ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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26話 人狼

 

「櫛田さんは優待者ではありませんでした」

 

 坂柳のその言葉に対する反応は様々だった。

 

「公開しちゃうかぁ」

「はい、いけませんでしたか?一之瀬さん」

「いやぁ、そう言うわけじゃないよ?ただ、このゲームがより複雑に感じちゃうよね」

「ふふふっ、一之瀬さんにも人を疑う気持ちがあったんですね」

「公私混同じゃないけど、状況によっては当然疑うよ」

 

 人狼ゲームで人を疑わない人間がいないように、一之瀬帆波も当然人を疑う。それは坂柳だから疑うのではなく、証拠もなく証言された発言を簡単には信じられないということ。信じたいのと信じることは別物だ。

 

「じゃあ次いこうか。Cクラス、ゲームと指名するクラスは?」

「俺が出る。相手はAクラスだ。ゲームは決めていいぜ」

 

 龍園が俺の方を向いて言う。合った目が、おまえが出ろ、そう言ってるように感じた。何か意図があるのだろう。断る理由もないので俺が出ることにする。

 

「俺が出るよ。ゲームは決めていいんなら、なぞなぞ早押し対決とかどう?」

「クククッ。いいぜ、とっとと始めろ」

 

 なぞなぞ早押し対決に案外乗り気だったので俺は葛城に適当に問題を探して読み上げるようお願いした。

 こちらもじゃんけん同様3本先取だ。

 そして勝負は2対3の接戦で俺の勝ちに終わる。龍園がおらぁっと叫びながら机を叩く様はなかなかに愉快だった。もう一回やりたいな。

 

「チッ。仕方ねぇな」

「いい勝負だったね」

 

 俺に向けられたスマホの画面を見る。

 そこには『約束どうなってる』と短くあった。

 俺は表情を変えることなく、うんと一度頷いてスマホから視線を外した。

 

「龍園くんも優待者じゃないね。さ、次の勝負行こう」

 

 坂柳と同じく俺は全員に聞こえるように言って椅子に座る。

 龍園には『2日目』とだけメールで送っておいた。これで納得してくれるだろう。

 

 なるほどな、それについて聞きたかったからAクラスを指名したのか。ゲームを決めなかったのは勝たせるため。だが、俺が案外なぞなぞが解けないもんだから、彼は手を抜いていた。負けるために。

 もちろん、強がりでもなんでもなく、俺はなぞなぞも熟知している。中学校の時、レクリエーションでよくなぞなぞ大会が開かれたのだ。初めては問題の傾向も理解できていなかったため解き方を閃くまでに時間を要していたが、今では完璧といえよう。

 

 それはさておき。

 

 次に指名権があるのはBクラス。BクラスはDクラスを指名。ゲームは腕相撲。男子1、女子2のDクラスに確実に勝ちに行く作戦だった。Dクラスからは平田が出ることはほぼ間違いない。平田に勝てる自信のある生徒がBクラスにいるのなら堅実な選択といえる。

 

「Bクラスからは墨田くんが出るよ」

「……僕がいくね」

 

 Dクラスからは変化球もなく平田が出た。

 墨田はそれなりにガタイがいいが、平田はモテ男体型スラッとした細マッチョだ。勝負は一目瞭然かと思われたが、実際はなかなかにいい勝負で、平田の惜敗に終わった。

 

「平田が優待者かそうでないかについて言うつもりはない」

 

 墨田はそう言って椅子に腰を下ろす。まあ、情報はクラス内の共有だけにするんだろう。Bクラスらしい選択だ。

 

 それから4回戦に入る前に1時間が終了する。自由にして良いと言う旨のアナウンスが流れた。

 

「それじゃあ解散しようか。これ以上ここに留まる理由もないでしょ」

 

 俺の言葉を皮切りに、各々が自由行動を始める。仲の良い人と軽く言葉を交わして、俺は客船の自室へ向かった。

 

