ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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区切りが悪かったので、区切りがいいところまで毎日投稿することにしました。それ以降は週一の予定です。
よろしくお願いします!


5話 こちらの戦略

 

 獅峯に呼び出され、奴の部屋に訪れた。インターホンを押せばすぐに顔を出す。入って入ってと腕を引かれ、俺は部屋に招かれた。

 

「ごめんね、こんな時間に呼び出してさ。晩御飯作ったんだけど食べる?」

 

 時刻は午後7時半。夕飯時といえばそうだろう。ちょうど何も食べていなかったのでご馳走になる。

 獅峯の部屋は綺麗に片付いていた。特に目立つのは付属品である本棚。参考書などで埋まっていたその一角は、きっと奴の優秀な成績の一端なのだろう。

 運ぶから待ってね、と言われてフローリングに敷かれたカーペットに座り込む。期待を裏切らないと言うか、ある意味裏切っていると言うのか。運ばれてきた料理は手作りだと思われるハンバーグとミネストローネだった。

 失礼だが、性格とポテンシャルの不一致、獅峯からはそんな違和感を覚えずにはいられない。

 馬鹿っぽい性格と優れたポテンシャル、女子はこれをギャップだと言って好意を表していたが、俺はどうにも素直に受け取れなかった。

 

 獅峯帝は優秀な生徒であるのだろう。テストで点数を落としたところは見たことがないし、体育の様子から運動神経の良さも周知の事実だ。彼の出来の良さには天才科学者に作られた精密マシーンだと言われた方が納得できる。

 しかし、対して性格はあまりにも人間的。よく笑い、よく怒っ……たところは見たことないな。泣いてるとこも悲しんでるとこも。やはりロボットか?まあ流石に冗談だが。

 

「失礼なこと考えてたでしょー」

「いや、そんな事はない。料理とても美味しいぞ」

「え、不味かった?」

「美味しいと言っているだろう」

 

 そんな事より、本題に入るべきだ。時間が惜しいので今日来て欲しいと言ったのは本人だ。その本人が進んで雑談をするのだからなんとも言えない。

 話を促せばごめんと笑って話を始めた。

 

「坂柳さんとリーダー争奪戦、というものをすることになってね。中間テスト終了から3日後にクラス内で投票を行い、票の多かった方の勝ちという単純なルール。俺は当然それに勝ちにいく」

 

 それが、今日獅峯の言った坂柳を従えさせる策というのに関わってくるのだろう。この勝負に勝つことによりAクラスのリーダーは獅峯となる。敗北した坂柳をどう従えさせるか、というのが最終段階の話か。

 

「まず、この勝負の重要なところは中間テストの3日後に投票が行われるということ。中間テストでいかにクラスに貢献できるか、それが勝敗を分けるというわけだ」

「……地味に勝負になりそうだな」

 

 俺はついこんな事を言ってしまう。

 現在獅峯に票を入れる割合は四割といったところ。坂柳は前々から自らを慕う生徒を増やしていた。その為、俺と獅峯を慕う生徒は合わせても半分ほど。勢力を増やしてこなかった分不利だ。どちらにも属さない生徒を引き入れたとしても確実に勝利できるとは言い切れない。

 その上、中間テストでクラスへの貢献。出来ることは、勉強会を開く、などと言った地味な戦略のみ。

 

「地味、そうだね。普通ならそうなるね、きっと」

「普通なら?」

 

 妙な言い回しをする獅峯に問いかける。この勝負に普通も何もない。人徳の積み重ねという分かりやすい勝負だ。

 

「彼女が地味な事をするわけがない。勝敗が一気に傾く作戦の一つや二つは練っているだろう。そこで、俺も対抗することにした」

「対抗?勉強会を開くとかか?それでも地味な勝負になることに変わりはないだろう」

 

 勉強会なんてやらないよ、と獅峯は笑った。それ以外に何の作戦があるのかと、俺は話の続きを待った。

 

「教師に確認をとってきたからほぼ間違いない。俺はまず過去に行われた前期中間テストの問題を手に入れる」

「過去問?そこから傾向を予測して対策問題を作って配布する、ということか」

 

 それは遥かに労力のかかることだが、その分ただの勉強会よりは成果が見えるだろう。しかし、それを行なっても勝敗が大きく傾くとは思えなかった。

 

「いいや?それはあまりにも非効率的だ。俺の読みが当たれば、過去問はそのまま中間テストの問題になるだろう。丸暗記すれば100点は堅いだろうね」

「あまりにも馬鹿げた話だな。根拠はあるのか?」

「それはこれからだよ。明日行動に移す。坂柳さんの作戦がわからない以上早い段階で過去問を入手してクラスに配布することが重要になってくるね」

 

