ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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16話 天才の遊び

 

 予定より随分と早くベースキャンプに戻ってきてしまった。まだ太陽はそれなりに高い位置にいる。

 

 想像以上にこの無人島が管理されていたせいだ。ちょっと飛び回れば飽きてしまった。

 最初は楽しかったんだけど、ここには大自然特有のスリルが全くない。まあ、管理の行き届いていない本物の無人島に、(大体の生徒が)サバイバルの知識が一切ないのに放り込むわけないか。当たり前のことだ。けれど猛獣の1匹くらいいても良かったんじゃないか?俺はやってみたかった、熊と相撲取り。

 

 しかし、俺のテンションの下がり具合とは逆で得た収穫は多い。俺はこの森で動き回れる今この場にいる最適メンバー数人を呼び寄せて、自分で描いた地図を開いてみせた。

 呼び寄せたメンバーは地図を囲んでしゃがみ込む。

 

「これが島の地図。ここが今俺たちのいるベースキャンプね。星印をつけたところに果物とか野菜がなってたから収穫に行ってほしいんだ。星が大きい順に優先順位が高い。お腹に溜まるものとか、なってた数とか、そういう基準でね」

 

 呼び寄せたメンバー全員が俺を見て目を見開いた。どうした、そんなに驚くことがあっただろうか。代表して橋本が問いかけてくる。

 

「獅峯……アンタ、この2、3時間でこのチェックのとこ全部回ったのか?」

「……あー、まあそうなるね。でも別に大したことじゃないよ」

 

 確かに、地図全体に星印があれば、必然的にそうなるか。縦横無尽に走り回ったからな。見落としたところもあるだろう。だからそんなに大したことではない。

 それでも、これで食費がだいぶ抑えられる。水資源を得られないベースキャンプとしては、水確保を最優先にポイントを使った方がいいかもな。

 

「あ、結構いろんなものあったし、カバン持ってくようにね。あと、他クラスと遭遇したら譲ってあげて」

「いいのか?せっかくポイントの節約ができるのに」

「いいよ、どうせ栄養食はそれなりに買うつもりだし。じゃあ頼んだよ」

 

 こうして俺はみんなを見送り、手持ち無沙汰となる。

 うーん、どうしようかな、俺暇になっちゃった。周りをキョロキョロ見渡してみて、俺と同じく暇そうな人を見つけた。彼女を誘おう。

 

「ね、坂柳さん。芸術に興味ない?」

「……。ふふふ、私は壺でも買わされるんでしょうか」

 

 一瞬目をぱちくりさせて驚いて、その後いつも通りの不敵な笑みを浮かべた。

 砂浜に現代アートでも作りに行こう。天才の全力を見せてやろーぜ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 朝の目覚めは最悪だった。

 寝起きの悪さに定評のある俺の目覚ましは戸塚の腕。ぶんっと俺に振り下ろされた奴の腕は俺の鼻に直撃した。

 くそ、実は熱でもあるのか俺。普段なら寝ていたとしても絶対そんな一撃喰らわないのに。悔しいな。

 ツーと垂れる鼻血でテントを汚さないように、素早く仮設シャワーへ向かう。

 俺のクールフェイスが台無しになったら、許さないからな。

 

「おはよう。シャワーを浴びていたのか」

「あ、葛城くんおはよう」

 

 ちょうどテントから出てきた葛城にあった。快眠できた、という顔はしていない。もしかして彼も戸塚の裏拳を喰らったのだろうか。かわいそうに。

 

「おい、鼻血が出ているぞ」

「……あっれぇ、すぐ止まるはずなのに。調子悪いな」

 

 鼻を慌てて抑えていると、葛城が俺に近づいておでこを触る。熱はないよ。

 

「熱いな」

「いや、蒸し暑い気温のせいじゃない?俺まじで風邪ひかないよ。多分葛城くんの手が冷たい」

「だといいがな。無理はするなよ」

「はあい」

 

 気怠さはない。身体も元気だ。鼻血が止まらないのは、戸塚の拳が結構いいところに当たったせいだ。うん、でも攻撃喰らってるし、やっぱ体調良くないかな。というか、そういうことにしたい。あんな奴の攻撃喰らっちゃうなんてなあ。