 きっと2回目のディスカッションも、何事もなく暇つぶし程度の内容で終わるのだろう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 客船の自室から出て、上の階に上がるためエレベーターに乗り込む。誰かが開くボタンを押していてくれたので、ありがとうと言って操作版の前にいた人物を見た。

 

「あれ?平田くんじゃん」

「やあ、獅峯くん。ディスカッションぶりだね」

 

 爽やかな笑顔で俺を出迎えてくれたのはDクラスのリーダーである平田洋介だった。

 俺以外に乗り込む人もいなかったので、閉じるボタンを押す。偶然にも俺と平田の目的の階は同じだった。

 

「獅峯くんは、今から夜ご飯?」

 

 平田がそう話を振る。時刻は6時半前。8時から2回目のディスカッションを行うと連絡があったので、平田の推測としてはごく自然だ。

 そして、正解。

 

「そーそー、櫛田さんとね。平田くんもご飯?」

「うん。軽井沢さんと約束があるんだ」

 

 もしかしたら2人は一緒にいるかもしれないね、なんて話しながらエレベーターが上がるのを待つ。

 ほんの少しの間があって平田が再び口を開いた。

 

「よければなんだけど、一緒にご飯しないかい?試験の話も少ししたいんだ。櫛田さんと一緒なら、周りから見ても違和感のないメンバーだと思うし」

 

 平田と軽井沢。俺と櫛田。Dクラスの3人、Aクラス1人の一見違和感のあるメンバーだが、ほとんどの人はダブルデートなんだなくらいにしか思わないだろう。確かに違和感はない。

 

「もちろん賛成だよ。俺に聞きたいこともあるだろうからね」

「ありがとう」

 

 聞きたいことというのは、Aクラスが『櫛田が優待者』であると言わなかったこと。というより、俺が櫛田に()()()()()()()()()()()()()()ことについてだろう。

 その件に関しては、Dクラスの面々が納得できるように説明しておく必要はあると思っていた。

 

 平田がスマホで何か操作を始めたので、俺も櫛田に連絡を入れる。平田も軽井沢に連絡をしてくれているのだろう。

 

「軽井沢さんには連絡を入れておいたよ。さっき櫛田さんを見かけたそうだから、先に合流しておくって」

「おっけー。じゃあ雑談でもしながら、急いで向かおうか」

 

 そうだねと平田は笑顔で言ってくれた。さすが爽やかイケメンである。なら遠慮なく喋りかけちゃおう。俺も聞きたかったことがあるんだ。

 

 目的地まで早足で向かいながら俺は口を開いた。もちろん口から飛び出るのは雑談だ。

 

「平田くんってサッカー上手だよね。2、3年も上手だと思ったけど、もうユニフォーム貰ってるなんてさ。よほどの実力なんだろ?」

 

 それは夏休みに入ってすぐ、堀北学に連れ出されて見に行ったサッカー部の試合の話だ。一年生でユニフォームを着ていたのは平田とBクラスの柴田のみ。試合の内容もレベルが高く、そんなメンバーが揃うなか一年生でユニフォームをもらえるというのは、高い実力があってこそだ。

 残念ながら平田は試合に出ていなかったが、それも時間の問題だろう。

 

 俺の言葉に平田は少し頬をかいて照れたように笑った。笑顔が様になる男だ。

 

「あはは、獅峯くんに褒められると照れちゃうな。やっぱりこの前の試合、応援に来てたんだね」

「俺サッカーが一番好きなスポーツなんだ。機会があって、会長と仲良くなれたからさ、お願いしてみたんだ。試合に応援行けませんかって。そしたら融通利かせてもらったんだ」

 

 もちろん嘘だ。いや、驚いたのは事実なんだけど、俺から頼んだわけじゃない。そんな融通が利くわけがないし、俺の敷地外への外出は堀北学の独断のはずだ。

 平田は驚いた目をこちらに向けるが、何かを言う事はなかった。

 俺の嘘を平田が確かめる術はない。それを分かっているんだろう。

 

