ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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2話 対立の予兆

 

 入学して数日。

 特に変わった出来事はないが、普通とは違う所の多いこの学校について、俺なりに色々と調べてみた。興味を持ったら満足するまで調べたくなるのが俺の性格。

 学校について大して得られる情報はなかったが、先輩もいれば、先輩達の過ごしてきた環境に既に俺たちは身を置いている。やり方はいくらでもあった。

 

 まず目についたのは監視カメラ。犯罪対策など、設置されていることに疑問は思わないが、なんせその数が多い。まるで俺たちの行動全てを監視するかの様に。

 そして、この学校では外部との連絡、接触を断つ代わりに、必要なものは全て敷地内にある。日々の娯楽は当然のこと、敷地内の施設を利用するための金銭、ここではポイントと呼ばれるお金も学校から支給される。

 俺たちに支給されたのは10万ポイント。もちろん円と同価値、これがSシステム。

 

 教師は10万ポイントを配布した際こう言った。この学校は実力で生徒を測る、入学を果たした君たちにはそれだけの価値()()()可能性がある、と。

 実力で生徒を測り、支給された10万ポイントの()()()。要は、学校側は俺たちの評価を終えたわけじゃないという遠回しな言い方だ。常に評価をし続けているとするなら監視カメラの多さにも説明がつくだろう。

 

 大方、クラス単位での競い合いと言ったところか。

 この学校は屈指の就職率、進学率を誇ることから、それを目当てに入学する生徒が多い。その恩恵を受けられるのは一部のみに絞り、競争心を植え付けて競い合わせる、とかだろうな。

 

 評価が反映されるものは10万ポイント。おそらく、それが支給される毎月1日に、下された評価に対して増減された結果で振り込まれるのだろう。

 

 教師は言った。ポイントで買えないものはない、と。なら、この10万ポイントをいかに増やすことができるか、また減らすことを防げるかが重要になってくる。

 

 評価が監視カメラからの映像でされると言うのなら、監視カメラの多い校内での行動が最も増減の対象になる。授業態度、遅刻欠席。私語の数や居眠りとかだろうか。

 当然、問題行動も減点対象になるだろう。

 

 Aクラスの学校生活を思い浮かべてみると、みんな静かに授業を聞いていた気がする。

 俺が何かをしなくても、大きな減点は無いとみた。

 

 結論として、俺のすることは何もない。ひとまず5月までは何も分からないままだろう。

 

 俺はこの生活を楽しむことにした。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 葛城康平はとても面白い男である。スキンヘッド、いわばハゲという圧倒的な個性を持ち、顔もいかつく高校1年生とは思えない風貌をしている。そんな葛城を俺は結構気に入っていた。

 

 まあ、お昼ご飯に誘うくらいには気に入っていた。

 

「ねーねー?獅峯くんって何が好きー?好きなもの教えてよー」

「うーん、何かなあ。なんでも好きだよ」

「あっ!はぐらかしたぁ!ねーねー!」

「ははは。あ、葛城くーん!ご飯食い行こーよ!」

 

 別に、迫り来る女子たちから逃げるためとかじゃない。葛城とご飯を食べたかっただけだ。

 ちょうど廊下を歩いていた葛城は俺の声に反応して、俺を囲っていた女子に視線をやってから答えてくれた。

 

「あぁ行こう。弥彦も構わないか?」

「おっけーおっけー」

 

 女子にごめんねと断りを入れて葛城の元へ向かう。腕を組んで待っていた葛城の横にはいつの間にか戸塚もいた。

 

「ふー助かった」

「随分と人気なようだな」

「困っちゃうよねえ」

 

 別に俺はハーレムとか求めていない。寧ろ、ほんの少し鬱陶しくも感じてしまう。

 まあ勿論、男として光栄なことなので当然無碍にはしないが。告白とかはされたら、ちょっと困るな。

 

「学食行くでしょ?」

「そのつもりだ」

 

 俺と葛城が会話をするたびに俺を睨みつけてくるような視線をよこす戸塚。そうか、流石に二人で会話しすぎたか。少し可哀想だったので戸塚にも話題を振ってやろう。

 

「戸塚くん、ちっさいねえ」

 

 隣を歩いていた戸塚を見下すように視線を送って頭をポンポンと叩く。

 葛城も俺も高校1年生とは思えないような高身長。3人で並べばより身長差が露呈する。

 戸塚も別に小さい訳じゃないが、まあ俺たちと比べたら、そりゃあ小さいよね。

 

 ちょっと煽れば途端にカッと表情が変わる。

 

「お前っ!葛城さんとお前が大きいんだよ!俺は小さくねえ!」

「はははっ、かわいーな」

「おい、獅峯。煽るな」

 

 はははと俺は笑う。そして3人でわちゃわちゃとやりつつ食堂に到着。もう何度も来ているので手慣れた感じで食券を買う。

 俺たち3人とも日替わり定食を頼んだ。

 

「おや、獅峯くんじゃないですか」

「や、坂柳さん。……と、神室さん」

「私はおまけか」

 

