ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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やっぱやめた!!できてるところまで毎日投稿してやる!
一応4巻の冒頭くらいまでは執筆済みです。28話かな。


9話 Aクラスの方針

 

 俺の目の前には、ハンバーガーをどう食べようかと苦戦している女子がいる。彼女はその銀髪をさらりと揺らしてあれこれ考えていた。どこか楽しそうである。

 俺の視線に気付けば長いまつ毛を上げて菫色の瞳を見せた。

 

「なんですか?獅峯くん」

 

 彼女の名前は坂柳有栖。俺をファストフード店へ連れ出した張本人だ。

 

「かぶりつけよ。横向いてやるからさ」

「私の口はそこまで大きく開きません。だから苦労しているんですよ」

「まあ一旦やってみな。多分食べれるから」

 

 彼女の手にあるのはチーズバーガー。ラインナップの中では小さい方のバーガーだが、確かに小柄な彼女と比べれば大きいかもしれない。

 できるだけ小さくしようと、その小さな手でハンバーガーを押しつぶす。バンズの間からチーズが顔を出した。

 俺はメニュー表に視線を落とす。

 

「体に悪そうな味です」

「違いない。けれど美味しいだろう」

「はい、ですが当分の間はいいですね」

 

 一口食べれば食べ方を学んだのか二口目は早かった。彼女がある程度食べ進めた後、俺は本題に入る。

 

「俺のやり方が不満だったか?確かに少々狡いとは思ったが、君を従えさせるにはあれが一番手っ取り早かったんだよ」

 

 今は中間テストの結果が返ってきた次の日。俺と坂柳の勝負に決着のついたあの日から一日経ったその日の放課後だった。

 俺の振った話に坂柳は不思議そうに首を傾げる。

 

「不満はありませんよ。貴方があの手を使ってくることは予想していました」

「なら対策も考えてたんだろう」

「意地悪な質問ですね。当然策はありましたが、貴方があの手を使った時点で私がどう動こうと最終的に泥試合になるだけ。けれど、もちろん負けるつもりなんてありませんでしたよ」

 

 だけど、あの後坂柳は何もしなかった。つまりは俺が勝つ事に、それでいいと受け入れたというわけだ。

 

「貴方に勝つのはまだ良いかなと。そう思ったんです。もちろん最後に勝つのは私ですけれど、今は貴方が率いていくAクラスを見てみたいと思いました」

「光栄だな。君の期待に応えられるように努力するよ」

 

 そうなれば俺をここへ連れ出した理由がなくなるな。今度は俺が不思議な顔をする。

 坂柳が笑って話し始めた。

 

「ファストフード店というものに興味があったんです」

「ふーん。それだけとは思えないなあ」

「嘘はついていませんよ。まあ、貴方に聞きたいこともありましたが」

「それが本命だろ。なに?聞きたいことって」

 

 俺がそう問い掛ければ坂柳はふふと笑みを溢す。そして、彼女が見せた表情は一種の怒りだった。

 

「私と葛城くんが同等の扱いなのが気になりまして」

 

 その一言を聞けば成る程と納得する。昨日の『俺と葛城と坂柳でAクラスを率いていく』と言ったような事の話だろう。坂柳がそこに不満を持つことはなんら不思議なことではない。

 彼女は己を天才だと自負しており、そして実際彼女は紛れもなく天才なのだから。

 

「それについては悪かったよ。俺だって君と葛城くんを同格だと思ってない。けど、俺からすればそれは大差のない些細なことさ」

 

 そう、俺にとっては坂柳も葛城も同価値の人間だ。実力差など何も関係ない。

 何故なら俺がAクラスを率いている時点で、Aクラスに敗北などあり得ないのだから。

 

「Aクラスの方針を決めた。クラスメイトとして仲間というのは大前提として、次点にくるのは実力至上主義。優れた人間が利を得て、力を持たざる者は何も得られない」

「そうですか。今更改めて言うほどの方針とは思えませんね」

「明確にしておくことは大切さ。Aクラスという地位を約束しているのだから、何も得られない生徒から不満の声も出ないだろう。ただ、新たにルールを追加したい」

 

 俺がそう言い切れば、坂柳は考え込むことなく答える。

 

