精霊の御子 カレは美人で魔法使い   作:へびひこ

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第十話 休日

 期末テストも終わりどこかほっとした空気が流れている。麻帆良の町を歩く学生の姿も笑顔が多い。

 

 司は待ち合わせをしていた。

 女子寮近くの公園。ここでエヴァンジェリンと会ったがために一般人を弟子に取るはめになった司的いわくつきの地である。

 

 綾瀬夕映と宮崎のどかの修行は順調に進んでいる。

 エヴァンジェリンの協力のおかげで修行場所には『別荘』を貸してもらっているため修行場所と時間には悩まないで済んでいた。

 

 一日一時間、別荘の中で一日分の修行をしている。

 つまり一日で二日分の生活を送っているわけだが、二人とも今のところ問題がない。

 

 このまま一年修行を続けたら、二人は一年で二年分の歳をとることになるのである程度成長したら修行の頻度を落とそうと司は考えている。

 成長期の子供の成長は早いと聞く。それを二倍の速度で生きたらあきらかに成長が早すぎてしまうのではないかと心配なのだ。

 

 もっとも本人たちはこそこそと『早く身長が伸びる』だとか『ひょっとしたら胸も大きくなるかもしれない』などと話し合っていたからあまり気にしていないのかもしれないが。

 

 実力もだいぶついた。というか破格の成長速度に正直驚いた。

 

 数日の修行で精霊術の発動に成功し、二週間もすれば補助用の魔術装具が必要なくなった。

 今は槍術と格闘術を学びながらより実践的な精霊術の使用法を学んでいる。

 

 すでにそこらの雑魚が相手なら十分な実力がある。二人がかりなら魔法使いを相手にしても勝てるかもしれない。

 

 魔力で身体強化して槍を操る夕映を前衛に、のどかは後衛で補助と攻撃の魔術を使う。

 

 魔力制御に才能があり、度胸と身体能力のいい夕映は槍を振るいながら発動の速い魔術を繰り出すのに適性がある。

 

 のどかは精霊との同調に才能があり一撃の威力が高く、夕映より多種の精霊を縦横に操る才能がある。なので後方で補助魔術や攻撃魔術を使う方がより手腕を発揮出来る。もちろん彼女も接近戦闘は出来るが、やや思い切りにかけるところがあって夕映には届かない。

 

 目に見えて結果が出ているので二人とも楽しそうに修行をしている。

 

 

 エヴァンジェリンは呪いが解けてからというもの不登校児の不名誉を大喜びで受け入れて毎日家でだらだらしている。以前は麻帆良の警備員としても働いていたらしいがそれも辞めてしまった。

 

 本人に言わせれば「わたしは誰よりも中学校に通った。わたし以上に中学に通った人間などいるわけがない」とせめて登校してくれと頼み込む担任教師の高畑・T・タカミチを「今時不登校など珍しくもないだろう」と追い払っている。

 

 一年生の一学期目から不登校を決め込まれては担任教師である高畑への周囲の視線は厳しいらしい。ただでさえ彼は『出張』と称して魔法関係で麻帆良を離れることが多い、担当クラスの面倒を十分見ているとは言えないのだ。

 

 表向きはただの新入生であるエヴァンジェリンが不登校になる理由など一般の教師はなにも思いつかなかったらしい。結果、学年主任の新田教師などに「あなたの指導に問題があったなどということはないでしょうな?」などと担任教師が不登校の原因ではないかと疑われて高畑としては困り切っているらしい。

 

 滅多に授業に来ない担任が生徒に悪影響を与えたのでは?

 

 一般の教師たちがいろいろ調査をしても『入学後の』エヴァンジェリンが問題を起こしたことなどない。また特にイジメや対人関係で悩んでいたようにも見えない。

 

 となるとこれは担任のせいでは?

