ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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25話 嘘の応酬

 

 この試験のキーとなる優待者の存在。優待者は本日の午前8時に発表とのことで、俺と坂柳と葛城は俺たちのグループの客船の自室に集まっていた。

 どうでもいいような雑談をして時間を潰す。そして、午前8時を迎えると、1秒のずれもなく携帯が鳴った。各々が内容を確認して、ほぼ同時に読み終えると、お互いに携帯を向ける。

 

『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの一人として自覚を持って行動し試験に挑んで下さい。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。竜グループの方は2階竜部屋に集合して下さい』

 

 3人とも全く同じ文だった。俺たちの中の誰かから選ばれないことから、優待者の基準は本人の優秀さなどは全く関係がなさそうだ。まあ、優秀さが基準であれば上のクラスが有利なことは言うまでもない。わかってたことだった。

 

「これはクラス全員のを確認したいところだね。集合かけようか」

「あまり大々的に行動を起こすと他クラスの警戒心を強めるだけだ。行動は慎重にするべきと言っておこう」

「はははっ、心配しないで」

 

 そうして俺は葛城のありがたい忠告を無視してグループチャットで呼びかける。午前11時までに俺の部屋に訪れて今届いたメールを直接見せる事。

 俺が送信した内容を確認した葛城がため息をついた。

 

「一斉にクラスメイトが行動に移すことがなければ、他のクラスが注目を集める可能性も低いだろう」

「でしょ。ほら、二人とも行った行った。優待者に選ばれた生徒は自分の優位さを理解してるはずだからあまり知られたくないだろう?必要があればまとめて俺が全部伝えるから、またあとでね」

 

 二人の背中を軽く押して、扉の前まで誘導する。葛城は抵抗する事なくすぐに部屋を出たが、坂柳は最後にこちらを向いて不敵に微笑んだ。

 

「私の思う獅峯くんは、行動に迷いがあったことは一度もありません。違いますか?」

「唐突だね。どうだろう、俺も人間だから迷うことも多いさ」

「ふふふ。私からのお願いは一つです。ちゃんと試験を楽しめるような戦略を使ってくださいね。面白くなければ私がこのバカンスに参加した意味が薄れてしまいますから」

 

 坂柳は既に俺がこの試験に対してどう立ち回るのか決めていることに気づいている。それが安牌な戦略ではつまらないので変えろという忠告。

 少しだけ考えて大丈夫かと結論が出る。

 

「最後にもう一つだけ」

「どうぞ、なにかな?」

「……もし、メールを見せることを拒むクラスメイトがいたら、貴方はどうしますか?」

 

 意地悪な質問だ。優待者は必ず自らの優位性を理解している。だからこそ報告するのを拒む生徒もいる可能性はあるだろう。いや、Aクラスにはどうせ、そんなクラスメイトはいない。けど、そうだな。いるとしたらどうするだろうか。

 

「もちろん本人の意思は尊重されるべきだからね、無理やり見せろ、なんてことはしないよ。でも、うん。そんなクラスメイトはいらないよね」

 

 性格悪いかな。いやどうせ坂柳も同じことを思うだろう。別におかしなことじゃない。不必要な生徒は切り捨てる、実力至上主義。それがAクラスのルールだ。

 

「そんな質問をした意図は?」

「特にないですよ」

 

 そう、と俺は短く答えて今度こそ坂柳を見送った。

 

 それから1時間もしないうちにクラスメイト全員のメールを確認することができた。当然、報告を拒む生徒もおらず。

 それをグループごとにまとめてぼーっと考える。

 この試験のテーマはシンキング。考え抜く力が試される。

 

「……面白い試験だな」

 

 どうしようかなと考えながら、俺は試験開始の1時を待った。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 俺は坂柳と葛城と集合してから竜部屋へ向かった。

 

「クラス全体に初回ディスカッションでの立ち回りを指示しなくて良かったのか?勝手な行動を取られて優待者かそうでないかを言うよう誘導されたらどうする。Aクラスの中にも頭の弱い生徒はいるぞ」

「はははっ、平気だよ。何かアクシデントがあっても挽回できるように俺が手を回すから」

 

