ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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13話 くそやろう

 

 突然、生徒会室に呼び出された。これからみんなと神室さんのソロステージを聞く予定だったのだが、流石に()()()()からの呼び出しに応じないわけにはいかない。

 

「ごめん、神室さんのステージを見に行けなくなっちゃった。俺はいつでも君を応援してるからね、神室さん」

「あら、それは残念ですね獅峯くん。では私たちだけで真澄さんの、美声を楽しみましょうか」

 

 俺と坂柳がそう言えば、神室から可愛らしい視線が向けられた。これがファンサービスってやつか。

 

「あんた達、まじでクソみたいな性格してるわね」

「罵ってまでくれるなんて。サービス精神旺盛だね。嬉しいな」

 

 俺がまたそう煽れば、神室は先程と同じように睨みつけてくる。しかし今度は、その後に言葉は続かなかった。

 

 俺はそれからすぐ生徒会室へ向かった。

 時間に指定があったわけではないが、遅くない方がいいことには間違いない。生徒会室の前まで辿り着けば、躊躇する事なくノックをした。

 

「獅峯です。会長はいらっしゃいますか」

 

 そう言えばすぐに、入れと指示が聞こえた。

 生徒会室には会長である堀北学しかいなかった。高そうなソファに腰を下ろして、足を組む訳でもなく、ただ座っている。

 

「俺の連絡先なんてどうやって入手したんですか。突然会長からメールが来て驚きましたよ」

 

 じっと俺を見つめる会長を見下すように飄々とした態度でそう言った。

 生徒会長堀北学は、俺に鋭い視線を向けながら座れとだけ言う。俺は近くのソファに腰を下ろした。

 

「突然の呼び出しについては申し訳なかったな。個人的に連絡したのは、この場が個人的な話をするための場であるからだ」

「へえ?個人的な……。全く心当たりないですね」

 

 個人的なとかいう前置きがある時点で、何らかの違反に対してペナルティを受ける、などといった可能性は無くなった。警戒は解いていいかもしれない。……けど逆だな。

 個人的な話だからこそ、なにについて話されるか予測がしづらい。いい事悪い事、そのどれかでもない場合でも、()()()()()()()()()という点においてはもう既に悪い事だ。

 

「中間テストではクラス平均が96点だったそうだな。これがどれだけ異常な点数かわかるか?獅峯」

「さあ、わかりません」

 

 これは、Aクラスである俺たちがどうやって過去問を入手したかについての話だろう。

 南雲が言っていた通りなら、過去問の存在は下位クラスのためにある。それをAクラスが入手したことによる疑問。

 つまり、過去問が有益なものだという情報をどうやって得たかという問いかけだ。

 

 しかし、生徒会長は特にこの話題に拘りがあるわけではなかったようで、話はすぐに移り変わった。もちろん、俺が答える気がなったのもその要因だろう。

 

「生徒会には、優秀な生徒が自然と集まる。どうしてだと思う」

 

 突然生徒会の話か。真剣に考えて答えてもいいが、個人的な場でわざわざそんなことをする必要もない。適当に躱してしまおう。

 そう思って俺は、わかりません、と答えた。

 隠す気もなかったが、俺に答える気がないのに気づいたのだろう。会長はすぐに答えを語った。

 

「優秀な生徒は、生徒会という立場の有利性について誰よりも理解しているからだ。生徒会に所属することは社会貢献の為だけじゃない。大きなメリットがある」

「確かにそうかもしれませんね。一年で生徒会入りを希望した葛城も一之瀬も。どちらも優秀な生徒だ」

 

 まあ、そのどちらも、この生徒会長に断られたらしいが。

 理由はなんとなく察している。また、その理由から紐解けば、どうして今日俺が呼び出されたのかもなんとなく想像がついた。

 

「生徒会へ来い、獅峯。次期生徒会長の席くらいなら用意できる。お前ならこれがどれだけのメリットを含んでいる話なのか理解できるだろう」

「そうですね。正直めちゃめちゃ美味しい話だとは思いますよ」

 

 だが、この話は断るつもりだ。メリットは理解できる。デメリットなんて生徒会活動に参加しないといけないくらいでほとんどないようなものだ。

 でも問題はそこじゃない。

 

「先輩達の争いに俺を巻き込まないでくださいよ。俺は、堀北会長にも、南雲副会長にも、どちらかに付くなんて意思はありません。そして、それが今後変わることもね」

 

