剥ぎ取り用のナイフを使って、辛うじて傷付いていない青い皮を引き剥がす。
辺りにランポス達の姿はない。
あるのは彼らの遺体だけだ。勿論、全滅させた訳ではなく、逃走した個体もいるのだが。
「剥ぎ取りは終わったか?」
「ん、あぁ」
アルがランポスの遺体から剥ぎ取りをしている間、周囲に危険がないか警戒してくれていた楓が、声をかけてくる。
それに軽く返して、中腰の姿勢から背筋を伸ばした。
ほんの数分前には戦場であったハズなのに、辺りは静かなものだ。
あるのは勝者と遺体に成り果てた敗者だけ。
しかして、敗者の生き残りが勝者に襲いかかってくることもない。
(これが、弱肉強食ってことなんだろうな)
食うために襲う。
生きるために見捨て、逃げる。
そこに善悪はなく、あるのは純粋な自然界のルールだけだ。
そして、ハンターとして狩り場に立っている以上、アルも同じルールに生きているのだ。
「どうした? ……まさか、どこか負傷したのか?」
「いや、別に」
苦笑して首を振る。
何を感傷に浸っていたのやら。そんなのはハンターになったのなら今更だろうに。格好悪い。
「それ、『ガンランス』だったんだなーって思って」
格好悪いので当たり障りのない話題を提供する。
武器の造形はそれぞれの使い方と名を表すものだ。
巨大な盾に、長大な槍。
その特徴から、てっきり楓の武器はランスだと思っていたが、ドスランポスを片付けた攻撃方法は、ランスのそれとは一致しない。
「あぁ。ガンランスを見るのは初めてか?」
「まあな。最後のアレ、竜撃砲って言うんだろ? スゲー威力だったな……でしたね」
「竜車の時にも思ったが、別に無理に口調を改めなくてもいいんだぞ?」
苦笑しながらそう言われて、こちらも苦笑を返した。
我ながららしくない言葉遣いだったとは思う。そのせいで、却って失礼をかましているんじゃないか、とも。
そういう意味で、楓の言葉はアルにはありがたいものだった。
楓の方もアルの態度でそれを察したのか、これ以上は特に何を言うでもなく、竜撃砲の解説に入る。
「ガンランス最大の攻撃方法だからな。威力は申し分ない。反面、使用制限も多いが」
使用制限。
アルも聞いたことがある。一度使用すると、二度目の使用までに時間がかかるという。
放熱時間の問題なのだそうだが、それを差し引いても凄い威力である。
「さすがに、駆け出しと言ってもハンターだな。この程度は知っていたか。……ただ、まあ、それだけ、ということも無いのが少々困りものなんだがな」
「他にもまだ何かあんの?」
「本当なら、自分で気付くべきなのだろうが……、ガンランス使いと共闘する機会もあるだろうしな」
アルの疑問に、彼女はそうやって一度区切って、
「まずは放熱。これはお前の言った通りだな。ランスに熱が残っている状態で再び使用すると、刀身──というか砲身だな、が耐えきれずに爆散するらしい」
「爆っ!?」
「そうさせない為に、放熱完了までは使用出来ないようリミッターがかかっている」
「って、使おうにも使えねえってことか」
「ああ。次に切れ味だな。これは竜撃砲に限った話ではないが、穂先から砲撃を行う以上、切れ味の低下が著しい」
「そっか、言われてみりゃ確かに」
武器の切れ味は剣士にとっては最も重要な物だ。
切れ味が低下するとロクなダメージが与えられないし、甲殻に弾かれたりすると攻撃してるこっちの方が隙だらけになりかねない。そういうわけで狩り場においては、常に最高の切れ味を保つことが理想とされている。
「そして最後だが……これが一番問題でな。使用中は足が止まる」
「足が……?」
「気付かなかったか? 竜撃砲は引き金を引いてから、砲身に熱を送るまでに少々の時間が掛かる。加えてあの威力だ。使用する側にもそれなりの反動が、な。それを受け止める為には、相当に足を踏ん張る必要があるんだ。一対一ならともかく、集団が相手の狩りには向かないな」
「でも、さっきは──」
言いかけて、思い出す。
ドスランポスに追い討ちをかけた楓は、確かに足を止めていた。
アレでは他のランポスから狙い撃ちにされてしまう。
あの時、アルは楓の動きを追うのに必死で気付かなかったが、かなり危険だったのではないだろうか?
