ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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21話 リベンジマッチ

 

 特別試験1日目。

 

 深い森の中、俺が彼を見つけられなかったら、彼はどうやって合流するつもりだったんだろうか。

 少し走って彼を探した為、流れた汗を服で拭う。

 俺の足音に気づいた彼、龍園翔は振り返ってニヤリと笑った。

 

「きたか、獅峯。待ちくたびれたぜ」

「ならもっと分かりやすいところにいるべきでしょ。見つけてもらえてよかったね龍園くん」

 

 俺の言葉を馬鹿にしたように龍園は笑う。ムカつくやつだな、まあ良いけど。

 

「さっそく本題に入ろう。協力、内容次第では快くさせてもらうよ。君の提案を聞かせてくれ」

「ククク、いいぜ聞かせてやる。もう引けないと思えよ」

 

 龍園の出した取引はこう。Cクラスは支給された300ポイントのうち200ポイントをAクラスに提供する。加えて、得たリーダーの情報を提供する。対してAクラスは、毎月生徒1人につき2万プライベートポイントをCクラスに譲渡する。

 

 つまり、実質的にこの試験でAクラスは200clを得るが、その分となる2万を毎月渡せということだ。

 一見するとAクラスにデメリットはない。むしろリーダーの情報と、プライベートポイントとして手には入らないが200clを確実に得られる分メリットばかりに感じる。

 けど……。

 

「毎月生徒1人につき2万、っていうのは無しだな」

 

 うちのクラスはただでさえ支給されるポイントの5割の貯蓄を義務付けているのだから、それに加えて毎月2万となれば反感の声も出てくるだろう。『毎月』という精神的負担は案外小さくない。

 支給されるポイントがいくら増えようと、人間は引かれた額に目がいくものだ。

 

「ならどうする」

 

 龍園の問いに俺は間髪入れずに答えた。毎月じゃなければいいのだ。一括は無理にしても、巨額のポイントを渡すとなれば龍園も考えてはくれるだろう。

 

「うちがもらう200ポイントの分で500万。提供してくれたリーダーの情報1人につき100万。これならいいよ」

 

 この金額にした理由は特にない。強いて言えば、ベースの金額である500万ポイントをAクラスの貯蓄からすぐ支払えるからだろうか。

 情報提供に関しては、たくさんすればするほど得られるプライベートポイントが増えるのなら、彼も喜んで情報提供をしてくれるだろうと思っての提案だ。

 けれど、もう一つ条件を飲んでもらう必要がある。

 

「でも、提供されたリーダーの情報が間違っていた場合、対価は無し。これは当然だよね」

 

 龍園が俺にわざと間違ったリーダーを伝えることを防止するためのルール。別に探し当てたリーダーの証拠の提示をルールに組み込んでもいいが、メリットはそんなに多くない。なら、俺の言った間違っていた場合対価を支払わない、というルールの方が龍園もやりやすいだろう。

 

 これに関しては流石に当然の要求なので、龍園も拒否することなく承諾してくれた。

 

「なるほどな、それでいいぜ。対価のポイントは、700万だった場合にもすぐに支払えるのか?」

「正直700万を試験が終了してすぐ、というのは少し厳しいね。そこで、ベースの500万は試験終了後すぐに。リーダーの指名で加算される分のプライベートポイントだけ9月1日ということでどうかな」

 

 俺のその提案に龍園は頷いた。本来なら毎月2万という契約で限界までAクラスから搾り上げたいだろうが、俺がその提案には絶対乗らないことを見抜いている。まあ、試験終了後すぐに500万を手に入れられるという点が彼の中でかなりの利点になっているのも大きいだろう。

 

 そして龍園が白紙の紙に契約書と書き出した。そして俺の名前と自分の名前を書く。

 どうやら署名しろということだが、正式にしてくれるのはこちらとしてもありがたかった。

 

 契約内容をまとめるとこうだ。

 

 ・CクラスはAクラスに200ポイントを提供する(正確には購入した物資を提供する)