「ポイントの貯蓄、と言ったところですか」

 

 さすが坂柳、頭の回転が速い。

 これは俺という一人のリーダーが立ったことによって実現できるAクラスの強みだ。坂柳と葛城が対立ではなく、手を取り合うという結果の大きな利点。坂柳もそれを理解している。まあ、坂柳からしたら不服な点も多いだろうが。

 しかし今、葛城という信頼できる男、坂柳という強者。この二人を俺が従えたからこそ、Aクラスの団結力は高い。もし、この二人が対立でもしていたら一生実現することのなかった戦略だ。

 

「そう、ポイントの貯蓄。毎月に支給される額の五割をAクラスの資産として貯蓄していく。プライベートポイントの有用性は今更説明の必要もないだろう。貯めておくことは大きな力となる」

 

 俺の計算ではざっくりと考えて今年一年で2000万ポイント。今後クラスポイントを順調に増やしていけると考えれば、貯蓄はこの予定からさらに増えるだろう。これは破格の金額だ。

 坂柳もそこに不満はないようで不敵な笑みを浮かべている。

 

「異論は何もありませんが、誰を銀行に?」

「はははっ、いるだろう?うちのクラスに。責任感が強く、生徒からの信頼も厚い、優秀な男がさ」

「ふふふ、彼ですか。まあ良いチョイスかもしれません」

 

 そう、彼こそが適任だろう。クラスメイト思いであり、本人も優秀で、そして何よりクラスメイトから信頼されている。

 俺たちはスキンヘッドの彼を思い浮かべた。

 

「明日にでも何人か集めて話し合いをしよう。カラオケなんてどうかな」

「いいですね。とても楽しみです」

 

 ふふふ、はははと笑い合った。

 彼女がバーガーを食べ終えれば解散かと思ったが、残念なことに……いいや失礼。幸運なことに、その日一日は彼女に連れ回された。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 須藤健暴力事件。Dクラス須藤健、Cクラス石崎大地、小宮叶吾、近藤玲音、計四名による喧嘩騒動。その詳細を語られたわけじゃないが、目撃者がいれば申し上げるようにと言い渡された。

 

「さ、真澄さん。お先にどうぞ」

「あんたねえ?お先にどうぞっていつも言うけど、その後歌ったことないじゃない……」

「そうでしたか?まあこちらのことは気にせずどうぞ」

 

 坂柳にそう勧められて神室はマイクを持った。恒例行事にもなってきた神室のソロステージ、俺はそれなりに好きだった。そして一曲歌い上げる。98点と流石の高得点。上手だねと俺は神室に拍手を送った。

 

「よし、空気が和んだね。話を始めようか」

 

 俺がそう言い出せば、俺を睨みつける神室の視線。そう怒らないでほしい。俺は神室の視線を笑って無視した。

 

 カラオケに集まったメンバーは計6人。俺、獅峯帝。坂柳有栖。葛城康平。神室真澄。橋本正義。鬼頭隼。Aクラスの主要メンバーと言えるだろう。

 

「話っていうけど、何を話し合うんだ?」

 

 橋本がそう俺に問いかけた。そこに疑問を持つことは当然。その橋本の問いに答えたのは、俺ではなく葛城だった。腕を組んで伏せていた瞳をゆっくりと開く。

 

「DクラスとCクラスの間で起こった暴力事件のことだろう」

「葛城くん、せーかいっ」

 

 現在7月2日の放課後。今月Aクラスに振り込まれるプライベートポイントは100400pr。クラスポイントにして1004clという結果を残した。しかし、本来なら1日に振り込まれるはずのポイントは未だ振り込まれていない。その原因が先程葛城の言った暴力事件。

 

 中間テストが、終了し6月を迎えるより少し前。その時、俺がAクラスに課したルールは二つ。

 

 一つは、実力至上主義という方針。優れた者が利を得て、持たざる者は何も得られない。

 もう一つは、振り込まれるポイントの50%をAクラスの資産として葛城康平に預け入れること。

 その二つの代わりとして、Aクラスという地位を約束した。

 

