません?」
「大変だけど、やっぱある程度は一人で動く練習もしなきゃな。
それに、今回はのんびり採集でもしようと思って。最近ご無沙汰だったし」
ま、今日は飯だけだけど。とアルさんは笑って『ジャリライス炒め』を追加オーダー。
私はキッチンから料理を受け取ると、アルさんの前に置きました。
談笑もいいですけど、そろそろ覚悟きめないと……。
まずは深呼吸を、一回。……二回。続いて、意識して笑顔を作って……よし!
「あの、アルさん」
「んー?」
「のんびりってことは、予定、特に詰まってはないんですよね?」
「まあいつもに比べるとスッカスカだわな」
「じゃ、じゃあ、あのっ」
「んあ?」
どした? と瞳を向けてくるアルさんに、ドキリ、と胸が高鳴ります。
ああ、もう! こうなったら勢いです!!
「急な話なんですけど、明日大丈夫ですか?
その、私明日お休みなんですけど、よければ付き合って欲しいな、って」
い、言えたぁぁぁぁぁぁ!!
やった。やりました。言えましたよ! あ、後はアルさんの返事を待つだけです。
さて、そのアルさん。ジャリライスをペロリと平らげ(早い!)て明日? と首を捻っています。
「シエル」
「は、はい!?」
「それ、俺じゃないとダメか? いや、ハンターが入り用ってくらいだから力仕事とかあるんだろうけど」
「……は?」
「お前には世話になってるし、付き合ってやりたいんだけどさ。あ、それか別の日じゃダメか?
生憎と明日は予定があってよ。明後日からならフリーなんだけど」
と、ここまで告げられて、ようやく私は悟りました。
(こ、この人、遊びに誘われてるって気付いてないぃぃ!?)
どうやら私の休日に、プライベートで『何か力仕事が必要』だと思われてしまったようです。その手伝いにアルさんを呼ぼうとしている、と。
うう、何でこんな勘違いをされてしまったんでしょう?
「で、やっぱ明日じゃなきゃダメ?」
私の葛藤とか苦悩を知りもしないで、アルさんは無邪気に問いかけてきます。
そうだ。今ならまだ、彼の誤解を解けます。そうして改めて誘えば!
……なんて、とっくに全ての気力を使い果たした私に出来るハズもなく。
「いえ、急な話でしたし。予定があるなら仕方ありませんね」
結局そんな風に返して作り笑い。
アルさんは「そうか?」ともう一度こちらをうかがって、それから食事代を置いて酒場を出ていってしまいました。
「…………はぁ。自分が情けないです」