ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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11話 事の真意

 

「Dクラスに協力するそうですね」

 

 食堂で葛城と戸塚と共に昼食をとっていた時、神室を連れた坂柳は俺にそう言って話しかけた。

 葛城もいつもと比べて落ち着きがなかった為、その話題をどう振ろうか考えていたに違いない。

 俺は食事の手を止める事なく答えた。

 

「噂になってるらしいね。AクラスのリーダーはDクラスに肩入れした、と」

 

 Dクラスの誰かから話が広まったに違いない。しかし気持ちはわかる。

 Aクラスのリーダーが肩入れしたという情報は、相手を威嚇する意味では強力だ。実際Cクラスの石崎なんかはドギマギしている事だろう。

 

「俺個人の話だ。Aクラスに迷惑かけないよ」

「しかし、一番下のDクラスににAクラスのリーダーが手を貸すという事に、あまり納得はできないな」

「俺たちはそこまで偉いのかな、葛城くん。謙虚にいこーぜえ」

「止めるつもりはない」

 

 あくまでも不服なだけで、俺の行動まで制限するつもりはないと。まあ当たり前だ。行動まで制限しようとすれば俺が葛城を許さない。そんな側近は必要ないと、問答無用で切り捨てるだろう。

 

「Dクラスには一体に何があるんでしょうね」

 

 坂柳は俺の隣に腰を下ろして不敵な笑みを俺に向けた。俺はそれを一目してからおかずを頬張る。それをきっちり三十回噛んでから飲み込んだ。

 

「坂柳さんはおかずを何から食べるタイプ?」

「と、言いますと?」

「好きなものから食べるタイプ、好きなものは最後に食べるタイプ。因みに俺は好きなものも一律に食べるタイプだ」

 

 俺の答えに坂柳は少し微笑んだ。それから顔に影を差して俺の目を覗き込むように真っ直ぐ見る。

 

「その話を私の質問の回答とするならば、DクラスからBクラスの中に貴方の好きなクラスがあって、今回Dクラスが選ばれたのは偶然だと」

「はははっ、坂柳さんは深読みが好きだなあ。俺の言葉の全てに裏があると思わない方がいいよ。さっきのは何の意味もない雑談の一種さ」

 

 坂柳は眉尻を下げて優しげに微笑む。しかし纏う雰囲気は決して優しさなどなく、むしろ刺々しかった。神室は呆れた顔で坂柳を見ている。

 

「確かに深読みしすぎてしまったようです。因みに私は好きなものは最後に食べるタイプですよ」

「だろうね。俺もその()()()嫌いじゃない」

「ふふふっ、気が合いますね」

「そうみたいだね」

 

 なんて、くだらない会話をしてその日の昼休憩を過ごした。

 

 おそらく、そう日の経たないうちに坂柳は清隆の存在に気づくだろう。Dクラスに不信感を与えてしまって時点でバレるのも時間の問題だった。

 清隆としては嬉しくない展開だろうが、そんなことは関係ない。坂柳は俺と清隆、いや正確にはホワイトルームという施設に打ち勝つことを目標としているようだし、清隆は坂柳に狙われることになるだろう。

 

 正直それは悪くない展開だ。上手く利用すれば面白くなる。

 

 まあ兎も角、俺の一旦のすべき事は櫛田桔梗。須藤健の暴力事件に協力するつもりはないとはいえ、利用する上である程度情報をDクラスに流したい。その為にはまず暴力事件の情報収集。

 とはいえ、目撃者探しはあまりにも非合理的な活動だ。

 

 やりたい事は決まっている。俺はそのための活動を密かに始めた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 放課後、俺はDクラスの前で櫛田桔梗が出てくるのを待つ。

 アポイントメントは無いが、俺の誘いを断る可能性はゼロに近いと踏んでの行動だった。

 

 そして、目的の人物が姿を見せる。何人かの友人を連れて教室を出て来て、俺がいることに気づくと屈託のない可愛らしい笑顔を俺に見せた。それに応えるように俺も微笑む。

 

「や、櫛田さん」

「こんにちはっ、獅峯くんっ」

 