 

「この後はどうする。もう少し寝るのか」

 

 支給された時計を確認してみれば、まだ5時になったばかりだ。ランニングしたり、筋トレに時間を充ててもいいけど。

 

「寝ないよ。朝ごはんの準備でもしようかな」

「そうか、手伝おう」

 

 慣れない環境での睡眠だ。みんなの起床もきっと遅くはない。

 俺は手際良く焚き火を作った。んー、焼きとうもろこしでいいかな。ついでに果物もすぐ食べれるように皮を剥いておこう。

 

 それから、全員が起きたのは7時になってから。各々で朝ごはんを食べ始め、点呼の時間となる8時には全員の朝食が終わった。

 

「んじゃ、特殊部隊をつくりまーす」

 

 俺が今ここで言った特殊部隊とは、簡単に言うところの占有してるスポットを巡るチームのことだ。

 8時間ごとの更新を必要としているスポット。俺たちAクラスの占有するスポットはそれなりに数が多い。リーダーの俺のカモフラージュとして俺と共にそれらを回るチームを作ろうというわけだ。

 

「じゃ、名前呼ぶからね」

 

 俺は6人の名前を呼ぶ。初日に初めてのスポット占有からずっと共に行動していた葛城、戸塚は当然のこと。カードキーを使用する場面で俺と葛城、戸塚の3人を囲んで隠せる体格の良い生徒を呼ぶ。鬼頭くんとかね。

 三分の一から絞らせなければいいのだ。まあ、バレてもあまり問題はないし、実をいうと昨日俺一人で行った島の探索の際に幾つかのスポットを占有してしまった。見られている可能性もあるだろう。

 ま、問題はない。むしろ、この戦略の粗に目を付けられたいくらいだ。

 

 こうして1日に3回、俺を含めた7人のチームでスポットを巡るという日々が続くわけである。

 

 朝のスポット巡りを終え……と、言っても全てのスポットが近い時間に占有できているわけじゃないので行けてないところもあるけど、その後、俺と葛城は釣りに来ていた。

 経緯としては、昨日砂浜に作った現代アート(因みにテーマは『自由とは何か』)の修正をしていた俺のところに、葛城が釣竿を二つ持って来たのだ。よほど俺と話したいことがあったんだろう。

 岩場でぼーっと海の眺めていた葛城が俺に向けて喋り出す。

 

「今回の戦略、粗が多いぞ獅峯」

「説教かな。……嫌いだなあ」

「これは問いだ。お前は何を狙っている?」

 

 何を狙っている、か。

 坂柳は今回の試験、完全にノータッチというスタンスを決めている。だから、俺がたとえ負けるように動いたとしてもきっと何も言わないのだろう。

 葛城は、俺が自らをリーダーだとバラすように行動しているように見えると、指摘したいんだろう。

 

「大前提として、この試験で1位を取るのはAクラスだ」

「……そうか。聞けて安心した」

「そして、2位はDクラスになるだろうね」

「Dクラス?……Bの間違いじゃなくてか」

「間違いじゃないよ」

 

 3、4位の予想は正直五分五分といったところで自信はない。けれど、1位2位については間違いないと断言できる。

 

「俺がCクラスと交わした契約についても、全て俺の敷いたレールの上に成り立っている。この試験、脱線してもすぐに新たな道を作れるくらいには柔軟に動ける。つまり、君は何も心配しなくていいって事だ」

 

 ウキが沈んだので竿を引き上げる。

 あ、釣れた。キスじゃん、これは当たりだな。

 

「余計な心配だったか」

「俺の説明不足だったね。葛城くんの疑問は当然だよ」

 

 これで彼の疑問は解決しただろう。いや、解決というよりは不安を消したというべきか。彼の質問は終わったようで釣りに集中している。

 あ、今度はアジ釣れた。ラッキー。

 つい、横をチラリと見る。彼はぼーっと海を見ているだけだった。

 

「……葛城くん、もしかして釣り下手?」

「……果実でも探しに行こうと思う。先に戻るぞ」

「はははっ、拗ねんなよお」

 

