ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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12話 こういう人

 

 その人と別れてから寮の自室に戻って、まず私はベットに飛び込んだ。はあーと長く出たため息からは喜びが滲み出ている。

 

 獅峯くんとのデートはすごく楽しかった。多分、今までで遊びに出かけた中で、一番楽しかっただろう。

 

 何度も心の底から笑ったし、ストレスのない空間は驚くほどに心地よかった。何か重荷が抜けていくような感覚が、ずっとしていた。

 

 顔に熱がこもっている様に感じるのは、きっと獅峯くんがかっこよかったから。

 

 平田くんだってかっこいいし、顔だけなら綾小路の奴もかっこいい部類だろう。

 でも獅峯くんは何か違う。あの目は、あの目はきっと麻薬だ。引き込まれたら抜け出せない。

 

「……告白の返事、どうしよう」

 

 今まで告白の返事に困ったことなんてなかった。理由単純で、選択肢など一つしか存在しないから。勿論、『断る』一択だ。

 けれど私がこんなに悩んでいるのは、それ程までに今日の時間が心地よかったから。

 はぁ、でもそんな事考えてる時点でダメだろう。

 

 今までの自分が積み重ねてきた理想像は何処へ行ったのか。いいや、元から私の理想像に『彼氏を作らない』なんて要素はない。だから獅峯くんからの告白にOKを出したところで問題はないだろう。

 しかし、少し冷静さを取り戻した私はメリットとデメリットを頭の中で整理していく。メリットは大きい。でもデメリットもある。

 

 ……冷静なんてとんでもない嘘だ。こうやって冷静を取り繕ってるだけで、私はもう告白の返事を決めている。

 この気持ちに従って、返事をするんだ。

 

「あの人……ほんとにタラシなんだなあ」

 

 顔がよく、性格がよく、どれをとっても誰よりも優れている。一緒にいたら窮屈になりそうなくらい完璧な人。

 

「……弱点くらい見つけないと、割に合わないよね?」

 

 だって私を堕としたんだもん。当たり前だよ。

 そんな密かな企みも、可愛い女の子の悪戯だ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「ねえ獅峯。あんた、どういうつもりなの」

「どういう意図かさっぱりわからない質問だね。それは叱責の言葉かな?」

 

 コンビニまでの道中、そう話を振ったのは神室だ。

 

 坂柳におつかいを頼まれた神室に、付き添うよと声をかけたのは俺。別にそれに他意はないし、あるとすればクラスメイトからの視線がそろそろ鬱陶しくなってきたことか。

 

「櫛田桔梗のこと。あんた女泣かせるのが趣味な訳?」

「失礼だな神室さん。俺が女の子を泣かせたことはないし、泣かせようと思った事もないよ」

 

 神室はそういう話に興味を持たないタイプだと思っていたが、意外とそうではないのかもしれない。女の子が色恋沙汰に敏感だというのはよく聞く話だ。

 

「なら、告白はあんたの本心なんだ」

「そうだね。あ、君とこうやって2人で歩いているのもよくないな。ほら、離れて歩けよ神室さん」

「はあ?勝手に着いてきたのあんたじゃん。私着いてくんなって言ってし」

 

 俺は神室の答えを、はははと笑って流した。

 

 櫛田からは、暴力事件が収束してから告白の返事をさせて欲しいと連絡をもらっている。返事が来るのはそれなりに先になるだろう。

 別にそれで構わないし、返事が何であれ結末が思い通りになればそれでいいので、正直に言えば興味はない。

 いや、これは少し性格が悪すぎるな。反省しよう。

 

「君にだからいうけれど、俺は俺の発言を一つも撤回しようとは思わないよ」

「ふーん。興味ないけど」

「はははっ、だから言ったんだよ」

 

 俺の理想とする結末は俺が成長できた未来。その為なら、どんな犠牲も厭わないつもりだ。

 女の子のことを泣かせようと、清隆を利用しようと。そんなことはどうだっていい。

 

 おっと、これも少し性格が悪いかな。反省しよう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 ここのところ、忙しい日を過ごしていた為、図書館に顔を出せていなかった。

 なんとか時間を作って久しぶりに足を運ぶ。珍しく椎名を見かけなかったがそういう日もあるだろう。俺はあまり気に止めることはせず手頃な本を探し始めた。

 

 それから良さそうな本を数冊持って椅子に座った。テスト週間なんかは混み合う図書館だが、それ以外は基本的に人が少ない。故に俺のお気に入りスポットなのだ。

 

 本を読み始めて数分、新たに図書館に入館する人が現れた。足音は二つ。特に気にすることなく読書を続けていればその足音は俺の目の前で止まった。

 流石に無視するわけにはいかず俺は視線を上げる。

 一人は見知った顔。もう一人は知らない顔だ。

 

