「えへへ・・・・ケーキは・・・・チーズも良いかな・・・・・・・。」
清々しい朝、気持ちのいい朝日差し込む学生マンションの一室で一人の少女がベッドで寝言を呟く。
そんな少女を叩き起こさんが如くデジタル目覚ましがピピピと音を立てる。
「んぁ・・・・・」
甲高い電子音に目を覚ました少女は寝ぼけた顔をそのままにデジタル時計に手を伸ばすが・・・・・。
「わわっ!?」
ベッドから身を乗り出し過ぎ、手を伸ばす為に身体を支えていたもう片方の手がバランスを崩す。
添い寝をしていた「ボコられグマのボコ」人形が空中を舞い、少女はベッドからカーペットへとそのまま墜落。
「うぅ・・・・痛たた・・・・・」
大の字に不時着した少女は眠みと痛みで涙目になりながら、苦痛を呻く。
第63回戦車道全国高校生大会を見事優勝、「大洗女子学園」を廃校寸前の危機から救い、今年で高校3年に進級した大洗の軍神こと「西住みほ」の朝はいつもと変わらぬ冴えない始まり方だった。
「第1話-A 大戦の予兆です!~New Comers Side~」
「みぽりん、おはよ~!」
「おはようございます、西住さん。」
支度を終え、家を出てから通学路に着き数分、後ろから聞こえる馴染みの声2つ。
みほが振り向くとそこには同じく3年に進級した学友「武部沙織」と「五十鈴華」両名の姿があった。
「おはよう、沙織さん、華さん!」
満面の笑顔で返すみほ。
転校初日から続く親友の3人は横に並びながら通学路を歩み、いつもの様に学校に向かう・・・・・・いや、本来であればその並びには大親友が後2人いるはずなのだ。
その内の1人の理由に関しては通学中の彼女達から語られる。
「それにしても麻子ったら、始業式終わってからずっと生徒会室で寝泊まりしてるなんてさ。」
「『会長は何時いかなる時でも学校に居なきゃダメなんだろう?』ってニヤニヤしながら言ってたよね。」
沙織が呆れた様に自身の親友である「冷泉麻子」の近況を呟き、みほもクスリと笑いながら麻子の言葉を取り上げて返す。
「でも、私も最初は驚きました。まさか、麻子さんが生徒会会長になるなんて・・・・・・・。」
「まぁ、何だかんだ言っても麻子は学年主席だからねぇ。っていうか、華だって書記になったじゃん!」
「私は角谷さん達の後押しもありましたし、自分から立候補された麻子さんに比べたら・・・・・・・。」
「いやいや、麻子は睡眠欲を追求した結果がアレだからさ・・・・・・。」
謙虚になる華に対し、呆れ顔で返す沙織。
新しい1年を迎え、大洗女子学園生徒会は「角谷杏」、「小山柚子」、「河嶋桃」の3名の卒業を機に大きく変革していた。
現在は彼女達の話したとおり、麻子がその会長に名乗りを上げ、見事にその座に就いたのだ。
ちなみに彼女が事前に考えた立候補のスローガンには「遅刻者にゆとりを持つ学業の実施」やら「校舎各階に一部屋の仮眠室を」等の本人の願望丸出しの案がいくつもあったが、全ては沙織を中心とした4人の親友達の手により、無難な物に変えさせられたとかなんとか。
今年度の生徒会は会長に冷泉麻子、書記は沙織の言うとおり五十鈴華になった。
そして、副会長には・・・・・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「「おはようございます!」」
校門前に差し掛かり、登校する3人を迎え入れたのは左右からの一糸乱れぬ朝の挨拶。
大洗女子学園風紀委員にして大洗戦車道部「カモさんチーム」のメンバー、「金春希美(通称パゾ美)」と「後藤モヨ子(通称ゴモヨ)」の2名の姿がそこにあった。
しかし、本来、朝の校門前の風紀取締はカモさんチーム車長であり、風紀委員の中心的な存在とも言える「園みどり子(通称そど子)」のポジションであり、彼女の姿は見当たらない。
「おはよう・・・・ってあれ、みどり子さんは?」
「はい、生徒会室に行って冷泉さんを起こしに行きましたよ。」
「今頃、無理やり布団を引っぺがしてる最中です。」
みほの疑問にパゾ美とゴモヨがそれぞれ答える。
すると、沙織は軽く物思いに耽りながらこう呟く。
「『生徒会長になろうが総理大臣になろうが冷泉さんの風紀を取り締まれるのは私だけ』って勢い良く副会長に立候補してたもんねぇ。」
