「もう1回!もー1回ダッ!!」
「落ち着けってエイラ。もう3回もやり直しただろ」
「ナンデダ!?なんで全部サーニャが勝つんダ!?未来は変えられないってゆーのカヨ~!?」
「どうどう──エイラはこっちで何とかしとくから。サーニャ、後はよろしくね~!」
「サーーニャァァァァ~~~───!」
このままではじゃんけんに固有魔法まで使いかねないと判断されたエイラは、シャーリーとハルトマンに広間の外へ連行されていく。バタン、と扉が閉じられると、サーニャは小さく苦笑いしながらソファに腰を下ろした。
「それじゃあ──はい、ユーラ」
「失礼します……」
厳正なるジャンケン×3の結果、勝ち残ったサーニャは自身の膝にユーリを寝かせる。
「あ、あのサーニャさん。重くないですか?」
「私は大丈夫。……だから、ユーラも楽にしていいのよ?」
「……はい……」
ユーリなりの気遣いとして、サーニャの膝になるべく負担を掛けないよう少しだけ頭を浮かせていたのだが、それもすぐにバレた。大人しく首に込めていた力を抜き、サーニャの膝に頭を預ける。側頭部に太腿の柔らかい感触が伝わってきた。
サーニャはユーリの頭に手を伸ばし、耳に掛かっていた髪を優しく掻き分ける。
「じゃあ、最初は右からね。痛かったら言って?」
「お、お願いします……」
差し入れられた耳かきが、浅い位置を優しく引っ掻く。今まで経験したことのない感触に、ゾクリとした──しかし不快ではないものが背筋を走った。
「ユーラの耳、思ったより綺麗……あまり汚れてないみたい」
「そう、ですか……確かに、リーネさんも酷く汚れが溜まっているという印象は受けませんでした。これも魔法力のお陰……なんでしょうか」
「ちょっと、残念かも……」
「えっ……?」
「あっ…──」
どういうことですか?──そう続けようとしたユーリの耳元で、
「ふぅっ──」
「ッ~~!?」
サーニャが短く息を吹きかける。力加減的には棚やテーブルの塵を払う程度のものだが……
「……ふふっ。ユーラもそういう反応、するのね──かわいい」
「かっ、からかわないでくださいよ……」
──今しがたサーニャがやったそれは、耳を綺麗にするという本来とは違う、別の目的が見え隠れしている気がした。
カリカリ…カリッ…
気を取り直して、耳かきを再開する──と言っても、先程サーニャが言ったようにユーリの耳は然程汚れておらず、浅いエリアが綺麗になるのにそう時間はかからなかった。
「サーニャさん、なんだか妙に手馴れてませんか……?」
「そう?私、本当にこれが初めてよ。芳佳ちゃんの説明を聞いたのと、後はユーラがリーネさんにしてるのを見ながら、頭の中で"こんな感じかな"って、イメージしてたくらいで……」
「思わぬ才能が開花した、ということですか……その才能を活かして、是非エイラさんにも耳かきをしてあげてください」
「そうね──でも……だったらもっと練習しないと、よね?」
「……サーニャ、さん……?」
思わず視線でサーニャの顔を見上げたユーリは、小さく息を呑んだ。その後すぐに視線を戻す。
こちらを見下ろすサーニャの翡翠色の瞳──獲物を捕らえた狩人のような、美しくもどこか嗜虐的なものを漂わせるその瞳と、一瞬だけ、しかしばっちり目が合った。
「ねぇ、ユーラ……耳かきって、耳を綺麗にするだけじゃなくて、気持ちよくリラックス出来たりもするんでしょ……?」
「そう、みたいですね……」
「私……ユーラのこと、もっと気持ちよくしてあげたい。気持ちよくなってるユーラの顔、もっと見せて……?」
「あ、の──ッ!」
明らかに様子がおかしい──そう言葉を紡ごうとした口も、耳に吹きかけられた吐息ですぐさま閉じられてしまう。
実際、今のサーニャは明らかに平常時とは様子が異なっている。理由はこの耳かき──より厳密には、初めてされる耳かきの刺激に反応するユーリを見て、スイッチが入ってしまったのだ。
常日頃冷静沈着で、戦闘時は卓越した狙撃技能で味方を助ける。先日の"オペレーション・マルス"でも芳佳共々苦境の中にあったウィッチーズを引っ張ってみせた勇敢で優しい同い年の少年が、自分の膝の上で為す術もなく身体を震わせているというこの状況。最初は「かわいい」というだけだったはずのそれは次第に膨れ上がり、サーニャの中で新たな扉を開いた。
「これから奥の方に入れるから……動いちゃダメよ?」
「は……はい……」
ユーリの耳の奥へと、耳かきが侵入してくる。ユーリが同じように深い部分に取り掛かろうとした時は一層慎重になったものだが、サーニャはもう完全にコツを掴んだとでもいうのか、慣れた様子で耳の壁を引っかき始めた。
ゾリ…ゾリ…ッ
「どう、痛くない?」
「はい……大丈夫です」