 会長が今日俺を呼び出したのは、一言で言ってしまえば牽制の為だ。

 俺を警戒しているからこそ、南雲側に付かせないよう南雲が出せる条件を上回る最高待遇で生徒会に勧誘した。

 断ってもそれでよし。ただ南雲雅を援護するなと、そういう牽制がしたかった。

 

「俺を警戒してわざわざ時間を使ってくれた先輩にいい事を教えますと、俺は南雲先輩に借りがひとつある。それだけは把握しといてくださいね」

 

 それは、一度なら南雲を援護することはあるということだ。俺の言葉に堀北会長は、そうか、と一言だけ溢した。

 俺の目的に生徒会活動は関係ない。だから会長の話は断った。南雲の貸しに関しても、俺にメリットがなければ適当にやり過ごす予定だ。

 

「俺のことは頑固な雑草程度に思ってもらえれば」

「ふっ、頑固な雑草か。王様には似合わんな」

「俺の王国はAクラスですので。先輩の活動圏は管轄外ですよ」

 

 俺の返答が気に入ったのか、会長はほんのり笑ったまま俺を外まで見送った。丁寧に俺がここへ足を運んだことへの感謝も加えて。

 

 しかし今日のこの出来事は嬉しい予想外だ。ここで生徒会長と顔が繋がったのは大きい。連絡先もあるので、状況によってはいい駒として使えるかもしれないな。

 

 今日はいい日になった。こんな気分なら勉強も捗りそうだ、なんて思いながら、寮までの帰路についた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 どうやらDクラスとCクラスの暴力事件は解決したらしい。簡単にこの件の結末について調べてみれば、Cクラスが訴えを取り消したそうだ。

 

「Cクラスがそんな事をするとは思えないな。一枚噛んだか、清隆」

 

 清隆がらしからぬ事をした理由は気になるが、これが俺にとって良い変化であるということに間違いはない。これ以上この件について調べるのはやめておこう。

 

 俺はそんな事を考えながら鏡で自分の姿を見てみた。

 

 いつもより丁寧に整えられた髪。友人と遊びに行く時には着ないようなおしゃれな服。

 まあつまり、今からデートという事だ。櫛田桔梗と。

 

「あっ、おはよう!獅峯くんっ」

「おはよう、櫛田さん。俺の方が先に着くと思ったのに、悔しいなあ。早いね、櫛田さん」

 

 そう、俺は約束の時間より30分早く着くように部屋を出たのだか、既にそこには櫛田がいた。

 念入りに手鏡で前髪をチェックしたり、心なしかソワソワしたように見えたり。これが()()()なら、彼女ほどあざとかわいい人はきっといないだろう。

 

「じゃあ行こう、櫛田さん。特にこれをしようっていうのはないんだけど、何処か行きたいところとかある?」

 

 そう言いながら手を差し出せば、櫛田は一瞬驚いたのち俺の手をとった。

 これは殆ど告白の返事だな、と思って笑いそうになるけど、こうなるよう誘導したのは俺だ。

 どれだけ人として優れていようと結局はただの15歳なんだと分かれば櫛田は本当に可愛いやつだった。こういう所は、少しだけ清隆に似ているかもしれない。

 

 彼女の柔く可愛らしい手を握りながら、さてどうしようかな、なーんて考えながら、俺はデートを楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「告白の返事なんだけどね?」

 

 帰り際、そう切り出した櫛田桔梗は繋いでいた手を離して獅峯帝の正面に立った。

 遊び切ったねえと言って笑った獅峯との別れを惜しんで、海岸沿いのフェンスで少し喋らないかと櫛田が提案したからだ。

 そこはまさしく獅峯と櫛田が初めて出会った場所で、告白の返事をするにはもってこいの場所。どう返事について切り出そうと考えていた櫛田にとって、タイミングはこの時しかなかった。

 

 向き合った櫛田は獅峯の目をまっすぐに見ている。また獅峯も櫛田の目を見ていた。キラキラしてるな、なんて場違いな感想を抱いてしまうくらい獅峯の瞳は輝いていて、まるで目が合うのは今が初めてなのではないかと思うほど知らない色をしていた。

 

「うん、聞かせてもらって良いかな」

 

 獅峯がそう言ってから少し間が開いた。櫛田の頰は紅潮していて誰がどう見ても運命の告白のその一瞬。

 

「私でよければ、よろしくお願いしますっ」

 

