501のウィザード 番外編   作:青雷

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季節はすっかりクリスマスということで、短編を4本、2日に分けてお送りします。
これらの話はSSのSS的なノリでお楽しみ頂ければ幸いです。


いつかの聖夜~リーネ~

「──いやはや、しばらく見ない間に一段と美しくなられましたな。あの501部隊で戦われていたとか。ご両親も鼻が高いというものでしょう」

 

「いえそんな……ウィッチとしてはまだまだ半人前です」

 

 リーネの生家であるビショップ家は、父親がブリタニアでも有数の大商人であり、所謂お金持ちの家系だ。商売というものは往々にして人脈がものを言う。故に、こうして開かれるパーティに出席することもそう珍しいことではなかった。

 尤も、リーネがウィッチ隊に入ってからは基本的に前線に出ずっぱりか、そうでない時はペリーヌと一緒にガリア復興に努めていた為、こういった場は久し振りというのが正直な所だ。

 関係各所への挨拶回りは両親の方で行い、子供達は好きに楽しんでいるようにと言われたはいいものの、やはりというべきかリーネの注目度はパーティ出席者の中でも群を抜いている。方々から激励や賛辞の言葉を浴び続けるリーネは、内心で疲れ始めてきていた。

 

「──それでは、ごきげんよう」

 

「はい。ごきげんよう──ふぅ……」

 

 これでようやく一段落。今日は年に1度のサトゥルヌス祭だ。普段なら有力な商社とコネクションを作ろうと躍起になる大人達も、流石にこの日ばかりは純粋にパーティを楽しもうという気持ちになっているらしい。

 

「──お疲れ様、リーネ。いやぁ、流石私の妹。大人気じゃない」

 

「お姉ちゃん……見てたなら助けてくれても良かったのに」

 

 一息つくリーネの元へやって来たのは、ウィルマ・ビショップ──今はあがりを迎えて引退したウィッチで、かつてブリタニアにてワイト島分遣隊に所属していた経歴を持つ、リーネの実の姉だ。

 

「なに、ちょっとした仕返しよ。私も昔同じ目に遭ったから……ほんっと疲れるのよねああいうの」

 

「仕返しって……?」

 

「あら、まさか忘れたとでも言う気?あの時、アンタ私の事見捨ててとっととお母さんのトコに行っちゃったじゃない」

 

「それって、私が軍に入る前のことでしょ?覚えてないよ」

 

「はぁ……大事な家族との思い出を忘れちゃうなんて、お姉ちゃん寂しいわ──でもま、それだけ新しい思い出がたくさん出来たって事か……うん、そういう事なら、お姉ちゃん嬉しい!」

 

「そうだね……入隊してすぐ501部隊に送られて、私どうなっちゃうんだろうって、すごく不安だったけど……あの部隊で良かったって、今は思う。501にいたから、大事な友達も、思い出も、沢山出来たんだ」

 

「……そっか。──でもリーネ、まだ私に隠してることなぁい?」

 

「えっ?」

 

「アンタが501で手に入れたのは本当にそれだけ?具体的には、本当に()()()()なのかしら?」

 

「き、急に何……!?」

 

「アンタも年頃だし、好きな子の1人でもできたんじゃないの~?ほら、丁度男の子がいたじゃない」

 

 リーネの脳裏に、501唯一の男性隊員だった少年の顔が過る。

 

「ユーリさんはその、私にとって……狙撃の練習を見てもらった、師匠……っていうか」

 

「関係値は十分じゃないの──同じ部隊、同じ狙撃手。訓練まで一緒してたんなら、向こうだって多少なりとも意識してるんじゃないの?」

 

「でも、501にはもっと魅力的な人が沢山いたし……」

 

「もう、そんなんじゃ今日は苦労するわよ?」

 

「……何の事?」

 

「聞いてなかったの?今日のパーティ、ダンスがあるのよ」

 

「……」

 

「……聞いたけど忘れてたクチね。一応確認だけど、相手のアテは?」

 

 リーネは無言でふるふると首を横に振る。ダンスは原則ペアで行うものだ、リーネだけではどうにもならない。

 

「で、でも相手がいないなら不参加ってことで──」

 

「まぁ男女比の問題もあるし、それもいいだろうけど──周りがアンタを放っとくと思う?」

 

「うう……っ」

 