 

 そう疑われて高畑は低姿勢でエヴァンジェリンに登校してくれるように頼み込んだがにべもなく拒否されている。

 

 司にも高畑は登校するように説得してくれと頼んで来たが司は説得を断っている。ダンディ先生こと高畑が嫌いだからではなく、エヴァンジェリンの境遇を思えばむしろ理解して便宜を図るぐらいすべきだと考えたからだ。

 

 エヴァンジェリンは今までずっと中学に通い続けてきたのだ。呪いが解けたのなら可能な限り彼女の自由を尊重すべきだと司は逆に高畑を説得した。

 

「君の言うとおりだと思うけど……僕にも担任としての立場があるんだよ」

 

 そう弱り切っていたが司としては高畑の立場など興味がない。

 

 呪いで弱体化していたときのエヴァンジェリンが虚弱体質であったことを聞き出して、「なら病弱で自宅療養しているとでもごまかしたらどうですか?」とアドバイスすると「それしかないかなぁ、来てくれるだけでいいんだけどなぁ」と肩を落として去って行った。

 

 かくしてエヴァンジェリンは不登校児のレッテルを貼られつつ、それをまったく気にせずに毎日だらだらと自堕落な生活を楽しんでいる。

 

 家にこもりっきりでも従者である人間そっくりのアンドロイド、絡繰茶々丸が世話をしてくれる。学校の情報も茶々丸が同じクラスに所属している女子生徒なので容易に手に入る。

 

 放課後になれば司が夕映とのどかを連れてきて別荘で修行をするのを見物し、たまに司相手に模擬戦をして軽い運動もしている。

 

「正直、今まで無理矢理学校に通っていたよりよほど充実していて健康的じゃないかと思うがな」

 

 魔力が戻ったおかげで風邪もひかんし、とエヴァンジェリンは漏らしていた。

 

 魔力が封じられた状態ではすぐに風邪はひく花粉症にはかかると大変だったらしい。

 それに比べれば日中はだらだらとゲームなどで遊び、夕方になれば夕映やのどかの修行にたまに手を出し、司相手に魔法合戦して適度に運動もしている。

 

 確かに充実していそうだ。

 

 夕映ものどかもエヴァンジェリンのことを『すごい魔法使い』と尊敬しているので彼女を『闇の福音』として敬遠することはないのでまず友人といっていい対人関係をつくっている。

 

『闇の福音』の呪いが解かれ、彼女が自力で学園結界をごまかし全盛期の魔力を取り戻したことに危機感を感じた魔法関係者もいたらしいが近右衛門が黙らせた。

 

 実際エヴァンジェリンは麻帆良の脅威になるようなことをなにもしていない。

 せいぜい担任の高畑が泣かされているぐらいだろう。あとは貴重な警備員が一人減った事に近右衛門が人手不足を嘆いたぐらいか。

 

 麻帆良の魔法使いにしてみれば全盛期の力を持つエヴァンジェリンが一般生徒が多数いる女子校内をうろつくよりかは家に引きこもってくれた方が安心出来る。

 

 あまりにも静かすぎてそれはそれでなにか企んでいるのではないかと疑う者もいたが、近右衛門がなにかあれば高畑と二人で鎮圧すると宣言しているため、ひとまず様子を見ようというのが大多数だ。

 

 そして呪いを解いた司だが、驚いたことに司を非難する声はほとんどなかった。

 

 これは事前に近右衛門から司はエヴァンジェリンの呪いを解けるかもしれない人材として麻帆良に招いたと知らされており、またその件は話し合って承諾したことであるからとくに司が責められるようなことはなかった。どちらかといえばひたすら驚かれた。

 

 そしてそこまでの能力が司にあるのならぜひ『立派な魔法使い(マギステルマギ)』になるべきだと主張する声が起きた。

 

 サウザンドマスターがかけ、誰も解けなかった呪いをまだ中学生の少年が苦もなく解いたというのだ。その才能はサウザンドマスターに匹敵するかもしれない。

 

 さらに極東最高の魔力保持者の一人であり、『関東最強の魔法使い』近衛近右衛門から西洋魔法も習った人物である。

 

「立派な魔法使いを目指すなら力添えは惜しまない」

 

 そう主張して司に接触してくる魔法使いが増えた。

 司はそのたびに「自分は家を継ぐ身だから西洋魔法使いの名誉に興味がない」とやんわりと断っている。

 

 司にその気がないことを惜しみつつ、「家を継ぐのではしかたがない」とほとんどの魔法使いは諦めた。本人にやる気がないのでは無理強いが出来ることではないのだ。

 

「気が変わったらいつでも言ってくれ、私にできる限りで力になろう。それとなにか困ったことがあったら言ってきなさい。相談に乗ろう」

 

 ガンドルフィーニという教師が「君の才能を日本という島国に閉じ込めるのは惜しすぎる」と嘆きながらもそう言って連絡先を教えてくれた。

 

