ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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27話 女の敵

 

 帝くんと付き合い始めて、気づいたことがある。

 

「……ん。……おはよう、桔梗ちゃん」

「おはようっ、帝くん」

 

 ベットから起き上がってトコトコと私の前まで歩いてきた。朝の挨拶をしながら私の前で背を屈める帝くんの頭をわしゃわしゃとかき混ぜる。それから洗面所まで夢現(ゆめうつつ)のまま歩いて行った。

 

 帝くんは朝に弱い。

 

 しかし、そんな自分の弱点を理解している彼は、覚醒までのルーティンを確立しているようで、冷水を浴びた後は()()()いつも通りの帝くんになる。

 だけど、私は気づいたのだ。

 

「今日の味噌汁もすごくおいしいっ」

「……ほんと?やった、うれしい」

 

 わずか1秒ほど間があって、それから帝くんはいつものように優しくはにかんだ笑顔を見せて答えてくれる。

 きっと本人は無自覚なのだろうけど、会話と表情筋が動くまでに絶対間が開くのだ。私はそれが愛おしくてたまらない。

 朝は帝くんの弱点だ。

 

 また別の休日。私たちは帝くんの部屋で映画を見ていた。

 

「……あはははっ!はっー、笑った笑った。まあ、B級映画にしてはオチが上手いって感じかなっ」

 

 私は映画を見て大爆笑してたんだけど、隣からは笑い声が聞こえなくて、帝くんを見る。

 私の視線を感じて、彼は思い出したかのように口元に笑みを浮かべた。彼の感想を聞いてみたくなって問いかけることにする。

 

「帝くん的にはこの映画どうだった?面白かった?」

「ん?もちろん面白かったよ。桔梗ちゃんの言ってた通りオチが良かったね」

「笑ってなかったことない?」

「笑ってたよ、それはもう大爆笑。桔梗ちゃんが笑いすぎで、俺の声はかき消されてたんだって」

「ふーん?そっ」

 

 帝くんの、その場をやり過ごす為だけのような言葉に私は冷たく返した。えー?拗ねないでっ、とツンツンしてきたので、私は座る位置を変えて少し距離をおく。

 気づいたことはもう一つある。

 

 帝くんはあまり笑わない。

 

 各々がスマホを触り始めて、帝くんのお昼どうする?という言葉から雑談が始まった。そんな、至っていつも通りの休日だ。

 

「ん、電話だ」

 

 くだらない雑談で盛り上がっていると、帝くんのスマホが不意に鳴る。

 

「誰から?」

 

 興味本位で聞いてみれば、帝くんは嬉しそうに笑みをこぼした。

 帝くんの性格らしい、けれど普段の彼とは違う、子どもらしい笑い方だった。

 

「綾小路から」

 

 彼はそう答えてからすぐに電話に出た。喜色の滲む声で会話を始める。数分話してから電話を終えた帝くんに私は聞いてみることにした。

 

「綾小路と何話してたの?」

「あぁ、くだらない雑談のようなものだよ。窓を開けて部屋の掃除をしていたら虫が入ってきたから助けてくれってね。はははっ、おかしいよねぇ」

 

 そう楽しそうに話す帝くんはあまりにもいい笑顔。

 

 帝くんはあまり笑わない。

 けれど、綾小路が絡むときには嬉しそうに笑うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 船上での特別試験が始まった1日目の夕方。

 

「そう言えば泣き虫だったよ、綾小路」

 

 そう言った帝くんの様子が、大切な思い出を宝箱にしまうような仕草に見えた。貴重な思い出を噛み締めているような、そんな感じだ。

 

 特別試験は始まった。私は帝くんに綾小路と堀北の退学を望んだ。

 けれど私の目には、帝くんが綾小路を退学にするつもりがあるようには思えない。

 

 なにか、彼は綾小路に対して大きな『執着』を持っている。

 

 そんな私の勘は、間違っているのだろうか。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「AクラスとDクラスの協力について、ってテーマでどうかな?」

 

 帝くんのその言葉から、特別試験に関する話し合いが本格的に始まった。

 どこに耳と目があるかわからないこんなところで話し合いしていいのかと思うけど、私たちの席の周囲は騒がしいAクラスの集団が囲っていたので情報が漏れることはなさそうだ。これも帝くんの指示なのだろうか。

