仮面ライダーギーツ 卵割編   作:エグ神

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やってしまいました。前々から妄想していた組み合わせです。
自分の中でワンエグに対して決着をつけたい気持ちもあり、執筆に踏み切りました。

ワンエグを知らないままこの小説に辿り着いたというアナタ、今すぐ神アニメ ワンダーエッグ・プライオリティを観てくださいお願いします。
逆にワンエグは知ってるけどギーツは観ていないという方、第9話「邂逅F:Wake up! モンスター」だけでも観てみてください。実質ワンエグなので。


それではどうぞ。


卵割Ⅰ:戦士の領分

 

 デザイアグランプリ。

 それは怪物“ジャマト”から世界を守るため、そして理想の世界を叶えるために仮面ライダーたちが戦う「生き残りゲーム」の名称として用いられた。ある時を境に、その全容が一変するまでは。

 

 デザイアグランプリの根幹とも言える世界を作り変えるための“創世の力”。その役割を一人の仮面ライダーが担ったことでかつてのデザイアグランプリは運営方法を一新。新たな「理想の世界を叶えるゲーム」に生まれ変わろうとしていた。

 

 ヒトの数だけ存在する幸せの形。

 それらを願い叶えようとする者たちと、そんな彼らを応援するオーディエンスたちの祭典。

 

 新たなデザイアグランプリが立ち上げられようとする中で、また一つ、強大な「願い事」を叶えようとする者もいた。

 

 

 

 

「——誰だ?」

 

 前触れもなく現れた気配に対して、ジーンは即座に光線銃“レーザーレイズライザー”の銃口を向けて牽制した。

 

 彼がくつろいでいた専用のオーディエンスルームには運営の人間をはじめとしたジーン自身が許可する者以外は侵入できないよう設定してあるはずだった。

 しかしながら彼の目の前に佇む少女は、セキュリティなど最初からなかったかのように、涼しい表情でこの部屋へと足を踏み入れてきたのだ。

 

 オーディエンスルームの存在を知っていること。そのセキュリティを容易く突破できたこと。この2点からまず間違いなくこの少女も自分と同じ時代に生きる者だとジーンは考えていた。

 だがしかし、その予想はあっさりと否定された。

 

「驚いちゃった。私たちの世界よりも、ずっと技術が進んでるのね」

 

 不可解な口振りを聞いた直後、ジーンは違和感に気づく。

 胸元に黒リボンのアクセントがある真っ白なワンピースに身を包んでいて、赤毛の長髪は背中まで伸びている。どこか田舎娘のような印象を覚える反面、前髪の下から覗く緑の瞳には引き込まれるような神秘を宿していた。

 

 ジーンと同じ時代——はるか先の未来に生きる者たちは自らの容姿や寿命を自由にデザインすることが可能である。

 故にどれだけ素朴な外見であっても未来人ではないと断言することはできないが、彼女が漂わせる異様な空気はジーンとは異なる、別世界の住人のようであった。

 ジーンの直感が、そう告げていた。

 

「……何者だ? いや、そもそも……人間なのか?」

「人間だよ。あなたたちとそう変わらない。嬉しさも悲しさも、楽しみも怒りも……嫉妬だって、私の中にはある」

 

 霧がかったような返答をする少女にジーンは眉をひそめる。

 少なくとも友好的な存在ではないことは確かだろう。

 

「ここに何の用だ? 単にデザグラを観戦しに来たってわけじゃなさそうだけど」

「あのゲームのこと? ちがうよ。あれもなかなか興味深いけど、私はもっと面白そうなものを見つけたから、そっちを観ていたいかな」

「へえ……。気になるね、教えてくれないかな?」

「いいよ。私とお友達になったら……教えてあげる」

 

 冷たい感触がジーンの全身を撫でる。

 

「——なるわけないでしょ」

 

 気づけば銃の引き金を引いていた。引かされた、と言った方が適切かもしれない。

 発射された光線は少女の体を通り抜け、虚空へ溶けていく。

 