 ・CクラスはAクラスに得たリーダーの情報を提供する。

 ・Aクラスは試験終了後すぐに5,000,000prをCクラスに譲渡する。

 ・Aクラスは提供されたリーダーの情報1人につき1,000,000prを9月1日にCクラスに譲渡する。

 ・Aクラスは提供されたリーダーの情報が間違っていた場合、対価を支払わない。

 

 俺的には最高の条件で組めた。文句はない。

 連絡を取り合うための無線機を入手。そして次の会う時の約束には()()()()()()()()と彼に伝えた。理由について問い掛けてきたが、君が約束を忘れないだろう、と伝えれば納得してくれた。納得したふりをしたのか、馬鹿なのか、それは俺には判断がつかなかった。

 

「それじゃまた」

「ハッ、せいぜいサバイバルでもして苦しめよ獅峯。楽しみにしてるぜ」

 

 あくまでも敵同士。決して協力し合ってこの試験に挑むわけじゃない。

 

 本当に彼は()()()()になってくれた。

 俺は(はな)からプライベートポイントを支払うつもりはない。

 

 龍園翔に出し抜かれるほど清隆が落ちぶれたなど、微塵も思ってはいないのだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 龍園にリーダーの情報を聞いた場所から少し進んだ深い森に清隆はいた。

 気絶した堀北を抱き上げていたので彼女を下ろすよう伝えれば、素直に応じて堀北を木の側に寝かせる。

 

 そして、俺の一撃を回避した清隆の動きを見て少し考えた。

 

「ブランクは大体1年ってところかな」

 

 しかし変だな。ホワイトルームの教育を受け続けたと仮定した時に俺が考える清隆はもう少し強いはず。順当にホワイトルームの教育が受けられなかったのか?何らかのアクシデントでもあったのかもしれない。

 まあ何もおかしいことじゃないけどね。あんな施設の存在を世間は許さないだろう。

 

「オレとしては、そんな衰えたつもりはないんだがな」

「実力はほとんど下がってないさ。俺たちの実力は1年のブランクでも殆ど現役と変わらないレベルに達している。ただ、それは一般人から見た視点だ」

 

 実力者同士の戦いでは、誤差とも言えるそのほんの少しの衰退が大きな差をつくる。

 

「やはり、昔の君の方が強い」

 

 俺の蹴りが清隆の肩を掠めた。

 

 清隆は表情を変えることなく、受けた蹴りの勢いをそのままに裏拳を狙う。俺はそれを体を逸らして避けた。

 

 何度か応酬が続いた。

 

 清隆の蹴りからの踵落とし。

 常人なら避けられない、むしろ死を覚悟するくらいの攻撃だろう。速さも鋭さも、重さも、ぬるま湯に浸かっていた俺の目を覚まさせるには十分すぎる攻撃。

 俺は蹴りを身体を逸らして避けて、そのまま斜めに落ちてくる踵落としにはこちらも蹴りで対抗した。清隆の体勢を崩させる前提の攻撃。

 俺は既に伸ばしていた手で、体勢を崩した清隆の服を掴み、地面に叩きつけた。

 

「懐かしいな。君はよくそうやって地面に伏せていた」

「……やっぱりオレは、獅峯の言うように自惚れてたのかもな」

 

 すぐさま立ち上がった清隆の回し蹴りを腕でガードしてカウンターをお見舞いする。こちらと同じくガードされたが力でゴリ押して突き飛ばした。腕が折れているか、折れていないかの境目くらいだろう。

 

 一瞬解けた清隆の緊張状態。その隙を見逃すことなく顔面に一発入れておく。そのまま投げ飛ばしておいた。

 

「これは殺し合いだよ綾小路。君がしたいのなら好きに暴力行為として訴えればいいさ。けれど、その場合君も道連れだ。だから全力でこいよ」

「……生徒会長と通じていたのはこの為だったか」

「いいや、偶然だよ。まあ、俺の都合のいい方向に動いたのは違いない」

 

