仮面ライダーギーツ 卵割編 作:エグ神
この調子で叶ってくれ、誰もがワンエグを視聴する世界を。
間近でヒーローショーを見ているようだと、アイは最初にそう思った。
《BULLET CHARGE》
白の拳銃——マグナムシューター40Xのレバーを引き、仮面ライダーギーツは怪人の群れへと突貫していく。
腕を払うと同時に手にしていたそれで銃弾を発射し、一瞬で眼前にいた敵勢力を薙ぎ払ってしまった。
「数が多いな。……付いてこい!」
「えっ、あっ、はい!」
立てこもっていた教室から飛び出し、アイは彼の背中を追う。
移動している方向から考えてギーツも開けた場所——屋上を目指しているようだった。
狭い廊下の中だというのに、ギーツの動きにまったく制限を感じない。
床を蹴り、壁を蹴り、押し寄せる怪人たちの群れをいなしながら突き進んでいる。それもアイを確実に守りながら。
すごい。エッグの世界で体を使った戦いというものにある程度馴染みのあるアイでも、そう思わされるほど洗練された立ち回りだった。
「あ、あのっ!」
「ん?」
「コイツらのこと、知ってるんですか⁉︎」
「ジャマトのことか?」
「じゃまと……?」
ミテミヌフリの代わりに今回のミッションで現れた植物のような怪人の名前は“ジャマト”というらしい。
アカも裏アカも知らなかった情報を、何故だかギーツは当然のように把握していた。
「……! とりゃっ!」
背後から忍び寄ってきたジャマトに対し、アイも負けじとメイスを振り回した。
結果はクリーンヒット。まずは一体、ジャマトを仕留めることに成功する。
「……なるほどな」
その姿を一目見て、ギーツは小さくそう呟いた。
「この世界はこの世界で、不幸に抗う戦士がいるってわけだ」
「え?」
「思ってたよりもやるみたいだな。名前は?」
「あっ、大戸……アイ、です!」
「世話を焼きすぎる必要はないみたいだな。……上を目指すぞ、アイ!」
「は、はい!」
ギーツを先頭に、その頼もしい背中を追いかけるかたちでアイも廊下を前進した。
「あり得ない」
庭園内の椅子を立ち上がったトルソーから動揺の声が漏れる。
モニターモードへ変えた壁面を介してアイの夢の中——エッグ世界を確認していたアカは、ワンダーエッグの中から奇怪な戦士が現れた事態に言葉を失っている様子だった。
「なぜワンダーエッグから成人した男が出てくる」
「ヤツもついに彼氏が欲しくなったんじゃないか? なかなかの色男みたいだしな」
「ふざけるな。どう考えてもそんな範疇の話じゃない。……あのスーツはなんだ? 一体どんな技術で…………」
「少なくともアイの味方のようだな」
モニターを見上げた裏アカもまた、落ち着いているようでいて内心穏やかではなかった。
二人にとっての「優先事項」。その狙いに介入するために作ったワンダーエッグに、また別の何かが干渉してきているのは明らかだった。
「フリルじゃないとすれば、一体なにが————」
「全然減らない!」
迫り来るジャマトの群れを切り抜け、やっとの思いで屋上へ辿り着いた戦士たちだったが、依然として増え続ける敵勢力にアイは弱音を吐きかけていた。
「……妙だな。ここまで無尽蔵に出てくるのは、あまり馴染みがない」
「夢の中だから……かもしれません」
「なに?」
「えと、この世界って、私の夢の中なんです。それで、ミッションをクリアするには、条件があって……いつもはエッグから出てきた女の子を守ってボスを倒すんですけど、今回はあなたが出てきたから、正直私もよくわかってなくて……」
「なるほどな。勝手はわかった」
瞬間、ギーツの手元が淡く輝いた。
「そういうことなら話は早い。ボスが現れるまで、俺たちはひたすらコイツらを潰すだけだ」
直後にギーツが手にしていたのは、かわいらしい怪物の顔が象られたアイテム。
それを腰のベルトへ装填し、素早く操作する。
《MONSTER!》
先ほどまで装着していた純白の装甲が外れ、ギーツの上半身がファンシーな青と黄色に染まる。