 実体のない存在。ある意味ではジーンたちとそう変わらないというのも間違いではないのかもしれない。

 瞬きの後、少女の姿は消えていた。

 

「……嫌な予感がするな」

 

 自らの寿命を自由に設定できるジーンも感じる根源的な恐怖。

 彼に引き金を引かせたのはそれだった。

 

 

 知る人ぞ知る。とある街の片隅に、そんな表現が似合う小さな祠があった。

 祀られているのは九つの尾を持つ狐の神。

 

 ささやかな花が供えられたその祠の傍らに立つのは浮世離れした雰囲気をまとう長身の男。

 

「また増えたな」

 

 祠の付近に並べられた多くの絵馬を順に眺めながら、男——浮世英寿(うきよえーす)は微笑んだ。

 

 多くの仮面ライダーたちが理想の世界を叶えるために奮闘する“デザイアグランプリ”。未来人の娯楽として開かれていたそのリアリティライダーショーに狐の仮面ライダー“ギーツ”として身を投じた英寿だが、紆余曲折あって今は本物の「神様」をやっている。

 

 理想の世界をつくる“創世の女神”——デザグラ優勝者“デザ神”のための、いわば景品として利用されていた母と再会し、二千年にも及ぶ運営との因縁にケリをつけた英寿もまた神の座につき、代償の存在しない「誰もが幸せになれる世界」をつくり上げた。

 

 幸せの総量の天秤にかけられ、それを叶えるために自分の理想・欲望を記した“デザイアカード”は、人々の純粋な願いと決意を表明する絵馬へと変わり、神である英寿のもとに集う。

 

 幸福を取り合うのではなく、願い行動した分だけ報われる世界が始まるのだ。

 

 

 かつてデザグラの戦場となった街を時々歩き回っては、英寿は思い出に浸る。「思い出」と呼ぶには辛い出来事も多く経験してきたが、終わりよければ、というやつだ。

 

 一緒にデザグラを戦い抜いた仲間たちも、今はどこにでもいる一般人として生活している。

 

 再びデザグラが必要とされるその時まで、そこにある「普通の幸せ」を噛み締めるために。

 

 

 

 

————!!

 

「……?」

 

 辺りが暗くなり、街灯やビルの明かりが目立ち始めた時刻、遠くの方で何かが弾ける音と悲鳴が聞こえた。

 

「……またか」

 

 瞬時に現場へ転移し状況を確認した英寿は、目の前の惨状に険しい表情を浮かべる。

 背の高いビルが建ち並ぶ街のど真ん中。その地面に赤色を撒き散らしながら横たわっているのは、セーラー服を着た少女だったモノ。

 

 即座に怪しい気配を探るが、英寿の力で感知できるものは周囲には存在しなかった。

 ……自殺。そう結論付けるのに時間はかからなかったが、英寿の中では別の疑念が生まれる。

 

 今月に入ってから英寿が把握しているものだけでも、女子中学生に限った自殺件数は全国で三十件を超えている。

 偶然と片付けることは簡単だが、英寿はそれで自分を納得させることはできなかった。

 

 かつて経験したゲームの中には生存競争を強いられる「天国と地獄ゲーム」や人間が怪物“ジャマト”によって肉体の自由を奪われる「パラサイトゲーム」など一般人にも被害が及ぶゲームが多く存在したため、この立て続けに起こる女子中学生の自殺にも何かしら外的な要因があるのではないかと疑わずにはいられない。

 

 それにもう一つ、英寿は以前から不可解な現象を体感していた。

 

「やっぱり聞こえるな」

 

 おそらく一般人には聞こえない、神である英寿の耳にだけ届く“声”。

 はっきりとした主張は理解できないが、少女たちが自ら命を絶つ度にそれは聞こえてくる。

 

「……助けを求めているのか?」

 

 途切れ途切れに届くその声は、言葉として成り立っているものではない。

 だがそこに宿る感情が、誰かに助けを求めているように思えたのだ。

 