 岩場から背を向けて、森へ進んでいく。不安が解消されたので、すんなりとこの場を去れたのだろう。葛城は帰ったが、俺はどうしようかな。うーん、もう少し魚釣って帰ろう。

 

 そして、また俺のウキが沈んだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「Aクラスのベースキャンプの場所って、わかったりするか?」

 

 Bクラスのベースキャンプを訪れたオレと堀北。堀北と一之瀬がそこそこの情報共有を終えた後、最後にAクラスの偵察に行くため、一之瀬に問いかけた。

 

「Aクラス?恐らくでよければ分かるよ。教えよっか」

「ありがとう。教えてもらえるかしら」

「でも、情報は得るのは難しいと思うけどね」

 

 わかりやすくベースキャンプの位置を教えつつ、一之瀬はそう言った。得られないかも、とは妙な言い方だな。

 

「どういう意味かしら」

「あっ、いや変な意味じゃなくてね?タイミングが大事かもっていうはなし」

「……そのタイミングってなんだ?」

 

 一之瀬は答え方に悩んでいるのか、うーんと一度首を傾げた。困ったように笑いながら、そのタイミングというものを教えてくれる。

 

「Aクラスの特徴なんだけど、誰にでも友好的なのはリーダーの獅峯くんだけっていうか。クラスメイトとか、獅峯くんの側近してる葛城くんも坂柳さんとかも、他クラスとの線引きが分かりやすくてね」

「なんとなく想像はつくわ」

 

 図書館での一件を思い出しているのか。それとも、須藤の起こした暴力事件で、Cクラスの生徒の情報を提供してくれたことを思い出しているか。

 帝が誰彼構わず牙を剥くタイプじゃないことは確かだろう。

 

「Bクラスが行った時は獅峯くんが不在でね。全く相手にしてくれなかったの。でも獅峯くんがいるタイミングで行けたら、協力関係は無理かもしれないけど、多少の情報提供はしてくれるんじゃないかな」

「そうね。一之瀬さんの言った言葉の意味がわかったわ」

「あははー。……Aクラスは一つの王国みたいだよねえ。友好的で超優秀な王様。その下で仕える超優秀な側近と、地力の高い国民。みんなが王様の力になれることを誇りに思っているから、期待に応えようと努力を重ねる。良いことのサイクルが自然とできてるもん」

「嫌な相手ね」

「ほんとにねー」

 

 あははと力なく笑う姿は、どこか諦めが混じっていた。勝てる気がしない、そう感じているんだろうか。けれど一之瀬の奥底の闘志は死んでいない。流石だな。

 

 こうしてBクラスの元を去り、すぐにAクラスのベースキャンプがあるという場所へ向かう。

 歩きながらふと思ったことを口にした。

 

「櫛田がいたらよかったな」

「なんの冗談?面白くないわよ」

 

 いや、冗談じゃないんだが。

 帝と付き合っている櫛田が訪れれば、2人が付き合っているという噂は学年全体に広まっているし、流石にAクラスの生徒も無碍にはできないだろう。

 帝と櫛田の間には、クラス同士の争いに関わるような情報は言わないというルールがあるらしいが、だからといって櫛田を雑に扱えるというわけじゃない。

 

「けれど、貴方の言いたいことも分かるわ。Aクラスに知り合いはいないの?」

「それが、知り合いと呼べるのは獅峯くらいだ」

「そう、あなたが役立たずってことはわかったわ」

「堀北はどうなんだよ……」

 

 Aクラスのベースキャンプと思われる場所には着いたが、帝は居ないみたいだな。

 木陰から覗き込むが、帝も帝の側近だと思われる二人も見当たらなかった。

 

「ここから見てるだけじゃないもわからないだろ。行くぞ」

 

 オレの行動に慌てる堀北を置いて、オレは洞窟へと続く道を進む。消極的な堀北ももう後には引けないと思ったのか、素早い切り替えでオレの横に並んだ。

 こうして洞窟の入り口まで辿り着いたが、当然その付近にいたAクラスの生徒に見つかる。洞窟の内部が見れればある程度状況が確認できるんだが……。

 内部はビニールを繋ぎ合わせた巨大な目隠しが広げられていた。中が全く見えない。

 