 冗談冗談と口にしつつ2人の座っている横を陣取る。隣いい?と聞いてみれば、どうぞと快い返事が来たので遠慮をする必要はない。葛城も戸塚も席についた。 

 

 最近、坂柳は神室と一緒にいるところをよく見る。友達のようだが、坂柳が神室を従えている構図の方がしっくりくるのは坂柳の性格故だろう。

 

「日替わり定食ですか。今日はカツなんですね」

「そうだね。坂柳さんはコンビニで買ったの?そんだけのパンじゃ足りなさそー。一切れいる?」

 

 カツを一切れ掴んでそう言う。からかい半分の社交辞令なようなもののつもりだったのだが、坂柳はその小さい口で俺のカツをパクりと食った。少しの間咀嚼してごくんと飲み込む。

 

「美味しいですね」

「……でしょー」

 

 まあ、カツ一切れ(端っこ)でぐちぐち言うほど俺は子供じゃないので、何も言うまい。さらば俺のカツ一切れ。

 俺たちの密かな戦いを見て神室は何か言いたそうな顔をする。なにかと視線を向ければドン引いたような顔。女の子がそんな顔するもんじゃありません。

 

「なに、あんたら付き合ってんの?」

「俺の好みは黒髪ロングの巨乳女子だから違うよ」

「貴方失礼ですね」

 

 はははと笑って誤魔化す。俺の好みは銀髪のロリじゃねえ。性格悪そうなところも減点だね。神室のキモいと言った視線も無視した。怖いよ神室さん。

 

 このちょっとした談笑を断ち切ったのは葛城だった。真剣な眼差しで俺たちを見る。

 葛城よ、よくこんなくだらない会話から真剣な話に切り替えようと思ったな。もちろん嫌味じゃなく褒め言葉。

 

「ところで、無料の山菜定食についてどう思う?」

 

 それは学食で提供されている無料で食べられるご飯のこと。山菜定食とその名の通りおかずは野菜のみの他に比べれば質素な定食。俺は一度食べてみたが、不味いということは決してなく、ただ質素でお米が冷たかったというだけ。

 

「どう、とは?」

「そのままの意味だ」

 

 坂柳の質問に答える葛城。

 どうして10万もの支給があるのに無料で提供されるものがあるのか。その疑問はきっと葛城の中で既に考えがまとまっているのだろう。

 だからこそ、この場で話題として振った。

 

「どうって、ポイント使いすぎたバカ達が生きられるようにする為じゃないですか?」

 

 戸塚が今言ったように、ポイントがないので食べるものがありません。だから死にました。とは学校としてアウト。そこで問題になるのがどうして10万もの支給がありポイントが無くなるのか。パッとみた限りでも山菜定食を食べている生徒はそれなりにいる。上級生のみ、ね。

 

「そう、弥彦の言った通り救済措置の役割に違いないだろう。しかしどうして10万ものポイントが支給されてたった1週間程度でポイントがなくなる。山菜定食を食べている全員が後先を考えず豪遊する生徒だとでも言うのか」

 

 そうだったとしても、10万を使い切るペースとしては早すぎる。葛城は最後にそう付け加えた。

 坂柳の方をチラリと見れば興味深そうに葛城を見ていた。そしてそのまま口を開く。

 

「それで結局、葛城くんは何を言いたいんでしょうか。貴方の出した結論は?」

「来月に10万ポイントが支給される可能性は、ほぼないと考えている。おそらくポイントは減少するものだ」

「へぇ、なるほど。それは考えてもいませんでした」

 

 口ではこう言うが、おそらく既に坂柳はこの結論に至っていた。そして、葛城までもがこの結論に辿り着けるとは思ってもいなかったのだろう。俺としても、葛城の評価を改めるべきだと思った。

 

 しかし、坂柳の発言に鋭い視線を向けた神室が気になるな。

 

「葛城くん、質問いい?ポイントって減るんだよね。どうやったら減るの?できれば減らしたくないよね」

 

 俺が問いかけてみれば葛城くんは既にそこまで考えているのか、間髪入れずに答えてくれる。

 

「学校側は、毎月10万支給するとは言っていない。しかし、支給されるポイントが減るとも説明をしていない。その点について説明不足だという追求が出ても学校側に非が無いようにしなくてはならない。それが立場というものだ」

 

 神聖で公平な立場に置かれる教育機関は常に清くいなければならない。必ずポイントが減るように故意に説明をしなかった、ということはあってはならないのだ。

 

「そこで俺は、当たり前のことを当たり前にする事でポイントの減少を抑えることができると考えた」

 

 なるほど。俺とは違う観点からよく考えたものだ。俺より遠回りだが、俺より筋の通った結論までの辿り着き方。

 

 葛城の話を簡単に言えば、学校側の言い訳の先読み。『どうしてポイントが減少すると説明をしなかったんですか?』と言う生徒の意見に対して学校側はこう言うだけでいい。『当たり前のことをしていればポイントは減らなかった。当たり前のことをしろと説明する必要があるのか?』と。

 

