ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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今日はよう実の発売日でしたね!!!


4話 リーダー争奪戦

 

 朝起きて、まず冷水のシャワーを浴びる。そうする事によって半分眠っている意識を強制的に覚醒させるのだ。

 俺は朝が苦手だが、多分これは体質的なもので昔から変わらないし、直せるようなものじゃないだろう。だから俺にとって冷水のシャワーは目覚ましで、これが無いと朝からグダグダしてしまうことも身をもって知っている。

 

 鏡の前で笑顔を作ってみた。そして一瞬で頰の力を抜く。これも俺のルーティンの一つだ。

 双子の兄は俺によく、もっと笑顔を見せた方が良いと言った。しかし特殊な育ちということもあって無表情が常になってしまった俺は鏡で兄の笑顔の真似をしていたのだ。顔が瓜二つなものだから鏡を見ればすぐに真似が出来るようになったのも懐かしい。今ではこの笑顔もだいぶ表情に馴染んできた。

 

 それから着替えて身支度を終えた。朝ごはんを作って食べる傍らスマホを操作する。今日は5月1日、ポイントが支給される日。俺のポイントは169,600ポイント。元あったポイントは75,600ポイント。プラス94,000ポイントか。

 10万ポイントには近いが、やはり減っているな。

 葛城と坂柳に連絡をする。二人とも俺と同じ金額が振り込まれていた。クラスで共通なポイントであることは確定。

 他クラスの情報が欲しいところだが、まあそれは追々でも構わない。一先ず時間になったので学校へ向かう事にした。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 教室に入るといつも通りの光景が待っていた。誰も焦った様子はなく、仲の良い生徒と談笑している。

 

「おはよう、坂柳さん」

「おはようございます、獅峯くん」

 

 坂柳も至っていつも通り。近くにいた何人かの男女と楽しそうに談笑をしていた。俺も葛城らといつも通りの朝を過ごす。

 チャイムが鳴れば一様に静かになった。

 

 振り込まれるポイントが減ったという事実。

 

 それは坂柳や葛城の語った話が本当だったということを示している。わざと私語を溢してポイントを減らすような真似をするバカはこの場にいない。

 

「全員席に着いているな。ホームルームを始める」

 

 真嶋は全員を見渡した後、俺たちを褒め称えるように拍手をした。

 

「既に理解しているようなので早速話を進めさせてもらう。お前たちは歴代で最もポイントを多く残したクラスだ。担任として誇らしく思う」

 

 そう言いながら黒板に張り出したのは一枚の模造紙。AクラスからDクラスの名前とその横に数字が書いてある。Aクラスは940。Bクラスは650。Cクラスは490。Dクラスは0。Aクラスで言えばこれは支給された金額の100分の1に値する為、1000が10万ポイントとなるのだろう。

 

「質問よろしいでしょうか、真嶋先生」

「構わん、言ってみろ葛城」

 

 真嶋が話し始めて早々に、葛城が挙手をして質問の許可を求めた。この段階で疑問点が出るなんて、中々頭の回転が早い。

 

「AからDまで綺麗に数字が並んでいます。それに意味はあるのでしょうか。それとも偶然ですか?」

「いいところに目をつけたな、葛城」

 

 曰く、Aから順に優秀なクラスに振り分けているらしい。俺たちの所属するAクラスが学年で最も優秀な者の集まるクラスだと。

 

「そして、これは小テストの結果だ。さすがAクラスというべきか、4クラスの中で平均点一位という結果だな」

 

 そして先日行われた小テストの結果も公開される。

 一番下の点数は61点。平均点80辺りか。概ね予想通りだが、思っていたよりより優秀な生徒が多い。上は100点下は61点と振り幅も狭く、80点台の生徒数が最も多い。そして90点越えも少々。あの高難易度の問題を正解している生徒の数が最も多いということに俺は少し驚く。

 

「心配は無用だろうが、学期ごとに行われるテストで赤点を取った場合は即退学となる。気を抜かなないように」

 

 赤点をという低次元の話ではあれど退学という言葉にみんな反応する。まるでデスゲームのような設定だな。

 まあ、赤点を取ってしまうと退学と、ボーダーラインとしてはかなり緩いが。

 

