TSジト目銀髪ロリ「断固として防がねばなるまい」 作:パワー!
「はんぺんちゃん可愛いですよ。今度はこっちも背負ってみてください」
女兵士がいつもの真顔で私の顔を見る。
その手には赤いランドセルがあった。
何故だろう、真顔なのに目がキラキラしているのがわかる。
隊長じゃなくて半天使ちゃんと呼んでくれるのは悪い気はしないが、なんとしても訂正しなければならないことが一つあった。
「私は小学生じゃない」
私は、名前を聞いただけで敵軍の誰もが恐れ慄くあの『大鎌の半天使』だ。
ランドセルなんて必要ない。
私の威厳が薄れてしまう。
それにランドセルを背負ったら鎌が持てなくなるじゃないか。
「わがまま言っちゃダメです。ちゃんと背負ってください」
「だから私は……」
「くっ……! これが反抗期っ! ……でも大丈夫。私が真っ当に育ててあげます」
大変だ。私の部下が壊れたようだ。
まるで会話が成立していない。
女兵士はそのままランドセルの金属の留め具部分をパカパカさせた。
『大鎌の半天使』にランドセルはいらない。
そもそも私は軍の隊長だ。両手は相棒の大鎌で埋まっている。
「私には鎌がある」
「でも背中が空いてますよ?」
「たしかに」
論破されてしまった。悔しい。
よく考えればランドセルを背負っても何も問題ない。
まずい、ピンチだ。
「いや、でもやっぱり私は『大鎌の半天使』だし……威厳が……」
「だからこそですよ」
「……?」
「はんぺんちゃん、このランドセルがなんて呼ばれてるか知ってますか?」
「天使ノ羽……」
はっ! そういうことかっ!
私はバッと顔をあげて女兵士の顔を見た。
「そう、隊長ははんぺ……半天使と呼ばれています。しかしそれはあくまで比喩です。隊長は人間。天使みたいに可愛……かっこいいですが、人間です。羽もないしリングもない。しかしこのランドセルを背負えば、物理的に天使ノ羽を獲得できる。つまりはそういうことです」
これを背負うことは私に羽が生えてより一層上のステージにいけるということか。
私は女兵士の深い知慮に感心した。
流石は私の部下。天才だ。
女兵士がドヤァと真顔でサムズアップをする。
私は嬉々として彼女の手からランドセルを受け取り、その場で背負ってみせた。
ついにこの瞬間、私にも羽が生えたのだ。
女兵士が小さくちょろいなと呟いた気がしないでもないが、私は気にしない。
ランドセル……いや、これは羽だ。今後は羽と呼んでいこう。
私は羽を見せつけるように女兵士に背中を見せた。
彼女は真顔でカメラをパシャパシャした。
一体どこから取り出しのだろうか。さっきまでは持ってなかったはずなのに。
まぁそんなことはどうでもいいか。
この歴史的瞬間を後世に語り継ぐためだろう。女兵士は夢中でシャッターをきっている。
パシャパシャという音がパシャシャシャシャという連写音に代わった。
「しっかりと後世に語り継いで」
「……? これは私しか見ませんよ。門外不出です」
女兵士は、一体何を言ってるんだと言わんばかりの真顔をした。
最近私は部下の意思を読み取るのが上達してきているのを実感する。
「こんな可愛いはんぺんちゃんを野郎どもに見せるわけにはいかないです」
「どうせ実物を見るから写真くらい変わらないと思う」
「どういうことですか?」
「ずっと背負うから」
「えっ」
羽はもはや私の身体の一部と化したのだ。
もう脱ぐことはないだろう。
「別に今だけでいいんですよ。私のはんぺんちゃん成長アルバムに収まってくれたら」
「いや、私がそうすると決めた。天使の羽は易々と取り外せるものじゃない」
「しまった。隊長が暴走し始めた」
女兵士がはっと我に返った様子で、なにやら焦り出す。
よくわからないが、いつものことなのでほっといても大丈夫だろう。
「でも、ランドセルを背負ったままだと戦いにくいでしょう?」
「羽」
「はい?」
「ランドセルじゃない、羽」
「……羽が生えてると戦いにくくないですか?」
「別に」
「もしかして私、やっちゃいました?」
焦った女兵士はまるで敵軍みたいなことを口走り始めた。
一体どうしたのだろう。
「私はもう一生羽を外すことはない」
私の固い決意を前にして女兵士がごくりと唾を飲んだ。
「まぁでもよく考えたら、ずっとランドセル背負った隊長を見れるならそれはそれでいっか」
「羽」
私はこれからは羽と共に生きていく。
どんな困難があろうとも、この決意は揺らがないだろう。
『大鎌の半天使』の第二章が、今日始まったのだ。
次の日の朝、私は軍支部の廊下で女兵士とすれ違った。
「あれ、羽はどうしたんですか」
「外した」
「昨日あれだけ堂々と外さないって啖呵を切っていたじゃないですか」
「寝にくかった」
「じゃあ仕方ないですね」
「邪魔すぎた」
「成長期に睡眠は一番大事ですもんね」