マグナムシューターも消失し、打って変わっていかにも肉弾戦特化といったグローブが拳を覆っている。
「……かわいい!」
「それだけじゃないんだぜ」
そう言ってジャマトの群れへ駆け出したギーツが豪快に拳を振るう。
繰り出した打撃の数々は無駄なく標的へ直撃。
《MONSTER STRIKE》
最後に放った特大のパンチによってアイのもとへ到達する個体を出さないまま、第一陣はあっさりと退けてしまった。
「私、今回ぜんぜん働いてないな……」
ギーツの無双っぷりに、アイは思わず苦笑した。
エッグから出てきた人間が一人でミッションをこなしてしまったら、自分がクリアしたことにはならないのだろうか。そんな不安が一瞬よぎる。
だがこれで終わるわけがない。
両者の勘が一致したその時、ソレはやって来た。
「——お前は」
ジャマトの群れの上空から降りてくる影がひとつ。
何もない空間に光の足場を生み出し、ソレはゆっくりと二人のもとへ迫った。
白と金。煌びやかな色彩の中に一点だけ刻まれているのは禍々しい紅。
アイはその姿に見覚えはない。だがギーツ——浮世英寿にとっては忘れられない仇敵の一人だった。
「スエル……? どうしてお前が」
それはかつて英寿の母を苦しめ、利用し、デザイアグランプリを運営していた組織のトップ、エグゼクティブプロデューサーであるスエルだった。
デザイアグランプリを管理するためのあらゆる機能が備わった“ヴィジョンドライバー”を身につけたその姿は、かつて英寿がいた世界において「グランドエンド」を引き起こそうとした際に奴が変身していた“仮面ライダーゲイザー”である。
だがスエルは最後の決戦で神となった英寿とその仲間たちに敗れ、英寿にデザグラに関する権限ごと奪われるかたちでその存在を抹消されたはずだった。
《DELETE》
「わっ!」
全身に装着されていた装備“ドミニオンレイ”を射出し、無言でアイに向けて必殺の攻撃を繰り出すゲイザー。
その行動を予測していたギーツがいち早くアイを抱え、すぐさま攻撃の射線上から離脱する。
「あ、ありがとうございます」
「狙いは俺じゃなくアイみたいだな。だがなぜ奴が……?」
「アレも知ってるんですか? 今までのミッションなら……女の子たちのトラウマが怪物になってボスとして出てきたんですけど」
「……トラウマか」
確かに否定はできない。
母を利用し、デザイアグランプリを使ってあらゆる時代の人々の心を弄んできた運営のトップ。英寿にとっては「忘れた方がいい」過去なのかもしれない。
だがそんなもの、とっくに乗り越えている。
母を看取り、幸福と不幸を定める運営に抗う覚悟を決めたからこそ、浮世英寿は幸せの総量や限界が存在しない理想の世界をつくり上げることができたのだから。
「スエルはもういない。見たところコイツは物言わぬ人形、ただの雑兵だ。そんなものに神様が負けるわけないさ」
《SET》
立ち上がったギーツはまた別のアイテムをベルトへ装填すると、尻餅をつくアイを尻目に言った。
「ここは夢の中だと言ったな。——ちょうどいいバックルがある」
「え?」
「もっとも、今の俺に副作用が関係あるかはわからないけどな」
横に伸びていたレバーを回し、ギーツは腰を落としながら構える。
通常変身する際に現れる手型の機構が赤い装甲とともに五本出現し、爆炎を噴き出しながらギーツの素体へと覆い被さった。
《BOOST MARKⅡ》
狐の面はさらに目つきが鋭く、全身は燃え上がるような赤へと変化。
かつて英寿が世界を守る覚悟を決めた時に手にした力だった。
「……真っ赤になっちゃった!」
「さあ、ここからが——ハイライトだ」
そんな決め台詞と同時に真っ赤な狐は地を駆け、跳躍。
上空から二人を見下ろしていたゲイザーへと飛びかかり、地上へと引き摺り下ろした。
「————」
ギーツが接近しても何の反応も示さないゲイザー。
