優しい龍   作:ハトスラ

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紅 ~焼肉~

 さて、ハンター達から森丘と呼ばれるこの狩り場には、森の中心をぶち抜くような形で、高い山がそびえ立っていた。

 楓が言うには、その山頂が飛竜の巣になっているのだという。ならば目的の卵も、そこにあると見てまず間違いはない。

 

 実は森丘に来るのは初めての経験なので、アルとしてはゆっくりと狩り場を見てみたかったのだが、なんとなく言い辛いので、楓の歩くペースに合わせての行軍である。

 

 それでも、キノコの採れそうな場所。薬草の採れそうな場所。魚を釣るのに最適な場所、を探してしまうのは、もう何か職業病かも知れない。

 採集ハンター的な意味で。自分で言ってて、情けなさで泣きそうになるが。

 

 そうして歩き続けたアルと楓の二人は、程なくして山頂近くまで辿り着いた。

 

「着いたぞ。飛竜の巣だ」

 

 楓が指さした方向に視線を向けると、山頂近くにぽっかりと空いた洞窟の入り口が見えた。その洞窟の中が飛竜の巣、ということだろう。

 

 後は卵を見つけて運ぶだけだが、その前にこの質問は必要だった。

 

「リオレウスは……?」

 

「いないようだな」

 

 アルの質問に、洞窟内を覗き見た楓が答える。

 

 よし。と一息。

 

 あんな狭そうな空間で、飛竜と鉢合わせたら、卵どころではないのだ。

 そうして、リオレウスがいないのを確認しながらも、やけに慎重にアルは巣の中に踏み入れる。

 

 洞窟の中は思いの外、広かった。

 恐らくは飛竜の出入口なのだろう。天井には巨大な穴が空いていて、洞窟の中だというのに明かりが必要ないくらいには明るい。

 踏みしめる地面の感触は、想像していたものよりもずっと柔らかくて、外の地面の硬さと比べて驚いた。

 だが、ここで彼らが眠ることを考えるなら、それもまあ当然か。アルだって堅い床よりは柔らかいベッドで眠りたい。

 あとは、卵のためだろうか。実際のところは知らないが、そっちもやはり堅いよりは柔らかい場所に置いておいた方がいい気がする。

 とすると、この柔らかい地面を作るために、リオレウスやらリオレイアは土を運んできたり耕したりしていたことになる。なんとなくそれを想像して、アルは吹き出しそうになった。巣、という以上そういうこともあったのかも知れないが、『凶暴な竜』というイメージからはかけ離れている。

 

 そんなことを考えていたからだろうか。柔らかな土の感触とは別の、堅い感触を踏みつけて、その正体もわからぬまま思わず身を竦ませた。

 目を向けると湿気った茶色い土と枯れ草に混ざって、薄汚れた無数の白いモノが見える。

 それが食い散らかされた生き物の骨だと認識して、一瞬でもこの場所で気を抜いた自分を殴りたくなった。

 リオレウスに見つかれば、アルだってこの骨の仲間入りを果たしてもおかしくない。

 

 気を引き締め直して、卵を探す。

 と、辺りを見渡した中に、アルの身長程の岩棚を見付けた。

 

「あ、卵」

 

 注意深く目を凝らしてみると、そこには探していた物があった。

 両手を使って抱えなければならない程の卵が、合計三つ。別に隠してある訳でもなく無造作に。

 

「見付けたか」

 

「おう。後は、ちゃっちゃっとズラかるだけだ」

 

 近付いてきた楓に返答して、ニヤリと笑う。

 

「依頼内容は、二つ納品。……どうする、一気に運ぶか?」

 

 楓の提案に、アルは首を横に振った。

 

「一つずつ運ぼう。俺が運ぶから、護衛を頼む」

 

 往復は辛いが、成功率を上げるならばこちらの方が有効だろう。

 楓が卵運びが苦手なのは知っていたし、二人が二人とも卵を持っていては咄嗟の時に対応出来ない。

 なんせこの卵はバカみたいに重い上に、中身が固体じゃないせいでたぷたぷ揺れるのだ。挙げ句、衝撃にはとことん弱いので、持ち上げたら最後、下手に地面にも降ろせない。

 

「それが賢明か。……悔しいが、運ぶことに関しては私は役にたたないからな」

 

「まあ、不安かも知れないけどさ。ここは俺に任せてくれよ」

 

 苦笑した楓に苦笑で返す。

 さて、それじゃあ運びますかね。と、アルはポーチから手のひら大のボールを取り出した。

 

「なんだ、それは?」

 

「ん? 消臭玉」

 

 言って、卵の近くで炸裂させる。

 次の瞬間、飛竜の巣内部に漂っていた、生臭さと腐臭、血の臭いを混ぜたような嫌な空気が和らいだ。

 

「消臭玉……というと、アレか?」

 

「ま、読んで字の如くのアレだな……っと」

 

 笑いながら、しかし両手でしっかりと卵を持ち上げる。

 

「卵運びに消臭玉?」

 

 よっ、と卵が安置されていた岩棚から飛び降りた。

 屈伸を使って衝撃を殺してやるが、何度やってもこの瞬間は緊張するものだ。下手に勢いがつきすぎて衝撃を殺し損ねれば、そのままバランスを崩して卵を投げ出してしまいかねない。