「じゃあ──ここは?」
耳かきの先端が刺激するポイントを変えてくる。ユーリの身体がピクリと反応した。
「他にも……こうしてみたり」
今度は耳の内側を擦るように往復させる。かと思えば急に細かく動かしたりと、サーニャはあの手この手様々なやり方でユーリの耳の中を蹂躙する。先の言葉通り「練習」をしているかのようだ。
「ユーラ、気持ちいい?」
「っ……問題、ありません」
「……
どうしてもユーリの口から言わせたいらしい。少し不満げに聞き直してきた。そんなサーニャの意図を察し、
「き……気持ち、いい……です」
「恥ずかしがってるユーラ、かわいい……」
観念して恥ずかしそうに答えたユーリを見てご満悦のサーニャ。
「あの、サーニャさん。趣旨、変わってませんか……?」
サーニャを正気に戻そうと試みるユーリだが、
「だってユーラの耳、綺麗なんだもの……だから、耳かきでユーラを気持ちよくしてあげる。耳掃除っていうより、マッサージみたいなものね」
「マッサージ……ですか」
「そう。だから、ユーラの気持ちいいところ、教えて?」
確かに、マッサージというのであれば受け手側の意見も重要になるのかもしれない。ましてや今施術しているのは耳の内側だ。触って分かる肩や腰といった部位とは違う。ならば……ならば──
「──お、奥の方を……細かく擦るのは、その…良かった、です……」
おずおずと口にしたユーリの言葉を聞いて、サーニャは小さく微笑む。そしてユーリが言ったポイント──奥の部分を細かくゾリゾリと擦り始めた。勿論、その一本調子にならないよう時折場所を変えたり、擦り方を変えたりとサーニャ側も工夫してくる。
「気持ちいいのね、ユーラ。段々目がとろん、てしてきたみたい」
サーニャの耳かきで諸々の緊張が解れたユーリは無意識に表情が緩みつつある。もう完全にサーニャのなすがまま、といった様子だ。そこへ追い打ちをかけるように、耳かき棒を持ち替えたサーニャの梵天が耳の中をくすぐってくる。一瞬だけ驚いたようにピクンと反応したユーリだったが、またすぐサーニャに身を委ねた。
フワフワとした綿毛で耳をくすぐられるのを感じながら、次第に瞼が重くなってくる。時折挟まれるサーニャの吐息すらも、今となっては心地よく──
「すぅ──すぅ──」
「ユーラ……寝ちゃったのね」
いつの間にか、ユーリはサーニャの膝の上で眠りに落ちていた。日頃居眠りなどしないユーリを寝落ちまで導けたという事実に、サーニャも口元を緩ませる。
「おやすみなさい。ユーラ」
あどけない、無防備な寝顔を晒すユーリの頭を、サーニャはそっと撫でるのだった。
そして───
「サーニャちゃんすごい……なんかその、すごかった……」
「しつこいようですが、これは耳かきなんですのよね……!?」
「お、おおお前達落ち着け!これは耳掃除、立派な医療行為だろう!そうだな宮藤!?」
「は、はい!そのはずです!」
今の今まで目の前で行われていた行為に動揺を隠せない芳佳、ペリーヌ、バルクホルンの3人。その横では、リーネが思い出したように耳を押さえて顔を赤くしていた。
「でもあのユーリさんが寝ちゃうなんて。余程サーニャさんの耳かきが上手だったってことよね」
「そうだな。まさかサーニャにあんな才能があったとは、正直驚いたぞ」
口々に飛び交う皆の感想を聞いたサーニャは、そこでようやく、自分が今まで何を口走っていたのかを思い出し……
「~~~~ッ」
白く綺麗だった頬が、一気に耳まで真っ赤になった。今すぐこの場から逃げ出したいのは山々だったが、眠るユーリを膝枕したままでは立ち上がる事も出来ない。ならばせめてと、目を瞑り耳を塞ぎ、皆から向けられる視線と感想をシャットアウトする。
すると今度は、ドクンドクン、と高鳴る自身の心臓の鼓動が耳につくのだから堪ったものではない。
と、そこへ──
「サァァァニャァァァ……ッ!」
「止まってってばエイラ!邪魔しちゃダメだよ!」
「サーニャならきっと頼めばやってくれるって!な!?」
ギィィィ、とドアを開けて入ってきたのは、魔法力による身体強化を施してまで床を這うエイラ。その後ろには同じく魔法力を発動したシャーリーとハルトマンが引き摺られており、エイラを止めようとした2人の努力の程が伺える。
「サーニャの膝枕ァ……!一番乗りはワタシ──ァァァァァッ!?」
ユーリを膝枕し、あまつさえそのユーリがすやすやと寝息をたてている光景を見て絶望の表情を浮かべる。加えて羞恥に紅潮したサーニャの顔を目にした瞬間、エイラの身体は信じられないパワーを発揮した。
しがみついていたシャーリーとハルトマンを軽々と引き剥がし、瞬間移動でもしたのかというスピードでサーニャの元へ駆け寄ると、