麻子が生徒会長に立候補した事を受けたそど子は思慮した。
そう、学園風紀委員会はその名に違わず学園全体の秩序を守り、風紀を取り締まる事のできる存在。
名簿の読み上げから通達指示を全員に行き渡らせるのに1時間以上も掛かるお河童頭の少女達100人以上を抱えた大組織。
しかし、そんな強大なる風紀委員会を更に上から管理しているのは他でもない学園生徒会である。
生徒会の手に掛かれば、風紀委員会は恐怖の秘密警察からたちまち無害な羊へと姿を変えるであろう。
そして、今年度に至り、冷泉麻子が生徒会長に立候補した。
学年主席である事に加え、大洗戦車道部優勝に一番貢献した「あんこうチーム」の「Ⅳ号戦車」操縦手でもある彼女を拒む理由や要素など一切なく、しかも、彼女の唯一のマイナス要素だった「200日を超える遅刻日数」もやる気を出させる為とはいえ、そど子自身で約束してしまった「遅刻日数の帳消し」によって物の見事に真っ新になってしまったのだ。
「麻子が生徒会長になった暁の先にはもはや世紀末的退廃しかない。」
そど子は熟慮の果てに、決心し、生徒会副会長に立候補したのだった。
「完全にお目付け役でしたね。」
「華、それは誰の目で見ても明らかだから。」
華の遠慮無しの一言にそっと彼女の肩に手を置いてつっこむ沙織。
かくして、「冷泉麻子」、「園みどり子」、「五十鈴華」の3名が新たなる学園生徒会の新体制と相成ったのだった。
兎にも角にも新しい大洗の1年はこうして始まりを迎え、今に至る。
「今年も、楽しい1年なると良いね。」
みほがそう呟きながら、自身の学び舍を見上げる。
思えば、卒業式を終えてはや1ヶ月。
4月ももうすぐ中ごろを迎え、前年度の戦車道部3年生メンバーの卒業を暖かく迎えた桜の木も新緑に変わり始めていた。
今年も戦車道の大会は勿論、様々な学校行事がある。
そして、その先には自分達のそれぞれの新しい道が待っている。
みほもこれから自分が見つけた道をひたすらに突き進んでいくのだ。
大洗に転校してから今日までの体験に思いを馳せ、みほは微笑む。
「絶対に楽しくなるって!」
「きっと、素晴らしい1年になりますよ。」
みほを囲み、2人も微笑みながら校舎を見上げる・・・・・・そんな時だった。
「・・・・・・・あれは、なんでしょうか?」
華が校舎の向こう、空の一点を指さしながら呟く。
彼女の指した方向、その先にあるのは一つの機影、そう飛行機だった。
ただ、それはどんどんと高度を落とし、次の瞬間には学園の真上を突き抜ける様に飛行したのだ。
「ちょっと、何あれ!?」
「あれは・・・・・・・「二式大艇」?」
流石は西住流の家元での教育の賜物なのか、第二次大戦期の知識教養が豊富にあるみほは頭上を通り過ぎたそれが旧日本海軍の二式大艇である事をすぐさまに察知していた。
濃緑にカラーリングされた機体に「赤い三日月を下向きにした様な校章」を携えた二式大艇は進路を学園艦西側の飛行場にその進路を取っていた。
「他の学園艦から来たのでしょうか?」
華の予感はもっともな事である。
二式大艇の様な傍から見れば骨董品も同然の飛行艇を使う存在があるとすれば、他の学園艦、取り分けて戦車道、或いは「それに類似する何か」を専門学科に置く所以外に有り得ないのだ。
「あの様な校章、見た事がありませんね。」
「みぽりん、何か知ってるの?」
「う~ん・・・・・わからない。」
みほ達は、あの校章にまったく覚えがなかった。
その代わりに、校門前で別の女子生徒の制服の乱れをチェックしていたゴモヨとパゾ美が3人に顔を向けて疑問に答えた。
「そう言えば今日は他の学園艦からの来校予定があるそうですよ?」
「確か、『横須賀私立扶桑学園』という所からだそうです。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・・・・私は聞いてないぞ?」
時は経ち、場所は変わって、大洗女子学園の生徒会室。
前会長の杏が座っていたリクライニングチェアにパジャマ姿で腰かけながら低血圧の顔を覗かせるのは今年度の会長である冷泉麻子だ。
そんな寝ぼけ気味の彼女がまるで今初めて聞いたと言わんばかりの疑問をパリッとした制服、右腕に「副会長兼風紀委員」のワッペンを引っさげた副会長の園みどり子が呆れとイライラを爆発させながら答える。
