TSジト目銀髪ロリ「断固として防がねばなるまい」 作:パワー!
今回の敵は少しだけ知能があるようだ。
配信系は我が国にも昔からある文化の一つ。
そこにつけ込んでスパイ活動をするとは、どうやら命が惜しくないらしい。
「あれか」
前方に、いかにもな◯う軍といった風貌の黒髪の男がいるのを確認し、私は部下に声をかける。
「違います。あれはスパイごっこをするためにわざわざ敵軍に寄せたファッションをしている我が国民です」
……当然、私はそんなことには気づいている。
威厳を保つためにはどうしようかと逡巡していると、黒髪の男の後ろに、金髪の冴えない痩せた中年が目に留まった。
「私が言っているのはあの黒髪のやつじゃなくてその奥にいる金髪の……」
「違います。あれは最近周りが冷たいからちやほやされたくて、特殊メイクで年齢を15歳に偽ろうとして失敗した老剣士です」
「……多様性万歳」
この国は、どいつもこいつも似たような風貌の敵国と違って、多様性が高い。
たまに私でも理解に時間を要する猛者が現れるのもこの国のいいところだ。
しかしだからと言って、この私が国民を敵国の猿と見間違うわけがない。
「隊長、いました。あれです」
部下が指差した方を見てみると、そこには『黒髪黒目のどこにでもいる普通の17歳!』と書かれた看板を掲げた馬鹿がデバイス片手に歩いていた。
奇行だ。
こいつは違う、と私の直感が告げている。
時間をかけても全く理解できる気がしない。
私の愛する国で、好き勝手なことをする猿の様子を見て私は怒りに震えた。
部下たちも歯をギリギリ言わせている。
女兵士は無表情ながらに敵を睨んでいるようだ。たぶん。
無表情だからあまりわからない。
おそらくあの敵軍の男は、デバイスを持っていることでこの国に侵入することができたのだろう。
RTA文化が盛んな我が国では、ぶつぶつ独り言を言いながらデバイスを持って歩く人が散見される。
つまり奴は私たちの文化を利用しているのだ。
私は激怒した。必ずかの何科厄茶位魔下の猿を除かねばならぬと決意した。
「よし、これで配信は切れたな。はぁ、最近は全然視聴者が増えないな。やっぱり俺って才能ないのかな……」
敵国のスパイの男がまるで誰かに聞かせているかのように、大きな声で独り言を言った。
少しもデバイスをいじっていないのに配信は切れたなと言い出すその奇行っぷり。
我が国の民たちは、スパイの男のことを触れたらやばい奴として認識し、変人を見る目で見た。
スパイごっこをしていた我が国の民は「なんだこいつ」と呟き、若返り失敗老剣士は男の奇行に驚いて阿波踊りを始めた。
そう、普通はこういう理解できる反応になるのだ。
「まぁ俺なんて魔物100体と戦って余裕で勝てるくらいの強さしかないもんな……一流の配信者は1000体でも軽く蹴散らすらしいし」
もはや私たちに話しかけているのではないかと疑う声量を出し、スパイの男はわざとらしく肩を落とした。
腕から外れた肩がボトっと地面に触れた。
「まさかそれがただの尾ひれのついた冗談で、本当は一流でも魔物10体を相手にすると厳しいなんてことはないだろうし……はぁ……」
そう言ってため息をつき、スパイの男は落とした肩を拾い上げ、元の位置にカチリとはめた。
やはりな◯う軍の奴は人間じゃない。
私は大鎌を握り締めた。
これ以上愛する祖国を汚させるわけにはいかない。
仕事を全うしよう。
あー、あー、と低い声を出すウォーミングアップをしてから、私は憎きスパイに声をかけた。
文明人である私たちは、街中でいきなり鎌を振ったりはしないのだ。
「貴様、な◯う軍のスパイだな。な◯うの虫は我が国に侵入禁止だと知っての蛮行か」
私は鎌を下向きに持ち、地面に突き立てるようにして支えた。かっこいいだろう。
部下たちは空気を読んで私の左右に展開し、腕を組んで立っている。
意味もなくカメラに映るように、その場で絶技と叫んで宙に向かって看板を振り回していた敵軍のスパイは、私の威厳に圧倒されてその動きを止めたようだ。
「な、なんだお前たちは……!」
「『大鎌の半天使』……その名前くらいは聞いたことあるだろう」
「っ! 最近戦場で有名な『オカマのはんぺん氏』か!」
「そう、それがこの私だ」
威厳を見せるために低い声を出すことに集中している私は、スパイにまで名前が知られてしまっていることに満足した。
「おい、隊長を裏で『はんぺんちゃん』って呼んでるのバレそうだぞ」
「誰だよ敵にそれ漏らしたの」
「響きが似てるんだから誰でもそう聞き間違えるよ」
「大丈夫。隊長は頑張って低い声を出そうと必死だから気づかない」
部下たちが口々に何か言っている。
私の凄さを力説しているに違いない。
普段出さない低い声を出したせいで、少し声が掠れてきており、今の私はそっちに気がいっているのだ。
「我が国に無断で侵入し、文化を愚弄した罪は重いぞ」
「隊長……カスカスで何言ってるかわかりません」
「水どうぞ」
部下から水を受け取り、喉を潤す。
スパイの男は、私と言うビッグネームにたじろぎ、硬直しているようだった。
ちょっと疲れたから低い声を出すのはやめよう。
「民の前で鎌を振りたくはない。ついてこい」
私が男に一歩近寄り、部下もそれに続く。
そのまま拘束しようとすると、突然男が後ろに下がり、抵抗の意を示した。
「戦場で有名だろうが知ったことじゃない。今は配信が切れてるから真の実力を見せてやる」
そう言って、男は看板を私に向かって振りかざしてきた。『黒髪黒目のどこにでもいる普通の17歳!』が私に接近する。
しかしそれは隣であくびをしていた女兵士の片手に塞がれ、粉砕した。
流石は私の部下だ。普段は数に押されるものの、な◯う軍と一対一だと負けそうな気配がない。
ん? 今あくびしていなかったかこいつ。
女兵士の顔を見ると、いつもの無表情だった。
彼女は私の視線に気づくとグッと親指を立ててみせた。
不思議だ。表情は変わらないのにドヤ顔に見える。
「なっ! 俺の最強武器がっ!」
スパイの男は目を丸くした後、己の痴態を晒さないためにも慌ててデバイスをいじって配信を止めた。
結局何がしたかったのか微塵もわからない。
いや、な◯う軍のことなんてわからなくて正解だ。
部下がスパイの男を綺麗に畳むのを確認してから、私たちは撤収することにした。
スパイごっこをしていた男は「ちっ、奴がやられたか……俺が見つかるのも時間の問題か……」とウキウキした様子で手を顔にあて、金髪中年風の老剣士は血が疼くと言ってでんぐり返しをしながらどこかに帰っていった。
そんないつもの風景を眺め、やはりこの国はいいなと束の間の平和を噛み締め、私は石の道を修理するための道具がしまってある倉庫に足を向けた。
大鎌は女兵士に没収された。悲しい。