「いいですよ」
朝比奈なずなの告白に俺はおっけーを出す。
俺たちの居座る自販機前を
「なーんてっ。すみません、調子乗りました」
「え、えぇっ!?私遊ばれた!?」
「俺の純情を弄んだのは先輩でしょう。嘘告は良くないですよ」
そう、これは嘘告。タチの悪いイタズラの一種だ。
朝比奈を俺の元へ向かわせた二人の生徒にも気づいていた。そして、行動を起こした彼女の後を遠くから追いかけるのも。尾行慣れしているのか、警戒していなければほとんど気づくことはないだろう。
しかし、好都合だ。朝比奈とベンチに座って話を聞くことにする。
「俺は獅峯帝です。俺たち初対面ですよね?どうしてこんなことを」
「あー、ほんとただの悪ノリっていうか。カフェに座る君が見えて、ノリでジャンケンで負けた人が告白しようって話になっちゃってさ」
それで朝比奈が負けた、と。あわよくば付き合えるという意味もあったんだろう。そんなあわよくば、が実現する可能性が大いにあるほど、朝比奈も朝比奈を送り出した二人も美人だった。
「君ってそれなりに有名人なんだよ。それでこんな悪ノリ始めちゃって」
彼女はそう説明する傍らスマホを操作した。そして見せられる画面。一年生の女子が作ったランキングらしい。
「これは後輩がくれたんだけど、私たち上級生の女子はこうやってかっこいい後輩男子をサーチしたりしてるんだ。君は見事、イケメンランキング一位!獅峯くんは他にも何個か載ってた気がするよ」
「いや見せなくていいですよ。もちろん、一位は光栄ですけどね」
そう?と言って朝比奈はスマホをしまう。
女子ってこうやっていい男探ししてんのか。なんか知りたくなかったような、いやしかし恐らく男子も似たようなものだな。
「でも、ほんとにごめんねっ!悪ノリでもしちゃダメだよね」
「はははっ、気にしてないので大丈夫です」
気にしていないのは本当だ。なんならもっとタチの悪い奴らを散々見てきた。こんなの可愛いものだろう。
が、これを生かさない手はない。でも、と言葉を溢して俺は朝比奈と視線を合わせる。
「許しますので、俺の話聞いてくれませんか」
「おっけー!きくきく」
明るい笑顔でサムズアップする朝比奈。素直ないい人だという事は、あまりにも理解できてしまう。
「過去行われた前期中間テストの問題用紙ってありますか?それを俺に融通してほしいんです」
「あー、そういう話?」
「はい、そういう話です」
俺がこの話題を出せば、途端に困った顔をする朝比奈。何か事情がありそうだな。
無理そうでしょうか、と問い掛ければ、うーんと困ったように笑う。
「用意できるにはできると思うんだけどねえ。あ、君ってクラスなんだっけ?」
「Aクラスです」
「ほほー、すごいな」
それは言葉通りAクラスに所属していることがすごいということか。それとも別の何かに対しての言葉か。
朝比奈はまたスマホを出した。
「この事、人に話していい?そいつなら問題なく用意できるはずだからさ」
「用意できそうなら構いません。わざわざありがとうございます」
俺の許可が出ればすぐさま連絡を送る。返信はすぐに来たようだ。彼女は画面を俺に向けて言った。
「生徒会室に来て、だってさ!今からいけそう?」
「はい、問題ないです」
ありがとうございましたとお礼を伝えて朝比奈と別れた。ついでに連絡先も交換したのだが、これは蛇足。
当然のことながら、先ほど彼女が見せたスマホの画面から連絡した相手の名前が見つかった。
——————南雲雅。警戒しておいて損はないはずだ。
◆◆◆
生徒会室までやって来た。ノックをすればすぐに返事が来る。
「入っていいぞ」
「失礼します」
そんな短いやり取りをして生徒会室に入った。
入ってすぐ、ソファに腰掛ける金髪の生徒が目に留まる。おそらく彼が南雲雅。生徒会副会長の座に居座る、現二年生のトップ。
「まあまず座れ。そしたら話を聞こう」
爽やかな笑顔と共にそんな風に俺を促す。俺は南雲と向かい合ったソファに腰を下ろした。
「俺のことは知ってるか?」
「名前くらいは」
そうかと言って南雲は笑う。随分と機嫌が良さそうだった。
機嫌がいいというのは俺にとって好都合。できるだけ機嫌を損ねさせないようにしよう。
「まず、おまえの名前を聞こうか。Aクラスというのは聞いてる」
「そうですか。俺は獅峯帝です。趣味とかも話しましょうか?」
「ははっ、要らねえよ」
それは残念だ。俺はわざとらしく笑ってみせた。
先に話を持ち出したのは南雲だった。朝比奈から大体の話は聞いているらしい。
「過去問が欲しいんだってな。どうやって思いついた」
どうして欲しいのか、じゃなくてどうやって思いついた、と質問するところ、さすが生徒会副会長というべきか。いや、過去問が有用だということは、上級生なら当たり前の認識かもしれない。