「や、椎名さん。今日はいないのかと思ったよ。横の人は?」

 

 見知った顔の人物、椎名ひよりに挨拶をしてから横の人物に目を向ける。おおよそ誰なのか想像はつくが、確証があるわけじゃない。

 椎名に説明を求めれば、椎名はいつも通りの様子で答えてくれた。

 

「お久しぶりです、獅峯くん。図書館に足を運ぶ獅峯くんが見えたので、会って話したいと前からおっしゃっていた龍園くんに声をかけたんです。突然すみません」

 

 椎名が龍園くんと呼んだ横の人。間違いなく龍園翔だろう。手下どもを使って俺にちょっかいかけてきたあの龍園だ。ああ、あと。今はDクラスにちょっかいをかけていたんだった。

 ちょっかいかけるの大好きか、小学生か。ん?てことはつまり龍園くんはちょっかいかけた俺と須藤のことが好きなのか?小学生男子ってそういうところあるよなあ。

 まあ確かに俺の顔はそれなりに整っているし好きになっちゃうのは分からなくはない。けど、流石に須藤くんはどうなんだろう。いや、彼もスタイル抜群だ。そんなこと言ってはダメだな。

 

 一人で話を脱線させていると龍園は俺の読んでいた本を手のひらで机に押し付ける。

 ごめんて、心読んだ?怒らんといてえ。

 

「よぉ、獅峯。あの時はうちのが世話になったな」

「龍園くん、本は大切にしないといけないよ。ほら、本解放したげて」

「そうです、龍園くん。本は大切に扱いましょう」

 

 俺と椎名でそう注意すれば、その悪人面の表情を変えることなく手を退ける。俺は傷が付いていないか軽く確認してから本を閉じた。

 

「それで、俺に会いたかったんだっけ?でも、やっぱり恋愛って行動しないと発展しないからさ?随分と音沙汰なかったじゃん。俺、君のこと忘れてたよ。俺にアピールするならもっと積極的に、さ?」

「クククッ、引くのも一手っていうだろ?どうだ?気になってきたか?」

「悪いけど、好きな子ができたんだ。君の気持ちには応えられそうにないな」

 

 意外にも龍園は悪ふざけにノってくれた。それでもその悪ふざけを俺が終わらせてしまえば、すぐに話題は変わった。

 俺の正面に龍園は座る。偉そうにふんぞり返って、足を組んでいた。

 

「夏休みにバカンスがあるという話は聞いてるだろ」

「どうやらそうらしいね。それで?」

 

 龍園の隣に椎名は腰を下ろしたが、龍園の話には全く興味がない様で読書を始めている。

 いや、元から龍園と俺の橋渡しとしての役割だったのだろう。彼女がまだこの場に留まっているのは、俺たちがいる場所が図書館だからだ。

 

「そこは必ず大きなターニングポイントになる。つまり、必ずクラスポイントが大きく変動する何かが起こるはずだ」

「君のその想像については、なんの異論もないけれど……。ここで今その話をするってことは何?協力の相談かな」

 

 俺がすぐに本題と思わしき事に触れれば、龍園はクククと一度笑ってから表情を変えた。やはりここからが本題らしい。

 

「話が早くて助かるぜ。俺はまだお前らAクラスを敵に回すつもりはない。協力しようぜ」

「どうかな、君が裏切るところまではしっかり見えたよ」

「クククっ、信用ねえな。必要なら契約書でもなんでも書いてやるぜ」

 

 もちろん例外は多い話になるが、基本的に一個飛ばしの関係であるCとAは、他のクラスに比べて協力関係をとりやすい。敵の敵は味方と言えば分かりやすいが、隣り合わせになっていない俺たちのクラスは懸念少なく手を取り合える。

 が、Cクラスというのが引っかかる。まあ、正確には龍園翔と手を取り合う事に前向きに考えられない。

 

「俺一人の力でも勝利は俺たちAクラスのものにできると断言できる。つまり、俺は君と手を取り合う必要は無いんだよ」

「へえ?随分と自信がある様だな。Aを除く3クラスが手を組んでもか?」

「勿論、それでも勝つのは俺たちAクラスさ。それでもいいなら好きに手を組んでもらって構わない。……けど、それが一番現実味がないことは、君が一番わかってるんじゃない?」 

 

 Cクラスはちょうど今、Dクラスと揉め事を起こしている最中だ。その上入学してすぐの頃、Bクラスにも手を出していたことを知っている。

 その3クラスが手を取り合うなんてことはまず有り得ないだろう。

 龍園も俺のその意見に何か反論があるわけではない様で、特徴的に笑いながら、違いねえと言葉を溢した。

 

