優しい龍   作:ハトスラ

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地域差

「それにしても」

 

 と、楓は食事の手を止め、アルの全身を上から下まで流し見た。

 

「初めて会った時から思っていたが、その防具は何だ?」

 

「は?」

 

 随分と脈絡のない質問に、僅かに反応が遅れた。

 

 ──アルの防具。モンスターの素材を活かし、鉱石で固めた鎧で、全体的に白っぽい。

 ヘルム、アーム、メイル、フォールド、グリーブと一式きちんと揃っていたが、さすがに食事中はヘルムは外していた。解放された長い襟足が、風に遊ばれて何度か自分の視界にも写る。

 

 対する楓の防具は、前述したように紅いドレスで、『鎧』というイメージとは少し遠い。

 装備が纏う気配はとても力強いので、相当な防御力があるのだろうが、頭部を守るティアラだけは見ていて少し不安になる。なんせ、ほとんど頭が剥きだしだ。

 おかげで彼女の端正な顔立ちと、長く艶やかな銀髪は、隠れることなく太陽の下にさらけ出されている。

 なんというか、これだけで本当に頭を守る効果があるのかは少々疑問だ。

 もっとも、アルが知らないだけで凄い効果があるのだろうが。

 

 とにかくパッと見る分には、ハンターというよりどこぞの貴族サマだ。ついでに言うと、『姫』というよりは『女帝』だと思う。

 で、その女帝が言うには、

 

「私が知りうる限り、そんな防具はなかったハズだが。

 ……ああ、形だけならランポスシリーズに近いものがあるな。その系統か?」

 

 防具の名は、どんな素材を主に使用しているかで変わってくる。

 たとえば飛竜の代表格と言われるリオレウスを素材とした場合、防具の名前もレウスシリーズ。

 先ほど戦ったランポスやドスランポスの素材を主に使った場合は、ランポスシリーズ、といった具合だ。

 

 楓にランポスシリーズと言われて納得する。

 確かにこの防具は、それに近いものがあるのかも知れない。なにせ、

 

「これはギアノスシリーズだ」

 

「ギアノス? 聞かない名だが……」

 

 告げられた名前に、楓が眉を寄せた。

 

「まあ、この辺にはあんまし居ないのかもな」

 

「……何?」

 

「俺、ポッケ村出身なんだー」

 

「うん?」

 

 いきなり何を言ってんだこいつは。そんな風な目で見られる。

 けどまあ、順序だてするとこうなるんだから、大人しく聞いて欲しい。

 

「西大陸のフラヒヤ山脈にある小っせえ村なんだけどさ」

 

「それはまた随分遠いな」

 

「片道で一ヶ月くらいかな? 年中雪だらけのとこでさ、そのポッケ村の周りにはギアノスってモンスターが結構いるんだよ」

 

「ふむ、環境における生息地の差か」

 

 楓はそう結論付けたが、多分それが正解だろう。

 実際にエルモアに来てから、ギアノスなんて数えるほどしか見ていない。

 

「雪山が棲みかみたいな連中だからな。楓は、雪山行ったことないんか?」

 

「ない。近い環境で凍土と呼ばれる狩り場には行ったがな、それもエルモアから遠く離れた街での話だ」

 

 そもそもエルモア周辺は温暖な気候で、寒い地域なんて見当たらん。と続けて、楓は苦笑した。

 

「そっか、そういやエルモアのギルドの管轄って暑い場所ばっかだった気がすんな」

 

「狩り場の管理をするには適切な距離が必要なのだろうな」

 

 なるほど、と頷く。

 

「そんな風に棲んでいるモンスターが違うと、こっちでは大変だろう?」

 

「どうかな? こっち来てまだ日が浅いし、ランポスなんかはまんまギアノスだからよ」

 

「何だと?」

 

 姿形はそのまま。動きのパターンもほぼ同じ。違うと言えば、色が白いくらいか。

 

 そう説明すると、楓は何かに気付いたらしい。

 

「まさか、白ランポスか……?」

 

「あー……、こっちじゃそう呼んでるのか。学術名はギアノスらしいぞ」

 

 アルはエルモアに来てから、ギアノスの姿を数えるほどしか見ていない。

 だが逆に、『数えられる程度』なら見ているのだ。ランポスに混ざって、ほんの少し。

 あの程度の数では、防具を一式作ろうにも素材が集まるまい。楓がギアノスシリーズを見たことがないのも当然と言えた。

 

「っと、食った食った!」

 

 そこまで思い至った時、手持ちの肉がなくなって立ち上がる。

 

「さ、行こうぜ」

 

「せっかちだな」

 

 楓も苦笑しながらも立ち上がる。

 

 ちなみに、アルとしては楓の装備のことを訊いて見たかったのだが、そこはぐっと我慢した。

 彼女と同じくらいの高みに上れば、きっと自分で知ることが出来るハズだから。

 

 

 

 ──とは思ったのだが、やはり興味はある。

 

 

 

「ガンランスを使うのってどんな感じなんだ?」

 

 武具の名前については我慢して、カテゴリーとしての使い勝手を訊いてみた。

 うん。普段片手剣しか使っていないと、やはり重量武器にも興味があるものなのだ。

 

「使い勝手か? そうだな……」

 

 こちらの質問に、楓は一瞬思案顔を浮かべると真顔で、

 

「悪いぞ」

 

「え゛」

 

 思わず変な声が出た。

 自分の武器のことを使い勝手が悪いと言い切ってしまうのはどうなんだろう?