読み通りスエル本人ではないと確信したギーツは、頭に浮かべていた問答の選択肢を消し、最速でこの場を制圧することに全神経を注ぐ判断を下した。
屋上に着地した両者が同時に次の手を打つ。
ゲイザーはドミニオンレイを遠隔操作し無数の光線を発射。対するギーツは“ブーストフォームマークⅡ”の加速能力を遺憾なく発揮し、雨のように降り注ぐ光線の間をくぐり抜けながらゲイザーへと肉薄する。
「ハッ!」
拳による打撃を皮切りに、蹴撃、裏拳、膝蹴り。
ギーツが思いつく限りの攻撃が繰り出される度、血飛沫の如き火花と真紅の軌跡が宙に描かれた。
「——!」
自損覚悟で周囲に浮かんでいたドミニオンレイによる射撃を行い、ゲイザーは自分とギーツの間に強引に距離を作る。
その一瞬の隙を用いてゲイザーは右手から光の鞭を生成。ドミニオンレイ同士を繋げ、広範囲を薙ぎ払おうと渾身の力でそれを振るった。
《REVOLVE ON》
直後、ギーツがベルトを反転させる。
その操作に応じるようにギーツ自身の肉体が変形し、狐そのもののような四つ足の形態へと変身を遂げた。
「今度は狐さん⁉︎」
傍らで戦況を見守っていたアイが驚愕の声を上げる。
最初から狐みたいなマスクだなと思ってはいたが、まさか本当に狐になってしまうとは。
だがそれも束の間。
縦横無尽に駆け回り、ゲイザーによる光の鞭を目にも留まらぬ速度で回避したギーツは、奴を上空へ蹴り上げると再び人型の姿へ戻った。
《BOOST TIME》
壮大な音色とともに全身から爆炎を噴き、ギーツは灼熱を帯びた拳をゲイザーへ五度放つ。
ドミニオンレイの総数もまた五。
だがそれぞれ防御のため展開されたバリアはその悉くが破壊され、ギーツが繰り出した拳のすべてがゲイザーへと殺到した。
《BOOST GRAND STRIKE》
ゲイザーの胴体へ、真紅の必殺撃が突き刺さる。
空中で爆発とその衝撃波が拡散すると同時に、校舎のスピーカーからミッションクリアを知らせるメロディが流れ始めた。
「しゅ、しゅごい……」
あまりにスケールが違う戦いを目の当たりにし、全身の力が抜けてしまったアイのもとへ変身を解いたギーツ——浮世英寿が歩み寄る。
「大丈夫か?」
「あっ、はい。ぜんぜん。ケガしても、ここでなら治るし……」
「便利なもんだな」
差し出された手を握り返し立ち上がったアイは、改めて目の前にいる男性を見上げてみた。
大人の男性なのは確かだが、どこか年齢に見合わない威厳のようなものを感じる。常に余裕を崩さない様は、外見よりもどこか年季の入った振る舞いのように思えた。
そして何より、
(……イケメンだ)
タキシード姿も相まって、芸能人の握手会に参加しているような心境だった。
以前一緒にエッグを買っていた友達——リカならきっと物凄いはしゃぎ様を見せてくれただろう。桃恵もカッコイイ男の人は嫌いじゃないだろうし、なんだか独り占めしているみたいで申し訳ない気持ちになった。
「俺は浮世英寿だ。さっきも言ったが、訳あって神様をやってる」
「それはよくわからないですけど……すごく助かりました! ありがとうございます、英寿さん!」
名前までカッコイイ、とアイの口元が緩む。
「お互い、色々と聞きたいことがあるだろうが————あまり時間はないみたいだな」
そう言われてアイはハッとした顔になる。
ミッションをクリアした後、あまり長い時間はこの世界に留まることはできない。現実の体が覚醒して、日常へと帰されるのがお決まりだ。
「ええっと、その……」
「また会えるさ。俺を呼んだのはきみじゃないようだし、おそらくこの世界にはすぐ戻ってくることになる」
「え?」
「願われたからな、『友達を助けてくれ』って。ま、ハッキリとは聞こえなかったが」
「願われたって、誰に————」
「時間だ。負けるなよ、小さな戦士」
その言葉を最後にいつもの女の子たち同様、英寿も煙となって消えてしまった。
校舎の屋上で独り、文字通り狐につままれたアイは呆然とした表情で立ち尽くすことしかできなかった。