 事前に葛城には話を通していて、銀行としての役割を頼んだところ快く了承してくれた。

 彼が信用に足る男だとクラス内での共通認識があったことも、五割を資金とすることに反対する生徒がいなかった要因の一つになっているだろう。

 

 7月現在、Aクラスの資金は1840000pr。今月振り込まれる予定のポイントを合わせれば3848000pr。これはいずれ大きな力となる筈だ。

 

「しかしね、暴力事件の行方については大して興味はない」

 

 暴力事件はAクラスに関係ないのだ。無理に関わろうと思えばいくらでもできるが、メリットは少ない。

 

「じゃあ何か言いたいの?」

「俺がこの件で注目したいのは、本格的なクラス同士の争いが始まったということ。今まではクラスポイントのみの対立、つまり目でわかる結果だけの競争だったが、それが変化し始めたという話だ」

「……獅峯は、この事件が故意に引き起こされたって言いたいってわけね」

「さすが神室さん。話が早いね」

 

 想像以上に神室は頭が回る。俺は素直に神室を褒めた。

 

 そう、この事件は偶発的に起こったものではない。現在訴えられているのはDクラスということを踏まえれば、当然引き起こしたのはCクラス。この事件はCクラスの()()がDクラス須藤健を陥れようと起こしたということだ。

 そして石崎、小宮、近藤の三名が事件の該当者。

 ()()()は随分と手駒が少ないようだ。俺は思わず笑ってしまう。

 

「Cクラスによってクラス競争の火蓋は切られた。俺たちAクラスも何かしようと思ってね」

 

 俺がそう言ったことに、笑顔を見せたのは坂柳だけだ。その他はピンときていない、というより寧ろ少し不服そうだった。

 俺がこの後いう言葉に、また不満そうな顔をするんだろうなと考えて、俺は笑ってしまう。

 

「ターゲットは『Dクラス』だ。異論は認めない」

 

 さあ清隆、勝負をしよう。

 君がこのまま堕ちていく生活を続けられるのなら清隆の勝ち。君が()()()のように勝利と力に貪欲になれば俺の勝ち。

 

 清隆を戦場に引き摺り出す。それが俺の目的だ。

 

 一通のメールが俺の元に届いた。都合の良すぎる展開に笑いを溢せば怪訝な顔をみんなが見せる。唯一、坂柳だけが変わらず澄ました微笑みを作っているが。

 

「俺の言いたいことは以上だ。協力してほしいことはまた追々伝えるよ。あとはみんなでカラオケを楽しんでくれ」

 

 届いたメールに返信をしながら俺はカラオケを出た。是非とも残ったメンバーで仲を深めてくれればと思う。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「————で、獅峯は出てったけど。どうする?真澄ちゃん歌う?」

 

 橋本がマイクを片手にそう言った。

 

「は?歌うわけないでしょ。あんたが歌えば」

「ははは、そーですよね」

 

 神室の厳しい対応に橋本は苦笑いを溢す。

 神室が歌うのはあくまでも歌うように強制されたからであって、好んで歌うわけがない。ましてやこのメンバーで。

 

「獅峯は常に勝利への道を歩いているとはいえ、今回ばかりは理解できないな」

 

 それは葛城の言葉だった。

 理解できていないのはターゲットがDクラスという点。今現在Dクラスのポイントは87cl。先月から最もクラスポイントを伸ばしたとはいえ、他クラスと現段階の合計を比べればその差は歴然。ポイントの伸びも、元がゼロだったという点を考慮すれば大して脅威には感じない。

 

「Dクラスに何かあるとは思えない」

「んー、Dといえばサッカー部の平田か。あと櫛田ちゃんもいるよね」

 

 橋本が主要人物を思い浮かべながらそう言う。平田と櫛田は特に他クラスまで名前が広がっていた。知名度でいえば軽井沢も有名だが、橋本はあくまで脅威となりうる人物の名前を挙げる。

 

「やっぱり、うちのキングの考えてることは分かんないねえ」

 

 意味もなく獅峯がDクラスをターゲットにすると言うわけがない。しかし理由は考えても分かりそうになかった。

 

「そうですね。今回は私も獅峯くんを読みきれていない。ですが、彼がこう判断したのだから面白いものが見られるのでしょう。私はそれを楽しみに待ちたいと思います」

「あんたブレないわね」

 