 葛城の言ってることは何も間違っていない。けれど、俺は今日1日の行動でAクラスの誰かが()()()()に支障が出るほどバカな行動を起こすとは思えなかった。Aクラスの俺に対する忠誠心、そして自らが考えてどういった行動を起こすのかにも興味がある。

 それにもし、葛城の懸念通りになったとしても、言ったように俺ならなんとかできる。

 

「根拠もなく理屈の通っていないその言葉で納得させられるのは、お前が実力を示してきたからだ。一度でもその実力に対する信用がなくなれば通用しなくなるぞ」

「ならよかった。これからも俺はこのセリフを使えるってこと」

「ふふっ、獅峯くんの実力に対する信用がなくなる日は来ないということですか」

「そのとーり。不服?坂柳さん」

「いいえ、とんでもない」

 

 そんな会話をしていればすぐに竜部屋の前に着いた。

 

 グループ竜のメンバーはこうだ。

Aクラス 葛城康平 坂柳有栖 獅峯帝 

Bクラス 一之瀬帆波 神崎隆二 墨田誠 津辺仁美

Cクラス 小田拓実 鈴木英俊 園田正志 龍園翔

Dクラス 櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音

 

 俺たちAクラスが最後だったようで、入室すれば全員の視線が俺たちに集まる。

 

「遅刻だったかな」

「問題ないでしょう。まだ集合の時間になっていません。彼らが威嚇しているだけですよ」

「余計なことは言わなくていい、坂柳」

「はははっ、仲良くしてよ」

 

 鋭い視線を躱しながら3つ並んで空いていた席に座る。

 余裕そうな表情をしているのは俺たちAクラスの3人と龍園くらいで、それ以外のメンバーはどこか緊張した面持ちだった。まあ、学年で一番豪華なメンツの揃ったグループなのは否定できない。

 

『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』

 

 アナウンスはたったそれだけで、後に続く言葉は何もなかった。もう自由にディスカッションを始めていいということだろう。

 初回は自己紹介をするようにという指示があったけど、果たして誰がこの錚々(そうそう)たるメンバーをまとめる司会を担ってくれるか。

 

 俺が動いてもいいけれど、少し様子を見てみることにした。

 本来こういう時、一番に動き出しそうなのは葛城だけど、俺が動かない様子を見てか動き出す気配がない。同じく坂柳も不敵な笑みで他クラスに圧をかけていた。彼女らしい。

 周囲を見て誰も動き出さないことを確認した一之瀬が席を立った。

 

「えっと、まずは自己紹介をしたいと思うんだけど、いいかな?」

 

 全員と視線を合わせるようにぐるりと見回して、一之瀬の視線が俺で止まる。表情は柔らかったが、返事をしろという意志を感じた。

 このグループで最も影響力を持つのは間違いなく俺であり、そしてそれを理解している一之瀬の作戦だろう。彼女はそれなりに頭がキレる。

 

「もちろん賛成だよ」

 

 俺の言葉に何人かが続いた。そうして学校からの指示通り自己紹介が終わり、本格的に話し合いが始まる。

 先ほど一番に声を上げた再び一之瀬が仕切るために席を立った。

 

「誰かやりたい人がいなければ、このままわたしが進行するけど、大丈夫?」

 

 俺は一旦返事することはやめ、各クラスの様子を見ることにした。各クラスがこの竜グループでどう立ち回るか、そのやり方を見る。

 Dクラスの面々は異論がないようで、もちろんと頷いていた。予想ができていたことではあるが、異論を唱えたのはCクラスだった。いや、Cクラスというよりは龍園だな。

 

「話し合う必要なんてあるか?何について話し合うつもりかは知らねえが、結論なんて出ないだろ」

「一応、このグループで目指すべき結果について話し合おうと思ってたんだけど、無駄なことかな?」

「ハッ、馬鹿馬鹿しいぜ。話し合いをしたところで優待者は炙り出せねぇ。優待者がよっぽどな阿呆か、当てる側がとんでもねぇ変人じゃない限りな」

 

