501のウィザード 番外編   作:青雷

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いつかの聖夜~ミーナ~

「~~~♪」

 

 美しい歌声が響き渡るコンサートホール。ステージではドレスに身を包んだ女性が歌を披露しており、観客達も皆一様に歌声に聞き入っていた。

 

 やがてステージは万来の拍手を以て締めくくられ、観客達は余韻に浸る者、席を立つ者とに分かれる。その前者だったミーナとユーリは、人の波が落ち着いた頃を見計らって席を立った。

 

 帰り道──

 

「いい歌だったわね。流石、音楽学校を主席で卒業しただけの事はあるわ」

 

「そうですね。曲自体は僕も聞いたことがありましたが、歌う人が変わるだけでああも聞こえ方が違うものなんですね」

 

 今日披露されたのは、どれもサトゥルヌス祭に因んだ曲だった。季節柄、ラジオやレコードでも耳にすることの多い曲なだけあり、生の歌声との違いがよく分かる。

 

「楽しんでくれたみたいで良かったわ。チケットをくれたトゥルーデに今度お礼をしないと」

 

「そういえば、どうして僕を誘ってくださったんですか?」

 

「改めて聞かれると難しいのだけど……トゥルーデとフラウの次に浮かんだのが、ユーリさんだったのよ」

 

 ハルトマンをこういった場に連れて行っても途中で居眠りをするのは目に見えているし、チケットをくれた張本人であるバルクホルンを誘うのも変な話だ。差し当たって誘えそうな人物を考えた時、真っ先に浮かんだのがユーリの顔だった。

 

「なんだか嬉しいです。ミーナさんにとって、バルクホルンさんやハルトマンさんと同じくらいには大きい存在になれてるんですね」

 

 そう言ってから、流石に自惚れが過ぎるかと思い直し即座に誤魔化そうとするが、

 

「──そうね。あなたと出会ってからほんの数年しか経ってないけれど……そうとは思えないくらい、沢山の思い出ができたわ」

 

 瞳を伏せ、過ぎ去りし記憶に思いを馳せる。

 

「辛い事も沢山あったけど、同じくらい楽しい事もあった──こうしてユーリさんと一緒にコンサートに行けるなんて、前じゃ考えられなかったものね」

 

「……自分でも驚いてます。こういう平穏な時間を過ごせている事も勿論ですけど、ミーナさんと一緒にいるのが、不思議というか」

 

「不思議……?」

 

「僕が501に来て、大切な家族と出会った時も。ヴェネツィアで再会した時も──こうして平和な日常を過ごしている今だって。僕にとっての大きな転換点には、いつもミーナさんが近くに居てくれました」

 

「流石に大袈裟じゃないかしら。私はあくまでアドバイスをしただけで、最終的にどうするかを決めてきたのはあなた自身よ」

 

「だからこそです。……僕だけじゃ、きっと今の僕にはなれませんでした。どこかで違った選択をして、違った道を選び続けて──もしかしたら、もう……」

 

「──ユーリさん」

 

 言葉を続けようとしたユーリの顔を、ミーナの手が優しく包み込む。

 

「そこまで思ってくれるのは嬉しいけれど、もっとあなた自身を肯定しなきゃダメよ?確かに、私達が出会っていなければ──あの時と違う接し方を選んでいたなら、全く違う未来があったかもしれない。けどさっきも言った通り、そんな無数の未来の中から現在(いま)に至る道筋を選び取ったのは、他の誰でもないあなたなんだから」

 

 そう言って、ミーナは自身の額をユーリのそれにコツンと合わせる。

 

「寧ろ、私の方が感謝したいくらい──今この瞬間を私と一緒に過ごしてくれて、ありがとう」

 

 互いの息がかかる距離。声も無いまま、数秒の時が流れる。やがてミーナは顔を離した。

 

「トゥルーデ達へのお土産ついでに、何か買っていきましょうか。ユーリさんは何か欲しいものあるかしら?」

 

「……じゃあ──また、ミーナさんの歌が聞きたいです。その、2人きりの、時に……」

 

 意外な要求に目を丸くするミーナだったが、その顔もすぐに綻ぶ。

 

「折角のサトゥルヌス祭なのに、そんなものでいいの?」

 

「ダメ……でしょうか?」

 

「くすッ……いいえ。それじゃあ、帰ったらね──何だか今から緊張してきちゃった」

 

 照れくさそうに笑うミーナの手に吸い寄せられるように、ユーリの手が伸びる。バルクホルンが見れば怒るかもしれないが、今は2人だけ。束の間の時間を噛み締めるように、握る手にそっと力を込めるのだった。

 

 

 こうして聖夜は更けていく──多くの人々の喜びと笑顔、現在(いま)というキセキへの想いを乗せて。

 

 




以上にて、クリスマス短編×4となります。
結果的にミーナさん編が一番短くなりましたが、本来は全部これくらいの文字数を想定してたんです…リーネちゃん編に至っては約7千文字とか本編並じゃねぇか。どーなってんだ。

クリスマス短編×4を書くにあたって、このミーナさん編が最後に書き上がったんですが、掛け合い上での関係性の掘り下げをどこまでやるかすごく悩みました…所謂ユーリ君×ミーナさんには絶対幸せになって欲しいんですけど、その上で絶対に避けちゃならんものがあるわけで。それをこんな番外編でサクッと済ませちゃうのはなぁ…と。
なので、その辺の話は既に解決したものとして描かせて頂き、その分短くなったって感じですね。

やっぱりユーリ君にとってミーナさんはエイラーニャと並んで非常に大きな意味を持つ人ですから、掘り下げるなら…ねぇ?
(何やら思わせ振りな事を言っていますが、思わせ振りなだけですので悪しからず。無論、出来たらいいなとは思ってますが)

最後に、少々アンケートをば。〆~1/5

活動報告って割と頻繁に見る?

  • 結構見る
  • たまーに見る
  • 「更新した」って言われないと見ないなぁ
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