TSジト目銀髪ロリ「断固として防がねばなるまい」   作:パワー!

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3話

 目の前には敵軍が大量に押し寄せている。

 部下の負担を減らすためにも、私に注目を集めて一気に敵を間引くとしよう。

 

 鎌を握る右手を肩の高さまで上げ、大鎌を水平に構える。

 軽く膝を曲げ、少し前傾姿勢をとり、瞬間的に攻撃を繰り出すための力を溜める。

 

 これは私が大技を繰り出す際に必要な準備だ。私の心を昂らせるための。

 別にやらなくても威力は変わらない。

 かっこいいからやってるだけだ。

 これが私が部屋の鏡の前で編み出した、私流いちばんかっこいい鎌の構え方なのだ。

 今、このかっこよさに魅了されて、敵は私に釘付けになっているに違いない。

 

「お前らあそこを見ろ! ハーメルン軍が戦場に変な子供を連れてきてるぞ! いくら同胞だからといって、流石に看過できない! 子供をこんな場所に連れてくるなんて外道だ!」

「女性と子供には手を出すなよ! 男はともかく、彼女らは後で改心して味方になってくれる! な◯う軍は敵でも女性と子供は傷つけないというルールを忘れるな!」

 

 敵軍の視線が私に集まっているのを感じる。

 大注目だ。

 鏡の前でポーズを練習した甲斐があった。

 敵軍は口々に何か叫んでいる。

 まぁ、それも仕方ないことなのだろう。

 なにせ突然戦場にあの有名な『大鎌の半天使』がかっこいい立ち姿で現れたのだ。

 混乱するのも無理がない。

 

「あ! おいお前ら! 隊長が『あれ』やるぞ! 伏せろ伏せろー!」

「え、うわ本当だ! 隊長! それは周りを巻き込むんですから一言声かけてからにしてくださいよ!」

「隊長! そのダサいポーズの攻撃はやめてください! ひょっとしたらこっちにも被害が出ますって!」

 

 部下も何か叫んでいるようだが、敵の混乱の声に紛れてよく聞こえない。

 まったく、猿にIQテストで大差で負けるほど頭の弱い敵のように、叫ぶのはやめてほしい。

 彼らは優秀だが、これでは私の軍が馬鹿に見えてしまうだろう。

 部下たちはおそらく私を褒める声をあげているに違いないのだが、今後はやめるように言っておこう。

 

 暫くこの歓声を浴びていたいが、ずっとこのポーズをしておくわけにはいかない。

 技を出す直前にしかやらないということが、ポーズの価値を高めているのは自明の理なのだから。

 

 もう少しくらいなら浸っていいのではと囁いてくる私の中の悪魔の声に耳を塞ぐ。

 私欲は仕事に持ち込まない主義なのだ。

 今は敵軍を殲滅することが最優先。

 奴らがもう二度とこの地を荒らそうなどと馬鹿なことを考えないよう、全力でいこう。

 

「伏せろー!!」

「隊長! ちょっと待っ」

 

 もちろん、技名を叫ぶのも忘れない。様式美というやつだ。

 寝る間も惜しんで考えた最高にかっこいい名前を誦んずる時がきたのだ。

 

「必殺! 最強大鎌アターック!!!!」

 

 私は思い切り大鎌を振り抜く。

 その瞬間、戦場が横一直線に切れた。

 私の頭ぐらいの高さで、空間に衝撃が走る。

 

 喰らえばひとたまりもない、私の最強(にかっこいい)技の一つだ。

 もちろん敵軍に避けられたものなどいなく、全員真っ二つだ。

 

 だが、ゴキブリ並みの生命力とハエ並みの鬱陶しさを持つ敵軍は、この程度じゃ死なない。

 奴らは摩訶不思議なことに、それどう見ても死んだだろという状態になっても、ゾンビのように復活するのだ。

 都合が悪いことを無効化してしまう。

 なんと恐ろしい。

 そこらへんをよく考えれば、普通に人間ではなかった。化け物だ。

 

 一応、我が軍にも似たような人間はいるが、そいつは曇らせという高尚な理念のもとにその能力を得ている。

 敵軍とは大違いだ。素晴らしい。

 

 しかし、敵は死んでないとはいえ、一時的に心を折ることには成功しただろう。

 私の一振りを前に、情けなく撤退していく。

 もう二度と戻ってこないで欲しいが、それは叶わぬ願いだろう。

 

 浴場のカビ並みのしつこさを持つ敵軍は、何度心を折っても時間をおけば「思い返せば俺は別に負けてはなかった気がする。あと一歩だった。次は勝てるはずだ」と、超理論によって謎の自信を取り戻すのだ。

 奴らには自動メンタル回復装置が備わっている。化け物だ。

 

 その点に関してだけは羨ましいと思う気持ちがなくもない。

 我が軍は何かとすぐ病む人間が少なからずいるのは事実なのだから。

 

 とはいえ、流石に私の全力攻撃を受けてすぐに回復するとは思えない。

 明日は休暇だろう。

 

 忌々しい敵軍を蹂躙したことで、清々しい気分だ。

 久しぶりに本気を出したおかげで、早く終わったことだし、帰って紅茶を淹れ直そう。

 よし、決定だ。

 

 伏せている部下たちに、もう起きて大丈夫という旨を伝え、砦を後にすることとしよう。

 あ、そうだ。褒めてくれるのは嬉しいが、戦闘中に馬鹿みたいに叫ばないようにも言っておかなくては。

 私はクールな軍を目指しているのだ。

 

「隊長ォ! 死ぬかと思いました!」

「隊長のばーか!」

「俺を殺す気ですか! 隊長の人殺し!」

 

「え?」

 

「隊長! 今勝手に帰ろうとしたでしょ! 隊長がまた鎌を引き摺ってきたせいで、道の修理しないといけないの忘れてませんか! もう手伝いませんよ!」

「そうだそうだ!」

 

「あ」

 

「あ! 今隊長あって言った! やっぱり忘れてたんだ!」

「隊長のアホ!」

 

「でも明日は休暇だから……」

 

「それここ最近毎日言ってますよね!」

「どうせ明日も猿たちが攻めてきて、俺たちがそれを食い止めてる間、隊長は紅茶を飲んでて『生きててよかった』とか呟いちゃったりしてるんですよ!」

「それを呼びに行ったら『……またか』ですよね!」

 

「ごめん」

 

 どうやら部下だけでなく私にも至らない点があったらしい。

 反省反省。

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