 その言葉を聞いて獅峯は目を見開いた。まず驚いて、次に喜びを噛み締めるように目をギュッと瞑って。最後にへにゃりとだらしなく微笑んだ。

 

「あぁ、俺多分、世界で一番幸せだ」

 

 勿論、全ては演技である。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 高育のアイドル櫛田桔梗の彼氏、獅峯ですどうも。

 

 彼女の未熟で柔い少女の心に付け込んだ事に関しては申し訳なく思ってる。だが()()()()()悲しい思いはさせないように努力はするので許してもらいたいな。

 

 ともかく俺のしたいことはここからが本番だ。何をするかと言われれば、簡単に言うと『櫛田桔梗を俺に依存させる』こと。

 これはストレートな言い方だが、別に依存させなくても良い。俺の都合のいいように動く駒が欲しいだけだ。

 

 俺が山村美紀に頼んで調べてもらった櫛田の情報を利用すれば、彼女は簡単に堕ちる。だが、様々なパターンを想定して作戦は練っておくべきだ。

 

 それから様々なプランを頭で練って、行動に移したのは次の日から。

 

「あれ?綾小路だ。何か買い物?」

 

 お付き合いをしてから初めてのデート。そこで()()清隆に会った。

 

「あぁ、最近自炊を始めたんだ」

「へぇ?そうだ、綾小路が何買うか気になるから、買い物ついてっていい?」

「え?あ、いや、オレは別にいいが」

「……うんっ、私も綾小路くんが何買うのか気になるなっ」

 

 櫛田の笑顔が濁って見えたのは、きっと見間違いじゃないだろう。

 

 また別の日。

 

「やあ、綾小路。寮に帰るとこ?」

「獅峯に櫛田……。最近妙によく会うな」

「そうかな?あ、今から俺の部屋で櫛田さんと勉強会するんだけど来る?」

「……いや遠慮する」

「そうだよー。あんまり綾小路くんを揶揄(からか)っちゃダメだよ?獅峯くん」

「はははっ、ごめんごめん。じゃあ寮まで一緒に行こうよ」

 

 また別の日。

 

「よっ、綾小路!本当によく会うね」

「……獅峯。今日は櫛田はいないんだな」

「今は買い物中だからね。あ、よかった晩御飯食べてく?見たところ君も買い物中みたいだし。節約にさ」

「いや、遠慮する」

「いいや、遠慮はするな。今日はたくさん作る予定だから、むしろ君にも食べてもらいたい。さあ、さあ」

「あ、いや」

「さあ、いくぞ。綾小路」

 

 彼は案外押しに弱い。少し強引にでも手を引っ張ってやれば、ほとんど抵抗はしなかった。

 まあ、あとは簡単な話である。

 

「あ、おかえり獅峯くん!……綾小路くん?」

「ただいま、櫛田さん。買い物途中で綾小路に会ってさ。良ければ、と誘ったんだ。彼は俺の料理が大好物なんだよ」

「へえ?そうなんだねっ」

「帰っていいか?」

「なんで?料理はすぐできるよ。櫛田さんも待ってる間退屈だろうし、2人で待っててよ」

「いや……」

「獅峯くんもこう言ってるし、ご馳走になりなよ。綾小路くんっ」

 

 まあこんな感じだ。

 

 こんな感じの日々が続いて、そろそろ櫛田のフラストレーションも溜まってきた頃だろう。準備は終わったようなものである。

 

 さて、櫛田桔梗の様子を、今まで以上に入念に見ることにしよう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 海沿いのフェンスを足の裏で一度蹴った。ガンという低い音が周囲には響いたが今は深夜。誰かに見られるなんて事を気にすることはない。

 誰だって鬱憤が溜まれば吐き出すだろう。もし誰かが通りかかろうとも、ここでフェンスを蹴った誰かが、私……つまり櫛田桔梗であると結びつけなければいい。簡単な話だ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 長い長いため息を吐いて、そして心の中で叫んだ。

 

 ——————死ねっ!!!綾小路!獅峯も!!

 本っ当っに、最悪最悪最悪っ!!!邪魔すんなよクソ野郎!空気読めよバカやろう!

