仮面ライダーギーツ 卵割編   作:エグ神

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いやーーーーーーーーーーーーー遅れました。
というのもですね、ワンエグって本編と最後の特別編で放送間隔空いてたし再現したら面白くない!?ってことで………………というのは冗談です。実際はリアルでバタバタしたり他コンテンツにどっぷり浸かってたりしてシンプルにサボってました。申し訳ない。

この数ヶ月の間にいきなり監督のオーディオコメンタリーが始まったり何故かアイの新しいフィギュアがプライズで出たりと今になって供給が生えてきたワンエグ。期待してもいいのか?新作を…………。


卵割F:ここから

 古代人と未来人の価値観は決して交わることがない。分かり合えるとすればそれは、どちらかがどちらかに歩み寄るかたちでしか実現することはできない。

 

 価値観の違う人間に対して相互理解を求めることがそもそもの間違いだ。

 

 よく知らない存在に対して求めるのは「エンタメ」以外にない。

 知らないから滑稽な行動を笑い飛ばせるし、知らないから見せられる執念に息を呑む。当人の奥底にある感情など知る由もない。ただ後世に残るもの、外側に映るものだけを楽しめればいい。

 

 それが古代人・未来人の関係性だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 内情なんて知ったことではない。そんなものは求めていない。

 

 楽しければなんでもいい。楽しくなければエンタメではない。

 

 自分にとっての「楽しい」を探し求めて、ようやく答えが見つかりそうだったというのに、

 

 

————お前は、また邪魔をする。

 

 

 

 

 星が散らされた夜空の下、ジャマトたちが際限なくわき続ける。

 

 この世界の支配者であるアヤメ——ピューピルの意思を体現するかのように、彼らは「戦士」たちを排除しようと行進する。

 だがこの空間における死の象徴であるそれらを、戦士たちは軽々と蹴散らしていく。

 

 死に抗う生者。生きる世界は違えど、仮面ライダーと少女の抱く願いは皆同じだった。

 

 

「とお————りゃっ!」

 

 矮躯を活かして小回りの利いた跳躍とともに大型のカッターを乱舞させる川井リカ。

 彼女と背中を合わせるような立ち位置で、バッファは愛用の武器“ゾンビブレイカー”の刃を叩きつける勢いでジャマトたちに振り下ろしていく。

 

 星明かりだけだった景色に無数の火花が咲き、スポットライトのように共闘する二人の戦士の存在を際立たせた。

 

「その武器イケてんじゃん。私のと取っ替えて♡」

「無駄口叩くな!」

 

《POISON CHARGE》

 

 地に突き立てたゾンビブレイカーを蹴り潰すように、バッファが足裏でそのレバーを操作する。

 

「おわっ⁉︎」

 

 瞬時に危機を察知したリカが真上に跳ねる。

 直後に解き放たれた回転切りの衝撃波は広範囲に拡散し、眼前に見えていたジャマトの群れを一息の間に薙ぎ払ってしまった。

 

「殺す気か⁉︎」

「フン。気ぃ抜いてるからだ」

「もしかして俺様系? 実際やるとモテないぞ〜それ。ま、一定の需要はあると思うケド」

「あぁ…?」

「隙あり!」

 

 振り向いたバッファの仮面を回転した刃がかすめる。

 バッファが状況を理解したのは、いつの間にか彼の背後に出現していたポーンジャマトが切り裂かれてからだった。

 

 ブーメランのようにして手元へ戻ってきた武器を地面へ突き立てながら、リカは小生意気な笑顔で口を開く。

 

「油断大敵」

「余計な世話かけやがって……」

「ほーらほら、まだまだ来るよ。“アンチ”まで出てきたら面倒だし、とっとと片付けちゃおう」

「言われるまでもない」

 

 それぞれの刃を担いだ戦士が再び敵陣へ突貫していく。

 

 一方バッファとリカが豪快な戦いを見せる数メートル先で、互いにこぼした敵を仕留めながら堅実に役目を果たしている者たちもいた。

 