「最後に、この学校に入学してきた目的が将来を100%保証する点だという生徒は多いだろう。しかし、その恩恵を受けられるのは卒業時にAクラスだった者のみ。クラスポイントが最も高いクラスをAクラスとし、クラスは常に変動する。ポイントを増やす術を探し、今あるこの地位を維持できるよう、常に最善を尽くす事だ」

 

 そして、ホームルームが終わった。休憩時間となりそれぞれが自由行動を始める。

 

 休憩時間になってすぐ俺には一通のメールが届いた。送り主は坂柳。

 メールの内容はパッと確認してすぐに分かったので流し読みをしてそのまま閉じる。

 

 それにしても顕著なものだなあと思う。自由時間になった途端、俺と坂柳を中心に大きく二つに分裂しているのだ。あまり嬉しくない敵対関係が浮き彫りになってきた。

 

 俺はそばに寄ってきてくれていた葛城に声をかけることにする。

 

「葛城くん、今日のお昼なんだけど二人で食べない?少し話したいことがあるんだ」

 

 こんなタイミングということもあってか、快い返事をもらえたのは一安心だ。

 俺の周りに集まる人たちの中には、真嶋の話に少し不安を感じた人もいるらしく俺に安心を求める声もあった。

 そんな人たちには大丈夫だよと適当に声を掛けて話を逸らす。ここで心から安心させるような言葉や行動を取ることは簡単だが、それは今するべきことじゃない。少なくとも、()()()()()が片付くまで、俺が大きな行動を取ることはないだろう。

 

 だから、いつもと変わらない。

 けれど俺がこうであるのはもう少しで終わりだろう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 俺は葛城と二人で食堂に来ていた。二人であれば場所はどこでもよかったので手慣れた食堂へ、という事になったのだ。

 

「わー、急に山菜定食の人増えたね。Dクラスかな」

「おそらくな。0ポイントになるくらいなんだ。手持ちも殆どないのだろう」

「へえ、大変そうだ」

 

 山菜定食を注文する人を横目に俺は生姜焼き定食を頼む。山菜定食の生徒が俺を羨ましそうに見たのが目に入った。まさに、天国から地獄へって様子だな。

 二人で定食を受け取って、空いている席についてご飯を食べ始めた。

 

「二人でお昼をしたいと言っていたが、どうしたんだ?」

「んー、そうだね」

 

 葛城には常に戸塚がついて回っている。彼に話を聞かれてもメリットはない。その為にわざと二人でと指定をした。

 

「君も気づいているだろうけど、Aクラスは密かにだが確実に分裂してきている。それは好ましくない状況だ」

 

 葛城や俺が何かをしたわけじゃない。これは坂柳がきっかけを生み出したものだ。坂柳が作った亀裂が徐々に時間をかけて深くなってきている。このままでは割れてしまうのも時間の問題だろう。

 この亀裂はいつかの時、ポイントが減少すると葛城が全体に向けて言った時に出来てしまったものだ。坂柳派にのみ、その可能性を話していた坂柳を信頼する坂柳派。葛城の口から初めてその事実を知った為に葛城を信頼する葛城派。今後、そういった学校生活に影響の出るような事柄が起こるたびに、この亀裂は深くなっていく。

 対処するなら早い方がいいのは明らかだ。

 

「クラス内対立は笑えない話だな。クラス対抗が確定した中、仲間内で争うなどあまりにも馬鹿馬鹿しい。何か考えがあるのか」

「その感じだと、クラスの亀裂の原因については、おおよそ理解してるみたいだね」

「そっくりそのままその言葉を返したいな。俺にはおまえが、坂柳のように頭のキレるような生徒には見えなかった。どこで気づいた?」

 

 意外にも葛城は坂柳がこの亀裂を生んだ原因だということに気がついているようだった。確かにクラスメイトをよく見ているこの男なら気がついてもおかしくなかったけど、ちょっと彼を甘く見過ぎていたか。

 

「君がいつの日かの食堂で、ポイントは減少すると言っていただろう。その時の神室さんの反応が興味深くてね。聞いてみれば坂柳さんに聞いていた話だと言っていた。そこからは簡単に紐解けるだろう。亀裂が生まれることなんて一目瞭然だ」