 

「その、何か意味があるのか?……私は聞いたことが無いのだが」

 

 アルとは違い荷物を抱えていない楓は、軽やかに岩棚から飛び降りると、何だか微妙な表情をしていた。

 

「あー、ほら、飛竜の卵ってのは臭いがキツいんだ。ランポスなんかはその臭いに釣られてやってくるんだよ」

 

「消臭玉でその臭いを消している、と?」

 

 さすがに鳥竜種が卵の臭いに釣られてくる話は知っていたらしい。あっさりと答えに辿りつく。

 

「臭いは卵の中から常に発生してるみたいだから、気休めだけどな。……それに親竜も、卵を探す時は臭いを辿るらしいから。ま、簡単なモンスター避けみたいなもんだよ」

 

「成る程。考え得る対策を自分で講じている訳か」

 

「確かに一般的じゃねえよなー。あんまし効果が長続きしねえからかな?」

 

「そうかも知れないが……。うん、さすがだ」

 

「……っ」

 

 本気で関心してそうな楓の台詞に、ちょっと恥ずかしくなる。

 というか、最後に向けられた微笑みが自分的にヤバかったので、全力で目を逸らしてみたりする。

 

 あ、グギッていった。

 

 と、そんな感じで二人は一つ目の卵を運び始めた。

 

 

 

 

 

 

 よいしょー! とベースキャンプにある赤い箱の中に飛竜の卵をぶちこむ。

 ぶちこむ、と言っても緩衝材の上に安置するように、そーっとだが。

 

「これで後一つだな」

 

「……ああ」

 

 結論から言ってしまえば、アル達は首尾よく一つ目の卵を運び終えた。

 だというのに、何故か楓の表情は暗く感じられる。もしや警戒し続けて疲れているのだろうか?

 

「いや、こうもあっさり運ばれてしまうとな」

 

「まあ、リオレウスとも鉢合わせなかったし。散発的に襲ってくる連中は、楓がなんとかしてくれたからな」

 

 ドスランポスを片付けておいたのは、やはり正解だった。

 群れで襲われてはさすがに逃げにくいし、例え楓であろうとも群れを相手にアルを庇いながらなんて──うん。なんかなんとかしてしまいそうだ。

 

「……私が言っているのは、そういうことではないんだがな」

 

 じゃあ、どういうことだろう?

 アルがわからずに首を傾げていると、「わからないなら、いい」と苦笑された。

 微妙に納得がいかないが、まあいいかと割り切ることにする。実際、何か致命的な問題が起こったわけでもないし。

 

「そんじゃ、ささっと二つ目も運んじまうか」

 

「それは構わないが……。休憩は必要ないか?」

 

 そう言われて、少し腹が減っていることに気付いた。

 卵の運搬作業だけならまだしも、直前にドスランポスとやりあったせいで、自分で思っていたより消耗してしまっているようだ。

 

「あー……、じゃあ飯にしていいか?」

 

「無論だ。ちょうど私も小腹が空いた」

 

 

 ──そういう訳で昼食である。

 

 

 支給品の携帯食料は味気ない、と楓が一蹴したので、そこらにたむろしてるアプトノスを狩りに行ったり、そのついでにアルが(ついうっかり)キノコを採取してしまったりとかは、まあ別段書き記すことでもないだろう。

 

「うまーっ!」

 

 と、叫び声にも近い感想を漏らしたのは、言うまでもなくアルだ。

 

 手に持っているのは何の変哲もない骨付き肉なのだが、美味いものは美味い。いつも食べてるこんがり肉よりも、遥かに美味い気がするのは気のせいではないハズだ。

 焼いてくれたのは楓なので、その辺りのことを是非詳しく訊いてみたい。だって美味しいんだもの。

 

「……? いや、普通に焼いただけだが?」

 

「マジか……、俺の焼き方と何が違うんだ……」

 

 今度楓が肉を焼く時は、絶対近くで観察しよう。何か秘密があるハズなのだ。そんな機会があればの話だが。

 

「ふふっ」

 

「……何だよ?」

 

 唐突に笑った楓に、怪訝な顔を向けると、彼女は微笑みを浮かべたまま。

 

「なに、そんな風に旨そうに食べてくれるとな。大した手間ではないが、私が焼いて良かったと思っただけだ」

 

「あん? 美味い物を旨そうに食うのは当然だろ?」

 

「まあそうだが」

 

 言いながらも、楓の笑みは消えない。

 そんなに嬉しいもの何だろうか?

 

「狩り場で誰かと食事するのも久しくてな。その相手がお前のような美丈夫だと、尚更だ」

 

「びじょうふ……?」

 

(……って何だ?)

 

 と思ったが、自分のバカっぷりをさらけ出しそうな為に自重する。

 こういうのは言わなきゃバカだとは思われないものだ、意外と。

 

 とりあえず、楓は誰かと一緒の食事だから楽しいんだ、ということだけ解れば、この場合はオッケーだろう。

 

 アルも大抵一人でやってきた。だから、狩り場で誰かと一緒に食事するのが嬉しい、という感覚は何となくわかる。

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