 こういった社交場で親交を深めた者同士がその場の流れでペアを組み踊るというのはそう珍しい事でもない。ウィルマの場合はこれでも既婚者なので断る口実に事欠かないが、リーネはそうもいかない。同じく相手のいない出席者──主に男性からの誘いを多く受けるはずだ。果たしてこうも気弱なリーネがハッキリ"NO"と言えるのか、ウィルマは姉心に心配で仕方ない。

 

「まぁ最悪、時間近くになったらテラスの隅っこにでも隠れてなさい──じゃ、私は用事があるから」

 

「えっ?お姉ちゃん、一緒にいてくれないの?」

 

「そういうわけにもいかないの。そんなに長いこと外さないし、ダンスまではまだ時間もあるから、1人でも大丈夫でしょ」

 

「う、うん……」

 

 それじゃあね、と去っていく姉を見送ったリーネはすぐさまホールの隅に退避。出来るだけ目立たないよう、軍で培った技術を用いて気配を殺す。

 つい先程までは1人でも問題なかったが、ウィルマにあんな事を言われたせいで、途端に平常心ではいられなくなってしまった。軍生活である程度は克服出来たと思っていた、家族以外の異性に対する免疫もまだまだのようだ。ペリーヌの領地の人々とは問題なく会話も出来ている辺り、やはり日頃から交流があるか否かという違いは大きいらしい。

 

 ふと、逆にどうしてユーリに対しては大丈夫だったのだろうと素朴な疑問が浮かんだ。

 

 思い返せば彼が501に来て以降、リーネは特段ユーリに対して苦手意識は抱いた事がなかった。強いて言うなら配属当初、初対面の人間に対する緊張に近いものを感じていた程度だろうか。それ以外はこれといってユーリを避ける事もなく、他の隊員達と同様に接する事が出来ていた。

 

 理由として候補に挙がったのは「部隊の仲間は家族」というミーナの言葉だが、それも少し違う気がする。今でこそそう思っているが、出会ったばかりの頃の芳佳やユーリに対する自分の態度を見るに、初めから受け入れていたわけではない。何かきっかけがあるはず──例えば芳佳とは、配属して日も浅い内に2人で協力してネウロイを撃墜したのがきっかけで、名前で呼び合う仲になった──そういった理由が。

 

 当時の自分は、とにかく自分に自信が無かった。今は違う、と胸を張って言えるわけではないが、今以上だったのは間違いない。芳佳と共にネウロイを倒して多少は自信も付いたものの、それはあくまで仲間と一緒なら、という話。リーネ1人で出来る事なんて精々弾除けくらいとまで思っていた。

 

 そんな自分を、ユーリは凄いと評した。誰かに助けてもらうのは至極当然の事で、それはリーネが人間である証なのだと。ユーリの身の上を知った今では、その言葉に複雑な気持ちを抱くが、当時の自分はその言葉がとても嬉しかったのだ。

「自信を持て」「自分を信じろ」「訓練では出来たんだから」──そんな言葉は数多く聞いてきた。当人達は紛れもない善意で声をかけていたのだろうが、リーネからすれば「私は優秀な貴方達とは違う」とずっと思ってきた。

 

 大丈夫だと自信を持てる程の経験も無ければ、信じられる才能も無い。いくら訓練で優秀な成績を残したって、実戦で何も出来なければ無意味。いっそ「お前は無能だ」とひと思いに切り捨ててくれた方がまだ気が楽だった。自分を支えるものが何も無かったリーネにとって、掛けられる励ましの言葉はどれも酷く無責任に聞こえていた。

 

 だからなのだろうか。ユーリの言葉を驚く程すんなりと受け入れられたのは。

 

 彼はリーネを凄いと評する理由を、筋道を立てて説明してくれた。遥か雲の上の存在と思っていたエース達だって自分と同じなのだと。否定しようのない事実と理論という形で。

 

 それでようやく、これまで受け入れられなかった励ましの言葉を素直に飲み込めるようになったのだ。

 

(本当に、嬉しかったなぁ……)

 

 ユーリとの思い出を振り返る内に、自然と笑みが溢れる。もしこの場にユーリがいたのなら、どんなに良かったか──そんなことを考えた時。

 

「──やぁ、お嬢さん。今日はいい夜だね」

 

「えっ?……っと。そう、ですね……?」

 

 同じくパーティの参加者なのであろう男が突然リーネに声をかけてきた。歳は自分より2つ~3つ上くらいだろうか。グレーのタキシードに身を包み、金髪を大きくかきあげたその男は、リーネのすぐ隣で同じように壁に背を預ける。