「すみません、後ろ失礼します!」

「えっ⁉︎ ああっうん!」

 

 桃恵が手にしていたパラソル型の槍のリーチを活かしながらタイクーンの背後に迫っていたジャマトへ突きを放ち、そのまま自分を中心として円形に刃を振るう。

 周囲に広がった衝撃波で浮き上がったジャマトに対して、入れ替わるようにして即座に立ち上がったタイクーンは軽やかな跳躍とともに愛用の双剣“ニンジャデュアラー”による斬撃を叩き込んだ。

 

 打ち上がった花火を思わせる爆発が空中で咲き乱れ、その下でタイクーンと桃恵は息をつきながら再度互いの背中を合わせる。

 

「カワイイ女の子に見えるのに、めちゃくちゃ強いんだね! ……まあ、そういう人はたくさん見てきたけど……」

「えっ……私のこと、女の子に見えますか?」

「……? どこからどう見てもそうでしょ」

「…………」

「あっ! 後ろ来てる!」

 

 目を丸くさせる桃恵の心の内など知らぬまま、タイクーンは彼女を庇うようにして身を乗り出しながら双剣を振るう。

 

「……カワイイだけじゃ、ないですからね!」

 

 前方に現れたのはかつてデザイアグランプリにおいてタイクーンたちライダーを翻弄したビショップジャマトと呼ばれる個体。

 奴が飛ばしてきた起爆性のある胞子が二人へ殺到するが、桃恵は突き出した槍を文字通りパラソルの如く展開するとそれを盾にして爆発を防ぎ切った。

 

「ありがとう!」

 

《FEVER》

《TACTICAL FINISH》

 

 パラソルを飛び越えてビショップジャマトへ肉薄したタイクーンが、必殺のエネルギーをまとった双剣をその肉体へ交差させる。

 目にも留まらぬ速度で斬撃の軌跡が描かれ、ビショップジャマトは静寂を貫いたまま爆発四散していく。

 

「さあっ、次だ!」

「はい!」

 

 

 

「みんなすごい……」

 

 揃って駆け出して行く両者を横目に、大戸アイは嘆息した。

 

 英寿の仲間らしい青年たちはまだわかるが、並行世界のリカや桃恵の動きも彼らと遜色のないものに仕上がっている。

 今やエッグミッションのベテランであるアイも舌を巻くほどの戦闘能力は、彼女たちは彼女たちでそうなるまでの事情があったのだろう。

 そう思うと心なしか悲しい気持ちにもなった。

 

「……!」

 

 思いを馳せているのも束の間、真横から感じた殺気に対してアイは反射的に武器を振るう。

 遠心力を交えた打撃がポーンジャマトの頭部を捉え、そのまま振り切ってやると水切りの如き勢いで遠くの地面まで転がっていく。

 

「あなたも凄いじゃん! 仮面ライダーでもないのに、こんなに戦えるなんて!」

 

 アイのそばでギターと斧が一体となったような武器を駆使してジャマトを蹴散らしていた猫のライダー——仮面ライダーナーゴが不意に語りかけてきた。

 ギーツが加勢に呼んでくれたライダーの紅一点。

 

 変身する前の彼女こそどこにでもいる少女といった出で立ちだったが、状況から察するに彼女もまたデザイアグランプリとやらでギーツたちと競い合った者の一人らしい。

 

「私にも、叶えたい願いが……会いたい人がいますから!」

「うんうん、その意気だよ! よっしゃ、お姉さんがファイヤーしちゃる!」

「ファイヤー?」

 

《TACTICAL FIRE》

 

 ナーゴが手にしていたビートアックスを奏でた直後、アイの持つ大型の武器の先端から聖火を思わせる炎が着火。文字通りファイヤーした。

 

「わわっ⁉︎」

「背中は任せて、安心して進んで。なんたってこっちには——心強い神様も付いてるんだから!」

 