 清隆の中では、俺を暴力行為で訴えてAクラスを失格にさせるという展開が理想的だったはずだ。

 俺はまだ怪我に至るまでの攻撃を受けていないし、今訴えることができれば清隆の思惑通りに進む可能性が高い。そう、生徒会長が俺に肩入れしていないければの話だが。

 

「綾小路も会長と通じてるのは知ってるよ。あの人は人を見る目がある。君の存在もバレたのだろう。けどね、俺とおまえ、どっちが優秀な人間かは一目瞭然さ。つまり会長を有利に動かす術は君にない」

 

 清隆が生徒会長に肩入れしてもらうようどんな条件を出したとしても。俺はそれを上回る条件を出せる。

 

「切り替えるとするか」

「うん、おすすめする」

 

 一度距離を取り先手を譲る。

 清隆より俺の方が背が高い。つまりリーチの長さが違うということだ。清隆もそれをわかっているので下手な攻撃はしてこない。

 

 清隆の蹴りをほんの少し下がってギリギリで回避する。その瞬間俺がカウンターとして蹴りを繰り出すが、当然先読みしている清隆はそれを回避した。そして今度は清隆のフットワークからの鋭い拳。先程までとは段違いの速さだ。

 俺はそれを捌きながらすぐさま攻撃へ切り替えた。

 

 避けられて、また避けられて、けれど一撃。

 

 避けて、避けて、また避ける。

 

 再び続く応酬。長引けば長引くほど清隆にダメージが蓄積されていく。

 常人には理解できないようなレベルの殺し(やり)合いだろう。お互いにお互いの予測のみで攻撃パターンを組んでいる。

 

 俺の一撃が再び清隆の脇腹に入った。次は清隆の回し蹴り。動きが分かれば、対処は簡単だ。

 

「—————はっ……?」

 

 気がつけば俺の頰に、脳髄に、清隆の肘が入っていた。

 そのまま清隆の追撃。鋭く、速く、その上重い攻撃を、気絶しかけている脳みその代わりに、身体が回避をしてくれる。

 俺は気絶してしまうのを防ぐために、舌を噛んで無理やり持っていかれそうだった意識を覚醒させた。

 

 清隆の拳を捌いて顔面に一発。鳩尾に一発。おまけと言わんばかりに倒れかけている清隆にそのまま踵落としを食らわせた。

 そのまま地面に崩れる清隆。

 痛む頰をさすり血の味を感じながら、流石に気絶している清隆を見下ろす。

 

「良いの一発貰っちゃったな……」

 

 こいつ、勝てないと分かって俺の思考を誘導しやがった。

 そして誘導された思考の隙をついて、気絶させるための一撃を食らわせたが……。清隆の想定外は俺を一撃で気絶させられなかったことと、追撃を全て回避させられたことか。

 

「けれど、リベンジマッチは俺の勝ちでいいよね。清隆」

 

 ひどい頭痛と吐き気を覚えながら俺は雨に打たれる清隆を背にして歩き出した。

 

 流石の俺も既に限界を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒い息遣いを隠すように、俺は浜辺でテントを片している教師に声をかけた。

 

「Aクラスの獅峯です。体調不良のためリタイアをさせてください」

 

 俺の言葉と様子に不信感を覚えた教師は眉を顰めるが、対応は丁寧だ。

 

「なぜわざわざこんな雨の中、浜辺まで来たんだい。それに頰の腫れは……何があったんだ」

「森の散策中雨に降られしまって……。元々体調は優れていなかったのですが、何せリタイアにはペナルティがある。しかし限界を感じてここへ向かったのですが、迷子になってしまったんですよ。頰は転んだときに石にぶつけました」

 

 この説明で納得したかは分からないが、納得せざるを得ないだろう。熱でも測れば良い。きっと高熱に間違いないさ。

 