 

 心の中で叫ぶたび、フェンスはガンガンと私に蹴られる。いつかの反省を生かして叫び散らかすのはやめたけど、これじゃああまり変わらないかもしれない。

 でも、やっぱり仕方のないことだと思う。だって、デートをことごとく邪魔される。そんなの耐え切れないでしょ。

 彼、私の彼氏獅峯帝の知名度は凄まじく、そしてびっくりするほど彼は人気者だ。道を歩けば学年問わず声をかけられる。別に、それだけならどうってことない。私だって声をかけられることくらいのこと日常茶飯事だ。寧ろ、人気者の彼は自分の彼氏なんだぞって誇らしくなる。

 

 許せないのは、アイツだ。綾小路だ。

 

 私の目を盗んで彼に身を寄せすり寄る上級生なんて、アイツに比べたら全然苦じゃない。なんなら、これに関しては、どう私可愛いでしょうと胸を張る上級生に対して、彼は私の手を引いて、可愛い人紹介ですか?俺の彼女です。可愛いでしょう。なんて言って上級生らのプライドをへし折るので、私は内心ニマニマしてくるくらい。

 うん、あれは気持ちよかった。

 

 いいや、そんな事よりも。彼、獅峯くんがかっこよくて、本当にいい彼氏で、私を大切にしてくれてるからこそ。私はこんなにも腹が立ってる。

 考えてみてほしい。普段は自分を第一優先にして優しくしてくれる彼氏が、自分より自分の嫌いな人を優先する。自分の嫌いな人の方が大切だと言わんばかりの態度を取る。ね、最悪でしょ。

 

 だから!死ね!綾小路!

 

 最後の一撃だと言わんばかりに、私は全力でフェンスを蹴った。今までで一番の大きな音は、深夜に響いていいような音じゃない。

 

 しまったやりすぎたかな、と思う時には、大体やらかしているのが私だ。

 

「櫛田さん……?」

 

 ぎゅっと心臓を掴まれたような感覚がした。

 

 誰かに気が付かれたか確認するため私が周囲を見渡そうと首を振るよりも早く、その声は私の元に届いた。

 

 知ってる声。好きな声。聞きたくなかった声。絶対に知られたくなかった人の声。

 

 焦った私は、いつもの天真爛漫を演じられなくなった顔を隠すために、()の胸へ飛び込んだ。

 

「見てた?」

 

 そんな質問、意味なんてあるのかな。ないだろう。だって見ていたから、彼は、獅峯は、私に声をかけた。

 本当に最悪だ。これから私は初めてできた好きな人を、大切な彼氏を嫌いになる。

 自分の運の無さ、視野の狭さ、考えの稚拙さ。全てを呪いたくなるほど憎んで。でも最後には、ここに来た獅峯が全て悪いんだと、自己中な私は主張する。だから、彼を嫌いになる。

 

「忘れて。お願い。あと……」

 

 別れよう。と口に出すより早く、彼は私をぎゅっと抱きしめた。彼の抱擁は強く、少し痛いくらいで、でも優しかった。

 

「惚れた弱みっていうのかな」

 

 唐突に喋り出した獅峯くんの抑揚は、普段と何一つ違いない。

 

「櫛田さんのもつ二面性が、誰も想像できないようなものだったとしても。俺の知らなかった櫛田さんの顔が、普通の人には受け入れ難いものだったとしても」

 

 私の耳元で聞こえた声は、私の裏に対する恐怖も絶望も私にとって恨むべき感情は何一つない。

 

 絆されていく感覚がした。ドロドロに溶かされているような、抜け出せない沼に落ちていく感覚だ。

 

「改めて、櫛田桔梗を好きだ」

 

 あぁ、これは一生抜け出せないな。

 

「君の新しい顔が見れて興奮さえしている。こんな俺で君は幻滅するかもしれないけれど、どんな櫛田さんを見ても愛おしいとしか思えない。胸が苦しいとさえ感じる」

 

 私が何か言葉を返す前に、彼らしからぬ弱い声は最後にこう言った。

 

「だから別れるなんて言わないでくれ。君の願いは全て叶えるから」

 

 こうして、絆されてしまった私は、ほんの少し残っていた賢い頭が覚えた()()をうやむやに流してしまった。

 

 どうして彼は深夜にこの場所に現れたのか。

 

 そんな疑問、今の私にはどうでもいい事だった。

 

 

 




『補足説明』
今更ですが一応説明させていただきます。プライベートポイントはpr。クラスポイントはcl。綾小路の一人称はオレ。ですね。
よろしくお願いします。

『余談』
獅峯帝のイラストを描いてみました。9話のあとがきに追加したので、興味を持っていただけたら、是非ご覧ください。
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