 ナーゴのその言葉がアイの耳に届くのとほぼ同時に、二人の横から噴き上がるような爆炎が昇った。

 

 その()たちは草原を疾駆し、夜空を飛翔し、周囲に衝撃と爆発を散布させながら幾度も幾度も衝突している。

 

 創造と破壊。生と死。始まりと終わり。

 

 それらを司る白と黒が、神話のような闘争を繰り広げていた。

 

 

 両者の間に会話はない。

 ただひたすらに拳を打ちつけ、剣を振るい、叩きつけられる殺意に対して真摯な反撃で返す。

 言葉は余計なものでしかない。互いに何を思っているのか、何を目指すかは拳を交える前に十分にほざき合った。

 

 今両者を突き動かしているのは純粋な感情。

 人の想いを守りたいと願う者、それを終わらせたいという者の清らかな欲望である。

 

 

「————」

 

 ピューピルが絶え間なく放射する光弾がギーツⅨの軌跡を追う。

 一発一発が必殺。着弾の度に天空を貫くほどの火柱が上がるが、そのいずれも白狐を捉えることはできなかった。

 

 スケートの如き動きで地面を滑走し、タイミングを見計らいながらギーツも反撃を行う。

 ブレードを展開した状態の神器“ギーツバスターQB9”で空中のピューピルを狙撃。しかしピューピルもまた、ギーツの放つ攻撃の数々を悉く焼き落としてみせた。

 

 戦況は完全に拮抗している。創世の力と絶世の力。世界を書き換えるもの同士が互いに打ち消し合っている。

 

「鬱陶しい……!」

「お前もな」

 

 騒音の中で沈黙を破ったのはほぼ同時だった。

 

 ピューピルが遠隔装備による光線を束ねて解放した極大の光柱に対し、ギーツは創世の力で生成した障壁を構えてそれを受け止める。

 

 幾度目かの爆発。

 煙が晴れて再び互いの姿が見えた頃、ピューピルの頭に不毛の二文字がよぎった。

 

 創世の力と絶世の力。互いに打ち消しあう両者の戦いは正攻法で決着をつけることは難しい。

 力を取り戻されてしまった以上、強制武装によるギーツの弱体化も望めない。

 敗北こそしないものの、ピューピルにとって真正面からの戦闘ではある意味お手上げと言わざるを得なかった。

 

 やはり先に始末すべきは大戸アイ。

 絶世の女神の核である青沼ねいるの希望。彼女が現世に残した未練そのものである彼女を殺すことでしか、このゲームを完遂できる道はない。

 

「楽しそうじゃないな」

「あ?」

 

 不意にギーツが投げかけてきた言葉に対し、ピューピルは悪態にも満たない唸り声を上げる。

 

「これから至高のエンタメを築こうって言うのに、随分とつまらなそうじゃないか。思い通りにならないからと遊びを放棄する子どもみたいだ」

「なにが言いてぇんだよ……」

「お前にはゲームマスターとしての真摯さも欠けている。俺が知ってる運営は……デザグラに対してもっと本気だったんだがな」

「だからなに言ってんのかわかんねえんだよ!」

「所詮はその程度ってことさ」

 

 次の瞬間には、ピューピルは炎の渦の中にいた。

 真横から飛来した炎球が周囲に燃え広がり、苛立ちを覚える痛みを与えてくる。

 

 虫を払うように炎を消し、ピューピルは体の向きを変える。

 自分に武器を向ける戦士たちが並び立っている。ジャマトの群れを切り抜け、こちらまで到達した生への執着を秘めた者たちが。

 

「お前の願う世界とやらも、結局は遊びの延長線でしかない。本気で理想を掴みたいと願うアイたちと比べれば、お前が敵う道理なんてないんだよ」

「ほざけ」

 

 言葉そのものが煮えたぎっているかのような低い声音が鳴る。

 ピューピルの仮面——その下にあるアヤメの表情は想像に容易かった。

 