「なんだお前ら。どこのクラスだ」

 

 こいつは確か……初日に洞窟を見つけた二人組のうちの一人だ。

 

「偵察に来たのよ。何か問題ある?」

 

 流石堀北。堂々とした態度で言葉を続けた。

 

「私はDクラスの堀北よ」

「は、どこの誰かと思えばDクラスかよ。頭の悪い連中の集まりだろ」

 

 Aクラスの生徒はオレたちがDクラスだと分かると、すぐに態度を変えてきた。馬鹿にしたような言葉に堀北も多少は苛立っているかもしれないが、あえてそれを利用するように立ち回ろうとしている。

 

 しかし、ここに一人の男が現れた。オレたちを馬鹿にした生徒の頭をぐんっと押さえつけ、バケツと釣竿を待った手でその生徒の頰を(つつ)く。

 

「こら、戸塚くん。他のクラスを馬鹿にしたようなこと言わない」

 

 手に持っていたバケツにはいっぱいの魚が入っていた。戸塚と呼ばれた生徒は魚と近距離で……うん、生臭そうだな。

 俺は現れたその生徒に声をかける。

 

「釣りをしてたのか、獅峯」

 

 魚いっぱいのバケツを持った生徒は帝だった。どうやらちょうど戻ってきたらしい。運が良かったな。

 堀北も帝に気づいて、強引に洞窟の中を見ようとするのはやめたようだ。友好的に接してくれる人にわざわざ煽るような態度を取る必要はないからだろう。

 

「や、久しぶりだね綾小路。焼き魚食べない?」

「いや、遠慮する」

 

 帝は魚の入っているバケツを持ち上げてニッと笑った。この時解放された戸塚は素早く帝から距離をとって、獅峯を睨みつけている。それに帝は愉快そうに笑った。

 それから帝から逃げるように戸塚は洞窟の中へ入っていったため、獅峯の視線が堀北へと移る。ちょうどいいタイミングだと悟ったのだろう。今度は堀北から喋り出した。

 

「久しぶりね、獅峯くん。よければ洞窟の中を見せてもらえないかしら」

「久しぶり堀北さん。申し訳ないけど、洞窟の中は流石に見せられないかな。隠したいものがある、とかではなくプライバシー的な意味で、みんなに申し訳ないからね。家に知らない人を招かれるようなものさ」

 

 帝はその後に、でも、と言葉を続けた。

 

「多少の情報提供くらいは協力するよ。その代わり、俺と一緒に焼き魚食べてくれたらね」

 

 魚の入ったバケツを持ち上げてまたニコリと笑って言う。

 そんなに一緒に焼き魚を食べてほしいのか。堀北は帝にメリットのない提案を疑いながらも頷いた。

 

「……ええ、わかったわ」

「やったー、焚き火の準備するからちょっと待っててねー!」

 

 道具を取りに行くのか、獅峯も駆け足で洞窟の中へ入っていく。

 帝がこの場を離れて、堀北はふうと息を吐いた。緊張から解放されたようなため息だ。

 

「彼はよくわからない人ね」

「同感だ」

 

 帝の後ろ姿を見送りながら、そう本音をこぼす。

 

 さて、帝が何を考えているのか、探らないとな。

 

 

 




『補足説明』
原作と違う点について。
原作では洞窟を占有し、洞窟から出てくる葛城と戸塚が綾小路に見られていた。しかし、拙作では綾小路に見られたのは『獅峯が洞窟に入るところ』と『獅峯、葛城、戸塚が洞窟から出るところ』のみ。坂柳と神室が洞窟で待機していたこともあり、洞窟の内部を見られていない。そのためどのタイミング占有したのかが綾小路にバレていないかつ、獅峯ら3人のその後の行動も、綾小路は佐倉と行動を共にしていたこともあり分からない。
よって、Aクラスのリーダーが誰かを綾小路は絞ることができない。

『補足説明②』
綾小路は、獅峯が櫛田の裏の顔を知っていると把握していません。もちろん疑ってはいますが、証拠がないという状況です。しかしほぼ確信付いてます。何か一つでも怪しい行動をとれば結びつけてしまうでしょう。
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