「その通りだろうな。坂柳は上手く俺に『坂柳派の人間には事前に話していた』という事実を隠すよう根回しをしていたようだが、それでも綻びは生まれてくる。しかし、俺が気がついたのはつい最近だがな」

 

 つい最近までその事実を葛城に気づかせなかった坂柳がすごいのか、根回しされていた状況でこの事実に辿り着いた葛城がすごいのか。

 そんなことはどうでもいいけれど、二人が無駄ことに脳みそを使ったということは事実だろう。クラスメイトという本来なら協力し合える立場でどうしてそんな不毛なことをするのか。いや、これは坂柳に言うべきことかな。

 

「まあ、これでお互いに坂柳有栖が対立するように立ち回っていたという共通認識が出来たわけだけど。葛城くんはどうしたらいいと思う」

 

 ここで俺は葛城に聞いてみることにした。彼はどうしたいというのか。坂柳を蹴落としたいというのか、それとも……。まあなんだっていいか。

 

「もちろん手を取り合うのが理想だろう。坂柳が優秀であるということは既に分かりきったことだ。懸念点を言えば、彼女にその気がないことだな」

「違いないね」

 

 そうでなければ、わざわざ亀裂を作ったりはしない。彼女の行動がそれを物語っていた。

 坂柳有栖は自分を天才だと自負している。そして、それは紛れもない事実だ。葛城も確かに優秀な男だが、坂柳と葛城で比べるとしたら一歩劣ってしまう点に間違いはない。それが坂柳が手を取り合うという考えを持たない理由の一因となっている。

 

「俺のことを信じられるのなら、の話にはなってくるんだけどね」

 

 俺はそう言ってから少し間を開けた。俺の中でスゥーっと緩みが消えた感覚がする。

 

「坂柳有栖を従えさせる作戦があるのだけど、どうかな。葛城くんと坂柳さんが俺を支える構図。これがAクラスの作れる最強の布陣だよ」

 

 俺はそう言っておかずを口に運んだ。横に座る葛城が俺をじっと見ているのがわかる。それは、信じきれていない顔。

 

「俺がクラスを率いるのならば、Aクラスという地位を約束できる。確実なものにできるとここで断言しよう」

 

 そして、それには君と彼女の協力が必要不可欠だ。そう言ってまた食事を進めた。

 別にAクラスの地位を維持することなど俺一人の力で構わない。それだけの実力が俺にはあると言える。が、せっかく優秀な駒が揃っているのに使わない手はないだろう。そのためなら、どれだけでも都合のいい言葉を吐ける。

 

「俺に付いてきてくれないかな、葛城くん」

 

 最後にそう言えば、葛城も食事を進める。返事をくれたのは二人とも食事が終わってから。

 

「俺は何をすればいい、獅峯」

 

 それは承諾の意。俺に付くと遠回しに言った言葉だ。俺は笑顔を溢して葛城に応える。

 

「色々と頼むよ、葛城くん。よろしくね」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 放課後になり坂柳らと共に教室を出る。彼女は横に神室を従えていたが、対して俺は一人。別に気負う必要はないが、俺も葛城を連れてきた方が良かっただろうか。

 

「どこに向かってるの?」

「カラオケにでも行こうかなと」

「は?聞いてないんだけど」

 

 神室の言葉をガン無視して坂柳は歩く。性格が悪いのはいつもの事なので俺は特に気にするのはやめた。

 俺は朝、坂柳からメールをもらっていた。内容は例の『勝負について』。大方、勝負内容が決まったのでそれを伝えるのが今回の目的だろう。

 俺は坂柳が勝負内容を通告するのは5月になってからになると読んでいた。当たりだったな。

 勝負内容もある程度予測はついている。今日一日で取れる対策は全て行った。何も心配することはない。

 そして、カラオケに到着し指定された部屋に入る。

 

「さ、真澄さん。何か歌ってください」

「は?無理なんだけど」

「遠慮せず」

「いや、まじで!」

 

 結局一曲披露してくれた。中々上手くて聞いてて楽しかった。俺たちは合いの手をするわけでもなく神室をガン見していた。さぞ歌いにくかっただろう。それでも90点を超える点数を叩き出すのだから、リラックスした状態での歌も聴いてみたいものだ。

 