「エンタメの材料風情が人並みに言葉を話すんじゃねえよ。実感したいんだよわたしは……“死”の楽しさを!」

「アヤメちゃん……」

 

 そう声を漏らしたのはアイだ。

 

「誰も……楽しそうだから死にたいなんて思ってないよ。ただ……ただ……みんな夢に縋るしかなかった」

 

 俯きながら、アイはこれまで出会ったエッグの少女たちのことを思い出していた。

 

 屋上から飛び降りればどうなるか、

 駅のホームに身を投げ出せばどうなるか、

 なにも食べなければどうなるか、

 血を流し続ければどうなるか、

 

 どうなるか、分かってたはずだ。分かっていたのに、止まることができなかった。

 

 すべては楽になりたいがために。少しでも苦しみから逃れるための方法を、独りだけで決めてしまった。

 

 もうママに会えなくなるのに、

 大好きなすき焼きも食べられなくなるのに、

 全部、全部なくなってしまうのに、どうでもいいと思ってしまったのは…………楽しいという気持ちが、なくなってしまったからだ。

 

「私は今……毎日を生きることが楽しい! 楽しくて楽しくて、しょうがない! きっとリカも、桃ちゃんも、ねいるも! 一緒に生きてたら楽しい! そうに決まってる!」

 

 自然とアイの足は前に踏み出していた。

 

「私は私が生きたあの現実で……うんと楽しんでから死にたい! ……ママがいなくなって、お婆ちゃんになっても、私は……!最後の瞬間まで生きていたいよ! みんなが生きてる世界だから!」

「黙れッ!!」

 

 アイに向けて放射された光線の束が、瞬時に形成された半透明の障壁とぶつかる。

 

 ギーツが踵を返してゆったりと左腕を掲げると、アイの背後に淡い輝きを放つ階段が積み上げられた。

 その先にあるのは、巨大な彫像。

 アイの親友が囚われている、絶世の女神。

 

「決意は固いみたいだな」

 

 アイの横を通り過ぎ、ギーツが最前で足を止める。

 

「英寿さん……」

「君を遮るものは何もない、アイ。……行ってこい。大切な人が待ってる」

「……うん!」

 

 力強く頷いたアイが、ギーツが生み出した白い階段を駆け上がっていく。

 

 その隣を走るのは、世界を越えて駆けつけた彼女の友達。

 

「手を貸すよ!」

「さっさと終わらせるぞー!」

「……うん!」

 

 ジャマトの群れを突き抜けるアイ。その周辺に群がるジャマトたちを、リカの双剣、桃恵の槍が払い除けていく。

 

 有象無象が止められるものではない。

 いや、今この場に置いて彼女たちを阻める存在はなに一つなかった。

 

(……ねいる)

 

 ギーツが創造した白い階段に飛び乗り、その先で自分を見下ろしている絶世の女神へ向かって一直線にアイは走る。

 

(……ねいる!)

 

 もう一度会いたい————そんな気持ちだけじゃないことに、今気がついた。

 以前「親友」を失ったときと同じ、自分はまた憎んでいる。友達なのに、何も言わずに自分のもとを去った親友を、心の底から憎悪している。

 

「もう————!」

 

 眼前に女神の彫像が見えた瞬間、渾身の力を足腰から爆発させて跳躍する。

 手にしていた武器を頭上まで振り上げ、眼下にあるそれへとアイは叫んだ。

 

「トサカにきたァアアーーーーーーッッ!!!!」

 

 

 アイが振り下ろした一撃が絶世の女神と衝突し、一息の間に世界が一変した。

 

 卵の殻を割るように、薄い景色が剥がれた中から膨大な感情が流れ出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっという間に漂白された世界の中で再び瞼を開けると、視線の先で誰かの足が見えた。

 

 目を開ける前から、誰が目の前にいるのか理解していた。その人に会うために走ってきたのだから当然だ。

 

「あなたはここに来るべきじゃなかった」

 