「オ、オマエらサーニャに何したんダヨ!!?」
そう言ってサーニャを抱き寄せた。当然、膝の上にいたユーリは転げ落ち、短い苦悶の声を上げる。
「大丈夫かサーニャ!?」
「エイラ……私……」
それ以上言葉は続かず、サーニャはエイラの胸元に顔を埋めてしまう。いつものエイラならここでドギマギしていたところだが、サーニャが何か恥ずかしい思いをしたのだという状況がそれを押し止めたようだ。
「誤解ですエイラさん!私達はサーニャちゃんに何もしてないですよ!」
「そーだよ!私達はただ──"ユーラ、気持ちいい?"とか"ユーラ、かわいい"──って言いながら耳かきしてるサーニャを見てただけだもん!」
「ひぅ……ッ!」
ルッキーニの言葉でより鮮明に思い出してしまったのか、エイラの腕の中のサーニャが一層縮こまる。そして……
「なっ……なっ──ナニイッテンダヨ!?オマエラ、サーニャヲソンナメデミンナァァァァ──ッ!!!」
エイラは絶叫の尾を引きながら、サーニャ諸共自室へ走り去っていった。
一方、残されたユーリはというと……
「ユーリさん、大丈夫ですか……?」
打ち付けた頭をさすりながら、リーネに助け起こされる。
「リーネさん……」
「はい……?」
「耳かきというのは……恐ろしいものですね……」
「えっと……そう、ですね……」
お互い羞恥心を味わった者同士、謎の理解を深め合う2人。
こうして、正座に続いてまた1つ、扶桑文化に対する誤解が増えたのだった。
その頃、自室に退避したエイラとサーニャは──
「ホントに大丈夫なんダナ……!?」
「ええ、心配してくれてありがとう。エイラ」
サーニャの安否を確認したエイラは、安堵の息をつく。そうしたのも束の間──
「そ、それはそうとサーニャ」
「なに……?」
「その……嫌じゃなければ、でいいんだけど。ワ、ワタシにも耳かきを──ワプッ!?」
言い終えるより早く、エイラの顔面に枕が投げつけられる。中々の威力だったらしく、エイラはそのまま仰向けに倒れ込んでしまった。
「エ、エイラのばか……ッ!──その、今はダメ。また今度……ね?」
※※※本小説はR-18ではありません、健全です※※※
圧倒的なスコアで勝利を手にしたサーニャ。
対抗馬になるだろうなと思っていたミーナさんも2位と善戦したものの、サーニャの伸びが驚異的過ぎましたね。決め手はやはり黒タイツ(ズボン)膝枕ということなのか。それはそうと、普段大人しい娘が本気出したら攻め攻めになるの、良いですね…
「なんか求めてたのと違った」という人はごめんなさい、書いてる途中で閃いてしまったもので。閃いたからには書かねばなりますまい。
これが仮に502ならどうなるのか、気になるところではあります。
や、別に書くとは言ってませんけどね。時を戻したら今回の一連の話の「初めての耳かき」という前提が崩れちゃうので。
502と言えば、11月に行われるイベントでワンチャンあるので楽しみです。
運が良ければ、来年か再来年辺りに本編更新再開の可能性が出てきましたね。運が良ければ。
ユーリ君は誰に耳かきしてもらう?(この中から1人だけ!) 期限~9/10
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芳佳ちゃん
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リーネちゃん
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ペリーヌさん
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シャーリー
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ルッキーニ
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エイラ
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サーニャ
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バルクホルン
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ハルトマン
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坂本さん
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ミーナさん