 龍園は俺に視線を向けて、恨めしそうに笑った。それは、俺をとんでもねぇ変人だと言ってるのか?褒め言葉として受け取っておくか。

 しかし、龍園の言っていることは概ね事実だ。俺が優待者を態度で見抜けるかはさておき、基本的に優待者が尻尾を出すことはない。尻尾を出したとしても、確信に至らなければ裏切り者は勝負に出ることはない。

 けど、一之瀬の目的はそこじゃなさそうだ。

 

「私が話し合いたいのは、このグループが目指す結果についてだよ。みんな賢いから変に誤魔化すことはしないけど、みんなはどの結果を目指したい?優待者が自分のクラスにいない前提になるけれど、自分たちが裏切り者になって当てる、自分のクラスに最もメリットのある結果3?」

 

 どのクラスに優待者がいても、そのクラスは優待者がいないことを演じる。だからこその質問だ。

 優待者探しのゲームを始めるか、手を取り合う方向で行くのか。それとも試験を放棄するのか。

 一番に答えたのはDクラス堀北。

 

「そうね。確かに優待者を見つけて結果3を目指すことが最もメリットが多い。けど、正直に言えば結果1でもいいわ。優待者に所属するクラスでなければ、裏切り者にならない限りはデメリットがないもの」

「つまりDクラスはこの試験を放棄してもいいっていう解釈でいいのかな?」

「そういう意図はないわ。優待者が誰か確信付くことがあれば、報告する場合もあるかもしれない」

「なるほどねぇ。他のクラスはどうかな?」

 

 俺たちAクラスに視線が動く。Cクラスは最後に回すか。まあいい、答えよう。

 

「そうだね。嫌味に捉えて欲しくないんだけど、俺たちはクラスポイントに余裕がある状況だから、臨時収入の方が嬉しいかな。だから出来ることなら結果1がいいね。全員で協力ができれば、ほら、仲も深まると思うしどう?」

 

 ニコニコと笑顔を作ってそう言う。別に嘘はついていない。本心からそう思っている。

 結果3の場合、()()()()()()D()()()()にマイナス50cl。俺たちAクラスにプラス50clとプラス50万pr。対してメリットは感じない。だったら結果1を目指して全体でプラス150万prの方が美味しいだろう。

 この発言で俺たちAクラスに優待者がいると疑われても何の問題はない。何故なら俺の言っている話は事実であり、優待者は俺たちのクラスにはいない。

 

「確かに前の無人島試験で差つけられちゃったもんなあ。うんうん、納得だね。じゃあCクラスはどう?」

 

 一之瀬の質問に龍園は足を組んだ。偉そうにニヤリと笑って、顎を突き出す。

 

「何で言わなきゃならねえんだ?まあ、楽しいゲームでもするってんなら参加はするぜ」

「ゲーム?どういうゲームかな」

「クククッ、優待者探しのゲームだよ」

「なるほどー。龍園くんも優待者は積極的に探したいってことだね」

 

 一之瀬が話をまとめ始めるが、まだBクラスはどの結果を目指したいかを公言していない。それに気づいたのだろう。一之瀬があっと声を上げた。

 

「ごめんね、Bクラスのこと言ってなかったや。前回の試験でAクラスには大きく放されちゃったからね、出来ることなら裏切り者になって結果3がいいかな。少しでもクラスポイントを稼ぎたいっていうのが本音だよ」

 

 そうだな、1()()()()適当に時間を潰そうと考えていたがいい暇つぶしを思いついた。

 1時間と時間を拘束されるんだ、せっかくなら楽しい方がいいに決まってる。

 俺はずっと挙手をして、注目が集まったタイミングで話し始めた。

 

「いいこと思いついたんだけど、聞いてくれない?ゲームをしようよ。龍園くんの言ったような楽しいゲーム」

 

 俺は席を立って全員を見回す。Aを除くクラスの意見は一致していた。どのクラスも優待者を見つけ、クラスポイントを得たいと考えている。それなら楽しい暇つぶしができるだろう。

 

 ルールはこうだ。

 クラス対抗、ミニゲーム総当たり戦。下のクラスから順に対戦相手と対戦するミニゲームを指定できる。各クラスはミニゲームに参加する生徒を決める。

 