 自分以外には聞こえない声。であれば、自分が応えないわけにはいかない。

 

 英寿の中の“ヒーロー”が、呼び起こされようとしていた。

 

 

「叶えてやるよ。——神様だからな」

 

 

 

 

 戦う場所は校舎。それは以前と変わらない。

 そこは現実とは異なる空間。夢の中と表現した方がわかりやすいが、「事情」を知っている人間は「エッグ世界」とも呼ぶ。

 

「走って!」

 

 廊下を駆けるのは二人の少女と、それを追う二頭身の怪物たち。

 片方の少女を守るようにその手を引きながら、灰色のパーカーを羽織った少女は手にしていた武器を怪物たちへ振るう。

 

 牙が剥き出しになったような不気味な赤仮面をつけた怪物たちの名は“ミテミヌフリ”。彼らやそのボスから一人の少女を守り抜くことが、パーカーの少女——大戸(おおと)アイに与えられたミッションだった。

 

「どうして逃げる⁉︎ オレの愛が受け入れられないっていうのか〜〜〜〜⁉︎」

 

 ミテミヌフリを率いていたグロテスクな出で立ちの怪物——“ワンダーキラー”がそう叫びながらアイたちへと迫る。

 頭からペンキを被ったような品のない色彩の四つ足。すこし前にテレビで見たアニメ映画でこんなキャラクターが暴れていたのを覚えている。

 

「なにが愛よ! お前がわたしにくれたものなんて要らない傷だけでしょ⁉︎」

「将来困らないようにしてやったんだ! 親心だとなぜわからないんだァ〜〜‼︎」

「ふざけないでッ!」

「立ち止まっちゃダメ!」

 

 追ってくるワンダーキラーから少女を遠ざけるように、アイはひたすらに走り続ける。

 アイの持つメイスのような武器は大きくて、狭い廊下では振り回しづらい。校舎の屋上を目指し、そこで迎え撃つ。

 

『立ち回りが上手くなっているね』

『ブランク克服ってところか? 油断するなよ』

「うんっ!」

 

 どこからともなく聞こえてきた男性の声に応じつつ、アイは少女と共に階段を駆け上がった。

 

「愛だ、愛愛愛愛愛ッ! オレなりの愛情を注いでいただけ————!」

「さっきからアイアイアイアイ……うるせぇーっ‼︎」

 

 扉に体当たりをし、屋上へ飛び出すと同時にアイは体を捻る。

 

「もう——トサカに来たぜェーーーーッ!!」

 

 目一杯息を吸い込み、気合十分。

 四色ボールペンを思わせる大型のメイスを構え、全身でそれを振るった。

 

 ブレーキをかけることなく突進してきたワンダーキラーの顔面に打撃が炸裂。柔らかな果実が潰れるような鈍い音が弾けて、やがてワンダーキラーの肉体はぶくぶくと膨れ上がって爆散した。

 血のようにびちゃびちゃと降り注ぐ下品なペンキ。

 辺りに設置されているスピーカーから勝利のメロディが流れ、今回のミッション成功を確信したアイは足腰を脱力させて握っていた武器へと寄りかかった。

 

「あ……ありがとう。助けてくれて」

「ううん。もう大丈夫だよ」

「わたしも、あなたみたいに勇敢だったら……」

「私は勇敢なんかじゃないよ。すごく必死なだけ」

 

 そんなやり取りを最後に、アイが守った少女は煙となって消滅してしまった。

 満足げに笑って。

 

「……あと、どれくらいかかるかな」

 

 重い足取りで顔を上げたアイは、視線の先に見えたものへ小さく語りかける。

 

 隣の棟の屋上にあるのはアイと同年代に見える少女の彫像。

 今回のようなミッションを、アイが続けてきた理由そのものだった。

 

 

 

 

 色とりどりの花々で囲まれた屋敷。その敷地内にある庭園に“それ”はあった。

 