 名前を呼ぶよりも先に、彼女はそんなことを口にした。

 勇気を出して顔を上げると、いなくなった時と何ら変わらない姿の友達が悲しそうな目で自分を見ていた。

 

「ワンダーエッグのミッションをクリアしたのなら、あなたは元の生活に戻るべきだった。桃恵や……リカのように。私のことを忘れた方が、幸せになれたはずなのよ」

 

 彼女はいつも冷静だ。言葉の裏にある感情をうまく隠せている気でいるのだろう。

 すっかり見慣れた、冷めた表情で語る少女から目を離さずに、アイはその言葉を受け止める。

 

「今の私じゃ……アイと一緒にはいられない。私は人間じゃないから。……私の妹が生きている世界で、私の居場所はないの」

「ねいるは世界に一人だけ。私と仲良くしてくれたのは妹のアイルじゃない、ねいるなんだよ」

 

 そう伝えることができた途端、ねいるの顔がより鮮明に見えた。

 褐色の肌に——髪は最後に見たときと同じ、波打つようなロングヘア。

 

 いつの間にか潤んでいた瞳に、アイが映る。

 

「人間とか人間じゃないとか、そんなのはどうでもいい! 私は私の友達が……青沼ねいるが大好きだから! だから…………もう一度、会いたかった。会って、謝りたかった」

 

 みんなとの関係が自然消滅してしまう直前、ねいるからの電話を出ることができなかった。

 彼女が人ではないと知って、動揺してしまっていた。

 

 だけど今は違う。

 彼女と過ごした時間は、かつての「親友」と過ごした時間と同じくらい、アイの中でかけがえのないものになっている。そう思い出すことができたから。

 

「ごめんね、ねいる。あの時……話すことができなくて」

 

 ねいるからの応答はなかった。

 ただ何かを迷うように、伏せた目を泳がせている。

 

「私は、ずっとねいると会いたかった。……ねいるは……そう思ってくれてた?」

 

 情けなくも確信を得た問いではなかった。

 時間が止まったような静寂に耐えて、アイはねいるが再び口を開くのを待った。

 

「私は」

 

 詰まるような声が漏れる。

 

「私は……アイに拒絶されることが怖かったんだと思う。……人間じゃない私を受け入れてくれるアイを想像できなくて、信じ切ることができなかった。親友失格ね」

「そんなこと……」

「だけど今の言葉を聞いて、ようやく確信が持てたわ」

 

 俯いていた顔をあげて、ねいるは続ける。

 

「これがあなたの幸せなのよね、アイ。……私と一緒にいてくれることが、あなたの理想の世界なのね」

「……うん!」

 

 お互いに迷いが晴れていくのがはっきりわかる。

 徐々に明るくなる声音の中に、ねいるの感情も帯び始めていた。

 

「あなたがそう言ってくれるのが、私は何よりも嬉しい。……けど、もうダメなの。私はフリルと一緒のところへ来てしまったから……あなたと帰ることはできない」

「ううん、まだ方法はあるはずでしょ? 私たちがよく知ってるやり方が」

 

 ねいるの返答を予感していたかのように、アイは即座に口を開いた。

 

「もともと私はそのために、エッグを割り続けてきたんだから」

 

 ワンダーエッグに囚われた少女たちを救う方法はただ一つ。

 外部の人間がワンダーエッグを購入し、そのミッションをクリアし続ける。

 アイのこれまでの行いと何ら変わりない。

 

 でもそれだけじゃない。

 

「ねいるの気持ちが聞けただけでも、ここに来た甲斐はあった。……もう迷う必要はないって、そう思えたから」

「うん。……そうね」

 

 ねいる自身の気持ちがわからないまま突っ走っていた今までとは違う。

 今のアイには親友から託された、幸せになりたいという願いがある。

 

 不安も迷いも、泡になって消えいった。

 

「あなたが懲りずに追いかけてくれるなら、私は待ってる。いつかきっと迎えに来て。エッグのミッションを乗り越えて……もう一度」

「うん、絶対迎えに来るよ。信じて待ってて」

 