 リーネは「まさか…」という嫌な予感に駆られ、チラリと時計を見ると……既にダンスの始まる10分前。本来ならテラスに逃げ込もうとしていた時刻だった。過去の回想に耽って時間を忘れてしまっていたらしい。

 

「こんな夜は美しい女性と踊るに限る──どうだい?今宵のダンスは僕と組もうじゃないか。自慢じゃないが、僕はこれでもダンスには自信があってね。そのせいで、こういった社交界ではいつも大勢の女性からアプローチを受けて大変なんだ。今回も例に漏れず、何とか逃げて来た所に……君という天使を見つけたというわけさ──ストライクウィッチーズのリネット・ビショップ嬢をね」

 

 言外に「自分は女性に大人気」という情報を添えた男は、歯の浮くようなセリフを並べてリーネに言い寄ってくる。どうやら有名企業の子息であるらしく、タキシードの襟に着けているピンバッジには見覚えがあった。

 

「あの、私は……」

 

「緊張するのも無理はない。でも心配はいらないよ。しっかりリードしてあげるから、君は僕に身を任せていればいい」

 

「で、ですから……その、既に先約がいるので。ごめんなさい」

 

 意を決して明確にNOの意思を伝えたリーネだったが、男はあくまで退く気はないらしく、

 

「そんな見え見えの嘘までついて、何を遠慮してるんだい?──ここだけの話だけどね、今日のパーティに君がいると聞いた時から、君をダンスに誘おうと思っていたんだ。その為に、他の女性からの誘いは全て断ってきたんだよ。この意味が分かるだろう?──さぁ、もう時間だ。僕と踊ろう、リネット」

 

 男はそう言って、半ば無理矢理リーネの手を取ろうと手を伸ばす──

 

 

「──彼女に、何かご用でしょうか?」

 

 

 不意に、リーネの手が温かな感触に包まれた。妙に安心するその温もりは、勿論目の前の男のものではない。この感覚は──

 

「ユーリ、さん……」

 

「はい。遅くなってすみません」

 

 一瞬、これは自分の願望が作り出した幻覚かと思ったが、後ろから自分の肩をそっと掴み、やんわりと男から引き離されたことで、このユーリは紛れもない本物なのだと理解する。

 

「……なんだい君は。邪魔者は引っ込んで──いやそうか。大方、僕に一目惚れしてしまったのかな?すまないがお嬢さん、僕は彼女と先約があってね、どうしてもというなら、後で私の部屋に──」

 

「生憎、私はれっきとした男性ですので、丁重にお断りさせていただきます。──さ、行きましょう」

 

「なっ、男──おいちょっと待て!何であれ、人のパートナーを横取りしようだなんてマナー違反だぞ!」

 

 尚も食い下がる男に小さく息をついたユーリは男の方へと向き直り、

 

 

「──そちらこそ。人の()()()に手を出すような真似は控えて頂きたい」

 

 

「へ……?」

 

「……っこ、婚約、者?」

 

 呆気に取られる男。それは当のリーネも同様で、突然の事に理解が追いついていない。

 

「ええ。私と()()()は将来を誓い合った仲です。既にご家族からの了承も得ています」

 

「そんな、馬鹿な……」

 

「では、これで」

 

 また男が食い下がってくる前に、ユーリはリーネを連れて退散する。やがて人気の少ない廊下まで移動すると、

 

「すみませんリーネさん……呼び捨てにするだけじゃなく、勢いに任せてあんな事を……ご迷惑でしたよね」

 

「い、いえそんな!ユーリさんが私を助けようとしてくれたのは分かってますし。その……もし、噂になったとしても、お母さん達ならちゃんと事情を話せば分かってくれるはずですから」

 

 先程までとは一転、リーネもよく知るいつものユーリに戻った。申し訳なさそうに肩を落とすユーリに、リーネは何よりも聞きたかった質問を投げかけた。

 

「あの、ユーリさんは何でここに?」

 

「実は、つい昨日招待状が届いたんです。ウィルマさんから」

 

「お姉ちゃんが……!?しかも昨日って……」

 

 聞けば、ウィルマは軍務で忙しく出席できない夫の代わりにユーリを同伴者としてパーティに出席させていたらしい。とはいえ、ユーリとしても急な話だった為こうして遅れての参加となったわけだが。

 

「パーティ用の正装も持っていませんし、お断りしようかと思ったんですが…"その辺は任せなさい"…と押し切られまして。この服も、ウィルマさんが用意してくださったんです」