あんな風に足が止まってしまうなら、もっとこう、群れから引き離すとか、誰かが牽制するとか──
「……って、俺がやらなきゃいけなかったのか」
気付いて落ち込む。
結果的にアルの牽制無しでも竜撃砲は撃てたが、やれたハズのことをやれなかったのは凹む。
それが狩りの命運を分けるなら尚更だ。
「……なっさけな」
「? ……どうした?」
「いや、結構強引なタイミングで竜撃砲使わせちまったなぁ、って。……もうちょい余裕出せただろうに」
「タイミング的には確かにギリギリだったがな、それなりに引き離していたし……本当に危うくなればお前が割って入ってくれたろう?」
それは、どうだろうか。
だが少なくとも、彼女は自身で竜撃砲を放てる環境を整え、同時にアルのことも信頼してくれていたのだと理解する。
アルはまだ未熟だ。そのことは僅かな期間とはいえ、ともに過ごした楓にも十分にわかっているだろう。
それでも楓はアルを信頼してくれていた。自分を信頼してくれた相手に応えたいと思うのは当然の感情だ。
「次は失敗しねえ」
聞こえないように呟いた言葉は、しかし聞こえてしまったのかも知れない。楓の口元が僅かにほころんだ気がした。
「よっし! そんじゃ行くとしますかね!」
気合いを入れる目的も含めて声を張る。
「そうだな。ランポス相手にそれなりに時間をかけた」
「あぁ、急ごうぜ」
「いや、時間自体には随分と余裕がある。焦る必要はないだろう。
……と、そうだ。一つ訊いておきたいことがある」
「ん、何?」
「お前はエルモアに来て一月程だと言っていたが、ドスランポスを狩った経験はあったのか?」
「……いっぺんだけ」
楓の質問に少し間を空けて答えた。
やはり狩りの経験は、事前にすべて伝えておくべきだったのだろうか?
別に悪いことはしてないハズだが、伝えてなかったことに少しばかり罪悪感が募る。
「一度、か。それであの動きなら、それなりだな」
「はい?」
間の抜けた声が出た。
怒られるんじゃないかと身構えていたので、正直拍子抜けだ。
「ならば、自身の実力を鑑みて『狩れる』と判断した訳だな?」
「まあ一度狩った相手だし、何よりアンタがいたからな。少しくらい無茶でも、後のことを考えるなら狩った方が良いと思って」
実際、一人きりだったなら本腰をいれて狩らなければならない相手だ。何かの“ついで”にドスランポスを狩れる実力は、まだない。
なのでこれは、見ようによっては、実力が不確定な楓を、一方的に頼った形になってしまう。
今更ながらにそれに気付いて、アルは内心舌打ちした。
(情けねえ上に、寄生かよ!)
だが、楓は特に気を悪くした様子も見せずに笑った。
「私を信用してくれた、という訳か。まあ実際、大局を見るならばアソコで仕掛ける決断も間違いではないだろうしな。
……どうだ? 私はお前の期待に応えられたか?」
「お、おう! バッチリだ!」
またしても楓の回答はアルの斜め上をいく。
なんというか、器量の広い人だ。
「なら良かった。卵を運ぶ段階になれば、恐らく私は役たたずだろうからな」
「そっちは任せてくれ。さっき役にたてなかった分を取り返す」
アルの言葉に、楓は僅かに首を傾げ「いや、充分だったと思うが」と疑問符を浮かべる。
「私としては、二度目であそこまで動ければ大したものだと思うが……。それにお前の判断力も見れた」
いいのだ。
これはアルが勝手に役にたてなかったと思っているだけなのだから。
だから、勝手に取り返す。
そう決意表明すると、楓に背中を叩かれた。
「そこまで言うなら、卵運びはお前に任せよう。いや、元よりそのつもりだったが、そこまでやる気を出されては私の出番は本当に無いな」
そう微笑み、
「期待しているぞ」
その一言で、アルの中のやる気は急上昇した。
ないわー……。
武器の造形に明るくないったって、ランスとガンスを間違えてるとかないわー……。
身近に使う人間がいなかったからって、ガンスだって気付かないとか。アル、お前さ……。