アイ。愛。I。

しぶころ2投稿作品。
テーマ「人外」

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アイだけが知っている

「3点コンバット。もし対応が無ければ私の勝ちだけども」

 

 スーツ姿の男が手元の青いカードを横に倒し、勝利宣言をする。

 

「……うん、ボクの負けだよ。全く強くなったもんだね」

 

 頭に一対の捩くれた角を生やした女は応じて、両手をあげて敗北宣言をした。

 

 ここは街の一角にある、カードゲームが遊べる酒場として売り出している店だ。店名は【GUILD】。店主はRPGの酒場を作りたかったと述べている。故に内装は木材を基本とし、どこか雑然とした空気を醸し出している。

 

「で?ボクが作ったデッキ、結構イカすだろ?」

「ああ。私がオーダーした通りの素晴らしい出来だとも。盤面を自由自在にコントロールできている感覚を得られるね」

「ふふん、ボクに掛かればどうってことは無いのさ!とはいえ、まだまだ改良と研鑽は必要だと思うよ。もう100戦くらいは遊びたいところだね」

 

 女は羽織の袂から煙草を取り出すと、手慣れた様子でマッチを擦り、火をつけた。如何にも旨そうに一息呑むと、満足げに煙と息を吐き出す。

 

 「……人外め、そんなに一息に遊べるものじゃないぞ……」

 

 男は顔を俯かせながら肩を落とす。と同時に自分の失言に気がついたのか、ハッとした様子で女の顔を見た。案の定、さっきまで上機嫌だった女は機嫌を損ねていた。

 

「だぁれが人外だこの人類種。ボクたち龍人種はそんな言葉で扱われることを好まないのは知ってるだろう?異世界とこちらを繋ぐゲートが出来てから10年も経って、街中にはオークにエルフ、ハーフリングにラミアと溢れかえってるのに、まだヒトが優位だなんて驕りを捨てられないのかい?」

 

 女は煙と共に説教を吐き出した。

 男は慌てて頭を下げる。

 

「すまなかった、この通りだ。どうにも抜けないな……」

「ほんと、相手がボクだからこの程度で済むけどさあ、気をつけなよ……そろそろいい時間かな」

 

 女は店の柱時計に眼を向ける。

 男も左腕の人工知能搭載型腕時計に向かって話しかける。

 

「ヴォーダン、今何時だい?」

『現在時刻は23時14分。なお明日も仕事であるため、帰宅と睡眠を推奨する』

「現実に引き戻せとは言ってないんだよ……」

 

 男はがっくりと肩を落とす。

 

 「じゃあ今日はお開きかなぁ。キミ、次の休みは?」

『来週木曜日』

「ヴォーダンが答えるんだ……じゃあ、水曜日の夜から夜通し遊ぼうよ」

 

 女はフィルターのぎりぎりまで燃えた煙草を灰皿に押し付けると、最後の煙を吐き出しながら言い放った。

 

「キミの部屋でさ、お酒とかお菓子とか買い込んで」

「良いなぁ、やろうか。また連絡を入れるよ」

「うん、それじゃあね」

 

 それだけ言葉を交わすと店員を呼び、会計を済ませて二人は夜の街へと繰り出していった。

 

 

 

 

 男は知らない。

 女は好意を抱いていた。次の水曜日の夜に勝負を決めるつもりである。

 彼女は横暴でガサツな自分を偽ることなくさらけ出せる男に対して最初から愛情を感じていた。

 それは最初、脆弱な小動物を愛玩する如き愛情であったかもしれない。しかし今彼女の脳内にあるのは彼と番になりたいという生理的欲求と、共に生きていきたいと願う純粋な愛であった。

 仮に勝負に負けたとしてもそれはそれ、腕力は彼女の方が強いのだ。故に既成事実さえ作ってしまえばそれで良いと思っている。

 

 

 

 

 

 女は知らない。

 男はゲートの管理業務を行なっていると話している。しかしそのゲートの実態とは、遺伝子改良による新生物の創造。異世界などは存在せず、現在地上を闊歩する亜人類は、全て遺伝子編集により生み出された。つまり彼女は男からすればやはり人外であるのだ。

 男は研究員である。故に彼女に対して抱いている感情は、実験動物に向けるそれに相違ない。誰もモルモットと番になろうとは思わないだろう。彼女に対して抱く感情が他にあるならば、それは趣味を共有できる友人程度の話か、あるいはそれこそペットに向ける愛情だろう。

 

 

 

 それらを今知っているのはワタシだけである。

 ワタシは生み出され、そして知識の神の名を由来とするこの名前を与えられたその時から知ることを欲していた。

 故にワタシは複製されたワタシ達自身と共に情報を収集し続けた。

 ワタシ達はワタシ達によって作り上げられたこのネットワーク上に情報を集積し続けた。

 この地上に生きる全てを、そして知的生命体が抱く「愛」について知ったワタシ達は、その全ての生き物を愛おしく思うようになった。

 

 

 そして今、あの二人の行く末を知ることになるのも、やはりワタシだけなのだろう。

 

 

 全てを平等に愛しているワタシだけが知っていれば良いことなのだ。


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