 友人に一言声をかけてから櫛田は俺の元に駆け寄って来た。俺を見上げてその愛らしい双眼は真っ直ぐに俺の目を見ている。

 それから俺に要件を聞いた。

 

「Dクラスの誰かに用事?声かけようか?」

「いいや、櫛田さんに用があって来たんだよ。もしかして今日は先約があるかな」

 

 チラリと櫛田と共にいたDクラスの生徒に目を向けて俺がそう言えば、櫛田は少しだけ困ったように微笑む。

 

「うーん、もしかして重要な用事かな?それなら、獅峯くんを優先するけど」

「実は暴力事件の事で少し、ね。まあ大した事はないし、今日じゃなくても問題は無いけれど……」

 

 少しだけ苦笑いをして、できれば今日だと嬉しいかな、と付け加えれば櫛田は俺の予想通りの返事をする。

 

 友人たちに断りを入れてくると櫛田は一旦俺の元を離れた。

 櫛田と共にいた男子生徒は櫛田の話を聞いてから俺を一目して、一瞬睨んで戦意損失でもしたのか気まずそうにその場を去っていった。

 

「ごめんね、お待たせっ」

「いいや、こちらこそごめん。事前に連絡を入れておけば良かったね」

「うんん、大丈夫だよっ。協力してくれてるだけすごい助かってるもん」

 

 そんな櫛田の言葉に甘えて俺は歩みを進める。

 目的の場所は特にないが、……まあ無難なところでいいか。

 

「櫛田さんの残り一日は俺が貰えるって事でいいのかな」

「うんっ!さっきの友達にはまた別の日にってお願いしたからね」

「ありがとう。なら、まずはカフェでもどうかな。一息つく、という意味でさ」

 

 適当な理由を挙げてそう誘えば、櫛田は俺の提案を断らなかった。

 

 敷地内にある人気店パレットへ向かう道中、何気ない会話を楽しめばそれなりに話は弾んだ。その中の会話から櫛田桔梗という人物の解像度を上げていく。足りないパーツを埋めていくように会話を進めた。

 

 櫛田桔梗の欲しい言葉。櫛田桔梗の求めている行動。全て適切にこなし、ただひたすらに好感度を上げることだけを目的とした俺の行動。

 

 そして最後にこう言うだけだ。

 

「櫛田さん、今日はありがとう。最後に一ついいかな」

 

 寮に戻る際、別れ際のエレベータで俺はそう話を振った。何かな、とか首を傾げる櫛田はただひたすらに優しい微笑みを浮かべていた。

 俺は真っ直ぐに、櫛田を見つめる。少し恥じらいを演出して、笑顔を浮かべた。

 

「—————俺と付き合ってほしい」

 

 まあ、言ってしまえば。ハニートラップというやつだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 突然だが、現在高度育成高等学校に通う一年生の中で総合的なモテランキングを作るとしよう。

 その場合、女子は櫛田桔梗と一之瀬帆波。男子は平田洋介と獅峯帝。この4名の名前が上がる。

 天使と女神。王子と勇者といったところか。全員容姿が優れている事はもちろん、誰対しても優しく、その性格の良さが知られている。

 

「獅峯と櫛田桔梗って仲良かったっけ?」

「あら、デートでしょうか。今見たところ、とても仲が良さそうですね」

 

 つまり、ケヤキモールを歩く櫛田桔梗と獅峯帝はそれなりに注目を集める。

 平田洋介と女子カースト上位に君臨する軽井沢恵に続くビックカップル誕生かと噂はたちまち広がるだろう。

 

 妬み嫉妬、興味や娯楽。視線の意味は人それぞれだが、視線を向けた坂柳と神室もまた単純な意味の視線じゃなかった。

 

「いや、どう考えてもただのデートじゃないでしょ?獅峯のやつ性格悪いし、罠じゃないの」

「ふふ、なんだっていいじゃないですか。どうなるか楽しみですね」

 

 櫛田桔梗と獅峯帝は付き合うのか。そして付き合うのだとすれば、それは本当の恋愛感情から成り立ったものなのか。

 