 例えば、DクラスがCクラスを指名。ゲームの内容は3本先取のじゃんけん対決。Dクラスからは堀北が参加。Cクラスからは龍園が参加。

 勝負には堀北が勝った。

 

「ミニゲームに負けた人は学校から届いたメールを対戦相手に開示しなければならない」

 

 例で言えば、龍園は堀北にメールを公開しなければならない。優待者であるか、そうでないかの証明となるメールだ。

 そして、同じ対戦カードは禁止。つまり堀北と龍園がもう一度ゲームすることは禁止ということだ。

 

「なるほどな。いいぜ、Cクラスは参加する」

「ふぅん。面白いゲームだね」

「まて、質問がある」

 

 Cクラスは参加を決めて、一之瀬は少し考える仕草を見せた。質問があると言ったのは神崎だ。控えめに手を上げながらこちらを向いている。俺は神崎に視線を向けてなあにと尋ねた。

 

「ミニゲームで勝った生徒が相手のメールを見る権利を得るということはわかった。その後その情報はどうするんだ?クラスメイトに共有はしていいんだろうな」

「もちろん、情報は得た人が好きに使っていい。クラスメイトに言ってもいい、竜グループで共有してもいい。当然、嘘をついてもいい」

「……なるほどな」

 

 悪くない話だろう。優待者だという事実を死守したいなら勝負に出なければいい。また、優待者だと疑われるのが嫌ならば勝負に出ればいい。負けなければ相手に見せる必要はないのだから。

 また、混乱を誘うために特定の誰かを出さないと言った戦略も有効だろう。この試験でのメリットの中には裏切り者のミスもある。結果を急いだ結果誤った優待者を報告したクラスはマイナス50clになるため、大きなデメリットだ。

 簡単なルールだが、戦略の幅は狭くはない。

 

「まあ、そんなに深く考えないでよ。ただのゲームだ」

 

 そう、結局はただの暇つぶし。

 Cクラスは参加を決めているし、BクラスもDクラスも参加する意向のようだ。まあ、このゲームに基本的なデメリットはない。優待者がいるクラスも優待者を前に出さなければバレることはないし、駆け引きだってしやすい。

 これは、特別試験を視覚化したようなゲームだ。

 

「じゃあ最初はDクラスにゲームと相手の指名権があるよね?」

 

 櫛田がそう問いかけたので俺は頷く。さて、Dクラスはどの生徒が、どのクラスに、どんなゲームを挑んでくるのか。

 

「Dクラスからは私が出るよっ。ゲームは例でも言ってたじゃんけん3本先取で、相手はAクラスでっ」

「では私が出ましょう」

 

 作戦会議の時間はなかった。もちろん多少は内密に行われているだろうが、()()()()()()()()D()()()()は特に動きが静かだった。疑われないためだろう。

 こちらも同様、メールで話したのはミニゲームの内容くらいで、指名された場合に坂柳が出る話はなかったが、何も問題はない。

 

「じゃんーけーんぽんっ」

 

 結果だけ言えば3本先取は坂柳の圧勝で終わった。1本を取ることすら許さず、綺麗な勝利だった。天才とは恐ろしいもんだな。

 

「あちゃー負けちゃったか」

「ふふふっ、運が良かったみたいです」

 

 2人は部屋の隅に移動し、櫛田がスマホを見せる。坂柳はへぇと小さく呟いた。

 そして全員に視線を向けるようにこちらを向く。

 

「櫛田さんは優待者ではありませんでした」

 

 にこりと微笑んでそう言う。

 こうして、竜グループでは()()()()が始まった。

 

 

 




『補足説明』
あまり関係ないのですが、原作と違う点について。今回は竜グループのメンバーに一之瀬を入れたことに伴って、Bクラスの生徒を変更しました。原作では安藤紗代がいますが、今回は墨田誠がいます。
別に話にに影響はないので気にしなくても大丈夫です。報告ですね。

『墨田誠』
初登場は1年生編8巻。混合合宿で綾小路と同じグループ。次に登場したのが1年生編11巻。選抜種目試験で空手に出場。言葉を選ばないならモブ。
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