 話はわかったが、獅峯がどうその作戦を思いついたのかなどと、疑問は多く残る。あまりにも馬鹿げた話。普通、テスト内容は毎年更新するだろう。根拠はこれから手に入れると言ったが、果たしてそれは確かなものなのか。

 

「とりあえず、今のところ葛城くんに頼むようなことはないかな。今日はこの話をしたかっただけだからさ」

 

 あ、と言って獅峯はスマホを取り出した。食事中に行儀が悪いと注意しようと思えばそのスマホの画面を向けてくる。

 

「そういえば坂柳さんから送られてきてたんだよね。勝負の細かいルール」

 

 そう言って見せたのは一枚に収められたルールの内容。

 

『坂柳有栖、獅峯帝によるAクラスリーダー争奪戦を行うものとして以下にルールを記載する。

 

・クラスに通告するのは中間テスト終了から3日後の朝とする(神室真澄、葛城康平を除く)。

・一人一票とし、匿名投票で行う。

・票が同数となった場合、勝敗は決まらないものとし、坂柳有栖にはもう一度のみ獅峯帝に対して勝負を挑めるものとする。

・獅峯帝が勝利した場合に限り、獅峯帝は倫理観の伴った対価を受け取ることができる。

・対価は獅峯帝の任意のタイミングで通告するものとする』

 

 理解はできたが不明点も多い。獅峯に、疑問を持った部分を指差して問いかけた。

 

「この、倫理観の伴った対価とはどういうことだ?獅峯が勝利した場合にのみというところも気になる」

「あーこれね。勝負を受ける代わりみたいなものだよ。彼女からの勝負を受ける代わりに、勝利すれば対価がもらえるっていうね。負けても俺にリスクはない。余程、俺と勝負がしたかったらしいよ」

「なるほどな」

「ちなみに、俺の貰う予定の対価はね—————」

 

 獅峯の語る対価。少し(ずる)い気がしなくもないが、ルールに反してはいないな。

 なるほど、獅峯帝は俺の思っていた以上に優れた人間らしい。獅峯に付いて良かったと心から思った。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 時は少し遡って、坂柳から勝負の話を聞いてすぐのこと。俺は真嶋に会いに行った。職員室にいた真嶋に質問したことはたった二つだけ。

 

 まず俺が疑問を拭えなかったのは1日に知らされた小テストの結果。あの小テストは真嶋の発言の通りであれば『今後の参考用』というもの。今後の参考用という言葉の意味が、学校側にとってでもそうでなくても、生徒側が参考にできるものではあると確信している。では、あのテストは結果が出た今、役割を終えたのか?

 

 俺の考えではそうじゃない。テスト結果を発表する行為は、生徒がどれだけ点が取れるかというひとつの指標を明かすという意味を持つ。しかし、難易度の偏りがあった小テストなら、生徒の取る点数も当然偏ってしまう。実際、Aクラスは最後の3問を一問のみ正解する生徒の点数80点台が最も多かった。

 今回の小テストで注目すべきは、最後の3問だけ難易度が高かった、という点だ。

 生徒の学力を図る上では特に意味を持たない小テスト。故に、あの小テストはまだ何かの参考になる。

 

 そしてもう一つ。AクラスからDクラスまで優秀な人から順にクラスが振り分けられているという点。俺はその事実にどうしても首を傾げてしまう。

 最も優秀なAクラスのみ卒業時に優遇されるということは納得できる。しかし、単に実力だけでクラスを分けられたのなら、クラス変動が起こることは基本ないだろう。Aクラスに所属していれば最初から勝ちの決まったゲームのようだ。

 しかし、こういうルールである以上、ゲームを成り立たせないといけない。ゲームを成り立たせる為には、必ず下のクラスが勝ち上がって来れるルールがあるはず。

 そして、次くる中間テストでもそのルールが適応されなければならない。

 

「真嶋先生、質問いいでしょうか」

「珍しいな獅峯。その話はこの場で聞いてもいいやつか」

 

 この場とは職員室のことだろう。職員室には多くの教師の目がある。別に俺は気にしないので、構いませんと答えた。

 

「4月末に行われた小テストありましたよね。あれはまだ、何かの参考になりますか?」

 

 真嶋は分かりやすく一瞬目を見開いて、しかしすぐにいつもの無表情に戻る。ほとんど気づくことのない些細な反応。

 