「見違えたよアイ。最初の頃とは大違いだ」

 

 屋外に置かれた椅子に腰掛け優雅に読書をしていた者がページをめくる手を止め、客人であるアイの方を見た。

 そこにいたのは二人。どちらも男性である。

 目も鼻も耳もなく、表情は一切読み取れない。

 申し訳程度のメガネと、口が三角形に造形されているトルソー姿の者たちを人と同じく呼称するのは些かおかしな気分になるが、間違いなく二人は人間の男性だ。

 

 ただ肉体を捨てて、脳だけを仮のボディに保存しているだけ。それだけの違い。

 アイのエッグ世界の中で、彼らは時折校舎のスピーカーを通してアドバイスをくれたり、くれなかったりする。

 

「そんなにねいるに会いたいかい?」

「そのために戻ってきたから」

「頼もしいこった」

「これからも期待しているよ」

 

 紳士的な口調で優しげに話す方は「アカ」。ラフな服装でほんの少し粗暴な口振りをするのが「裏アカ」。

 彼らがここの管理者。

 自殺した少女を救う“ワンダーエッグ”のシステムを開発した張本人たち。

 

 二人とアイの付き合いは……長いと表現するほどのものではないが、そう簡単に人には相談できない秘密を抱えた唯一無二の関係であることは確かだ。

 

 かつてアイはこの場所で、同じように「親友」であった少女を救おうと、ワンダーエッグの世界で自殺した少女たちの魂を救う戦いへ身を投じることとなった。

 

 庭園に設置されたガチャ——そこで購入した卵型のアイテム“ワンダーエッグ”を家に持ち帰り、就寝する際にそばに置くことで夢の中にエッグ世界が出現する。

 そこで再び手にしていたエッグを割り、生まれた少女をトラウマの象徴“ワンダーキラー”から守り抜くことでミッション成功。これを何度か繰り返すことで、アイ自身が救いたいと願った「彫像の少女」を生き返らせることが可能となる。

 

 アイは既に同じことをこなして「親友」を生き返らせている。もう慣れたものだ。

 

「最近はエッグを買いに来る奴らも減っちまったからな。今じゃお前とアヤメのツートップだ」

「……アヤメ?」

 

 いつものように五百円を払ってガチャマシンを回し、エッグを購入したアイがきょとんとした顔で振り返る。

 たった今裏アカが口にした名前には聞き覚えがなかったからだ。

 

「来たみたいだね」

 

 アカがそう言った後、アイは反射的に背後を確認した。

 

 背丈はアイよりも少し高い。百六十センチくらいだろうか。

 髪もアイよりちょっぴり長く、別段身なりに気を遣っているようには見えないが、不思議とアイのように野暮ったい印象はなかった。

 黒と紺。オーバーサイズ気味のジャケットで身を覆った彼女は、うっすらと笑ってアイの隣まで歩み寄ってくる。

 

「わたしから自己紹介したかったのに」

「あなたが……『アヤメ』?」

「初めまして、大戸アイ。アカたちから話は聞いてるよ。ベテランなんだって?」

「ベテランだなんて……そんな」

「わたし、最近よくここに来るんだ。他にも来る子がいるって聞いたから、一度挨拶しようと思って」

 

 差し出された手を見て咄嗟にアイは握手を交わした。

 ふと視線を上げると、穏やかな笑みでこちらを見つめるアヤメの顔があった。

 

 大人っぽい。第一印象はそんなところだ。

 

「珍しい瞳だね」

「あ、これは……」

 

 不意にアヤメがアイの瞳を覗き込み、左右の虹彩の色が異なることに気がついた。

 

 アイが持つオッドアイは、彼女のいい思い出も、悪い思い出も宿っている。

 この瞳のせいでいじめられたこともあったが、この瞳がきっかけで友達ができることもあった。

 

 どう思ったのかはわからない。アヤメは瞳について触れる素振りは見せないまま、握っていた手を離すと「じゃあね」とだけ残して庭園を去って行った。

 