 そろそろ目的地というところで、俺は何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「そういえばさ、軽井沢さん気まずくないかな?俺、彼女と喋ったことないから」

 

 俺の交友関係は決して狭いわけじゃない。何より、Dクラスは恋人の所属するクラスでもあり訪れることも多かった。自分で言うのも何だが、俺はそれなりにフレンドリーな性格をしているので、男女問わず声をかけてくれるが、その中に軽井沢があったことはない。

 声をかける理由がないといえばそれまでだが、……あるいは。

 

「んー、大丈夫じゃないかな。軽井沢さん自身も、試験にどう取り組もうか困ってるみたいだし、きっと獅峯くんの意見は彼女に役立つはずだ」

「えー?俺一応敵クラスだけど大丈夫?」

 

 俺に対する信頼が異様だったので、問いかけるが平田は優しく微笑むだけだ。

 そして、どこか()()()に言う。

 

「僕はクラスの誰よりも、学校に所属する生徒の誰よりも。……獅峯くんを尊敬しているんだ」

 

 平田洋介という人物は容姿端麗で文武両道。性格も勿論良く、誰からも好かれるような好青年。櫛田とは違い極端な二面性も窺えず、Dクラスに配属される要素が何一つない男と言って良い。

 そんな男が言った、俺を『尊敬』という言葉。

 

——————面白いかもな、平田洋介。彼もいつか使えそうだ。

 

 それからすぐ、目的地に着く前に軽井沢が視界に入った。軽井沢も俺たち(というより平田)に気づくと、途端に表情を明るくさせて駆け寄ってくる。

 

「平田くんっ!もーめっちゃ待ったんだけど?」

「あはは、ごめんね。軽井沢さん1人みたいだけど、櫛田さんは一緒じゃないのかい?」

 

 軽井沢の周囲には櫛田が見当たらなかった。櫛田と二人で待つのが気まずくて抜けてきたのか?まあそんなことはどうでも良いか。

 

「トイレ行って戻ろうとしてたら見えたの!ほら行こっ!」

 

 平田の腕を引っ張って軽井沢が歩き出す。軽井沢は俺を一度も見ることなく、声をかけることもなく、二人っきりの世界を作った。

 俺は空気か。初めての経験だな、なかなか面白い。

 

 そのまま2人の後を寂しく歩いていると、櫛田が目に入った。俺が見えると二人の壁の隙間から顔を出してにこりと笑う。

 俺はそれに応えるように笑いながら片手を上げた。

 

「お待たせ、桔梗ちゃん」

「三人一緒だったんだね?」

 

 俺のお待たせに言葉の返事がないあたりに、櫛田の怒りを感じる。あれ結構機嫌悪いか?やべえや。

 

「ごめん!櫛田さん!戻る途中で2人を見かけてさー」

「なるほどっ、じゃあみんな揃ったしご飯食べちゃお?時間もそんなにないし」

「そうだね、そうしよう」

 

 軽井沢のごめんという軽い謝罪に、なんとも思ってなさそうに櫛田は応える。うーん、後でグチグチ(俺が)言われるパターンか?

 しかし言っていることは至極当然のことだった。時刻は6時半過ぎ。8時から2回目のディスカッションが行われることを考えれば、確かに時間に余裕があるわけじゃない。話し合いをするのなら時間は足りないくらいだろう。

 4人で近くのお店に入り、注文を終える。

 一番最初に話を振ったのは平田だ。

 

「軽井沢さんは、1回目のディスカッションどうだった?」

 

 平田からのその話題に、軽井沢はスマホから視線を上げて眉を吊り上げる。何となく、軽井沢に似合っている表情に思えた。

 

「もー!ほんとに最悪っ。パッとしないメンバーだし、幸村くんたちは頼りないし!平田くんと一緒が良かったっ」

 

 軽井沢は確か兎グループ。清隆と一緒だったな。清隆が頼りない様子は鮮明に浮かぶが、他人からの評価とは面白いな。名前すら上がらないなんて、よっぽどだぞ清隆。

 名誉挽回の機会のため、少し名前を出してみるか。……挽回できるかは知らないけど。

 