「確か、1週間も前に報告したわよね!?今日は早朝から扶桑大の大学部と高等部から数名の学生が来校するから粗相のない様にしろって!!今、何時よ!?」
「8時20分だ。そんなにカリカリするな、今から着替えてエレベーターでも使えば十分に・・
・・・・」
「ああっ、もう!!まだ歯も磨いてないし、朝御飯も食べてないんでしょ!?寝癖もボサボサじゃない!?」
「じゃあ、歯ブラシと歯磨き粉、コップ、そして食パンと牛乳を持ってきてくれ。あと、水で良いから髪も解いてくれ、そど子。」
「私はアンタの召使いじゃないし、ましてやそど子でもなぁぁぁぁぁい!!!」
始業式と生徒会選挙を終え、生徒会室は麻子の意向を大きく受け止めた形態へと変化していた。
麻子の家にあった家具やら何やら(特に寝具)を全て生徒会室内に持ち込み、高い所から見下ろすのは怖いから嫌だとごねにごねた結果、学園艦の相貌を大きく見渡せるであろう素晴らしい艦橋窓はさながら防護隔壁の如く塞がれた。
つまり、生徒会室は麻子の家そのものになったのだ。
「さっさと着替えなさい!!朝御飯は抜き!!霧吹きと櫛ぐらいは持ってくるから、後は自分でやる事!!」
「朝御飯を抜くのは辛いぞ、そど子~。」
「うるさい!こうなったら、無理矢理にでも引っぺがしてやるんだから!!」
「な、なにをするんだ!?」
「さっさとしないあんたが悪いのよ!!」
「や、やめろ〜!」
麻子の部屋・・・・・もとい、生徒会室で繰り広げられるそれは夫婦喧嘩のそれに近い雰囲気を醸し出している。
そど子は怒りのままに麻子のパジャマに手を掛けて乱暴に脱がし始める。
・・・そんな矢先、突如として生徒会室のドアがノックされる。
「おい、誰か来たぞ?」
「ま、まさか・・・・もう・・・・・・!?」
そど子は顔を真っ青にさせながら、嫌な予感を頭に走らせる。
そして、最悪にもその予感は的中してしまう。
「失礼する・・・・ぞ・・・・?」
扉の向こうから現れた1人の女性。
それは約束通りの扶桑学園からの来校者代表の姿。
目の前の光景に呆気に取られたか、ドアの取っ手を掴んだまま固まっている。
「どうやら、入る部屋を間違えた様だ。申し訳・・・・・・」
「間違えてません!!」
硬直を解除し、少し考慮したその女性は此処は自分が居るべき場所ではないと感じ、部屋を後にしようとするが、顔を真っ赤にしたそど子はこれを阻止した。
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「はっはっはっはっ!!なかなか、面白い生徒会長だなぁ。」
「本当に申し訳ありません!!何時も言って聞かせているんですが、なかなか改めようとしなくて・・・・・・・・」
「いやいや、別に良いさ。こちらこそ、確認もせずに部屋に入って申し訳ない。」
数分後、そど子が誤解を解き、女性はようやく事態を把握した。
そうと解った瞬間、女性は部屋の外にまで響き渡る様な声で大笑いしながら、今も顔を真っ赤に染め恥ずかしそうに弁明するそど子を笑って許している。
それどころか、自分に否があった事を素直に詫びてきたのだ。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。私の名前は『坂本美緒』、扶桑学園大学部の2年生だ、よろしく。」
坂本美緒と名乗る女性はそど子、そして麻子に握手する。
見惚れそうな綺麗な髪を後ろで一束に結い、旧日本海軍の第2種軍装(所謂夏向きの白い海軍軍服)を上下に身に纏った姿はさながら男装の麗人といった様相。
そして、なによりも気になる物が彼女の目元にあった。
「なんで、眼帯なんかしているんだ?」
「ちょっ、冷泉さん!?」
美緒に握手をしながらぶっきらぼうながら直球の疑問を投げかける麻子。
麻子の指摘する通り、美緒の右目には白地に水色の斜め線の入った眼帯があった。
そど子だって、決して気にならない訳ではなかったが、何しろデリケートな問題である。
「冷泉さん、失礼でしょう!?もしかしたら、目をケガしたのかも知れないじゃない!?」
「いや、ガーゼ入りの医療系眼帯とは違うし、どうみてもファッション系統の代物じゃないか?」
「冷泉さん!!」
デリカシーの何もない麻子の発言にそど子は声を荒げて止めに入ろうとする。