「……いいのかい?」

「なにが?」

 

 アヤメの姿が見えなくなった後、唐突にアカが尋ねてきた。

 

「連絡先とか、交換しなくて」

「え、どうして?」

「また友達が欲しくなってるんじゃねえのか?」

「べつに……そういうんじゃ、ないから」

 

 買ったエッグを背負っていたリュックに入れ、アイも踵を返す。

 

「また来る」

 

 

 

 

 以前はアイの他にも三人の少女たちが庭園でワンダーエッグを買っていた。

 

 川井(かわい)リカ。元ジュニアアイドルだった彼女は、自分が突き放してしまったことがきっかけで命を落としたファンを。

 

 沢木桃恵(さわきももえ)。中世的な外見から女子に言い寄られることが多かった彼女は、拒絶してしまったことがきっかけで自殺した友達を。

 

 そして——青沼(あおぬま)ねいる。彼女は自分を刺した妹を。

 

 みんなそれぞれ、自ら命を絶った友達や家族を生き返らせるために、アイと同様エッグ世界でミッションをこなしていた。

 最終的に全員がクリアし、その目的を果たすことができたが——ねいるだけは、その後アイたちのもとから姿を消し、二度と帰ってくることはなかった。

 

 ねいるは今、エッグ世界に囚われている。アイが訪れるエッグ世界で彫像になっているのがその証拠だ。

 

 だからアイは戦い続ける。

 エッグを割り、世界を変えて、もう一度ねいると会うために。

 

 

 

 

「………………」

 

 ベッドの上で横たわりながら、アイはスマホの画面を睨んだ。

 

 一緒にミッションをこなした友達たちのグループLINE。

 いつからか連絡をとらなくなってしまいすっかり自然消滅状態だったが、再びエッグを購入し始めてからはアイの中でもやもやとした感情が蘇っていた。

 

 メッセージを送信したら、返ってくるかもしれない。

 だが一度そうしてしまうと、また彼女たちを巻き込んでしまう気がして——そう考えると、怖くて指が動かなかった。

 

「勇敢、か……」

 

 そう言われたとき、ちゃんと否定できてよかったと、薄れていく意識の中でアイは思った。

 

 

 

 

 

 

「なに…………コイツら?」

 

 その晩、ワンダーエッグを持って眠りについたアイは、エッグの世界で奇妙なものを目撃することになった。

 いつもなら最初に現れるのは“ミテミヌフリ”——赤い仮面をつけた二頭身の怪物たちのはず。

 今回わらわらと出てきたのは成人男性ほどはある大きさの、“怪人”とも呼べる存在だった。

 

「コレなに⁉︎」

『……知らんな』

『僕たちも把握していないイレギュラーだ。今回キミが買ったエッグに、何者かが干渉している可能性がある』

「どういうこと⁉︎」

『まずはエッグを割れ。そうしないと始まらない』

「っ……!」

 

「■■■■!」

 

 意味不明な言語を発しながら襲いかかってくる怪人たちから距離をとりながら、アイはエッグを握る手に力を込めた。

 

 

 

「……フリルの差し金か?」

「どうだろうね」

 

 アイには聞こえないよう、庭園でアカと裏アカが密かに言葉を交わす。

 

「だが普通じゃないことは確かだ。少しでも手掛かりを掴むためにも、アイには働いてもらわないと」

「相変わらずだな、お前は」

「……キミが言えた口かな?」

 

 自分たちも知らない事態が起こっているというのに、二人はやけに落ち着いた様子だった。

 ワンダーエッグのシステムは彼らが設計したもの。そこに把握していない要素が介入したとなればそれは、彼らの「優先事項」が尻尾を出したのと同義だ。

 故に事態を焦るのではなく、むしろ喜んでいる気配さえあった。

 

 

 

 ミテミヌフリはエッグから出てくる少女のみを襲う習性があったが、今回現れた敵は明確にアイを狙って追いかけてくる。

 どちらかといえば以前も戦ったことがある、ミテミヌフリが変質した“アンチ”に近いものだろうか。

 