 

 軽井沢さんはあまり話合いに乗り気じゃなさそうにスマホを触っていた。

 でも気持ちはわかる。軽井沢さんにしてみれば、平田くんとご飯食べるだけの予定が、試験の話し合いの場に変わったんだもん。

 その上、その内容は知りもしない竜グループの話。ミニゲームが行われたことについては平田くんが説明していたけど、それでも、興味が湧くとは思えない。純粋に軽井沢さんが可哀想だと思った。

 

 そう、ミニゲーム。初日の一回目に行われたディスカッションでは帝くんの提案でミニゲームをすることになったけど、私はそこで一回目の勝負に出るように帝くんからメールをもらった。

 

『一回目のミニゲームにAクラスを指名して出場してほしい。ゲームの勝敗は任せるけど、できれば負けてほしい。そしてAクラスは絶対に櫛田さんは優待者じゃないと公表する。平田くんたちへの説明は必ずする。お願いします』

 

 淡白で、要件と最低限の理由だけしかないようなつまらないメール。そして意図が全く読めない。

 でも、私よりも何十倍も賢い帝くんの指示なので大事なことなんだと思って応えることにした。

 ただ素直に従うのもムカつくので、勝負に勝ってやろうって考えてたんだけど、普通にじゃんけんは負けちゃった。

 坂柳さんはすごく頭がいいって聞いたことあるけど、運もいいのかな。

 

 そんなことよりも。

 

 私の逸れてしまった意識を話し合いに戻す。帝くんが平田くんの方を向いて私に送ったメールについて話していた。

 

「俺が桔梗ちゃんに送ったメールの内容は『Aクラスは結果4を狙う。だから優待者を見つけ出そうと裏切り者になるつもりはない』っていうもの。つまり、一番最初に指定権のあるDクラスに優待者がいるのなら、カモフラージュに使ってくれと言う意図があった」

 

 ふぅん。意図を知らせていなかった私への配慮もあるのだろう。わかりやすい説明だ。私が演じればいい櫛田桔梗を教えてくれている。

 私は少しだけ俯いて、表情を作った。

 

「そうなのっ。ごめんね、バレるかもって不安で、Aクラスが嘘をついてくれるなら、みんな騙されるかも思って。……軽率に動いちゃったよね。勝手に判断して……」

 

 再びごめんねと心から申し訳なさそうに私は謝る。

 粒揃いの竜グループで優待者に選ばれた私の重荷を理解していない平田くんじゃない。きっと、理解を示してくれるはずだ。

 

 まあ、もちろん嘘だけどね。私は自分が優待者に選ばれたその大きなアドバンテージはラッキーだと思ってるし、メンツの濃さも帝くんが味方だと思えば怖くはない。

 詳しい理由は後で帝くんに追求するとして、今は演技に集中しようかな。

 

「いや、僕は櫛田さんの判断は間違っていなかったと思う。ミニゲームが行われた初日は戦略を立てる暇もなかった。だからこそ、優待者はゲームに参加させないという安牌な戦略をとる、と。みんな思うはずだよ」

「俺もそう思う。だからこそ、メールを送ったんだ。Dクラスのみんな演技上手だったし、気付いた人はいないと思う」

 

 理屈は通ってる。

 結果4は裏切り者による回答のミス。つまり、表向きの理由としては優待者を誤認させるために、本当の優待者である私を勝負に出して、坂柳さんに嘘の情報を公開させた。

 みんなは、私が優待者じゃないと思い込むだろう。坂柳さんの発言を信じるか信じないか、ではなく。一番に勝負に出た私が優待者だと思えない、と頭で納得するはずだ。

 

「いくつか質問いいかな?」

 

 平田くんがそう言って帝くんをみた。納得はできたけど、分からないことも多い、そんな顔。もちろん、と帝くんは頷いた。

 確かにまだまだ説明不足だろう。ほら、私にメールをした理由とかね。私が優待者だと元々知っていたんじゃないか、そんな疑問は浮かんでしまう。

 