 坂柳は面白いものが見られるのならなんでもウェルカムなタイプだ。仮にも天才と自負する自分が慕うリーダーが負けるなどと考えてもいない。

 それは当然、坂柳のみならずこの場にいる全員、そしてAクラス全体の認識だった。

 

「獅峯って何者なんだろうな。あれが同い年の高校一年生とは思えないぜ」

「空気を支配する、というのか。奴は自身の圧で常に場をコントロールできる。それが如何に人間離れしているか」

 

 天才だけなら坂柳も天才である。しかし獅峯は少し違う。

 獅峯は人を従えるべくして生まれたような存在だった。加えて何に対しても天賦の才を持ち合わせていた。バケモノと称されるにあたる人物に違いない。

 

「獅峯くんは人の感情の扱いが上手い。底のない恐怖と尊敬、信頼。場に応じて相手に与える感情を使い分け、自分の思い通りに(こと)を進める。彼の場合は基礎スペックも非常に高い。まさに絶対的な王とでも言いましょうか。非常に勉強になります」

「坂柳サンからそんな言葉が出るとはなあ」

「ふふふ、しかし最後に勝つのは私ですよ」

 

 それは坂柳の夢である。絶対に譲れない夢であるし、だからこそ、現段階で獅峯に無謀ながら挑むことをやめた。いつか勝利するために、今は手を取り合うことを選んだのだ。

 しかし、いつかの未来の話をしても、現段階で坂柳が劣っていることは事実。

 獅峯が負けるところの想像ができないのはこの場にいる全員の共通認識だ。

 

「今のAクラスが最強の形であることは紛れもない事実。私はもちろん不満な点もありますが、この場にいる全員が獅峯くんに従う道を自ら選んでいる。それはつまり彼がどんな判断をしようとも構わないと言うこと」

 

 元は坂柳を慕っていた橋本も鬼頭も。無理やり従わされていた神室も。坂柳と敵対していた葛城も。そして、自らを天才だと自負する坂柳自身も。経緯はどうであれ、今は全員自分の意思で従っている。

 

「Dクラスをターゲットにする理由が何であれ、それはどうでもいい。ということです」

「その通りだ。しかし、俺は意見があれば構わず言う。Aクラスの勝利が危ぶまれる事があるとするのなら尚更な」

「ふふふ、私もそのつもりです。しかし、そんな事になる様でしたら、私が彼の指揮棒を奪いますよ」

「ふっ、俺もその指揮棒の奪い合いに参加させてもらおう」

 

 貴方にできますか?と煽る坂柳に葛城は尽力はすると少し笑って答えた。そんな状況になることなどあり得ないのだか、獅峯がこの場にいればそれも面白そうだと、結末候補の一つにするだろう。

 

「俺はAクラスでよかったと心から思う」

「それに関しては同感ね。コイツらと敵対なんか絶対したくない」

 

 今まで一言も喋らなかった鬼頭ですら、橋本の話に大きく頷く。

 

 そう、Aクラスは紛れもなく最強であった。粒揃いのクラスメイトにクラスを率いる最強の王。最強でない理由などなかった。

 

「今回ばかりはDクラスが可哀想ね」

 

 獅峯帝に狙われたDクラスを憐れむ神室の言葉。それは部屋に反響したあと、静かに溶けた消えた。

 

 

 




高度育成高等学校学生データベース  7/1時点

名前 獅峯(ししみね)(みかど)
クラス 1年A組
部活動 無所属
誕生日 1月25日

評価
学力   A
知性   A
判断力  A
身体能力 A
協調性  A

面接官からのコメント
面接試験、筆記試験と共に好成績を残した優秀な生徒。学力、身体能力は既に高校生の域を超えている。卒業校からの評価も高く、広い交友関係やリーダとしてまとめ役をしていたという情報からコミニュケーション能力も高いと思われる。しかし、欠席数が多い事から自己管理能力は高いとはいえない。別途資料による事情を考慮した上で、Aクラスへの配属とする。

担任メモ
クラスのリーダーとして人をまとめる能力は高校生という枠を逸脱している。今後も期待する。


【挿絵表示】

※獅峯帝イメージ
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