「それなりにヒントはありましたよ」
「ははっ、そうか。俺は嬉しいんだよ、わかるか?獅峯」
「いや分かりませんね」
やけによく笑うのは、言葉の通り嬉しいからなのだろう。なにが嬉しいのかは全く見当もつかないが。俺は話の続きを待った。
「過去問を手に入れよう、なんてことは誰でも思いつく。でもな、それが答えに繋がることは誰も思いやしない」
「へぇっ。あれって答えなんですか。知らなかったあ」
「誤魔化すな。それくらい分かってただろ」
南雲は前期中間テストが代々同じ問題が使われていることを知っている。それに俺が気づいたことが嬉しいのだろう。なるほど、変な先輩だ。
「答え合わせをしようか」
「いえ、大方予想はついてるので結構ですよ」
「だからこその答え合わせだろうが」
それは、対価を取られるやつだろうか。話聞いたから〇〇万ポイント寄越せとか言われるやつか?だったらほんとにご遠慮させていただきたい。
しかし、残念なことに南雲による答え合わせは始まってしまった。
「過去問の存在は、下のクラスの為にあると言っていい。何故なら、そのことに気づきさえすれば高得点が取れる。上位クラスとの差が縮まる」
「そうですね」
「だが、一定のラインが存在する。ラインとは即ちそのクラスの実力。例えば、上位クラスとクラスポイントの差がほぼない優秀なDクラスがあったとして、そんな状況だった時にDクラスのみ過去問の存在を仄めかされれば、当然他クラスは痛手を負う」
「だからこそのライン。で、そのラインは……小テストだ」
「そう、参考用と言われ行われた小テスト。正確な数字までは分からなかったが、そのテストで赤点を取った生徒が一定数を超えると、過去問が有用であることのヒントが投下される」
「そうやってバランスを取ってるわけですか。まあ、納得です」
予想はしていた。だから大して驚きはない。
が、誰にでも思いつくようなことではないという自信はあったので、これを南雲が当然のように把握しているのが、どこか悔しいな。
「俺の言いたいこと、分かるか?」
「いいや、さっぱり」
「ははっ。しらばっくれるのが得意だな。異常なんだよ、お前の存在は」
異常、ね。本当に好きじゃないなあ、その言葉。脳で誰かの声がフラッシュバックする。俺は無意識に目を伏せた。
そして俺の目を覚まさせたのは南雲の声。
「今年だったらヒントが開示されるのはDクラスのみ。その上、そのヒントですら確信をつかせるものは現段階で投下していない。Dクラスですらそうなのに、Aクラスのお前がこの段階でこのことに気づく。おかしいだろ」
「そうですかね。でもヒントはあった」
「ははっ、異常だぜ。覚えていた方がいい」
執拗に異常と言われる。もう十分わかったから言わなくていいよと、俺は思わず南雲の目をじっと見た。しかし、南雲は愉快そうに笑うだけ。
「だが、俺としては大歓迎だ。優秀な後輩、俺と渡り合えるポテンシャルを持つ生徒。同学年には恵まれなかったが、先輩と後輩には恵まれたようだ」
「はぁ、もうこの話よくないですか?本題入りましょうよ」
「俺としてはこれが本題なんだよ。まあいい、過去問だな」
「はい。ください」
「おい、ストレートで生意気な後輩だな」
南雲はそう言いながらもやはり嬉しそうだった。その対応に甘えて俺は手で寄越せ寄越せとジェスチャーする。
「過去問をどうする?独り占めか?」
「まさか、クラスで共有しますよ」
「恐ろしいな、Aクラス」
そうして、南雲雅と連絡先を交換した。
南雲はスマホを見ながら言う。
「俺が要求する対価は
「えぇ、それならポイントの方が遥かにマシなんですけど」
「獅峯からポイント巻き上げても、おまえ、Aクラスだろ。大して痛手にならないから、面白くないな」
それに、ポイントには困ってない。と南雲は付け足した。うえー、この先輩いやだなあ。
「じゃあやっぱり過去問いらないって言ったら?」
「答え合わせしてやったろ」
「俺、しなくていいって言いました」
「聞いた時点で同じことだ」
やっぱり嫌い。大っ嫌いだこの先輩。貸し一つなんて、ぜってぇいい事ない。
「さいてーだ」
「ん?なんか言ったか?獅峯クン」
「いえ、なにもー」
俺の悪態にも南雲は愉快そうに笑う。
そしてメールが送られてきた。メールを確認すれば過去問だった。ほんの少しの慈悲なのか、小テストもついてる。
「これ。先輩、優しいですね」
「元々俺は優しいぜ?おまけだよ」
「へぇ、ありがとうございます」
俺は席を立って退出する準備をした。もうこの場に用はない。扉の前までやってこれば南雲も席を立つ。
「生徒会に来いよ、獅峯。おまえがいたら楽しそうだ」