「櫛田さんにメールを送った理由は、ミニゲームの指定権が一番先にあるDクラスだからかな?もし、櫛田さんが獅峯くんの話を信用できず、優待者はいないと言ったり、無視をしたり。実際にDクラスにいない場合にはどうするつもりだったの?」

「その説明をするには、まず俺たちAクラスの戦略を聞いてもらう必要がある」

 

 そう言った帝くんは少しだけ真面目な顔をして、再び口を開いた。

 

「まず、俺たちAクラスはC()()()()()()()()による結果4を狙ってる。つまり、騙したい対象はCクラス。だから、もし平田くんの言うようにDクラスから優待者だと出てくる人がいないようだったら、次はBクラスにメールをする予定だったんだよ」

 

 私が帝くんからのメールを無視した場合、または優待者であると告げることもなくゲームに参加しなかった場合。帝くんはBクラスにも『裏切るつもりはないから、利用するなら利用してくれ』と伝えるつもりだった。

 その説明であれば私が優待者だと事前に知ってたんじゃないか、そんな疑いも晴れるはず。

 

「ねぇ、質問いいー?話はよくわかんないんだけどさ……」

 

 スマホから視線を上げて、食事に集中していた軽井沢さんがそう言った。……話聞いてたんだ?スマホを触っているだけだと思っていたから正直意外かも。

 すごーくだるそうだったし、どう見てもずっとメールのやり取りしていたし。愚痴が捗っていたことは想像に容易いことだった。

 

「もちろん、質問大歓迎」

「結果4のメリットってなに?正直、優待者に気付いたなら裏切るのが一番メリット大きくない?」

 

 中々ぶっ込んだ質問だった。はははっ、と帝くんは大きく笑うけど、素直に答えるつもりなのかな?裏切るつもりがあっても、ここでそれを言うわけないし。これは軽井沢さんが質問したんだから、きっと軽井沢さんの頭でも納得できるように答えるのだろう。

 

「結果4は、優待者の所属するクラス以外で、唯一クラスポイントがマイナスに動く結果なんだよ。つまり俺は、裏切ってAクラスがクラスポイントを得るより、Cクラスのマイナスの方がメリットだと考えてる」

「へぇ?じゃあどうしてCクラス狙ってるの?普通、すぐ下のBクラスとかの方がいいんじゃない?」

「はははっ、それは野暮な質問だね。Cクラスを狙う理由は、秘密ってことで頼むよ」

 

 帝くんがそういえば、軽井沢さんはやはり興味がなさそうに、話の続きをどーぞー、と再びスマホに視線を落とした。

 秘密と言われればこれ以上の追求はできないし、上手な躱し方だ。

 そもそも、帝くんが本当にCクラスを狙っているかなんて分からない。彼は嘘が上手だから。……あとで絶対に問いただそう。

 

「じゃあ改めて、俺たちと協力をしない?」

「……うん、話は分かったよ。僕たちDクラスにデメリットはない。喜んで協力させてもらう」

 

 堀北のやつにも今メールはしておいたし、帝くんの表向きの思惑は理解してもらえるはずだ。

 そもそも、帝くんに真意を聞いておいてと言ったのは堀北。協力の話だって、願ったり叶ったりなこと。

 

「やった、ありがとう平田くん」

 

 そう笑顔を見せた帝くんは、2回目のディスカッションで行われるミニゲームの、各クラスの取る戦略についての予想を教えてくれた。

 

 Bクラスは、確実に優待者候補を絞るために、対戦カードを絞りにいくはずだと言った。だから、墨田くんを多用するだろうって。ならすべきことは私が墨田くんにゲームで勝つこと。優先的に指定権の回るDクラスなら私の勝てるゲームでBクラスを指名して、対櫛田桔梗の対戦カードを無くしていく。

 Cクラスは、嘘をばら撒くだろうって言っていた。メンバーを混乱に堕とすため、特定の誰を優待者だと嘘をつく可能性があるんだって。つまり、龍園くんは優待者が見つかれば裏切り、結果4になるんだったら万々歳って考えてる。

 

 

 それから2回目のディスカッションが始まって、ミニゲームが行われた。

 

 帝くんの予想通りBクラスは墨田くんを積極的に使って、確実に情報を集めていた。

 そして、Cクラスも同様。葛城くんにゲームで勝った園田くんが、葛城くんは優待者だったと主張をした。演技力は中々、騙される人はいるかもしれない。

 

