ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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10話 無表情

 

 俺は、届いたメールを確認しながら校舎へ向かった。メールの送り主は櫛田桔梗。夜、偶然出会った時に連絡先を交換していたのだ。

 俺たちAクラスの教室前まで行けば、目的の人物は俺を待っていた。

 

「や、久しぶりだね。櫛田さん」

「あっ!獅峯くん!」

 

 ブンブンと可愛く手を振る櫛田に、こちらも控えめながら手を振り返す。

 その場には俺に連絡をした櫛田以外にも清隆と知らない生徒が二人いた。

 

「げぇ、よりにもよってコイツ?」

「ダメだよ池くん。獅峯くんには協力をお願いする立場なんだから」

「あれ?俺が来ること知らなかったみたいだね」

 

 清隆に向かってそう問いかけば、コクリと一度頷いてくれる。

 なら自己紹介をしておこう。彼らがDクラスであれ、礼儀というものは大切だ。

 

「俺は獅峯帝。Aクラスのリーダーをしているよ。よろしく」

「Aクラスの……」

「リーダー……」

「はははっ、そう距離を取らないでくれ。俺自身大した人間じゃないんだ。クラスメイトに恵まれただけだよ」

 

 できるだけ警戒されないように丁寧に振る舞う。二人も自己紹介をしてくれた。池と山内というらしい。

 

「ところでなんだけど、綾小路と獅峯って知り合い?」

 

 清隆が自己紹介をしなかったことに疑問を持ったのだろう。池がそう問いかけた。

 別に隠すことでもないし、言っても問題ないか。

 

「実はそうなんだよ。小学校まで同じでね。まさかこの学校で再会するとは思わなかったな」

 

 多少誤魔化してはいるが、概ね間違ってはない。この説明なら清隆も不満はないはずだ。

 

「まじ!?じゃあ久々の再会ってやつか。あれ?でも図書館の時はそんな素振りなかったよな」

「あの時はそんな暇もなかったからね。図書室の件は申し訳なかった。ほら、須藤くんだっけ。後もう一人の女の子。彼女達を煽るような真似をした」

「あー、そんな事もあったな。大変だったぜ、須藤のやつ凶暴だからさあ。堀北さんもプライド高いし」

 

 池の言葉に俺は苦笑いをする。確かにあの時は煽りすぎた。

 須藤という生徒も堀北という生徒も、どちらもプライドが高そうに見えたし、特に須藤はあの場で俺に反撃することすらできなかったので鬱憤が溜まったんじゃないだろうか。

 俺は櫛田さんを見て話題を変えることにする。

 

「早速だけど、時間も無いだろうし本題に入ろうか。その、須藤くんのことだよね?」

 

 俺がそういえば、櫛田はうんうんと大きく頷いた。俺は微笑んでその様子を見る。俺の微笑みに対して池や山内の視線は鬱陶しいが気づかないふりをした。

 先程櫛田から届いたメールには『相談があるので良ければ会えないか』と言った内容が綴られていて、俺はそれに了承したわけである。

 

「須藤くんの暴力事件のことなんだけどね?実は事実はそうじゃ無いの」

 

 櫛田はそう言って、おそらく須藤本人から聞いたであろう事件の全貌を語る。

 

 その日、須藤はバスケ部に所属するCクラスの小宮、近藤に呼び出された。そして、無視しようと思ったが普段から言い合ってた為にケリをつけるため呼び出しに応じた。呼び出された特別棟には小宮、近藤の友人である石崎もいた。バスケ部をやめろなどと言われ暴力を振るわれたので自衛の為返り討ちにした。そして現在、須藤に呼び出され暴力を振るわれたとCクラス側が須藤を訴えた。

 

「なるほどね。それは確かに証拠集めしたくなる」

「そうなの。獅峯くんは何か情報知らないかな?」

「残念だけど、今のところ力になれそうな情報は持ってないね」

「そっかー、だよね」

 

 情報を持ってない。これは紛れもなく事実だ。詳しい内容も今知った。

 しかし、清隆はよく素直に協力する気になったな。いや、渋々か?あの顔見るにきっとそうに違いない。

 それもそうだろう。面倒事は避けるようなスタンスだった清隆が進んで手を貸すわけない。……ましてや自業自得の事件で。

 

「その話、俺個人として協力させてくれないかな。Aクラス全体を動かすことはできないけど、俺一人なら手を貸すことができる。微力ながら、だけどね」

「え!?本当っ?」

「いやいやいやいや!怪しいよ櫛田ちゃん!だってAクラスだぜ!?」

「信用できないっしょ!メリットねえじゃん!」

 