 互いに歩み寄り、静かに身を寄せ合う。

 ねいるの温もりを間近に感じながら、アイは眠るように瞼を閉じた。

 

 

「またね」

 

 

 

 

 内に秘めた燃えるような怒りが、ピューピルの攻撃となって周囲を焼き払う。

 

 絶世の女神の力を強引に引き出した彼女にはそれを制御する気すらなく、視界に映る目障りな存在を破壊するためだけに振るわれた。

 己の許容量を越えようとも、ひたすらに幸せを閉ざすために。

 

 ピューピルの全身から解き放たれる熱衝撃波を凌ぎながら、タイクーン、ナーゴ、バッファの三人は包囲網を構築する。

 

 だが気休めにもならない。

 破滅をもたらそうと怨嗟の炎を燃やす今のピューピルにとっては、三人が包囲したところで枯れ枝で出来た檻よりも心許ない。

 

 すぐに抜き去られる。抜き去られればピューピルはアイのもとへ向かう。アイと絶世の女神との接触を防ぐはずだ。

 そうなれば今度こそゲームオーバー。世界の破滅は止められない。

 

 タイクーン、ナーゴ、バッファ、それぞれが同様に思考を練っていた直後、その時は訪れた。

 

「うわっ⁉︎」

「きゃあっ⁉︎」

「チッ……!」

 

 爆発的に膨れ上がったエネルギーの波が周囲の三人を吹き飛ばし、直後にピューピルが動き出す。

 瞬きの間に方向転換。人の動きからは逸脱した動作で踵を返し、草原を蹴りソニックブームを拡散させながらピューピルは移動を始めた。

 

 

 大地を駆けるその姿は飢えた獣のよう。

 至高のエンターテイメントを追い求める獣は、もはや楽しむ心を忘れ怒りを原動力としている。

 

 自らを阻む者たちへの怒り。元は彼女を成り立たせていたはずの軸も、そこかしこがへし折れていた。

 

(ゲームマスターとしての真摯さだと……? そんなものあるわけねえだろ……!! 遊びってのはなぁ……()()()()()()()()()()()()()()ッ!!)

 

 絶世の女神との距離が瞬く間に縮まっていく。タイクーンもバッファもナーゴも、ギーツも前方にはいない。皆ピューピルの速度には追いつけない。

 

(真摯かどうかなんてのは他者との比較で生まれる相対評価でしかない。わたしだけが楽しむ世界に……そんなものは要らないんだ!)

 

 ギーツが創造した絶世の女神へ続く光の道。その最奥に大戸アイの姿が見える。彼女は女神の彫像に触れたまま動こうとしない。

 

 殺す。顔を拝む暇もいらない。

 アイを殺し、ギーツとその仲間をこの世界から退去させれば勝負は決する。

 

 あらゆる並行世界を巻き込んだグランドエンドを、この手で。

 

「お前が楽しいとムカつくんだ、大戸アイ……!」

 

 軋むほどに握りしめた拳を引いたピューピルがアイへ肉薄。

 

「だから! 黙らせてやるよ!!」

 

 だが、

 振りかざされた拳がアイの頭蓋を粉砕するよりも先に、

 

 ピューピルの胴に、脳天まで震撼するような打撃が突き刺さった。

 

「が……っ!!」

 

 拳が到達する直前に振り向いたアイが、愛用の武器を振り抜いてピューピルの体勢を崩す。

 

 直後、アイの手から消滅。

 再び光に包まれ、そしてそれが消えた時、アイが手にしていたのはいつものようなメイス型の武器ではなく、文具のコンパスを模したような対物ライフルだった。

 

「言ったよね……今の私だって、すごくトサカにきてるの」

 

 その銃口をピューピルへ突きつけ、小さな指先で引き金を押し潰す。

 

「度肝抜くだけじゃ、済まないんだからァーーーーッッ!!!!」

 