「だがそんなに結論を早めなくていいだろ。詳細が分かればまた提案しに来る。その時に返事を聞かせろ」

「そうだね、そうしようか。けれど協力には、それ相応の対価が必要であることを忘れるなよ」

 

 それから連絡先を交換して、龍園と俺の会話はそれで終わる。その後、彼はすぐに図書館を出て行った。

 俺も読書を再開しようと本を開けば、視線を感じたので開いた本をまた閉じた。椎名の熱烈な視線に応える様に笑う。

 

「どうしたの椎名さん。熱烈な視線、照れちゃうな」

「すみません。つい。ただ、獅峯くんがもっと遠い人みたいに感じてしまって」

 

 俺のジョークを華麗にスルーした椎名に詳しく聞いてみれば、続きを話してくれた。

 

「Aクラスのリーダーをしている獅峯くんがすごい人というのは分かってたんですが、こう龍園くんに対して堂々としていたところを目の当たりにしてみると、さらに実感したといいますか。遠い別世界の人間のように感じてしまったんです」

 

 椎名の言いたいことはなんとなくわかるが、少し寂しいな。

 俺は別に俺のままだし、これを理由に椎名に距離を取られたら流石に落ち込んでしまうかもしれない。

 

「俺は別にすごい奴でもないし、怖い奴でもやばい奴でもないよ。だから、椎名さんとは今まで通り仲良くしたいな」

 

 俺がお願いするようにそういえば、椎名は慌てて首を振った。

 

「いえ!獅峯くんはすごい人ですよ。でも……私も仲良くしたいです!」

「はははっ、嬉しいな。これからもよろしくね」

 

 こういう、競争とは一線をおいた友人とは良いものだ。やっぱり椎名とは仲良くしたいな。

 

 それから椎名とはいつも通りお互い読書をして時間を過ごした。間違いなく、有意義な時間だっただろう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 誰だって、小さい頃は白馬の王子様に憧れただろう。

 私もそんな普通のうちの一人だった。けど、そんな憧れも歳を重ねれば風化していき、憧れていたことすら忘れてしまう。

 

「山村さんもどう?」

 

 本人にとっては些細な一言だったはずだ。

 所謂(いわゆる)一軍グループが、面白いお菓子を見つけたなどと盛り上がってそのグループの中心にいた彼がお菓子を配っていた。

 私はそんな話題の中にいたわけじゃない。ただ近くの席に座っていただけだ。

 

 彼は私に気がついた。私がそこに()()ことに気がついたのだ。そのことが私にとってどれほど珍しいことか。

 

「あ、いえ。大丈夫です」

「そっか!」

 

 彼は、獅峯帝くんはそう言って笑った。

 この時に、彼は王子様のような人だと思ったのだ。

 

 

 

 トランプで遊んでいると、番を飛ばされるくらいには影の薄い私。その影の薄さは年々増しているようにも思う。

 それはきっと、人に存在を認識されないように、できるだけ空気であろうという生き方を意識し始めたからだ。

 だから私はこのクラスで過ごす3年間は影であり続けようと思っていた。

 

 このクラスを率いる獅峯くんは私と正反対。彼はまさしく光のような人だ。

 いつも笑顔で、いつもみんなの中心にいて、おまけになんでも出来る完璧な人で。獅峯くんが率いていくならAクラスに敗北はあり得ないと誰もが信じて疑わない、そんな人。

 そんな人の力になれるのなら、これほど嬉しいことはない。

 

 だから私は彼に()()()()をお願いされた時、迷わず首を縦に動かした。

 

 御伽話では、お姫様は王子様に助けてもらう側。でも別に王子様にお願い事をされるお姫様だっていいと思う。……自分はお姫様だって自惚れているわけではないけれど。

 

「櫛田桔梗について調べて欲しいんだ。これはきっと山村さんにしかできない事だから、お願いできないかな」

 

 獅峯くんがどうして櫛田さんについて知りたいのかは分からないけれど、力になれるのなら頑張ろうと思った。

 

 情報を集めて渡した時の、ありがとうと笑った獅峯くんの顔を、私は忘れられないままだ。

 

 

 

 




『山村美紀』
メインでの登場は2年生編4.5巻。坂柳クラスに在籍する影の薄い生徒。高い実力と、才能とまで言える影の薄さで坂柳に能力を買われていた。

『余談』
獅峯は自分の顔が強力な武器であるということを理解している。あと不用意な嘘はつかないけど、必要だと思えば嘘もつく。怖いねえ。
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