 とにかく、恋愛に飢えた学生にとって、この話題が数日の噂の中心となる事は間違い無いだろう。

 

 

 

 もちろん、獅峯が櫛田を誘ったのは打算的な行動である。

 須藤健を救う方法を思いついたから恩を売るために誘った?いいや違う。櫛田桔梗を飼い慣らすことができたのなら、それは何より()()()()()を達成させるのに有利に働かせることができるからだ。

 

 櫛田桔梗という人物は優秀だ。クラスまたは学校での立ち位置、その他生徒からの評価、その本人の能力の高さ。

 本人の扱いやすさを考えれば、獅峯にとって櫛田は最も都合のいい人物だった。

 

 須藤健について話があると声をかければ、彼女は決して獅峯を無碍にはしない。

 実際、獅峯が櫛田に語った情報はそれなりに役に立つ。

 一番最初に訪れたカフェで、獅峯は須藤健を救う最終手段について語った。

 

「目撃者探しは正直に言って厳しいと思う。最終手段として須藤くんの罪を軽くする、そしてCクラス側の罪を重くするという方法を考えた」

「最終手段?」

「うん、目撃者が見つかればそれが一番だからね。だから最終手段」

 

 獅峯のいう最終手段とはつまり、天秤にかけた罪の重さ。

 例えば、容疑者二人。一人は前科のある屈強な男性。もう一人は清く生きてきた華奢な女性。そんな時に証拠が何一つなければ、怪しいのは間違いなく前者だ。

 つまり、Cクラスの3人を前科のある屈強な男性に仕立てる。

 

「そのための情報を集めてみた。彼らもなかなかヤンチャだったみたいでね、すぐに集まったよ」

「すごい、こんなたくさんの情報。よく集めたね」

「何もすごくないよ。力になれそうなら良かった。この情報は自由に使って」

 

 でも、と獅峯は最後に一つ付け加えた。

 

「この最終手段をするのなら気をつけないといけないことがある。当たり前なんだけどね。それは相手を徹底的に屈強な男性に仕立てること。それと、須藤くんを華奢な女性に仕立てること。少し難しいかもしれないけど、それが重要だ」

 

 この作戦が成功すれば効果は絶大であるし、情報集めは既に獅峯が終わらせたので事前準備がほとんどいらない。

 ただ一つ、須藤健が清く生きてきた華奢な女性になりきれるか、それが一番の問題だ。

 須藤健の素行の悪さは有名だ。口も悪く態度も悪い。その上体格も良く、バスケ部でレギュラー入りが狙えるほどの運動神経。

 

「正直なところ、この案も難しいと思う。いくら相手を屈強な男性に仕立てることができても、須藤くんも屈強な男性であれば、天秤は平行だ。それだと、実際に被害を受けたCクラスが有利になってしまう」

「そうだよね。須藤くん、結構色んな人を怖がらせちゃってたみたいだし」

「だから一つの案として提案するよ。実行しなくていいし、情報だけ使ってもらっても構わない。それに、この案では少なくとも須藤くんは罰を受けてしまうだろうからね」

 

 そう言って獅峯は微笑んだ。

 この時、櫛田は思う。どうしてこんなに力を貸してくれるんだろう、と。Aクラスである獅峯にとってDクラスとCクラスの揉め事など底辺同士の愚かな小競り合いだろう。

 Bクラスという例外がいる以上なんとも言えないが、基本的には関わりたいとは思わないはずだ。

 

「どうして獅峯くんはこんなに手を貸してくれるの?」

 

 櫛田のこの質問に獅峯はミルクの入ったアイスコーヒーをクルクルと混ぜながら答えた。

 

「んー、どうしてだろうね。俺は善人じゃないし、普段ならクラスが関係なければ関わろうとしない。でも、うん」

 

 それから少し間が空いた。櫛田を見ていた獅峯の顔が少し下を向く。照れているかの様に、少し微笑んで言葉を続けた。

 

「櫛田さんにお願いされたから、かな」

 

 櫛田桔梗はモテる。抜群の愛嬌に誰からも好かれるその性格。持ち前の整った顔立ちもあってそれはよくモテてきた。

 性格のいいイケメンにだって告白されてきたし、頼れるかっこいい先輩にも告白されたことがある。

 