 一瞬で膨れ上がる光と熱、衝撃。

 

 銃口から解放されたのは弾丸などではなく、アイと、アイの心を支えていた少女の思念そのものがエネルギーに変換されたかのような莫大な熱線。

 

 ゼロ距離で放射された光の柱に焼かれそうになる体を庇いながら、アヤメは仮面の下で怨嗟を再燃させる。

 

 アイがまた遠ざかっていく。

 彼女を始末するだけで全てが決するというのに、またしても。

 

 背後に感じるのは振り切ったはずの障害。

 ピューピルの脳裏には、虫唾と共にある二文字が走っていた。

 

(お前が……! お前さえ……ッ!!)

 

 熱線を振り払い、宙を漂いながら即座に背後を振り返る。

 

「英寿さん!」

 

 合図を送るようにアイがその名を呼ぶ。

 振り返ったピューピルの正面、その視線の先で、

 

 狐が笑っていた。

 

 

「——ギーツゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッ!!!!」

 

「さあ、ハイライトだ」

 

 

 バックルのレバーを叩き、ギーツⅨが宣言する。

 

《DYNAMITE BOOST TIME !》

 

 炎の噴出と同時に駆け出したギーツの尾が展開。

 九つの尾が翼のように広がり、創世の神はピューピルへ向かって飛翔した。

 

「ッ……‼︎」

 

 憎悪を孕んだ叫びが出尽くした頃、ピューピルは不安定な体勢のまま遠隔装備の光線による迎撃を開始。

 だが当然、苦し紛れの抵抗など神様は意に介さない。

 

 九つの尾を広げたギーツは低空飛行のまま豪速でピューピルとの距離を無くす。

 光の雨の間を縫うように、余裕を飛び越えて遊び心すら感じる風となって、

 

 九尾の白狐は、破滅の化身へ裁きを下す。

 

 

《BOOST Ⅸ VICTORY》

 

 

 ピューピルの漆黒の肢体に叩き込まれる純白の一撃。

 

 世界そのものすら変えるエネルギーを内包したその蹴りは、ただ一つの悪意を消し去るためだけに。

 

「————ッッ!!!!」

 

 腹部の感覚がなくなり始めて、アヤメは仮面の下で奥歯を軋ませる。

 

 仮初の肉体と共に精神も崩壊していく最中で、彼女はかつて支持していた古代人の顔を思い浮かべていた。

 

 貪欲な奴だった。

 どんな手段を使っても欲しいものを手に入れる、「生」の力に溢れた、()()()()()()()だったのに。

 

——ハハッ……ハハハハッ……! アーハッハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

 

 ——なんだよ、と霞む視界を睨みながら思う。

 創世の力で未来人の不死性すら打ち消されたアヤメがこれから踏み入れるのは本物の「死」。

 

 求めていたものを目の前にして、アヤメの中で怒りをかき消すほどの後悔と、恐怖が噴出していた。

 

「…………死ぬのって…………めちゃくちゃ怖いじゃんか……!!」

 

 世界を巻き込もうがきっと関係ない。

 

 横断歩道は、みんなで渡っても————。

 

 

 

 消滅する。

 体も意識も粉々になって、何もかもが消える。

 

 死後の世界を知る者なんて存在しないのかもしれない。

 

 なぜならその先は、どこまで行っても白に包まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもと同じ、ミッション終了を知らせるファンファーレが響いて、アイは頭をハッキリさせた。

 すぐ近くに佇んでいたリカと桃恵の体は淡い輝きに包まれ、それがどういう意味なのか漠然と察する。

 

「……あの」

「いやーさっきの凄かったなアイ」

「あんな派手な攻撃もできるんだね」

 

 ねいるのライフルでアヤメを吹き飛ばしたことを言っているのだろうか。

 別れが近いというのに、二人は名残惜しさの欠片もない言葉を投げてきた。

 

「——もうベテランだからね。結構マッチョになってるんだ」

 