 櫛田は俺の言葉を前向きに捉えてくれたが、池と山内の二人は裏があると疑っているようだ。

 それも当然、山内の言った通りこの話は基本的に俺にメリットがない。が、実は全くゼロというわけじゃない。

 

「確かにメリットはないかもしれない。けど、友人や親しくなった人の力になりたいと思うのは当然だろう?もしかして信用ならないから、俺の手は借りたくない、かな……?」

「い、いや……そんなことねえけどさ」

 

 池はそう言って、今度は山内と清隆の肩を掴んでコソコソ話を始めた。櫛田と俺に背を向けるように、だ。

 しかし、素直な男というか、悪くいえば馬鹿というか。コソコソになってない声量で話すものだから俺にも櫛田にも会話の内容は丸聞こえだ。

 

「な、なぁ、もしかして獅峯のやつ、櫛田ちゃんのこと狙ってるんじゃないかな?勝ち目ねぇよ!」

「だからあからさまに好感度狙ってたのか!顔だけじゃなく性格もムカつく野郎だぜっ」

「獅峯が櫛田を狙ってる可能性を否定はできないな」

「綾小路ぃ……!なんか手はないのか!」

「あー……、二人も櫛田にいいとこ見せればいいんじゃないか?」

「それができたら苦労してねえって!」

 

 どうやら、俺が櫛田に対する好感度狙いで協力を申し出たと考えたらしい。櫛田も苦笑いである。

 まあ、考察としてはいい線いってるよ。あながち間違ってないからね。

 

「作戦会議は終わったかな?」

「さ、さ作戦会議っ!?」

 

 話を進めるために声を掛ければ、池と山内はギギギと渋い音が聞こえてきそうなほど動揺しながらこちらを向いた。

 

「確かに櫛田さんは魅力的だし、堕とせるものなら堕としたいね。しかし、彼女は俺程度じゃ靡いてくれなさそうだよ」

 

 どうかな?と櫛田に問いかけながら彼女の頬に優しく触れる。そして薄く笑顔を浮かべた。

 彼女は誤差程度ではあるものの、頰を赤く染めて俺から視線を逸らす。池と山内は気づかないほどの、ほんの少しだけの変化。

 

「ドキッとしちゃうなぁ。獅峯くんみたいにかっこいい人から言われちゃうと。冗談は良くないよっ」

「冗談じゃないんだけどなあ」

 

 俺がはははと笑ってこの話を終了させる。

 池や山内はこの話題が相当嫌だったようで、俺は先程から睨まれていた。しかしそれも、俺が目を合わせれば取り繕うように消え失せる程、威力の無いものだったが。

 そして話を戻した。

 

「それで、俺が協力するのはダメかな。君たちが嫌なら当然それに従うよ」

 

 あくまでもDクラスが決めるべきだと主導権を譲る。

 

「んー、私は協力してもらったほうがいいと思うけど……。みんなはどうかな?」

「オレも協力の話を受けるべきだと思う」

「えぇ……?まあ、櫛田ちゃんがそういうなら」

「そうだな、櫛田ちゃんが言うなら」

「オレの意見は関係なかったみたいだな……」

 

 清隆は少しだけしょんぼりしていた。

 しかし、話はまとまったようだ。断ってくれても作戦には全く支障はなかったが、まあ構わない。どちらにせよ、協力するつもりなんてない。

 

「それじゃあ、改めてよろしく頼むよ」

 

 握手を求めれば櫛田が握り返してくれる。柔らかく、触り心地のいい手だった。

 

「うんっ!こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 Dクラスの面々も少し報告しあったら解散するそうなので、清隆を遊びに誘って俺もこの場を離れた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「買い物に行きたいんだが、いいか?」

「勿論大丈夫。付き添うね」

 

 そんな短いやり取りをしてオレ達は校舎を出た。

 こうして帝と敷地内を横並びで歩くのは二回目となる。

 本当に未来はどうなるか分からないものだな。オレは帝と談笑をするような仲になるとは思わなかった。

 

「やけに楽しそうだな」

「そうかな。うん、でも、綾小路と仲良くなりたいと思っていたと前話したよね。あれは間違いなく俺の本心なんだよ。だから楽しいのかもね」

「まだ歩いているだけだけどな」

 

 はははと隣で帝は屈託なく笑った。

 言葉も表情も、全て偽りかもしれない。でもその事実を見抜けるほどの能力はオレに備わってはなかった。だからこそ、言葉だけは本心でいてほしいと思う。

 

「よく笑うようになったな」

 

