優しい龍   作:ハトスラ

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第四章 《蟹味噌を求めて》
幕間 ~another prologue~


 

 ────それは一つの“災い”だった。

 

 

 業火の残り火と、焼け落ちた都市。眼下の景色からは、ここがどんな街だったのか、もはや想像も出来ない。

 

 都市は都市としての形をなさず、生き物は残さず絶え果てた。

 

 

 ここにはもう『死』しかない。

 

 

 誰が見たとしても、生存者がいるなどと、浅はかな希望など持てはしないだろう。

 それほどの破壊と業火。

 

 

 けれど燃えさかる都市の中、たった1つの動く影。

 

 

 この地獄とも言える世界の中、業火に焼かれながら、こちらを見上げるボロボロの男。

 

 男は腕の中に、何か焼けただれた物を抱えていた。

 それを何やらいとおしそうに、悲しそうに抱き締めて、憎悪のこもった眼差しをこちらへと向ける。

 

 ちっぽけな、まるで虫けらのように見える男と、それを見下ろす自分。

 天と地ほど隔たった距離を埋めるかのように、男は何事かを必死で叫んだ。

 

 

「────────!!」

 

 

 果たして、彼はいったい何を叫んだのか。

 

 それを確かめる術も、その興味すらなくこの場から立ち去る。

 

 

 ────後に残ったのは、空っぽの心だけだった。

 

 

 

※※※

 

 

 

 なんだか、ガンガン痛む頭を押さえて、アルはベッドから身を起こした。

 カーテンの隙間から見える街並みは、うすぼんやりと明るくなってきている。どうやら朝日が昇る直前といったところだろうか。

 いつもなら二度寝を誘うベッドの温かさも、頭が猛烈に痛むせいで、さっぱり眠気がやってこない。

 

「あー……、何か変な夢見た気がする」

 

 ガシガシと頭をかいて洗面台へ。

 冷たい水で顔を洗って、出掛ける準備を始める。

 

 今日は狩りに行く日だ。

 集合時間は早朝なので、早めに目が覚めたのは、結果だけを見れば良かったのかもしれない。

 が、正直こんな酷い頭痛で起こされては、そんな気分にもなれないものである。

 

 結局、イライラした気分を抱えながら、アルはサクッと用意した朝飯をたいらげて、ポストに突っ込まれていた手紙を回収しに行った。

 

 いつもの通り、ポストには故郷からの手紙。乱雑に封を切って中を確かめる。

 

「ぶっは!?」

 

 噴いた。

 いつも通りの文面の最後に、あまりにもさらりと衝撃的な事実が添えてあったのだ。

 

 ────追伸。バースさんの所に、子供が産まれました。

 

 うん。そりゃ噴いてもしゃあないだろ。 と、自分で自分に言い訳する。

 ほぼ『日刊ポッケ村』になってる故郷からの手紙には、「もうじき産まれるよー」と書いてあることもあったのだが。そこから色々な報告をすっとばして、あっさり「産まれました」じゃビビる。

 確か予定日はまだ先だったし、何よりそんな大事なことなら、文頭に置いておけ。

 

 ともあれ、めでたいことである。子供の名前は、まだ決まっていないのだろうか?

 そういえば男の子か女の子かも書いてない。知り合いの子供ということもあって、そのあたりのことは無性に気になった。

 

 とかなんとかやってるうちに、いつのまにか頭痛は引いていた。

 めでたいことに続いて良いことなので、若干気分を良くしながら、さっさと出掛ける準備を終える。

 

「いってきます」

 

 そうやって、もはや習慣になった『玄関先に飾った雪山の絵』に挨拶をして、アルは家を出た。

 

 

 

※※※

 

 

 

 早朝。ようやく太陽が昇り始めた時刻にも関わらず、ギルドの管理する酒場にはチラホラとハンターの姿が見える。

 

「はよーっす」

「おぅ」

 

 みんな早起きだなー。と、自分のことは度外視して、目的の人物に声をかけると、相手は眠そうに手を挙げた。

 

「ジェイだけか?」

「まあな」

「珍しいな、エイナがまだ来てねえなんて」

 

 そう口にしながら辺りを見回すが、やはりエイナの姿はない。

 

 というか一応説明しておくと、例のババコンガ狩りの後、レオルドがエイナに『昔のようにチームを組まないか』、と持ちかけたのだ。勿論、師匠が大好きなことに定評のあるエイナが、師匠からのそんな提案を断るハズもなく。

 つまりは、アル、ジェイ、レオルド、エイナの四人パーティが完成しましたよ、という話だった。

 

「昨日は珍しくパッカパッカ飲んでたかんな。まだ寝てんじゃねえの?」

「二日酔いとかは勘弁だぞ……」

「まあ、そうなる前に旦那が止めるからな。それはねえだろ」

 

 ハンターが二日酔いでまともに動けないなど、笑い話にもならない。

 そんな風に危惧するアルとは対照的に、ジェイは何の心配もしていないようだった。

 見ようによっては、この程度のことには動じない大物のように見える。が、実際はどんなことにも適当に構えているだけである。

 

 さておき、いつまでも野郎二人でダベってても仕方ない。

 残りの二人が来るまでに、昨日のうちに話し合い、受注すると決めていたクエストの契約を済ませてしまう。

 

「つか、ホントにこのクエストでいいの? 何か、エイナはノリ気じゃなかったみてえだけど」

「んー? いいんじゃね? 昨日、結局これに決まったんだしよ。俺らが契約しちまえば、エイナももう文句言わねえだろ」

 

 いや、言うと思う。

 「アンタら、何勝手に契約してんのよ!」とか言うのが目に浮かんだ。

 まあ、昨日の時点でこのクエストを受注するのは、半ば確定してたようなものなので、エイナも強く反発は出来ないだろうが。

 

「んで? 狩りの組み立てはやっぱお前がすんのか?」

「は? なんで?」

「何でって……。これ、お前が持ってきた仕事じゃねえかよ」

 

 そのジェイの言葉に、アルは昨日のことを思い返した。

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