 あの頃を思い出して、アイも自然に返す。

 

「いやビームにマッチョ関係ないだろ!」

「こっちの世界じゃなんでもアリだからね」

 

 しばしの静寂。

 やがて沈めていた言葉を引き上げたのは、アイだった。

 

「ありがとう、助けてくれて。……また、会えるよね?」

「なに言ってんの。いるんでしょ? こっちにも。パラレルの私たちがさ」

「会おうと思えば、いつでも会えるんじゃないの?」

 

 首を傾ける二人に、アイはそれ以上なにも言えなかった。

 何かを察したのか、ただの気まぐれか、リカはアイに歩み寄り、笑顔で続ける。

 

「まあ私はアンタと出会ったばかりだけどさ、良くしてやってくれよ、こっちの私に」

「私も。なんかわからないけど、安心するよこのメンツ」

 

 同一人物故の直感なのか、不思議とリカと桃恵は口を揃えた。

 潤んできた目元を擦った後、アイは視線を上げて笑った。

 

「——うんっ。今度一緒に遊ぶよ、絶対!」

 

 その答えを待っていたかのように笑顔を見せて、

 輝きを増した光に包まれ、リカと桃恵の姿は見えなくなった。

 

 

「…………」

 

 ふと視線を横へ流す。

 いつの間にか変身を解いた神様が、穏やかな笑みを浮かべてアイを見守っていた。

 

「大切な人には会えたみたいだな」

「はい、英寿さんのおかげです。……本当に、色々とありがとうございました」

「気にするな。所詮、ちょっとお節介を焼きたくなっただけだからな」

「それで救われましたから」

 

 互いにくすりと鳴らした後、改めて向かい合う。

 

「俺が何かしてやれるのは今回だけみたいだ。……負けるなよ」

 

 そう言った彼の眼差しは、アイを捉えてはいなかった。

 アイの背後……少女の形をした、ただならぬ死の気配に向けて、彼は牽制するような目を向けている。

 

 アイもその気配には気づいていた。

 

「負けない。……私、約束しましたから」

 

 その答えを聞いた英寿と——その後ろで静かにやり取りを眺めていた彼の仲間たちが、先ほどのリカと桃恵と同じ淡い輝きに包まれていく。

 

「私のハイライトは、ここからです」

 

 冗談交じりに口にしたアイが手で象った狐を見せる。

 英寿もまた、それと同じ狐で返した。

 

「作ってみせろ、キミの幸せな世界を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の朝はとても気分よく目覚めることができた。

 エッグのミッションをこなした後は現実世界の肉体も相応に鍛えられるが、疲労感や倦怠感は全くない。むしろ調子がいいくらいだ。

 

 ベッドから降りた後、アイは持っていたスマホを起動しかけて手を止める。

 

 並行世界を巻き込んだ戦いから、もう一週間が経過している。

 覚悟は決まっているはずなのに、アイはまだ踏み出せずにいた。

 

「大丈夫かな」

 

 小さなカゴの中。

 親友から預けられたペットのネズミ、“アダム”に問いかけながらアイは心を遠くへ飛ばした。

 

 

 

 

 やがて意を決してスマートフォンを起動し、メッセージアプリを開く。

 アイその中に登録されていた一つのグループチャットに入り、

 

 

 

『久しぶりに遊ばない?』

 

 

 

 今まで言えなかった、たった一言を伝えた。

 

 

 

 




これにて卵割編完結です。書きたいことは大体詰め込めたかな……?
改めて、ワンエグことワンダーエッグ・プライオリティを是非観てください。名作です。できれば円盤買ってドラマCDまで聞いてください。
あと最近やってた監督のオーディオコメンタリーもおすすめです。
みんなでワンエグを盛り上げていきましょう!!!!(ヤケクソ)

それにしてもギーツVシネが出て、物語がひと段落ついたタイミングで終われたのはちょうどいいかもしれない。
またどこかでお会いしましょう。
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