「確か、綾小路と一緒のグループだっけ?はははっ、やっぱアイツ頼りない?」

 

 俺が軽井沢に話しかけると、ここで初めて軽井沢と目が合った。しかし、パチっと一度合ったきりすぐに視線を逸らされる。された本人しか気づくことのないような、少しの()()()

 

 軽井沢は綾小路という名前に微妙そうな顔をして、うんと頷いた。それに平田も櫛田も苦笑い。

 

「そーいえば獅峯くんて、綾小路くんと同中なんだっけ?」

「中学は別だよ。小学校まで一緒だったんだ。だめだね綾小路も、女の子にパッとしないって言われてるようじゃ」

 

 軽井沢恵のクラスでの立ち位置は、女子のリーダー。所謂(いわゆる)一軍ギャル。入学早々、Dクラスの中心人物であった平田と付き合いだし、強気な態度と整った顔立ちを生かし今の地位を手に入れた。

 強気な態度、か。俺への対応とは正反対だったな。平田にしか興味がないのか、……臆病者か。

 しかし、こんなところで想像を膨らませたところで意味はない。

 

「綾小路くんは気付きづらいかもしれないけど、すごく頼りになるよ。軽井沢さんも何か困ったことがあったら頼ってみるといいんじゃないかな」

「確かにっ!ほら、綾小路くんってなんやかんや言いながらいつも協力してくれるタイプなんだよっ」

 

 櫛田に関しては表向きとはいえ、Dクラスの中心人物からの評価は悪くないな。それとも清隆に対するお世辞か?彼らはそれなりの人格者だ。それを踏まえれば当然のフォローと言える。

 が、ここは素直に受け取っておこう。清貴の名誉のためにね。

 

「へぇ、2人とも信頼してる感じ?……全然頼りないけど」

 

 しかも影薄いし、という一言まで加えて言った。どこかでぼーっとしてるであろう清隆に100のダメージっ!

 やめてやれ、軽井沢。清隆って案外落ち込みやすいんだぞ。

 苦笑いをしていた櫛田が俺をみる。

 

「小さい頃の綾小路くんってどんな感じだったの?興味あるなぁ」

 

 微塵も興味が無いくせに、櫛田はそう俺に聞く。場を和ませるための雑談なんだろうが……ほら、軽井沢が興味なさそうにスマホを見始めたぞ。平田は案外興味があるようで、スマホを触り始めた自分の彼女が視界に映っていなさそうだ。

 

 それにしても、幼少期の清隆か。確かに俺たちは赤ん坊の頃からの付き合いだが、正直清隆の記憶はあまり無い。ホワイトルームにいた頃の俺は、自分を鍛えるのに夢中であまり他人に興味がなかったのだ。

 でもそうだな。記憶にある限りの清隆の姿を探して思い出す。

 

「そう言えば泣き虫だったよ、綾小路」

 

 へぇと意外そうにする声が聞こえた。平田も櫛田も目を見開いて驚いている。そんなに意外かな。まあ、無口で口下手な奴は小さいから泣き虫だったて聞いてもピンとこないもんだよな。

 あまりにも予想外だったのか、ほんの少しの気まずい沈黙が流れその間に料理が届いた。それをきっかけに清隆の話は終わる。

 

 いただきますをして食事が始まった。そろそろ本題に話を戻すべきだろう。

 俺が一度手を止めて顔を上げた。

 

「話が逸れちゃったよね。俺が櫛田さんに送ったメールのこと。AクラスとDクラスの協力について、ってテーマでどうかな?」

 

 悪意のない嘘なら、その嘘をつくことに罪悪感はない。他人を救うための嘘なら、その嘘に罪悪感を持つ必要はない。

 なら俺のつく嘘には罪悪感は伴うのだろうか。

 

 今更ながら、俺は嘘をつくのが上手だと思う。

 

 

 

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