「減点対象は当たり前ではない行動。例えば授業中の私語、学校への遅刻欠席。それらは減点に値するだろう」

「なるほどね。わかった、気をつけるよ」

「あんまりよくわかんなかったけど、気をつけます!」

 

 どうしてか葛城を心から慕っている戸塚は敬語で元気よく答える。対して坂柳は不敵に微笑み、神室は興味なさそうにパンを咀嚼していた。

 坂柳はまだしも、ポイントが減るという情報に神室はもう少し驚くと思ったんだけどな。戸塚なんてわかりやすく目を見開いてた。

 

「葛城くんはどうするのですか。それをクラスで話して当たり前の事を当たり前にしよう、という共通認識を持たせるつもりでしょうか」

「あぁ、そのつもりだ」

「そうですか。とてもいいと思います」

 

 意味深に坂柳の笑みが深まる。パッと見ただけでは少女が嬉しそうに笑っているだけなのだが、彼女の性格から考えればそんな純粋なものじゃないだろう。

 

 全員がお昼を食べ終わりそのまま教室へ向かうことになった。葛城と戸塚が前を歩き、その後ろを少し離れて俺と神室が歩く。

 坂柳は誰かに呼ばれてどこかに行った。きっと告白でもされてるのだろう。性悪隠して笑ってたら可愛い女子でしかないからな。対応も柔らかいし、ワンチャン狙いで告るやつは多いだろう。神室も美人だけどツンツンしてるから。まあ二、三回くらいは告られてそうではある。

 

「なんか変なこと考えてた?」

「エスパーかな?神室さんは可愛いなってね」

「きもい。あんた実は性格悪いでしょ?」

「えぇー?まあ良くはないけど、人から言われると傷つくなあ」

 

 神室の言葉に笑って誤魔化す。なかなかツンツンしてる。俺が特殊な訓練受けてなかったらその鋭利な言葉で死んでたな。

 まあせっかく神室と二人で喋る機会なので気になったことを聞いてみることにした。

 

「神室さんはあまり驚いてなかったね。葛城くんの話」

「別に。確かに毎月10万もらえるって解釈してたけど、本当に?って疑いもあったから。話聞いて納得したって感じなだけ」

 

 俺の読み通りか。おそらく神室みたいな生徒だろう。

 誰もが素直に10万という大金がリスクなしで受け取れるとは思っていない。しかし、そこに実際に手に持たされた10万ポイント。今は学年の大多数が夢と現実の狭間を行き来している。

 

 そして、前を向いて歩いていた神室はもう一言付け加えた。

 

「あと、坂柳にも同じ話された」

 

 神室のその言葉は俺にとって全くの予想外だった。

 坂柳がそれを誰かに話していた。それは、場合によっては葛城が痛い目を見ることになる。

 

「……へぇ、坂柳さんも気づいてたんだね。すごいなあ。それは2人だけの秘密だよ、的な感じで?」

「何それ、そんなわけ無いじゃん。坂柳を慕ってるやつなら大体知ってるんじゃない?」

「ふーん、なるほどね……」

 

 葛城を慕う生徒もそれなりにいる。しかし、同じだけ坂柳を慕う人もいるのだ。優れたリーダーシップを持つ者は意識して制御などしてない限り、自然と周りに人が集まってくる。

 

 例えば、坂柳がクラスの半数にこの話をしていたとして、葛城はクラス全員にこの話を通告する。その場合、坂柳派の人間は「そんなのとっくに知っている」という感情から坂柳に対する信頼度が上がる。対して、初めて知った生徒は「知らなかった、すごい」という葛城に対する信頼度が上がる。

 俺の言いたい事を簡単にまとめれば、二つのグループの線引きが明確になる、という事。

 

「まずったなあ」

「え、なに?まずい?」

「んーん、独り言だよ」

 

 クラス対抗である可能性が高い中、クラス内対立はいただけない状況だ。ほんの少しのきっかけがあればすぐそうなりかねない状況になってしまう。

 坂柳と葛城。どちらが上か。その議論は置いておいても、すぐに勝敗がつくわけでもない。俺としては穏便に手を取り合って欲しいが。

 

「神室さんは、絶対に勝てる勝負を勝ちに行く?」

「は?どういう質問?」

「いいからいいから」

「いや、そんなの当たり前じゃない。わざと負けて何になるの」

「おっけー、じゃあそうするよ」

「はぁ?」

 

 神室は終始怪訝そうな顔をした。勝てる勝負は勝ちに行く。そりゃあそうだな。俺は何を考えていたんだか。

 

 俺はきっと、『勝つことが全て』だという呪縛に一生囚われるのだろう。

 でも、今はそれでいいと思った。

 

「坂柳さん、そろそろ話終わった頃だよね。俺、迎えに行ってくるよ」

 

 神室の横を離れて反対へ向かう俺の足取りは軽やかだった。多分、笑顔も上手にできていただろう。

 

 

 




『補足説明』
 原作、坂柳対葛城の構図のきっかけを捏造。考え方の対立が原因というのは間違いないし、坂柳がきっかけを作ったということは想像できるけど、それって何かなと考えた結果の捏造。仲良くやろうよ。
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