「ほう、なるほどな。残念だが獅峯、その質問に答えることはできない。決まりでな」

「そうなんですか。まあ、先生方の態度が答えを言ったようなものですけどね」

 

 はははと笑ってそう言えば、一斉に視線が散らばる。俺と真嶋の会話に注目していたのだろうが、目は口ほどに物を言うと、本当にその通りだな。

 

「あぁ、あと。もう一つ質問いいですか?」

「構わん」

 

 俺の一つ目の質問から警戒をしているのか、真嶋は腕を組んで目を伏せた。

 その様子がまた、表情に出さないように必死にしている感を演出していて、俺はどうにも笑ってしまいそうだった。

 

「中間テストで高得点を取るための手段として、勉強をする以外はありますか?」

 

 真嶋と目が合う。真嶋は表情をぴくりとも動かさず、俺の質問に答えた。

 

「妙な質問だな。テストとは学び学習した自らを試すものだ。勉強をする以外で高得点を取れてしまうのなら、それが意味をなさない」

 

 曖昧な回答だった。テストを行う意味についての一般論を今語られても、重要な何かから言い逃れしているようにしか思えなかった。いや、疑いすぎだろうか。

 しかし、この学校にとってのテストは他の学校とは違い、自らを試すものだけじゃない。赤点を取れば退学。学校のルールはクラス同士が競い合うもの。一般論など、ここでは何の意味も持たないはずだ。

 

「本年度のDクラスは成績不良の生徒が歴代でも特に多いらしいですね。そんなクラスが存在していながら俺たちは平等なルールの中競い合う。不思議ですね」

「どういうことだ?」

「平等に見せるために、公平にルールが作られているんじゃないか。って話です。下のクラスにも上と競い合えるだけのルールが存在してるんじゃないですか?」

「それが、最初に言っていた、勉強以外で高得点を取る方法はないかという質問の意味だな」

 

 はい、と俺は答える。

 学校側は常に生徒に対して等しく平等に接しなくてはならない。たとえそれが、平等に隠された公平という名の不平等であろうとも。

 

「獅峯の言いたい事はわかった。しかし、俺から言えることはないな」

「何もってことはないでしょう。教師側にもルールがあることは察せますが、少しくらい答えてください」

 

 俺が頼み込めば、真嶋はふーっと息を吐く。それは俺のしつこさに根負けしたような、諦めたかのようなため息だった。

 

「一つだけ言えることがあるとすれば、俺たち教師は何も言えないということだ。後は察せ」

「なるほど、ありがとうございます」

 

 失礼しました、と俺は職員室を出る。

 俺はこの時に確信したのだ。過去問は有益なものとなる。端的に言えば、この中間テストの答えになるものだ。

 

 こうしてテスト週間に突入した。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 過去問を手に入れるためには上級生に声を掛ける他ない。

 学校の終わった放課後、俺はカフェパレットへ訪れた。パレットへ行く時は大体女子に連れられてなので違和感を覚えなくもない。

 俺はひとり、席に座ってアイスコーヒーを飲んだ。上級生、そして交渉にのってくれそうな生徒を見極める。

 そんな俺の背後からトンっと誰かが肩を叩いた。俺は振り返る。向日葵の髪留めをつけた美人がいた。

 

「初めまして。俺に何か用ですか?」

「ごめんねっ、はじめまして。少しあっちまで着いて来てくれない?」

 

 そう指差したのは店の外にある自動販売機。横にはベンチもあり、ちょっとした会話なら問題なく行えるだろう。少しだけ申し訳なさそうにウィンクをしながら言うその様子は、彼女の性格を表しているようだった。

 

「はい、いいですよ」

「ありがとー!じゃあ早速」

 

 俺は彼女に手を引かれた。彼女の綺麗な髪は風を受けて優しく揺れる。

 目的の場所につけば、明るい髪色の美人は向き合った俺を真っ直ぐに見つめた。

 

「実は、一目惚れしちゃって!私と付き合ってくれないかな!?」

 

 それは紛うことなき愛の告白。

 

「……えっと、先輩の名前を伺ってもいいですか」

「朝比奈なずなですっ」

 

 朝比奈なずなと名乗った美人は俺からあからさまに目を逸らす。

 俺は面白くなって、逸らした彼女の頬を両手で覆って、無理やり視線を合わせた。

 

「いいですよ」

 

 そう言って俺が微笑めば、彼女は困ったように笑うのだ。

 

 

 




『今回のポイント』

みかど は かこもん が
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