「まじで遠慮します。南雲先輩と一緒にいたらハゲそうですから」
「ははっ、そうか残念だ。貸し一つ、忘れんなよ」
「はーい。……あ、そうだ。ついでに聞きますけど、Dクラスにのみ投下されるヒントってなんですか?」
「残念ながら、教えられないな。自分で辿り着いてみろ」
「そうですか。まあ、必要ならそうします」
こうして俺は過去問を入手。じゃあな異常者と見送られ、俺は生徒会室を出た。
葛城に連絡をする。すぐに俺の部屋集合とメールを送った。
◆◆◆
「これ過去問ねー」
「よくスムーズに手に入れられたな。何か要求されたか?」
「ははは、まー大丈夫でしょ」
俺の乾いた笑いに葛城は首を傾げる。しかし、すぐに興味をなくしたようで、また過去問に視線を落とした。
ところで、と話を振ったのは葛城。
「小テストが過去と同じものとは分かった。しかし、根拠としては甘いんじゃないか?そもそも、通告されたテスト範囲とのズレがある」
「そう、それね。逆にいえば、テスト範囲が過去問と同様のところに変更された時に確信がつくんじゃない?」
俺はコップに注いだジュースを一口飲んだ。葛城も用意したお茶を飲んだ。
チラリと葛城を見れば、まだ不満そうだった。
「それはそうだが、今確信を持ててない時点でクラスメイトに伝えるのはあまりにもリスクが大きいだろう。実際、読みが外れた場合痛手を負うのはデマを流した俺たちだ」
「なら謝ればいい。ごめん違ったってね。それに、違ったとしても過去問は勉強をする上で有益なものだろ。それが分からない奴らじゃない。それぞれが有効活用するんじゃない?第一、テスト範囲変更の発表を待てるほど、悠長にはしていられないよ」
坂柳がどういう手を用意しているか分からない時点で先手を打ちたいのが本音だ。
「印刷して俺が明日配るよ」
「……そうだな。そうするといい」
「あれ、不満そうだね」
「俺は確かじゃないことで行動を起こしたくないな。しかし、お前に付いていくと決めた。気にしなくていい」
俺からすれば南雲に答え合わせ(不本意)をしてもらったので、間違いないと思っての行動だが。まあ、石橋を叩きまくってから渡るタイプの葛城からしたら嫌だろうな。
「いや、どんどん意見を言って欲しいな。葛城くんの考え方は非常に興味ある」
俺は常に状況と照らし合わせて行動に移す。そこには保守も革新も、なにもない。
興味あると言ったのは本音だ。
「何か意見があればそうしよう」
「はははっ、頼んだ」
こうして次の日を迎える。
◆◆◆
朝、俺の机の中にはクラス全員分の過去問があった。タイミングはホームルームの後。席を立ってクラス全員に話す。
そして、ホームルームが終わった。真嶋が退出する。
席を立った。
席を立ったのは、——————坂柳だった。
「実は、あるものを手に入れたんです。皆さんに配りますね」
そうして神室がクラス全員にとあるプリントの束を配った。それは俺の手元にも渡ってくる。
「これは中間テストの過去問です。そして、私の考えではこの過去問と同様の問題が中間テストで出題されるでしょう。簡単に言ってしまえば今配ったプリントは中間テストの答えです」
その言葉にクラスは動揺を隠せていなかった。葛城は俺を見る。俺はその視線を無視した。俺はただ坂柳を見ていた。
「もちろん疑う人もいるでしょう。信じられる人だけ信じてください。ただ、私を信じて損はないということだけは言っておきましょう。ぜひ、有効活用してくださいね」
そう言って話は終わる。質問があるならどうぞ、と言った坂柳の言葉によってあちこちで質問が飛び交った。
俺は思わず笑ってしまう。
「
その声はクラスメイトのざわめきに掻き消された。俺は遠い目をして表情を緩めた。
『補足説明』
今回独自解釈させていただいたところの説明をすると。
原作の流れ(Dクラス)
①5月1日の小テストの点数公開→②中間テスト範囲発表→③遅れて知らされたテスト範囲変更の事実
③の時、茶柱は必ず赤点を回避できる的な事を断言していた。
この事から考えついたのは(本文で南雲雅が解説してくれた)、
小テストで赤点を取った生徒が一定数いたクラス(原作でいうところのDクラス)にのみ、過去問が答えであるというヒントが投下される。というもの。
そしてそのヒントとは、
というシステムになっていたのではないかと考えた。
ちなみに、自分の予想だと原作ではDクラスだけが過去問を使用していたのではと思う。坂柳は気づいていただろうけど、使わなかったんじゃないかな(勝手な想像)。
今回、坂柳は過去問を入手してクラスに配ってたのは『リーダー争奪戦』をしてるから。
Q.坂柳はどうやって過去問を入手したの?
A.さあ?天才の考えてることは分かりません。