 近くの教室へ逃げ込み机や椅子で即席のバリケードを作った後、アイは息を呑んでエッグを振りかぶった。

 

 くしゃ、と殻に亀裂が入る音は現実世界の普通の卵と同じ。

 床に転がったそれから一歩、二歩とアイが下がると、エッグはみるみる膨張し——やがてシャボン玉が破裂するかのように割れてしまった。

 

「…………え?」

 

 直後に視界へ飛び込んできた光景に、アイは自分の目を疑った。

 

 ワンダーエッグは自殺した少女の魂を救うために生み出された技術。

 エッグから出てくるのは決まってアイと同年代——十四歳程度の女の子だけ。例外は存在しないはず。

 

 だから今回エッグから出てきた人間は、これまでに該当しない異変が起こっているのだと予感させるには十分すぎる異分子だった。

 

 

「——ここがゲームの舞台ってわけか」

 

 

 殻の中から現れたのはタキシード姿の長身の男性。見るからに十四歳——少女と捉えることはできない。

 以前アイと一緒にエッグを購入していた友達の一人、沢木桃恵も当初は美少年と見紛う容姿だったが、それでも「女子」と指摘されればそうであると認識を改めることはできた。

 

 だが今回は違う。

 エッグから出てきた彼は明らかに男性であり、大人であり、たとえ「女子」だと言われてもそう思い直すことはできないほどの「美男子」であった。

 

「えっ、男の人……?」

「きみが俺を呼んだのか?」

「えっ? えっ? あの……?」

 

『……どういうことだ?』

 

 スピーカーから漏れたアカの戸惑いの声も状況の異様さを物語っていた。

 

 男は困惑するアイを庇うようにして前へ立ち、教室の外で溢れかえっている怪人たちを見やる。

 

「俺がいた世界とは随分ちがうな」

「あ、あの……! ……ど、どちら様ですか?」

 

 混乱する頭で必死に絞り出した問いをアイが口にする。

 男はその質問に対して不適に笑うと無言で懐から何かを取り出し——それを腰へ当てた。

 

《DESIR DRIVER》

 

《SET》

 

 瞬く間にベルトと化したそれに、続けて何やらでんでん太鼓に引き金が付いたようなアイテムを装填。

 

「——変身」

 

 流れるような動きで指を鳴らした後、ベルトを操作して男はそう呟いた。

 

「うわっ⁉︎」

 

《MAGNUM》

 

 彼の腰元から複数の弾丸が射出され、それが炸裂すると同時にパワードスーツが展開。

 男の全身を包み込み、狐を思わせる白黒の戦士へと「変身」を遂げた。

 

 

「え……ええ〜〜〜〜〜〜⁉︎」

 

 

 驚愕の声を上げるアイへ、戦士はマフラーをなびかせながら振り返る。

 

「仮面ライダーギーツ。簡単に言うと……神様さ」

「かっ、かっ、かみさま……⁉︎」

「ハハッ」

 

 目を丸くさせるアイを尻目に、戦士——ギーツは腰から引き抜いた純白のマグナム銃を前方へ構える。

 

「その言葉を——きみは信じるか?」

 

《READY————FIGHT》

 

 

 余裕綽々な言葉とともに、白狐は戦いの火蓋を切った。

 




ワンダーエッグを購入したら、それはエロスの戦士への片道切符。
もう、後戻りはできない————

とりあえずは導入。
しれっと登場したオリジナルキャラのアヤメちゃんのビジュアルコンセプトは「初期設定の大戸アイ」です。
こちらは制作陣のインタビュー記事などで見られるのでよろしければご確認ください。(あくまで参考で、この小説内のアヤメはもっと髪が長いイメージですが)
ちなみに着ているジャケットは言わずもがなアレです。意味は特にありません。


劇場版的な尺で考えているので、話数はそんなに多くはならないと思います。
完結できるといいな……。
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