●
「神を名乗る不審者か……。さっぱり状況が読めないな」
「やっぱり」
翌日の昼。
庭園にて昨夜の戦いについてアカたちに報告したところ、二人も英寿については何も知らないとのことだった。
横でアイたちのやり取りを聞いていたアヤメは、芝生に座って何かを食べながら言う。
「価値観がアップデートされたんじゃないの? ほら、今の時代じゃ体は男でも心は女って人がいるじゃない? ……もぐ」
「英寿さんがそうだってこと?」
「いや、それはないね。エッグから出てくるのはあくまで生物学上の女。心がどうであれ男が出てくるわけがない。ましてや成人なんか」
「むぐ……。まあ焦らなくてもいいんじゃない? その英寿って人はまた来るって言ってたんでしょ? その時いろいろ聞けばいいよ」
「うん、そうしようと思う。……アヤメちゃん、なに食べてるの?」
「ゆで卵」
「ま、ひとまずガキどもに任せるしかないわな」
諦めたようにこぼす裏アカ。
実際のところ、ワンダーエッグを介してしか接触方法がないのならアイやアヤメに事を託すしかない。
「前に話してた……フリルとは関係あるわけじゃないの?」
「フリル?」
アイが何気なく口にした名前にアヤメが首を傾げる。
「それも不明だ。そもそも彼が使用していた技術を僕らは知らない」
「見た感じワンダーエッグとの互換性はなさそうだし、プラティ絡みじゃあないな」
「じゃあ本当に何もわからないんだね……」
「だからそう言ってんだろ」
初めての事態に困惑することはワンダーエッグを購入してから何度もあったが、今回はちょっと次元が違う。アカと裏アカも把握していない存在がいるとは完全に想定外だった。
何もわからないのなら考えても仕方がない。
ひとまずいつものようにワンダーエッグを購入し、今夜に備えることにした。
「ねえ、『フリル』ってなに?」
エッグを買った帰り道。並んで歩いていたアヤメが尋ねてきた。
「アヤメちゃん、アカたちから聞いてないの?」
「なんにも」
「話していいのかな……。えっと、フリルっていうのは——」
少し間を置いた後、アイはかつて裏アカから聞かされた話をそのままアヤメに伝えた。
アカと裏アカがまだトルソーではなく、人間としての肉体を持っていた頃の話。
厳しい監視が付く研究の日々にストレスを感じた二人は、戯れにひとりの「少女」を
AI技術を使った人造人間。その名が「フリル」である。
明るさや聡明さ、ユーモアや程よい毒気など、フリルには二人が「娘に持っていて欲しい」と思う気質の数々が入れ込まれ、まるで本物の人間のような成長を見せるようになった。
閉鎖された環境の中で、三人は仮初の家族として、それなりに楽しい日々を送っていたはずだった。
やがてアカにできた恋人を、嫉妬の末フリルが殺害するまでは。
お腹の中にいた娘はかろうじて助かったが、アカは怒りと絶望に飲み込まれ、フリルを納屋へ監禁した。
成長した娘——ひまりが中学生になる頃には再び幸せな日常が訪れたかと思っても、それも長くは続かなかった。ひまりもまた、自ら命を絶つかたちでこの世からいなくなってしまったから。
方法はわからない。だがひまりの死の原因はフリルにあると考えた裏アカは、彼女を焼却。体が滅んだ後も電子生命として活動を続けていると睨み、その試みに介入できるようワンダーエッグを開発した。
自分たちが生み出したフリルのせいで、罪のない少女たちが「死の誘惑」に引き摺り込まれるのを止めるために。
「——なるほどね」
そこまで聞き終わって、アヤメは息をついた。
「でも意外だなぁ。アカたちは何か悪いことのためにわたし達を利用してるのかと思ってたけど、そんな理由があったか」
「初めて聞いたときは、すごく驚いたよ。……私にできることなんて何もないかもしれないって、不安だった」
「べつにアイが何かする必要はないでしょ。アカたちの自業自得ってやつ」
「そんな言い方ひどいよ!」