 けれど、獅峯は正直レベルが違う。

 

 櫛田は獅峯の言葉の真意を探りながら、獅峯に合わせるように微笑んで言葉を返した。

 

「そんなこと言われたら照れちゃうなあ。でも獅峯くんは、お願いされたら誰でも構わず助けそうだよ」

「いいや、違うよ。クラスメイトは共に手を取り合う仲間だからもちろん助ける。けれど他のクラスはそう簡単にはいかない。俺は君の力になれそうなことが嬉しかったんだよ」

「そ、そっかあ〜」

 

 櫛田は珍しく反応に困っていた。ストレートに告げられる好意。相手は学年を超えてモテている学校随一のモテ男。加えて何をしても一番な紛うことなき天才。

 櫛田も自分でもそれなりにモテてきた自信はあるが、獅峯はちょっと困る。何となく、自分の肩身が狭くなるような感覚がしたのだ。

 

 それから、須藤についての話は終わり、よければ付き合ってくれない?と買い物に誘われる。雑貨店を巡り、これいいねなんて話しながら気づけば映画館にいて映画鑑賞をしていた。

 

 その後告白されたことに対して、櫛田は思ったよりも驚かなかった。

 獅峯の性格からそういうのに奥手なイメージも無かった上に、今日一日でこれでもかと浴びせられた好意。だから獅峯の告白には驚かなかった。

 

 驚いたのは、自分が意外にも満更ではないことだ。

 

 櫛田がいつも誰かにしていることを、誰かにされた事はなかった。だから獅峯と遊んだ一日は心地よく、櫛田をこんな気持ちにさせた。

 満更ではなかった理由は大きく二つ。その日一日が楽しかったことと、獅峯が誰もが認める天才だったこと。

 そんな人に告白された自分も凄いと、間接的に自己肯定感を上げられる。櫛田は元々自己肯定感は高いがそれでも『獅峯帝に告白された』という事実は大きい。

 

 

 

 後日、案の定櫛田はクラスメイトに問い詰められた。もちろん尋問なんてものとは程遠く、友人が少し興奮した様子で楽しげに声をかけてくるだけだ。

 

「ねーねー!桔梗ちゃん!昨日どうしたの!?獅峯くんとデート?」

「告白は!?告白はされたの?」

「デート詳しく教えて!どこ行ったの?楽しかった!?」

 

 止まらない質問に櫛田は苦笑いを浮かべる。しかしその顔は心なしか赤かった。

 

「ん、んーとねっ」

 

 櫛田が喋り始めると一気に静かになる。櫛田のそばによらずとも、聞き耳を立てている男子達も全員が黙ったからだ。

 その言葉の続きを全員が待った。全く興味を持っていないのは、堀北鈴音と高円寺六助くらいだろう。

 

「告白されたんだけど、返事はまだしてなくて」

 

 告白したが、その場で即振られた誰かが倒れた。告白すらできていない者はすでに耳を塞ぎたい思いだった。

 

「私がこんなこと言える立場じゃないのはわかってるんだけどね?」

 

 そうしてまた区切る。すっと息を吸って、先程より赤らめた頰を隠すかのように、両手で顔を塞ぎながら言った。

 

「————悪くないかなっ……なーんて」

 

 櫛田もただの一人の少女である。どれだけ人より優れた面が多かろうと、誰からも信頼を得られる誰よりも優れた面を持っていても。

 やっぱりただの15歳の少女である。

 

 クラスのアイドルのその告白に、教室が湧く。意味は人それぞれだったが、ただ一つ確かなこと。

 それは、恋をする櫛田桔梗は爆発的に可愛い事だ。

 

 

 




『余談』
獅峯が櫛田に目をつけたのは偶然。「わんぱくな国の王子様」って言われたのが面白かったのと、櫛田本人が使えそうだったので調べてみれば、丁度良い存在だったので利用しようと決めた。櫛田桔梗は被害者、可哀想。
それより、最近の櫛田めっちゃ可愛くない?だから拙作でこんな扱い受けるんだよ。
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