 俺のリタイアはすぐに受理され、Aクラスは30ポイントが引かれたはずだ。けれどこれで良い。全てが順調に、俺の掌の上で終わった。

 

 こうして、俺の無人島試験は終了した。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 どれくらい眠っていたのだろうか。

 硬い地面と冷たい雨に寝心地の悪さを感じて、痛む身体に鞭を打って起き上がる。

 未だ眠る堀北には帝のジャージが掛かったままだ。

 

「……痛いな」

 

 オレのほんの少しの休息と、寒さに身体を震わせる堀北を温めるために少しこの場に留まることを決める。

 起きたら怒られるだろうが、死ぬよりはマシだろう。オレは堀北を抱きしめる形で少しの間目を瞑った。

 少しずつ体温が上がってきたのだろうか。堀北はそれから少しして目をゆっくりと開けた。未だ頭痛は酷いようで表情は苦しそうだ。

 

「—————ここは……?どうして綾小路くんが……」

 

 帝にやられまくったオレの様子を見てさらに表情を曇らせた。どんな想像をしてるんだか。

 それから堀北は少しずつ状況を把握し始めたようで、オレが伊吹に敗れた堀北をここまで連れてきたことまですぐに理解してくれた。

 

「まって、聞きたいことはたくさんある。眠っている間、獅峯くんの声が聞こえた気がしたの。あなたのその様子……獅峯くんにやられたの?」

「オレは平気だ。獅峯の声も気のせいだろう。堀北を連れて浜辺に出ようと思ったんだが、運のないことに崖から転落したんだ。その場からなんとかここまできて、オレも限界を迎えて気絶したってわけだ」

「……納得できないわ」

「してもらうしかないな。それ以外説明のしようがない」

 

 それでも堀北は不服そうにオレを睨むだけだ。睨んだ後は不安そうに表情を曇らせる。

 

「伊吹さんはきっと今頃、誰かに私がリーダーだと伝えているはず」

「そのことは気にするな。堀北はリタイアするんだ」

「無理よ。こんなにDクラスに迷惑をかけて、さらにペナルティまで食らうわけにはいかない。私には責任がある。どれだけ罵倒されても、リーダーを最後まで務める責任が……」

 

 帝の呪縛が効いている。帝に乗せられた重圧に既に堀北は潰れかけていた。

 

 途中で言葉を止めた堀北は喋ることも苦しい様子でオレを押し除ける。

 

「あなたは先に戻って。あなた一人なら点呼に間に合う。私は点呼に間に合わないかもしれないけど、朝までには必ず戻るから」

「……ほんとにできると思ってるのか?」

「できるわ……。そうするしかないの」

 

 再び気絶しかけている堀北にオレは一つだけ伝えることにした。

 聞こえていても聞こえていなくてもどちらでも良い。

 

「いいか、堀北。帝に勝つのはオレだ。でもオレ1人じゃ勝つことはできない。オレに手を貸せ堀北、オレもお前の力になる。人はそうやって生きていくんだ」

「……あなたは、そんなこと言う人じゃないわ」

「そうかもな」

 

 帝は昔と変わらず同じ人間とは思えないほど高みにいた。懐かしい絶望を感じた。

 目の前にドンっと永遠に続く高い壁がそびえ立っているような絶望感。壊すことも越えることもできない。

 オレが確かに与えられたのは最後の一撃だけだったし、その後の帝の攻撃にオレはなす術もなくやられてしまった。悔しい、なんて言葉では生ぬるくて、殺したいほど憎いとは少し違う。

 

 ただ勝ちたい。

 

 だからオレは、帝に勝つために全てを利用する。

 

 なりふり構うつもりもない。

 

 再び気絶した堀北を抱き上げてオレは浜辺へ目指した。痛む身体はいい目覚ましになった。

 当分この気持ちを忘れることはないだろうな。

 

 

 




『補足説明』
獅峯帝は着痩せするタイプのゴリラ。テクニックとスピードを兼ね備えたパワー型。ついでに賢さもついてる。
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