「でも事実でしょ。そのせいで巻き込まれる子たちがいるんだから、たまったもんじゃないよね。あははっ」
嘲るような笑いを含んだ言動を見せるアヤメに、アイは底知れないものを感じ取っていた。
「……聞いてもいい?」
「ん?」
「アヤメちゃんが生き返らせたい人って……どんな子なの?」
恐る恐る問いかける。
ワンダーエッグを購入するということは、自分の身を危険にさらしてまで生き返らせたい人間がいるということだ。
「わたしはべつに誰かを生き返らせたいわけじゃない」
だがアヤメの返答は、アイが予想していたものと大きく外れていた。
「え……?」
「自分で命を絶つってことは、生きること以上に死ぬことに対して幸せを感じたってことなんでしょ? なら、わざわざ生き返らせるなんて余計なお世話じゃん」
「そんなことない! ……その時の感情に押されて、後悔してる子だっていっぱいいる!」
「自己責任」
立ち止まったアイの先を歩いていたアヤメが踵を返す。
「——なんじゃない?」
口元は笑っていても、瞳に宿る感情は読めなかった。
「……じゃあアヤメちゃんは、どうしてエッグを買ってるの?」
「んん、そうだなぁ……」
数秒思考した後、ニッと歯を見せてアヤメは言った。
「暇つぶし?」
昼間のアヤメとのやり取りが頭から離れないまま、アイは再び夢の中でワンダーエッグと向き合っていた。
場所は女子トイレの個室。狭いところは何だか集中できる。
————わざわざ生き返らせるなんて余計なお世話じゃん。
握りしめたエッグを見つめながら思う。以前、アカたちにも同じようなことを言われた。
自分はもう一度友達に会いたいと思ったから、またこの世界で戦うことを決めた。
だがもし、その生き返らせたい相手が自分に会いたくないと思っていたら?
「…………ああ、もうっ!」
モヤモヤした気持ちを振り払うように、アイは便器に座りながら眼前の扉へ乱暴にワンダーエッグを叩きつけた。
膨れ上がった卵が破裂したとき、曇っていたアイの表情は驚きに変わる。
「——また随分なところで呼び出してくれたな」
「あっ」
再び、神様を名乗る美男子が現れていた。
「ごっごめんなさい、英寿さんが出てくるかもしれないって忘れてた……」
「まあいいさ、ここにいればしばらくはアイツらに見つからないだろうからな。少し話をしよう」
「……そうですね」
狭いところに二人というのもなんなので、英寿は隣の個室へと移動して腰を下ろす。
エッグ世界とはいえ、ここが中学校の女子トイレであることを考慮するとなかなかシュールな光景であった。
「えっと……その……」
「“デザイアグランプリ”」
「え?」
「俺の世界で行われていたゲームの名前だ」
どう切り出していいかわからず口ごもっていたアイに代わるように、英寿は先に口を開いた。
「この前俺が変身した……“仮面ライダー”たちが競い合い、勝ち残った者が『理想の世界』を叶えられるゲーム。参加者には当初そう説明されていた」
英寿の口から語られる話はまさにマンガやアニメのようで現実味がなかったが、アイが身を投じているこのワンダーエッグの戦いも大概だと気づき、ギリギリ呑み込むことができた。
“デザイアグランプリ”の正体は遥か未来から訪れたオーディエンスたちが楽しむため様々な時代を舞台に展開されるリアリティライダーショーであり、参加者はその運営によって弄ばれていたことを知った英寿とその仲間たちは、その事実に動揺しながらも各々の目的のため戦いを続けることになった。
ある者はデザグラによる犠牲者の復活を。ある者は他者からの愛情を。そしてある者は、他のライダーたちを倒すための力を。
多くの人間の想いが錯綜するなか運営との戦いは激化し、最終的には英寿自身が説明した通り彼が神と成ることで人々の幸せは取り戻された。
「今の俺に肉体は存在しない。だからこうして、他人の夢の中に入ることもできたのかもな」
「じゃあ……ほんとに神様なんですね……。あの、助けてもらったお礼に、お賽銭とか……」
「ははっ、気持ちだけ受け取っておくよ」