『立派な魔法使い』となって世界を舞台に活躍出来る才能があると言われても司の根っこには藤宮の子という意識がある。

 

 藤宮家の人間として精霊術を極め、『大神』を守り、その血と技を後世に伝えていく。

 司は世界になど興味がないのだ。

 

 そんな司の価値観を理解したのかガンドルフィーニも無理強いはせずに、なにかあったら力になるからと言ってくれた。

 

 親切な教師ではあるらしい。ただ頭が固い人物と評判も聞いた。

 さらにエヴァンジェリンの解呪に難色を示した人物でもあるらしいが司には好意的だった。

 

 才能ある子供を育てることに喜びを見いだす教師で、わりといい先生らしい。

 エヴァンジェリンの解呪に難色を示したのも、エヴァンジェリンが生徒たちに危害を加える可能性を考えてのものだったのだろう。

 

 実際エヴァンジェリンが解呪後もおとなしく家に引きこもっているのを見て安心したように言ったらしい。

 

「闇の福音も麻帆良暮らしで丸くなったのかもしれないな」

 

 解呪されたエヴァンジェリンが望んでいることは家で自堕落な生活を送ることだと高畑から聞いたときには眼鏡をずり落としたらしい。

 

 伝説の悪の魔法使いのイメージが粉々になったのだろう。

 

 

 

 そのようなわけで現在司たちは割と平和な中にいる。

 

 司が弟子を取ったことも特に問題にならずにせいぜい「ものになるようだったら修行がてら麻帆良の警備などに参加してもらえないか」という打診程度だ。

 

 それには司はまだ彼女たちには早いといって断っている。

 

「ごめんな~、遅くなったわ」

 

 普段着のスカートをひらめかせて木乃香が小走りに駆け寄ってくる。

 その様子に司はかすかに頬を綻ばせた。

 

 彼女が『極東最大の魔力保持者』の一人だとは外見からは想像もつかないだろう。

 

「いえ、だいじょうぶですよ」

「ちょっと気合い入れて服選んでたら、気がついたら時計がすすんどったわ。ホントごめんな」

 

 そう言って茶目っ気たっぷりに両手を合わせてみせる。

 木乃香の姿を観察するが普段の服装とどこがどう違うのか司にはよくわからない。

 

 いや、スカートが少し短いだろうか?

 

 よくわからないなりに気合いを入れてきたという服装を褒めると木乃香が頬を赤く染めて微笑んだ。

 

「ありがとな。じゃあいこか」

 

 自然に二人並んで歩き始める。

 木乃香とはメールのやりとりをしているが休日にはこうして出かけることもある。

 

 ほとんどはただの散策のようなものだ。適当にぶらぶらして目についたお店を見て回るだけ。

 けれど彼女と一緒にいる時間が司にはとても心地よい。

 

 なんというか彼女といると落ち着くのだ。

 木乃香は司の容姿をうらやましがることはあっても馬鹿にはしない。

 それも一つの個性だと断言してくれたほどだ。

 そして自然に司を男性として扱ってくれる。

 

 それがすごく嬉しい。

 

 司は女性から美人だと羨望の視線を受けても、男として憧れの視線を向けられることはない。

 それどころかまともに男扱いされない。かといって女性として扱われるわけでもなくせいぜいが可愛いペットかおもちゃ感覚で遊ばれる。

 

 木乃香はそういう態度は見せない。

 あくまで一人の綺麗な男性として扱う。

 

 そんな心配りが司にはひどく嬉しい。

 

「今日は思い切って食べ歩きでもしよか?」

「それもいいですね。どこかいいお店はあるかな?」

 

 平穏を象徴するような少女と歩きながら司の心の片隅では沈んだ声がささやく。

 

『彼女はいったいいつまでこのような日常を暮らせるか……』

 

 自分以上に微妙な立場に立っている木乃香を司は心配していた。

 日本の裏を支配する関西呪術協会の長の娘であり、極東最大の魔力を持つ一人。

 

 近右衛門からも相談を受けているが、裏の世界で多いに手腕を発揮する近右衛門でも手を焼くことが司に簡単に解決出来るわけがない。結果二人で頭を抱えている。

 

 本人はなにも知らない。知らされていない。

 

 近右衛門が必死に木乃香を守り、そして木乃香が自力で身を守れるように誘導しているようだがどちらにせよ今の平穏な暮らしはいつかはなくなるだろう。

 

