TSジト目銀髪ロリ「断固として防がねばなるまい」 作:パワー!
今日は土砂降りの雨だ。
他国の民はこういう日は陰鬱とした気分になるらしいが、我が国では絶好の曇らせ日和として皆瞳を輝かせている。
ちょっと外を歩けば、路地裏で傘をささずにぼーっと立ち止まって空を見上げる若者がちらほら見られる。今日はすでに4人見かけた。あ、5人目発見。
雨に打たれ、その雨が頬をつたっていく様はまるで何かに絶望し泣いているかのようだ。
しかし私にはわかる。彼らは絶望しているどころか、この日を待ち望んだとばかりに全身で喜びを表現しているのだ。
そういう"ムーブ"で各々エンジョイしている。憎き敵国には存在しない、歴史ある尊ぶべき文化だ。
実に素晴らしい。私も気分が高揚してくる。
ちなみに私も傘をささずに通りを歩いている。鎌もお休みだ。
この行動に目的は特にない。
いや、それは違うか。
土砂降りの中傘をささず、とぼとぼと街を歩く"訳あり"少女ムーブをするという目的のもと歩いているのだ。
あ、6人目。
日頃から頭のおかしいゾンビ兵を相手にしていると、こうして自国民の勤勉さを目の当たりにするだけで感動してくる。
おぉ、あそこの青年は壁にもたれかかって帽子を目深に被っている。
あえて表情を隠すことで、より高みにある悲壮感を表現しているのだ。
たとえ彼を知らなかったとしても、彼を見た人は心が痛くなるだろう。
まして知り合いが見たらそれはそれは上質な曇らせの出来上がりだ。
素晴らしいセンスに思わず震えてしまった。
私もまだまだだと思い知らされる。
しばらく彼の様子を見守って曇らせの現場を見たい欲求が湧いてくるが、残念ながら私にもやることがある。
後ろ髪を引かれながらも、私は悲劇の少女ムーブを再開すべく歩き出した。
流石にこの土砂降りでは、敵軍も攻めてこない。
雨だから中止にするという高度な判断ができるのに、毎度無策で突撃してくるのは何故なのだろうか。
……なにも考えてないんだろうな。な◯う軍がすることに理由も何もない。
そのことを忘れるところだった。
なまじ人間と似た姿をしてるから、どうしても知性を求めてしまう。
人間じゃないのに。これはもうどうしようもないな。
おっといけない。こんな素晴らしい土砂降りの日に敵軍のことを考えてしまうとは。あまりにカロリーの無駄だ。
職業病だから仕方ない。国民同様、私も勤勉だなと冷静に分析する。
本当に久々の休みなので、敵軍のことなんて忘れて休暇を満喫したいところだ。
私は視線を落とし、とぼとぼという効果音を自分で口ずさみながら歩みをすすめる。うーん満喫。
「そこのお嬢さん、傘もささずにどうしたんだい」
満喫してスキップしたい気持ちを堪えながら、俯きがちに街を歩いていると、老婦人に声をかけられた。
きた! 私はこの時を待っていたんだ。
「…………」
「何かいやなことでもあったのかい? 私でよかったら話を聞くよ」
「…………」
まずは無言から入り、相手の発言を促す。基本中の基本だ。
もちろん、老婦人もこれがそういうムーブなのだと理解している。
理解して私に絡んできたのだ。
無論、私も彼女のやりたいことを瞬時に察する。
おそらく彼女はフラッと現れては助言をくれる不思議なおばあムーブをしているのだろう。
「そのままじゃ風邪をひいてしまうよ。おいで、私の傘に入りなさい」
そう言って老婦人は傘を私に傾けた。老婦人が1人で使うにはあまりに大きな傘だ。明らかに誰かと入ることを前提に作られた巨大な傘。
間違いない。彼女のやりたいことが手に取るように伝わってきた。
「…………」
私は無言で老婦人の傘に入る。
「……もうちょっと待って。初めは私を警戒してる設定で、あとから少しずつ心を開いてもらいたいの」
私は無言で老婦人の傘から出る。
もちろん、老婦人が小さい声で囁いてきたという事実はない。
危なかった。この老婦人は不思議なおばあムーブじゃなくて、私が口をきく数少ない理解者ムーブをしたかったらしい。
ギリギリで気づけてよかった。ギリギリアウト。
私は相手の考えを一発で理解できなかったことを小声で詫びる。
いいのよと返してくれる老婦人の懐の広さに感銘を受けた。
さて、気合を入れ直していこう。
老婦人と目を合わせ、互いにニヤリと笑いながら頷いた。
互いに言葉を交わさずとも意思疎通ができている感覚。素晴らしい。
これこそが私が愛する祖国のあり方だ。
私は無言で少し後ろに下がった。
そして再び前に進む。
「とぼ……とぼ……」
「そこのお嬢さん、傘もささずにどうしたんだい」
「…………」
「何かいやなことでもあったのかい? 私でよかったら話を聞くよ」
「…………」
「そのままじゃ風邪をひいてしまうよ。おいで、私の傘に入りなさい」
道を歩いていると老婦人に声をかけられた。優しそうな声だ。
しかし私は警戒しているので当然無言だ。
「…………」
「そんなに警戒しないで。大丈夫、何があったのかは知らないけれど、私はお嬢さんの敵じゃないよ」
「…………」
警戒してるので無言。
「ここ」
と言いたいところだが、老婦人の優しそうな雰囲気に実は警戒はとっくにほぐれていたため、私は傾けられた巨大な傘の中に入った。
難しいな、反省。
「うちへおいで。暖かいスープを作ってあげる」
「…………」
私は少しだけ戸惑い、その場に立ち尽くす。
それを見た老婦人が私の手を優しく握り、手を引いてくれた。完璧。
そのまま暫く歩き、路地裏に差し掛かる。
カツッ
「あ」
傘が大きすぎて、路地裏の入り口に引っかかった。
老婦人は少し傘を閉じる。すごく力が必要そうだ。
カツッ
「…………」
それでも傘は引っかかってしまう。
老婦人はさらに傘を閉じた。腕がぷるぷるしてる。
わかる。傘を開き切らず閉じ切らずのあれを維持するのは地味に力がいるのだ。
まして巨大傘ならなおさらだろう。
カツッ
「…………チッ」
「えっ」
老婦人から舌打ちが聞こえた気がした。
いや流石に気のせいだろう。
この土砂降りの中だから聞き間違えただけだ。
老婦人はさらに傘を閉じる。顔が真っ赤だ。
どれだけ力を込めているか計り知れない。
カツッ
「…………」
「……私が代わろうか?」
「黙ってなさい」
「…………」
先ほどから一言も喋っていない私は、老婦人の姿に感動していた。
普通に考えて、驚くほど不便な傘を使ってでも自分のムーブをやり抜かんとするその姿勢に。
さすがハーメルン国民だ。
老婦人がさらに傘を閉じる。血管が浮き出ている。
もはや私の視界は傘と老婦人しかなくなってしまった。
しかし、ついに路地裏に入ることに成功した。
「ヨッシャァ!」
老婦人は嬉しさのあまり大きくガッツポーズした。
感動で涙が出そうだ。
ガッ
だが、老婦人がガッツポーズをとるために傘から片手を離したせいで、傘が開いてしまった。
涙が引っ込んだ。
「…………帰ろうか」
老婦人の言葉に頷き、私は軍の拠点へと帰ることにした。
充実した一日だった。あ、7人目。