壁越しに笑う英寿に思わずアイの緊張もほぐれる。
沈黙が流れている間に深呼吸をした後、アイはゆっくりと口を語り始めた。
「私は……いえ、私たちは、自分にとって大切な人たちを生き返らせるために、ワンダーエッグを買って戦いを続けてきました」
アイがエッグを買うようになったのは、
アイがしたかったのは感謝の気持ちを伝えること。
オッドアイのせいでいじめられていた自分の「友達」になってくれて、ひとりぼっちじゃなくしてくれた小糸に、ありがとうを伝えるためだった。
小糸がどんなことを考えてアイに近づいたのかは、あまり重要ではなかった。
思いを寄せる先生がアイに関心を持っていたから、その関心を自分にも引き寄せるためにアイに近づいた。たとえそんな理由だったとしても、アイは小糸の行動に救われたから。
それを自覚できただけでも、エッグの戦いには意味があったと思う。
「——でもミッションをクリアしても、私が知ってる小糸ちゃんは帰ってこなかった。それからは色々と吹っ切れちゃって」
「並行世界を繋ぐ技術か、合点がいったよ。……今はどうなんだ?」
「え?」
「目的を果たしたのに、なぜまたこの世界に来ようとした?」
「……会いたい子が、いるから」
英寿の問いかけで思い浮かべるのは、この校舎にも存在する「彫像の少女」の姿。
アイが再会を望む青沼ねいるは、フリル同様AI技術を応用して作られた人造人間だった。
「妹」のアイルに似せて作られ、彼女より優秀な存在として成長したねいるは、アイルの嫉妬を買い背中を刺された。
アイルを取り戻せば、ねいるの居場所はなくなる。だから彼女はアイルを生き返らせた後、本物の「人間」になるために自ら体を捨ててフリルのもとへと行った。
それ以来、アイは独りでねいると再会するための戦いを続けている。
一緒にエッグを購入していた他の友達——既に自分たちの目的を果たしたリカと桃恵と疎遠になっても、アイはねいると会うために。
「寂しくはないのか?」
「それは……ちょっとは。でも、これは私のわがままだから、リカや桃ちゃんを巻き込むわけには……いかない」
「……そうか」
時折言葉を詰まらせながら話すアイに、英寿もまた含みのある相槌を打った。
「きっと叶う。きみが願い続ける限り、いつか」
「…………神様にそう言われると、なんか心強い」
安堵するようにアイが笑う。
それが気休めであったとしても、少しだけ心が軽くなった気がした。
「……! 出るぞ」
「えっ?」
何者かの気配を感じ取ったのか、英寿は唐突に個室から飛び出すと廊下を目指した。
アイもまた慌ててその背中を追い、立ち止まった英寿が警戒している方向を見やる。
「あれは…………」
長く続く廊下の先に佇んでいたのは、ジャマトではなかった。
装甲と腰から伸びるローブは焦げたように黒く、身につけているベルトは反対に鮮やかな白。マスクは先日現れた“ゲイザー”に酷似しているが、その中心には黄金色のモノアイが光っている。
「またスエルか……? いや、違うな」
「英寿さん?」
「さがっていろ、アイ。おそらくコイツが————俺が呼ばれた理由だ!」
《ACCELERATE》
「変身!」
次の瞬間、視界を覆うような爆発がアイの目の前で炸裂。
《DUAL ON》
《GET READY FOR》
《BOOST & MAGNUM》
「っ……! 英寿さん!」
紅白の狐が黒いライダーの体当たりをすんでのところで受け止める。
衝突した二人の戦士は壁を突き破り、瞬く間に外へと戦場を移していった。
ミッションを最後までクリアした者には、大切な人を取り戻す権利が与えられる。
ただし、何事にも例外は存在する————。
最後にしれっと出てきたライダーはまだ名前は出しませんが一応オリジナルです。
外見は真っ黒なリガドΩ(モノアイや胸の中心部は黄金色)で、ベルトはヴィジョンドライバーの白リデコ的なイメージで考えました。
コンセプトは「焦げた目玉焼き」です。