 木乃香の父、近衛詠春は『娘には普通の生活を送らせてやりたい』といって木乃香を膝元の関西から麻帆良に送った。

 

 関西の魔術師が木乃香に干渉するのを嫌ったのだろう。

 けれどその一方で木乃香が次期長候補であることを否定していない。

 

『娘の意志が大事』などといってはっきりしたことを言わないのだ。

 

 木乃香を魔術師にするのか、しないのか。

 関西の長にする気なのか、それとも他の候補を立てるのか。

 

 なにも決めずにいるために関西の魔術師はその優柔不断ぶりにかなり神経をとがらせているらしい。

 

 政治的には近右衛門の手が守り、物理的な危害からは桜咲刹那の剣が守っている。

 

 しかし近右衛門は現状に不安を抱いていた。

 自分が健在なうちはいい。いくらでも守る。

 だが自分が死んだ後はどうなる? 誰が木乃香の後ろ盾になれる?

 

「婿殿は現実が見えていない。叶わぬ夢ばかり見ておる」

 

 娘婿の詠春では無理だと近右衛門は見切りをつけている。

 彼は娘可愛さのあまり現実が見えていない。しかも問題を先送りにするばかりでなにも決断出来ない。

 

 サムライマスターと呼ばれ剣の腕なら最強の座に君臨した男だが、長という立場で政治向きに有能な男かと見ればその能力と資質に疑問符がつかざるを得ない。

 

 そもそも無理なのだ。

『極東最大の魔力保持者』が魔術や魔法に関わらないなどありえない。

 

 本人が魔術を知らなくても誰かがその莫大な魔力を利用することを考えるだろう。

 さらに日本の西半分を支配する関西呪術協会の長の娘だ。利用価値などいくらでもある。

 

 木乃香を傀儡の長にすれば日本の西半分が手に入る。

 木乃香が長にならず、他の誰かが長になっても先代長の娘の発言力は関西では十分有効だろう。

 

 木乃香は力を持たなければ誰かに利用されて終わりかねない危険な立場にいるのだ。

 普通の生活を送らせたいなどというのは夢想以外の何者でもない。

 

 力がなくてはなにをされてもある程度許容されてしまうのが裏の世界だ。

 木乃香に選択肢はない。

 誰にも利用されず誰にも踏みつぶされないだけの力を得るしかないのだ。

 

「僕と同じか……」

「え? なんや急に?」

 

 不意の独り言に木乃香が驚いた顔をする。

 

 彼女は司と同じなのだ。

 二人の『極東最大の魔力保持者』

 

 力をつけなくては自分の身を守れない。

 

 司の両親と一族は早くからそのことを危惧して司を厳しく育てた。

 

 木乃香の父親はそのことから目をそらしてただ娘を無知なまま平穏の中においた。

 

 そして今祖父が苦悩している。

 木乃香を守るために、どうすべきかと。

 

 僕に守れるだろうか?

 親のわがままで、危険を知らず力を持たずに育った少女を。

 

 司は泣きそうな表情で木乃香の頬に触れた。

 柔らかく温かい。普通の少女。

 

 でも、彼女が普通でいることが許されるのは、きっとあとわずかだろう。

 

「変な司くんやな……」

 

 不意に触れられても嫌がるそぶりも見せずに木乃香は頬に触れる司の手のひらを両手で包み込んだ。

 

 守れるだろうか?

 僕は彼女を守りたいのだろうか?

 

 司は自問しつつ、木乃香に突然触れたことを詫びていつも通り二人で歩き始めた。

 木乃香のなにもかも見通し受け入れるような黒い瞳がひどく印象に残った。

 




 京都弁なんてわかりません。
 よって木乃香の口調はかなりいい加減ですが勘弁してください。無理です。

 原作では『才能ない』と魔法を教えるのを断られていたのどかですが、うちでは精霊との同調に素質ありにしました。

 夕映は魔力制御が得意、兼前衛の素質ありに。
 原作でも遅延呪文やらいろいろと使っていたのでそう不自然ではないと思います。

 前衛の素質? 運動神経いいらしいし度胸がありそうですから、素質ありにしました。
 どちらにせよ二人とも破格の速度で成長しています。
 初歩の魔術を覚えるのに何年もかけていたらなんの役にも立ちませんから。
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