こちらに小説を投稿するのは初めてですね。(他サイトでは既に掲載済みですが…)
内容としては、カヨコがおっちょこちょいな先生の手助けをするお話です。
先生のことは満更でもない感じ。
健気さを味わっていただければ幸いです。
「…相変わらず寒い。」
いつものように昇降口から外に出ると、寒さが私を襲ってくる。まぁこの学園はキヴォトスの中だと北側に位置してるから当たり前なのかもしれない。
そんな思案を側に置き、今日の目的地であるシャーレに向かう。一応私は便利屋に所属しているのだが、舞い込んでくる仕事にはムラがあるのでそれだけを生業とするのは中々厳しい。そんな経緯もあって、安定して稼げるシャーレに定期的に通っている。そこにいる先生は変わり者だけど、私たちに対する情を感じるので、そこそこ働きやすい。…風紀委員会等に時々不審な行動することについては明言を避けたい。
D.U.行きのTラインに乗った旨をモモトークで先生に伝えると直ぐに既読が付いた。
「先生仕事してるのかな。」
多分ちゃんとはしてるんだけど、鬱陶しいんだろう。シャーレで見る彼とゲヘナをはじめとした外で見る彼の顔色を比べると何となく分かる。
車窓に映る景色が徐々に前近代から未来的なものへと変化していく。先生が赴任してから街の中央に行く機会が増えたからか、前よりもこの景色の変遷に目新しさを感じなくなった。都会慣れってやつなのかもしれない。
シャーレの最寄駅で降り、先生のいる部屋へと向かう。駅と建物の距離自体は近いのだけれど、建物の中に体育館や視聴覚室等の施設が併設されている関係で、結構彼のいるところまで行くには時間がかかるものだ。
「…お邪魔するね、先生。」
「いらっしゃい、カヨコ。何飲む?」
「コーヒー。あとミルクと砂糖も。」
「OK。ちょっと待っててね。」
先生に入れてもらいながら、いいソファに寛いでいると、どっちが偉いか分からなくなる。先生曰く、ここまできてくれたことに感謝ってことらしい。この低姿勢なところが生徒から好かれる要因なんだろう。
「はい、カヨコ。」
芳しい香りの珈琲が私を包む。安心する匂いだ。
「ありがと。」
口の中に入れるとその絶妙な苦味に魅了される。
端的に言って、美味しい。多分これだけで喫茶店を開けるんじゃないかな。
「今日のブレンドはいつもとちょっとだけ変えてみたんだよね。分かる?」
「酸味が控えめ?」
「大正解!冴えてるね。」
「ずっと飲んでるから分かるよ。ところでさ、学園のことなんだけど…」
気が重くなるが学園のことを話さないわけにはいかない。こういう些細なことを伝えず仕舞いにしておくと、後々大きな後悔に繋がったりするかもしれないから。もう過ちは繰り返したくない。
「なるほど。万魔殿か…それとなく接触してみるね。」
「…助かる。私たちが言っても野良犬の遠吠えになりそうだし。」
「そんなこと言わないの。立場上言えないことってあるからね。」
やっぱり先生は先生だった。
つかの間?にしてはちょいと長めの休息を取り終えると、書類手続きに移る。別に先生が事務方の仕事が苦手だからヘルプをしているということではなく、単純に捌かないといけない書類が多いのだ。幸い私は便利屋でこういう書類をしばしば扱ってるので、割と素早く捌けると思っている。
…心なしか最近は山積した書類の厚みがさらに厚くなってるような感じがする。不味い傾向だ。
「カヨコは早いね。」
「…まぁ、日常茶飯事だから。というか先生…このペースのまま働き続けると大変なことになるんじゃない?ヘルプ増やさなくていいの?」
確かになぁと溢しながらもどこか不満気な様子。
「生徒のみんなにこれ以上迷惑を掛けるのも気に病まれるんだよな。」
違う。それは絶対に違う。先生にお世話になった娘たちは、大なり小なり感謝や有り難み…場合によっては好意まで寄せているから。だからそんなこと言わないで。疲労を理由にして、私たちをここに置いていかないで。恐らく先生まで居なくなったら、この世界がまた均衡を欠くことは分かる。私たちにとって喪失はNGワードなのだから。だから頼って。貴方の眼となり、片腕となるからさ。
…らしくないかもしれないけど、ここは譲れない。
彼の前で過去一の気迫を使わせてもらった。
「………先生。シャーレの権限を最大限使っていいからヘルプを求められるだけ求めて。先生が倒れてからじゃ遅すぎるから。」
ごめんね、先生。
でも気持ちを汲んでくれると嬉しいな。
「…わかったよ。ただ私の我儘でみんなを困らせる訳だから、これまで以上にお礼をさせてもらうね。」
微妙に的を外している気もする。
やっぱり、先生は『先生』だった。
その後の作業は悩みごとが緩和されたからか、私自身のペンの滑り具合が大分良くなった。暫くは事態が良化するのを待つのが最善手かも。
「カヨコのおかげで何とか夜遅くにならずに済んだよ。ありがとう。」
「どういたしまして。…それと、その言い方だと…」
ハハと笑いながら、先生は答える。
「…徹夜だったかもね。」
案の定と言ったところではあるけど、まぁそうならなかっただけマシではある。
「…はぁ………」
勿論私一人でカバーは出来ないけど、私が中心になってやらないと最悪の事態は容易に想定できてしまう。それを避けるためにもやれる対策をできるだけ打っとかないと。
「心配かけすぎないでよ、先生…」
彼を護ることを心の奥に刻み込んだ夜だった。