 

「重いし、切れ味は悪いし、砲撃を行う度に刃こぼれするし、竜撃砲を撃つ時は馬鹿みたいに熱いし、火薬を扱うせいで普段の手入れも大変だしな」

 

「あー……、なんだ。じゃあ何でそんなもん使ってるんだよ?」

 

 不満というか、問題点ばかりポンポン挙げられると、その武器を使う理由がさっぱりわからない。

 

 絶妙な顔をして再度問いかけると、楓は優しく笑った。

 

「うん? それでも私はこの武器が好きだからな、相性が良いと言ってもいい」

 

「………あ」

 

 息を呑む。

 

 好きだから──まるで子供みたいな理由は、だからこそ単純に『それだけ』なのだと告げていた。

 

 欠点が幾つもある。

 それを知っている。

 

 だけど、それを含めても好きなんだ。

 それは、ここで下手に長所を挙げられるよりも、アルには納得出来る答えだった。

 

「いくつかの武器を扱って、たどり着いたことだがな。どんな理由があっても結局の所、『好きだから』に行き着くのだろうな」

 

「すげぇな」

 

 そんな風に自分の好きな武器に出会えることが。

 その武器を使いこなす為に努力出来ることが。

 

 相性の良い武器でも、それを自在に使いこなすには相当な努力がいる。

 加えて、好きな武器と自分の相性が良いとも限らないのだ。

 アルは自分と相性の良い武器も、好きな武器も見つけられてはいなかった。

 

「楓は、すげぇよ」

 

「そうでもないさ。我を通し続けただけだからな」

 

 何でもないことのように言い切る彼女は、しかしどれ程の研鑽を積んできたのだろう。

 少なくとも、アルが剣を振るってきた時間よりは長いと思える。

 

「俺も楓みてえに、ビュンビュン武器を振り回してぇなぁ」

 

「振り回していただろう?」

 

 楓が言ってるのはランポス戦だろうが、アルが言ってるのは少し別の意味合いだ。

 

「違ぇよ。もっとこう、使いこなしたいってこと! それがデッカイ武器なら尚更さあ!」

 

「ふむ」

 

 楓はアルの腰にぶら下がっている片手剣に一瞥をくれると、

 

「充分うまく扱えていると思うがな。それに、私が言うのも何だが……、お前と重量武器は相性がそれほど良さそうには見えない」

 

「……腕力が足りねえってことかよ」

 

 楓の言い分に口を尖らせる。

 確かに他のハンターに比べると、ほんの少し──いや多少、いやいや僅かに、華奢だが。

 

「いや、腕力は鍛えれば備わるだろう。問題は戦い方だな」

 

「?」

 

「片手剣を使った戦闘を見る限りでは、鈍重な武器を振り回すよりは軽い武器で相手の隙を衝くやり方の方が向いていそうだ」

 

 まあ、武器に応じて戦闘スタイルは変えるものだが。と続ける。

 

「お前のように、軽いフットワークから隙を誘発する戦い方ならば、片手剣や双剣が向いているだろう」

 

「あ、確かに重い武器だと素早くは動けねえか」

 

「そうだな。これからどの武器を使うにせよ、今の自分の戦い方を見詰め直す必要は出てくる。基礎堅めは片手剣で良いだろうが、そこからどうするかを判断する時、武器の特徴と自身の戦い方を冷静に視れるだけの知識と経験は必要だぞ」

 

 最悪、積み上げてきた戦闘スタイルを全て崩さなくてはならないからな。と、楓は言ったが、もしかしたら彼女自身、武器の選定のために何度も戦闘スタイルを作り替えてきたのかもしれない。

 

「目下の所、筋トレと経験値かー」

 

「ああ。だが、無理して重量武器を使う必要はないだろう?」

 

「憧れってやつだよ。

 そりゃ、武器に優劣なんて無いのはわかってるけどな。軽い武器をバカにする気もないし、そんなのはその武器の使い手に対する侮辱だからな。

 けど、やっぱ男なら一度くらいはバカデカイ剣を振ってみたいの」

 

「そうか」

 

 そう呟いた楓の表情は優しかったが、どことなく子供扱いされてるような気がした。

 実際、憧れなんて理由で新しいカテゴリーの武器を使おうだなんて、子供っぽいが。

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