 

 そう言われて気がついた。今目の前にいるユーリはいつもの軍服ではなく、濃紺のスリーピースに身を包んでいた。もしやウィルマが言っていた「用事」というのは、ユーリのドレスアップの事だったのか。

 

「何はともあれ、こうして間に合って良かったです。僕は一度、ウィルマさんの所へ行きますが、リーネさんはどうしますか?」

 

「あ、じゃあ私も──」

 

 一緒に行こうとして、そこでリーネの言葉は止まった。

 

「リーネさん……?」

 

 目の前できょとんとするユーリは、きっと今、リーネがどんな気持ちでいるか知りもしないのだろう──言ってしまおうか。でも私なんかが…。もし断られたら──そんな嫌な想像が脳裏を駆け巡るが、

 

「あ、あのっ……ユーリさん!」

 

「はい?」

 

 

「わ──私と、踊ってくれませんか……ッ!?」

 

 

 ──言った。言えた。言ってしまった。ここからはもう出たとこ勝負。

 

「あのッえっと…ほホラ!私達、一応その──こ、婚約者──って事になってますし!1曲くらいは踊っておいた方が怪しまれずに済むんじゃないかな……って」

 

 言葉は徐々に尻窄みになっていき、遂には恥ずかしさで顔を俯けてしまった。

 

「わ、私なんかじゃ……ダメ、ですか?」

 

 そう呟いたリーネの肩をユーリはそっと掴み、顔を上げさせる。

 

「"なんか"なんて付けちゃダメですよ。──そう教えてくれたのは、リーネさん達じゃないですか。それに……」

 

 ユーリはリーネから一歩引くと、

 

 

「リーネさん、僕と1曲踊ってくださいませんか?」

 

 

 そう言って、リーネの前に手が差し出される。

 

「──こういう時、男性から誘うのがマナーという程度の事は、流石に僕でも知ってます」

 

「まぁ、先に言われちゃいましたけどね」と笑うユーリの手に、リーネはそっと自分の手を重ねる。

 

「……はい、喜んで…っ!」

 

 2人は手を繋いだままダンスホールへ向かう。その道すがら、ユーリが恥ずかしそうに口を開いた。

 

「……お恥ずかしい話なんですが、実は僕、ダンスはあまり経験が無く……」

 

 一応、ドレスアップついでにウィルマから教えられた基本は頭に入っているが、付け焼刃感は否めない。

 

「ユーリさんにも苦手なものってあるんですね」

 

「それはもう沢山。僕1人に出来ることなんてたかがしれてますよ」

 

「じゃあ私がリードしますから、動きに合わせてください。ウチは皆、お母さんにダンスを叩き込まれてるので」

 

「なんだか情けないですね……本来、その役目はこちらの筈なのに」

 

「誰かと協力して助け合うのは当たり前──ユーリさんが教えてくれたんですよ。私、これまでユーリさんに助けてもらってばかりでしたから……こういう時くらい、私に任せてください。それに──」

 

 キュッと、繋ぐ手に力が入る。

 

「──婚約者って事は、実質家族みたいなもの、ですし」

 

「あの、それはあの場を乗り切る為の方便ですから、何も本気にしなくても……」

 

 

「ッ……私、まだ結婚とかそういう事は考えられないですけど──もしするなら、ユーリさんがいい。って思ってます」

 

 

 突然の告白に、ユーリは言葉を失う。理解が追いつかないのが数割と、後は純粋な驚きが脳内を占め、まともな言葉が出てこない。

 冗談を言っているわけではないのだろう。それは彼女の表情から読み取れる。拒絶される不安に押しつぶされそうになりながらも、意を決して自らの気持ちを言葉にした──そんな表情だ。ならば、ユーリも真剣に答えなければ。

 

「……正直に言うと、僕自身、まだ誰かと一緒の時間を過ごす事が怖いです。もしかしたら、この不安が現実になる時が来るかもしれません。──僕がリーネさんを守ります。だから、こんな臆病な僕を助けてくれますか?」

 

「──助けます。いつでも、どんな時でも。一緒にいますから」

 

 見つめ合った2人は、急に照れくさくなって目を逸らす。

 

「それじゃあ、早速お願いします。リードはお任せしますね?」

 

「ふふっ、はい!」

 

 

 こうして、聖夜は更けていく──多くの人々の喜びと笑顔、来る未来への想いを乗せて。

 

 

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