 単純な疑問。オレはそれを問いかけた。

 オレの知る帝は、不気味で惹かれる黒い瞳にいつも無表情だった。

 しかし今、目の前にいる帝は明るい笑顔を浮かべていて、よくモテると聞くがそれを納得してしまうほどの威力。

 

「んーそうだね」

 

 少し考え込む素振りをする。しかし、実際大して考え込んではおらずフリだけのような気がした。

 帝は言葉の続きを話す。

 

「笑顔の感情に嘘偽りはないけど、俺は昔と変わらず、演じる必要がなければ笑わないよ。でも、顔が武器なことは理解しているからね。笑顔は武器だよ。綾小路も笑うと良い」

 

 そう言って帝はまた笑った。

 笑顔は武器。帝の笑顔を見れば、それが当たり前の事だと思えるから不思議だな。

 そんな会話をしているうちにオレの目的地であるコンビニに着く。購入目的だったものをカゴに入れていけば、帝が興味深そうにオレのカゴを眺めた。

 

「綾小路、ポイントに余裕あるの?」

「なんでだ?余裕はないが……」

「えぇ?じゃあカップラーメンなんて辞めなよ。スーパー行こうぜ」

 

 そんな言葉と共に、ひょいひょいとカップラーメン以外も含めたオレのカゴの中身を元の位置に戻していく。あっという間にカゴは空になり、カゴは元の位置に戻されオレ達はコンビニを出た。

 されるがままに、獅峯の後を追えばついたのはケヤキモールの中にあるスーパー。

 帝はその店内を迷う事なく進んでいく。そして、商品も同様に一切迷わずカゴの中へ。購入する商品に目立った共通点はないが、唯一あるとすれば殆どが0ポイントの商品なことか。

 

「よし、俺の部屋行こうか」

「あぁ、わかった」

 

 断るつもりも当然ないが、断れる空気ではなかった為すぐに返事をする。

 そのまま帝の部屋に向かった。帝の部屋は綺麗に片付いていて、オレの部屋とは違って床にカーペットが敷いてあり、所々に置かれた小物がお洒落な部屋だった。

 

「まあ、ちょっと座って待っててよ。一時間くらいは欲しいけどさ。テレビ付けていいよ、社会勉強になるから俺はオススメ」

「そうか」

 

 生返事をしてテレビをつけた。カーペットに腰を下ろしてテレビをボーっと眺めることにする。

 帝はキッチンで料理に取り掛かっていた。横目で見ただけだが、相当な腕だとわかる。そういうところもモテる要素なのだろうな。

 

「一応聞くけど、嫌いなものとかある?」

「特にないな」

「はははっ、だよね。知ってた」

 

 知ってたって……。まあ、当たり前か。幼少期を共に過ごしていたんだ。知っていてもなんら不思議ではない。

 たまにそんな会話をしながら、帝の料理が完成するのを待つ。

 トントンと小気味良い音に若干うとうとしながら、クイズ番組の問題を脳内で答えていった。正答率は良くて30%と言ったところか。サブカルチャーメインの問題に絞れば1%ほどだろう。我ながら酷い正答率だ。

 

「わかってたと思うけど、今日の夕飯はうちで食べてってよ。はい、今日の献立はこちらです。テーマも何にもない、子供の好きなものの詰め合わせ」

 

 とんっとテーブルに料理が置かれていく。唐揚げにナポリタン、ポテトフライにオムライス。なるほど、確かに子供が好みそうなものだな。

 

「多めに作ったから持って帰っても良いよ。口に合えば良いけど」

「この短時間で凄いな。パッと見ただけでもクオリティの高さが窺える」

「褒めてもデザートのアイスクリームしか出ないよ」

「アイスは出るんだな」

 

 オレの簡単なツッコミを帝は爽やかな笑い声で返した。

 いただきますをしてから唐揚げを一口食べる。柔らかいお肉からはジュワッと肉汁が溢れた。

 一口食べただけでわかる。

 

「……美味いな」

「そう、口に合ったなら良かった」

 

 柔らかく微笑んで帝も食べ進める。オレも黙って二口目を食べた。

 それから帝は、どうでも良いようなそんな態度で一言溢す。

 

「嫌いなものはなくても良いけどさ。俺は君に、好きなものくらい、出来たら嬉しいよ」

「好きなものか」

 

 嫌いなものは無いと言ったが、好きなものが無いとは言ってない。それでも、まるで分かっているかのようにオレに好きなものは無いと帝は言った。

 

「例えば食事。君は食事を栄養補給としか考えていないだろう。いや、身体がそう認識している。いくら脳が食事を楽しめと言ったところで君にとってはただの栄養補給なんだ」

 

 帝は唐揚げを一口で頬張りながらそう言う。二、三本手に取ったポテトフライも口に入れた。

 