「さー、場も和んだことだし、要件を聞こう」

「あんたら、まじで性格終わってるわね!」

「上手でしたよ、真澄さん」

 

 ぷんぷんしてる神室は置いておく。ジュースを一口飲んでから話を戻した。

 

「勝負のことでしょ?」

「えぇ、勝負内容を決めました」

 

 ニコニコと笑う坂柳は自分が勝つ事を疑っていない様子。俺たちの会話に神室はついていけてない様だったが、説明する必要もない。

 

「Aクラスのリーダー争奪戦。私が貴方を蹴落とすか、貴方が私を蹴落とすか」

「血気盛んだなあ、怖いよ」

 

 やはり、と言った内容だった。むしろなんの捻りもないというか、予想通りすぎてつまらないというか。

 いいや、せっかく葛城が俺側につくと言ってくれたのだし、彼との約束は守らないとな。

 

「蹴落とし合いっていうのが不満だな。手を取り合えばいい」

「これは勝負ですよ。どちらがリーダーとして優れているのか」

「なるほどねえ」

 

 よし、と言って俺は手を叩く。

 

「いいよ。だけど、勝敗がはっきり分かるようにルールを決めよう。中間テストが終了した3日後にクラス内投票を行う。獅峯帝、又は坂柳有栖。そのどちらにAクラスを率いて欲しいか。票の多かった方が勝ち」

「えぇ、そうしましょう。それで、この勝負を受けていただく対価は?貴方のことですから、とっくに決めているのではないですか?」

「うん、まあね。相談なんだけど、えっちな内容とかじゃないからさ、俺の任意のタイミングで話してもいい?」

「そのくらいは構いませんよ」

「やった、ありがとー」

 

 これはただの()()だ。別に深い意味はない。

 神室はとうとう暇になったようで、ずっとジュースを飲んでいる。暇なら歌えばいいのにね。俺と坂柳はきっと気にしないよ。

 そうだ、と忘れていた事を切り出す。

 

「クラスに話していいの?俺らがリーダー争いをすること」

「いえ、中間テストが終わってから言いましょう。そうですね、この場で神室さんは聞いてしまったので、一名にのみ話してもいいですよ」

「了解、じゃあ葛城くんに言うよ」

 

 彼ですか、と小さく言葉を溢す。嫌なのだろうか。まあ葛城に言うと決めているので嫌だとしても実行するが。

 

「じゃあ、お互い頑張ってこー!」

「えぇ、頑張りましょう」

 

 ははは、ふふふ、と笑い合う。神室はドン引きしていたがそんなに引かないで欲しい。俺だって傷つく心くらい持ち合わせてる。

 

 解散となり、早速葛城に連絡を取った。

 坂柳は天才だ。勝負を仕掛けてきた時点で勝利までのプランをいくつも立てているだろう。俺も遅れを取ってはならない。

 いくつかプランは浮かんだが、坂柳の作戦が読めないところが気掛かりだ。作戦が一気にパーになる可能性が大いにある。

 

 しかし、俺が負けることはあり得ないだろう。それが俺の信念なのだから、俺は信念に従い全力を尽くす。全力を出した俺は負けたことがないのだ。

 

 つまり負けるわけがない。

 

 

 




『追記』(関係ないので読んでも読まなくてもいい)
3話で獅峯が橋本の発言(プールの際)に疑問を持っていたが、実は大したことない理由。
坂柳は橋本に獅峯とリーダーの座を争う的なことを話していた。獅峯を警戒していなかった橋本は「葛城じゃなくて獅峯?」と疑問を持つが、葛城『ポイントは減少する』等の発言に全く驚いていなかった獅峯に気づく。
リーダーの座を争うのは獅峯。なのに信頼を得る行動は葛城がした。なら葛城独断行動か?という考えになって、獅峯も自力で『ポイントは減少する』という結論に至ったのではという考えになり、それを探る為に獅峯に声をかけた。

『余談』
坂柳はリーダー争奪戦について神室と橋本に話したので、本来なら獅峯は葛城とあと一人に話す権利を得ないとフェアじゃない。でも本人がそれに気づいても、「まあそのくらいいいさ」とか言って気にしない。懐が広いね。

『余談②』
ちなみに、坂柳との勝負内容がリーダーの座を争うものだという事に獅峯は2話の段階で察していた。
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