幕間 ~another prologue~
────それは一つの“災い”だった。
業火の残り火と、焼け落ちた都市。眼下の景色からは、ここがどんな街だったのか、もはや想像も出来ない。
都市は都市としての形をなさず、生き物は残さず絶え果てた。
ここにはもう『死』しかない。
誰が見たとしても、生存者がいるなどと、浅はかな希望など持てはしないだろう。
それほどの破壊と業火。
けれど燃えさかる都市の中、たった1つの動く影。
この地獄とも言える世界の中、業火に焼かれながら、こちらを見上げるボロボロの男。
男は腕の中に、何か焼けただれた物を抱えていた。
それを何やらいとおしそうに、悲しそうに抱き締めて、憎悪のこもった眼差しをこちらへと向ける。
ちっぽけな、まるで虫けらのように見える男と、それを見下ろす自分。
天と地ほど隔たった距離を埋めるかのように、男は何事かを必死で叫んだ。
「────────!!」
果たして、彼はいったい何を叫んだのか。
それを確かめる術も、その興味すらなくこの場から立ち去る。
────後に残ったのは、空っぽの心だけだった。
※※※
なんだか、ガンガン痛む頭を押さえて、アルはベッドから身を起こした。
カーテンの隙間から見える街並みは、うすぼんやりと明るくなってきている。どうやら朝日が昇る直前といったところだろうか。
いつもなら二度寝を誘うベッドの温かさも、頭が猛烈に痛むせいで、さっぱり眠気がやってこない。
「あー……、何か変な夢見た気がする」
ガシガシと頭をかいて洗面台へ。
冷たい水で顔を洗って、出掛ける準備を始める。
今日は狩りに行く日だ。
集合時間は早朝なので、早めに目が覚めたのは、結果だけを見れば良かったのかもしれない。
が、正直こんな酷い頭痛で起こされては、そんな気分にもなれないものである。
結局、イライラした気分を抱えながら、アルはサクッと用意した朝飯をたいらげて、ポストに突っ込まれていた手紙を回収しに行った。
いつもの通り、ポストには故郷からの手紙。乱雑に封を切って中を確かめる。
「ぶっは!?」
噴いた。
いつも通りの文面の最後に、あまりにもさらりと衝撃的な事実が添えてあったのだ。
────追伸。バースさんの所に、子供が産まれました。
うん。そりゃ噴いてもしゃあないだろ。 と、自分で自分に言い訳する。
ほぼ『日刊ポッケ村』になってる故郷からの手紙には、「もうじき産まれるよー」と書いてあることもあったのだが。そこから色々な報告をすっとばして、あっさり「産まれました」じゃビビる。
確か予定日はまだ先だったし、何よりそんな大事なことなら、文頭に置いておけ。
ともあれ、めでたいことである。子供の名前は、まだ決まっていないのだろうか?
そういえば男の子か女の子かも書いてない。知り合いの子供ということもあって、そのあたりのことは無性に気になった。
とかなんとかやってるうちに、いつのまにか頭痛は引いていた。
めでたいことに続いて良いことなので、若干気分を良くしながら、さっさと出掛ける準備を終える。
「いってきます」
そうやって、もはや習慣になった『玄関先に飾った雪山の絵』に挨拶をして、アルは家を出た。
※※※
早朝。ようやく太陽が昇り始めた時刻にも関わらず、ギルドの管理する酒場にはチラホラとハンターの姿が見える。
「はよーっす」
「おぅ」
みんな早起きだなー。と、自分のことは度外視して、目的の人物に声をかけると、相手は眠そうに手を挙げた。
「ジェイだけか?」
「まあな」
「珍しいな、エイナがまだ来てねえなんて」
そう口にしながら辺りを見回すが、やはりエイナの姿はない。
というか一応説明しておくと、例のババコンガ狩りの後、レオルドがエイナに『昔のようにチームを組まないか』、と持ちかけたのだ。勿論、師匠が大好きなことに定評のあるエイナが、師匠からのそんな提案を断るハズもなく。
つまりは、アル、ジェイ、レオルド、エイナの四人パーティが完成しましたよ、という話だった。
「昨日は珍しくパッカパッカ飲んでたかんな。まだ寝てんじゃねえの?」
「二日酔いとかは勘弁だぞ……」
「まあ、そうなる前に旦那が止めるからな。それはねえだろ」
ハンターが二日酔いでまともに動けないなど、笑い話にもならない。
そんな風に危惧するアルとは対照的に、ジェイは何の心配もしていないようだった。
見ようによっては、この程度のことには動じない大物のように見える。が、実際はどんなことにも適当に構えているだけである。
さておき、いつまでも野郎二人でダベってても仕方ない。
残りの二人が来るまでに、昨日のうちに話し合い、受注すると決めていたクエストの契約を済ませてしまう。
「つか、ホントにこのクエストでいいの? 何か、エイナはノリ気じゃなかったみてえだけど」
「んー? いいんじゃね? 昨日、結局これに決まったんだしよ。俺らが契約しちまえば、エイナももう文句言わねえだろ」
いや、言うと思う。
「アンタら、何勝手に契約してんのよ!」とか言うのが目に浮かんだ。
まあ、昨日の時点でこのクエストを受注するのは、半ば確定してたようなものなので、エイナも強く反発は出来ないだろうが。
「んで? 狩りの組み立てはやっぱお前がすんのか?」
「は? なんで?」
「何でって……。これ、お前が持ってきた仕事じゃねえかよ」
そのジェイの言葉に、アルは昨日のことを思い返した。