 2回目のディスカッションも終了し、自由の身となった。私は未だに、帝くんに戦略の真意を問いただせてないまま。

 帝くんはすぐ誰かに呼ばれちゃうし、いつも誰かが周りにいるし、電話をかけても繋がらないこともしばしば。

 

 やっと電話のつながった帝くんに、今回の特別試験では何がしたいのかを問い詰めれば、ただ笑って、当たり前のように一言。

 

「桔梗ちゃんに、()()1()をプレゼントしたいと思ってる」

 

 それが、私の喜ぶプレゼントだと思っているのなら帝くんはバカな男だし、その後に付け加えられた言葉も考慮しているのならもっとバカな男だと思う。

 

 ただ、いい気分になって電話を終えてしまう私は、もっともっとバカな女なのかもしれない。

 帝くんはムカつく彼氏だ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 私は地下二階の休憩コーナーに設置されたソファに深く腰をかけて座る、見覚えのある後ろ姿を見つけた。

 艶のある黒髪に、背丈がある分よく見える広い背中。あまりにも見覚えがありすぎます。

 

 ここにやってきたのは偶然ですが、運がいいこともあるんですね。声をかけてやりましょう。

 

 でも、ただ声かけるだけなのは面白くない。せっかくですし、彼を脅かすことに決めました。

 彼は、獅峯くんは私を淡々とした抑揚で坂柳と呼ぶのか、それとも上手に作られた笑顔を見せて坂柳さんと呼ぶのか。反応が少し、楽しみです。

 

 私の特徴的な足跡が周囲に響く。周りが静かなこともあって、きっと獅峯くんは私の存在に気づくでしょう。

 近づけば、彼が誰かと電話していることに気づきました。まあ、気にする必要もない。どこかに行けと、ジェスチャーでもされたら距離を取ればいい。でも私には、彼はそうはしないという自信があります。

 

 また、私の足音が響く。彼の会話はすでに耳に届く距離です。果たして獅峯くんは誰と話しているのか。

 

「桔梗ちゃんに、結果1をプレゼントしたいと思ってる」

 

 確かに聞こえた桔梗という名前。なら、彼の電話相手は恋人の櫛田桔梗に間違いないでしょう。

 

 彼は意地悪な人ですね。すでに私の存在に気づいている癖に、それでも私を一目見ることもなく電話を続けている。

 もしかして意地悪されるのを待ってるのでしょうか。仕方ないですね。後ろから頬を(つつ)いてあげましょう。

 

「————大好きだからね」

 

 彼の頬に伸びた手が思わず止まる。獅峯くんの口から発された愛の言葉は居心地が悪くて、逃げたくなるような、やり返したくなるような、そんな感覚。

 

 伸ばした手を引こうと再び動いた私の腕を帝くんが優しく掴んだ。

 ただ、前を向いていて、電話に集中していて、私のことなんて見る素振りすらない。それなのに、腕を掴んだ手のひらは暖かくて、振りほどけるほど優しい掴み方じゃなくて。

 

 私を掴んで離さない獅峯くんは、私じゃない誰かに愛を囁いている。

 

 その後、電話はすぐ終わりました。すると彼は、そのとき初めて私を見ます。笑顔もなく、無表情で、相変わらずどこを見ているかわからない眼。彼から解放された腕はどこか寂しくて、そんな私の内面を知らないような彼はただ、なに?坂柳。と短く一言そう言いました。

 何も映っていないような瞳は、けれど私をまっすぐに見ている。

 

「どうして私の手を掴んだんですか?」

 

 私の問いに彼は、淡々と答えを述べました。

 

「はなしたくなかったからだよ」

 

 なんの感情もない瞳。ただまっすぐ私を見ている。

 ……さて、どうやって彼の口を黙らせましょう。コイツは女の敵です。晒し者にでもして、痛めつけてやりましょうか。

 

 

 




『余談』
ミニゲームはマジで暇つぶし。こんなにだらだらと文章書いてるけど、ほんとに意味ない。
なので、意味わからなくても流し読みしていただいて結構です。
もちろんしっかり読んでくれるのも超大歓迎です。嬉しいです。
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