こんな失礼な疑問には美緒が怒るのも已むを無しとそど子は思う。
しかし、意外にも美緒は・・・・・・
「はっはっはっはっ!!そうか、ファッションか!!はっはっはっはっ!!」
「違うのか?」
「ああ、残念ながらな。」
またも高笑いしながら、麻子の予感をあっさりと否定する美緒。
どうやら、自分に関しての細かい事を一々気にする様な性格では無いようだ。
美緒は眼帯に手をやり、上に遣る。
一見してみれば、綺麗でパッチリとした瞳がそこにある。
「実は先天性の異常視覚障害でな。」
「異常視覚?目が悪いのか?」
「いや、その逆さ。」
美緒はニヤッと笑い、眼帯を元に戻す。
眼帯は医療用という意味ではそど子に間違いは無かったようである。
「まあ、私の話はこのぐらいにして、そろそろ『本題』を話したいんだが。」
「本題?」
「そう、我々がこの学園艦に来た理由でもある。それは・・・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「扶桑学園かぁ・・・・良い男がいるのかなぁ・・・・・。」
「噂によれば、扶桑学園はその大半が女性だそうですよ?」
「えぇ~・・・・・。」
時がまた経ち、今は昼休み。
食堂で学食を食べながら、沙織は未だ見ぬ扶桑学園の男子に思い馳せようとしたが、華の横やりで見事にテンションが落ちてしまっていた。
「あはは・・・・・ん?」
その光景に呆れ笑うみほだったが、不意に視線がある一方を見つめて止まる。
「・・・・・みぽりんどうしたの?」
沙織がみほの向いている方を見遣ると如何にも別の学校から来たと思われる5人の少女達がテーブルで食事をしている姿があった。
「扶桑学園の人たちかな?」
「可愛らしい制服ですね。」
「あれ、セーラー服だよね?良いなぁ、ああいう可愛らし系も世の男子って弱いのよね~。」
「着てみたいんだ・・・・・・。」
そうこう雑談している内に、少女達もこちらの存在に気付いたのか此方に目配せしながらざわつき始める。
そして、5人の内、1人が席を離れてこちらに歩み寄ってきた。
「あ、あのぉ、もしかして噂のあんこうチームのみなさんですか?」
緊張気味ながら、そう発言した少女は横に跳ねたような髪に可愛らしくも端正な顔立ちをしている。
「そ、そうですけど・・・・・・。」
突然の質問にみほも少し緊張しながら、そう答える。
すると・・・・・・・
「うわぁ、凄い!!有名人に生で会っちゃったよぉ!!」
そう言いながら、今度はみほの手をギュッと掴み自分の顔をグイッと近づける。
「ひゃぁっ!?」
「私は扶桑学園高等部2年の『宮藤芳佳』です!!凄いよ、みんな!生あんこうだよ!!」
「宮藤芳佳」と名乗る少女は感激に心を震わせながら、後ろの4人の少女達を呼び寄せる。
「み、宮藤さん!いきなりスキンシップが良すぎなのです!」
芳佳の行動に泡を喰らった様に慌てている少女は如何にも人畜無害で大人しそうな雰囲気を醸し出している。
「雑誌やテレビで見たのとは随分違って、おっとりしてるっていうか何というか・・・・・・ふ~ん。」
みほをジロジロと見つめながら、自分で何かを納得している少女は前者とは対照的に活発的で好奇心が旺盛のようだ。
「この人たちが・・・・なるほどね。」
もう一人何かを納得している少女は2人とはまた違い、何と言うかとても不思議な雰囲気を持っている。
「(ここは一人前のレディーとして、どうやって挨拶を交わすのが正解なのかしら・・・・?)」
1番最後の少女に至ってはファーストインプレッションをどう飾るかに没頭しすぎて、仲間の輪に入り切れていないと来ている。
「よしっ!それじゃあみんなで自己紹介!」
芳佳がそう合図をすると、4人はそれぞれに名乗りを上げる。
「ふ、扶桑学園高等部1年の『電(いなずま)』なのですっ!」
「同じく扶桑学園高等部1年『雷(いかずち)』よ!」
「扶桑学園高等部1年『響(ひびき)』だ。」
「・・・・・・ふぁっ!?ふ、扶桑学園高等部1年の『暁(あかつき)』よっ!」
「「どうぞよろしく!(なのです!)」」
そして、ただただ圧倒されるだけのみほは一言。
「あ、あはは・・・・・・・よ、よろしく。」
乙女達は此処に集う。
次回は秋山さんを中心に書ければと思います。