「どう、俺の作ったご飯は美味しい?」

 

 おかずを見ていた瞳はいつの間にかオレを見ている。オレは真っ直ぐのその眼を見つめ返した。

 

「あぁ、美味しいよ」

「はははっ、だろう?俺の好きな物だよ」

 

 笑うと細くなる帝の目はどこまでも優しげだった。オレはなんとなく気恥ずかしさを覚えながらオムライスを口に入れた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 俺が清隆を遊びに誘ったのは、単純に友人と遊びたかったという理由もあるが、事の真意を問いたかったのが一番な理由だ。

 頬張ったオムライスを咀嚼している清隆に問いかける。

 

「須藤健の暴力事件。君はどうして手を貸してる」

 

 清隆は顔を上げて、何を考えているのか分からない無表情で俺を見つめ返す。何処かあどけなさを感じる無表情だった。

 

「男には断れないことがあるんだ」

 

 清隆らしからぬ冗談混じりな言葉が返ってきてつい食事の手が止まってしまう。

 男には……?と言うと、櫛田が清隆に頼み込んだか。『綾小路くんは手伝ってくれるよね?(上目遣い)』なんてところは想像に容易い。うん、その線が濃厚だな。

 

「それより、獅峯が手を貸すと提案したことに驚いたな。どういう風の吹き回しだ?」

 

 今度は俺に質問が来る。まあ当たり前といえば当たり前の問い。俺をよく知る清隆だからこその疑問だろう。

 

「正直に言えば『手伝う』なんて言葉は口だけだよ。手伝うつもりなんて毛頭ない。けどもちろん、そうなった以上、表向きには手伝わせて貰うけどね」

「じゃあ理由は?」

「はははっ、俺が素直に言うと思ったか?まあいいよ、教えてあげよう。人によって物事の優先順位は様々だけど、今の俺にとって『友人』の優先順位は高いんだ。君は特別だよ」

 

 俺が櫛田桔梗を利用してDクラスを陥れようとしてる事。そして、清隆を表舞台へ引きずり出す事、それも含めた()()の全てを語るわけじゃない。

 でも、清隆がそこ結論に辿り着けるだけのヒントを話す。

 

「リベンジマッチをしたくないか綾小路。俺が手伝ってやる」

 

 俺がそう言っても清隆は無表情で俺を見るだけ。しかし、その表情にあどけなさは感じなかった。

 空気が死んでいく感覚がする。この空気は俺が殺した。

 

「……ところで、本当に美味しいな」

 

 でも、空気を読むことをしない清隆にとっては関係なかったようで、そんな抜けた内容を口から溢す。

 面白くなって俺は自然と頰が緩んだ。

 

「綾小路も料理出来るようになるといいよ。俺が今日1000ptも使ってないことが証明になると思うけど、節約になるし、料理って案外楽しいんだよ。君、チャーハンくらいしか作った事ないでしょ」

「ラーメンも作ったことあるぞ」

「はははっ、冗談はよせ。カップラーメンだろ」

 

 視線を俺の手料理に落として焼きそばも……、なんて小さく溢す清隆は、実は可愛いやつなんじゃないかと思ったりして。いや、きっと清隆は本当に可愛いやつなんだろう。

 高校生活に浮かれているだけの、(ただ)の15歳。

 

「いいことを教えてやろうか。君がこれから過ごす三年間の成長と経験を、俺は既に終えたと言っても良い。『あそこ』を三年も早く出たんだから当然だ」

「料理の話か?」

「料理もね、全てだよ。君が三年かけて今の俺の料理の腕前になったとしても、その時の俺はプラス三年の月日がある。アドバンテージの違いの話さ」

「そうだな」

「もう分かるだろ。君は今のままじゃ俺に勝てない」

「そうかもな」

 

 俺の視線に気がついた清隆が顔を上げた。真っ直ぐと見返す無表情はさっきまでとなんら違いはない。

 

 けれど確かに、()()()()()をしていた。

 

 

 

 




『補足説明』

ホワイトルームの教育を長く受けた綾小路の方が帝より優秀なのは間違いないが、それは知識や学力面、一部の運動神経のみ。例えば、敵のHP(ヒットポイント)が100だとする。綾小路は一撃で1400ダメージ与えれる。獅峯は一撃で1200ダメージ与えれる。二人の間に差が生まれるのは敵のHPが1200を超えた時だが、しかし1200を超える敵は存在しない。と、いうのが今の状況。基礎能力と引き換えに様々な分野を学んだ獅峯の方が学校生活において優秀ということ。
これを綾小路も分かってるから、獅峯に勝てる気がしないって思ってる。
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